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可能性と信じる心
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「若造。なんだその軟弱な強化魔法は!! もっと意識を集中させろ!!」
僕とキャンベル教官の二人しか居ない訓練場で、怒号にも似た教官の声が反響する。今僕達がやっているのは、先日ピアソンさんに教えてもらった魔法の訓練だ。
"情報の紐付け"によって僕の強化魔法は少しだけ精度が向上したけど、キャンベル教官によると戦闘中に僕の意識が散ってしまい、魔法の精度が安定していないらしい。
「いいか。魔法を物理的な法則で考えるな。血液を通すとか、体の気を練る様になどと、もっともらしい理論はすべて忘れろ。魔法はそういうものだと神を信じるように、ただ盲信的に打ち込め!!」
「はい!! いや、まって下さい。盲信的にではだめじゃないでs…うぎゃっ!?」
僕が疑問を口にようとするもキャンベル教官は手を緩めず、逆にその攻撃は激しさを増してゆく。それに負けじと僕も武器を握る力を強めながら攻撃を受け流す。
「誰が攻撃を受け流せと言った!? 真正面から受け止めてみせろ!!」
無茶を言う......一瞬だけ僕の脳裏にそんな言葉が浮かぶも、それでは武術の練習にしかならないと言われた事を思い出し、今度は魔力を剣に込めるように握る。
「そうではないと何度上ばわかる!!」
「ぐっ......!?」
だがしかし、そんな僕の一挙手一投足を完璧に捉えていたキャンベル教官は、僕が剣を握ったのと同時に僕の腕に剣を当てた。
僕はそんな激しい痛みと骨に響く痺れに耐えきれず、とうとう武器を落としてしまった。
その姿を捉えたキャンベル教官は武器をしまい、腰に手を当てながら大きく深呼吸をする。
「ふううぅぅ......少しずつではあるが精度は向上しつつある。だが如何せん三大神に祈る気持ちが足りないな」
「はぁ...はぁ......すみません」
「なに、元々違う神を信仰しておったのだ。それは仕方のないことだが......今のままではいかんな」
形で息をする僕の背中を軽く叩いているキャンベル教官は、すこしだけ難しい顔をしていた。
「のうロイよ。主は此度の作戦に同行を求められたと思っている?」
「えと、僕が先生の一番近くにいたからですか......?」
「まあ、それもあるだろがもっとも大きな理由は、お前がやつを一番仕留める可能性が高いからだ」
「ぼ、僕がですか? 僕なんかよりディアナさんとか、キャンベル教官のほうが可能性は高いと想いますけど......」
僕は困惑気味に反論するが、キャンベル教官は至って真剣な面持ちで言葉を続ける。
「実力だけで言えばそうだろうな。事実お前はやつに殺されかけた」
「なら......」
「だがお前は生きている。先日お前が俺にに言ったこと......生きているならまだ戦えるとそういったはずだ」
確かに前回キャンベル教官と戦った時は、決着がついて教官が油断して後ろを向いたときに、無礼にも僕は剣を突きつけたが......結局それもバレていて、すぐ反撃を食らってしまった。
「いいかロイ。"情報の紐付け"という行為は何も魔法にだけ有効というわけではない。お前がま負けてないと...まだ戦えると強く思ったのなら、相手の意志を大きく揺さぶれる場合だって十分にある」
「思いで......ですか?」
「ああ、そうだ。お前が剣を振るう理由.....それは何だ?」
「僕が剣を振るう理由......それは、先生を止めるためです」
「いいか。やつは今、聖人になろうとしている。いやもっと正確に言うのなら、聖人になった者たちと似た経緯で、意図せずに聖人化しかけていると言うべきか」
先生が聖人に? そんな事あり得るのか?
