やばい彼氏にご注意を

5. そして始まる文化祭

5-5

「なに？これ」
「これ持って、うちのクラスの出し物の宣伝をしてきてほしいの。武田君はその役目。コンテストもあるから、教室での出し物は他の男子にやってもらうから、安心してね」

(まじかよ)

こんな姿、全校生徒に晒すなんて……いや、待て。もっとやばい事が待ってんだ。それに比べたらこっちの方がまだましか？いやいや、ましなわけがない。
そもそも、女装ってなんのメリットがあるんだよ。

俺にとって最悪の文化祭になりそうだ。
平穏に過ごしていたのに、あいつがきてから、ろくなことがない。
疫病神、変態教師……。

プラカードを手に、教室の出入り口まで歩いていた足が止まった。

(ち、ちょっと待て)

「あの、さ……」
立ち止まり振り返り、後ろに立っていたクを女子を見降ろした。
「どうしたの？」
怪訝な顔をしている女子を見て「もしかして、これ一人で行ってくるの？」と問えば、辺りをキョロキョロと見回し始め「あぁ、えっと……ち、ちょっと待ってて聞いてくるね？」そう言ってどこかに行ってしまった。

一人で行って来いとか言われたらどうしよう。
無理無理、ムリムリムリ！
なんでこんなメイド服を着た格好で、一人でふらつかなきゃならないんだ ！
一人で顔を横にフルフルと振っていると、突然手を握られ後ろに引っ張られた。
「うっおっ」
身体が傾きよろめく形になりながら、足がもつれそうになった。
「ちょっ─────」
パリッとしたＹシャツに、ダークグレーのベストにダークグレーのズボンが目に飛び込んできた。
髪の毛はきれいにセットされていて、今日は何故か眼鏡をかけている男─────。

「なんでお前がここにいるんだよ！！」
「なぁんでって、お前、そりゃ教師だし？お前のクラスの担任だから？」

(いや、そうだけど！よりにもよってなんで今有栖川に出くわすんだよ！)

｢朝から姿が見えないと思ってたら、何処から湧いて出てきたんだよ。手ぇ離せ！誰かに見られたらどうすんだよ」
「大丈夫。倫太郎君？君は今どんな格好をしているのか、分かっているかね？」
｢……｣
「俺好きなんだよなぁ。メイド服。なぁいいよなぁ？お前もそう思わない？」
背筋がゾクッとなった。
絶対にこの男、よからぬことを考えている。
「あ！武田君！」
先ほどの女子が戻ってきて声をかけてくれた。
俺は急いで手を引いて、有栖川のひざ裏に蹴りを入れ、距離を取った。
よろめいた有栖川を驚いた顔で見ている女子に「な、なんだって？」
有栖川を隠すように立った。
「あぁ、アリス先生やっと顔出してくれましたぁ？」
首を傾げ、俺の身体の横から有栖川の方を見た女子。

(今こいつに触れるな、頼むから……)
「やっとってなぁ、俺だって色々忙しいんだけどぉ？」
女子は笑いながら｢先生、フラフラしているとこしか見たことがないんですけど｣と言われていた。
「それで？武田と渡辺はなにしてんの？」
俺の隣に立った有栖川は、真面目な顔をしながら聞いている。
「あ、そうだった。武田君、やっぱり一人で行って来て欲しいみたい」
「そう、なんだ……」

(最悪だぁ。もうほんと……)

なんで一人なんだよぉ。有太とかにも女装させればいいのに。
「一人って何が？」
「これ持ってうちのクラスの出し物の宣伝に校内を歩いて回って、宣伝をしてきてもらおうと言う事になってまして」
フーンと、若干興味なさげな返答だったけど、その横顔を盗み見れば、左口角は上がって、また何かよからぬことを考えている表情をしていた。