そんな事を考える僕であったが、先日からその一端を体験していることを思い出し、僕はキャンベル教官の顔を凝視する。
「気がついたか? やつは魔法がそうであったように。過去の聖人達がそうであったかのように......人々の恐怖の集合意識によって、そやつの実力以上の力を得てしまった。身の丈以上の力は確実に本人を蝕み、そしていずれはヒトの域を越えてしまう。結果はどうであれな」
僕は騎士団に入り先生の行方や評価などをよく耳にしていた。
曰く王国騎士団最大の怨敵。
曰く過去最悪の凶悪殺人鬼。
曰く最凶の剣豪......剣鬼であると。
キャンベル教官が言うには、そんな人々の念が先生という一人のヒトに集中し、聖人達がそうであった様に変わりつつあるという。
「だがな。まだやつを殺す......いやすまない。言い直そう。やつを救う手立ては確かにある」
「別に気を使わなくても大丈夫です。先生はそれだけの事をしてきたのは確かですから......続けて下さい」
キャンベル教官は明らかに僕に気を使っている。だが騎士団に入って僕はもう、先生と相対する覚悟は既に決まっている。たとえ先生を殺さなければ為らないしても......何故なら、きっと先生なら僕に「躊躇するな。それがお前の成すべきことならば」と言うはずだから。
「わかった...続きだが。あのとき居合わせた数人の騎士団員と、同行していた3人のギルドマンに聞いた話だが。やつはお前を殺せる状況だと言うのに、すぐには殺さずあえてギルドマンの一人に射たれ、お前を殺さぬ様に仕向けたと感じたらしい」
「サラさんたちがそんな事を......」
「そしてロイの切り傷は確実に命を奪える距離にいながら、すべて骨によって阻まれていたらしい」
「先生が僕にそんな甘い斬撃を加えたと?」
「状況証拠的にそうとしか言えんのだ。事実その前に切られている"剣鬼の偽物"は確実に致命傷となる部位を切られているだけではなく骨ごと肉を断たれていた。そんな男が強化魔法も未熟な子供を、偽者のように両断できないとは考えにくい」
確かに言われてみればそうだ。先生の偽物は少なくとも先生の動きにはついて行けてた。
「つまりやつはお前を殺すことが出来ない程に場を持ってしまったか。何かしら別の要因によって一時的に正常な......と言っても一般論でいうところの正常な意識に戻った可能性がある。俺的には前者なら稀に見かけるから説明もつくが、後者になると話はまた変わってくる」
「......もしかしてこれが原因とかありますかね?」
そう言うと僕はおもむろに隠していた"禊《みそぎ》の杭《くい》"を取り出し、キャンベル教官へ見せた。するとキャンベル教官は驚愕の表情を浮かべ、超至近距離まで近づいてきた。
...ちょっと威圧感がすごい。
「これは"閼伽《あか》の器《うつわ》"か!? 何故こんな物を持っているんだ!?」
目をひん剥き口早に言葉をまくし立てるキャンベル教官の剣幕に、一瞬だけたじろいでしまうが、一度息を吐くと冷静にこれまでの僕がしてきた事を説明をした。
◇
「なるほどな。ディアナがお前しか勝てないと言っていたのは、そういう理由だったのか」
僕の話を聞いて一人で勝手に納得した様に、何度も頭を頷いているキャンベル教官。そんな彼に僕は疑問を投げかける。
「えっと、なにかわかったんですか?」
「ああ、すまん。お前のこれまでの旅の経緯を聞いて、一つの疑問が解けたんだ」
「疑問ですか?」
「ああ、お前が死ななかった理由だ。ワシは少し勘違いをしていたらしい」
「勘違い? それはどういう......」
「両方だ。お前が死ななかった理由は、やつの情......そしてその他の要因である"閼伽の器"。この両方が原因だったのだ。片方ではなくな」
「これが......」
「ああ、"閼伽の器"は元々、智神マキナが作り出した最初の魔法具として知られている」
「ええ、それは僕も聞いたことがあります」
僕は粗言葉に頷く。
「そうだろうな。それを聞いたのは、グレン・ウィンザーという魔道具屋の店主らしいな」
「はい。そうですね」
「やつは魔法学会の鼻つまみ者として有名だが、こと魔法具に関しての知識量は、どんな魔法使いや学者より優れている」
「グレンさんを知っているんですか?」
「ああ当然だ。なんせやつの書いた論文は見るに耐えない妄言書として有名だからな」
そう言うキャンベル教官の顔は一切の嘲りが含まれていない至って真剣な顔であった。
「だがそんな評価をくだされるのは、帝国ぐらいのもの。あちらの魔法はこっちの魔法と違って、再現性の高い現実的な魔法......どちらかと言うと魔術に近いものだからだ」
「魔術と魔法って違うんですか?」
「そうだな。まあ、そこは今回の話にはあまり関係がなし、詳しく話すと時間が足りないから今回は置いておくとして。とにかくワシが言いたいのは、彼の魔法理論は王国的には正しいということが言いたかったのだ」
「それはわかりましたが、それと僕が死ななかった事にどんな繋がりが?」
「閼伽の器は使用者から、悪しき物を退ける力があるという。そして使用者の願い......祈りを相手に打ち込めるとも言われている」
確かにグレンさんもそんな事を言っていたが、それを証明する方法はないと嘆いていたのを思い出す。
「グレンさんはこの魔法具にはその力があるけど、そういった事を証明することは不可能だって......」
「だがその不可能というものは、王国の魔法学的には可能だと証明されている。一見矛盾している様で混乱するとは思うがな」
「悪しき者......この場合は先生がそれになると」
「そうだ」
「そして使用者の願いを相手に打ち込めることができると......」
「ああ、レヴィルから報告を受け取っていたディアナは、だからこそお前をこの作戦に加えたのかもしれん。"閼伽の器"の使用した可能性が高いお前をな。そしてあわよくば、やつを閼伽の器で止めてくれると信じて」
確かにそれなら僕なんかを編入させたのに納得はいくが、先生に勝てない今の状態ではあまり意味がないのではとも思ってしまう。
「よくよく考えてみれば、隊が違う騎士団と魔法師団を同じく部屋にする理由がないし。もしかしてそれが理由だったりして......」
流石にそれは僕の考え過ぎかな?
「いや、ディアナの事だ。本当に魔法を学ばせるつもりでそうしていたのかもしれん。いくらやつの権限でも、勝手な魔法師団への編入は許可されないからな。あそこは偏屈者の魔窟だから、お前のようなディアナの特権で入った者をよく思ていない奴らも少なくい」
「最近思うんですけどディアナさんって結構、わがままだったりします......?」
「...まあ、そうだな。見た目が良いのと、圧倒的な実力で許されているフシはある」
そんなキャンベル教官のなんとも言えない表情を見て。ディアナさん、みんなに迷惑はかけちゃダメだよ......と思う僕であった。
僕とキャンベル教官の二人しか居ない訓練場で、怒号にも似た教官の声が反響する。今僕達がやっているのは、先日ピアソンさんに教えてもらった魔法の訓練だ。
"情報の紐付け"によって僕の強化魔法は少しだけ精度が向上したけど、キャンベル教官によると戦闘中に僕の意識が散ってしまい、魔法の精度が安定していないらしい。
「いいか。魔法を物理的な法則で考えるな。血液を通すとか、体の気を練る様になどと、もっともらしい理論はすべて忘れろ。魔法はそういうものだと神を信じるように、ただ盲信的に打ち込め!!」
「はい!! いや、まって下さい。盲信的にではだめじゃないでs…うぎゃっ!?」
僕が疑問を口にようとするもキャンベル教官は手を緩めず、逆にその攻撃は激しさを増してゆく。それに負けじと僕も武器を握る力を強めながら攻撃を受け流す。
「誰が攻撃を受け流せと言った!? 真正面から受け止めてみせろ!!」
無茶を言う......一瞬だけ僕の脳裏にそんな言葉が浮かぶも、それでは武術の練習にしかならないと言われた事を思い出し、今度は魔力を剣に込めるように握る。
「そうではないと何度上ばわかる!!」
「ぐっ......!?」
だがしかし、そんな僕の一挙手一投足を完璧に捉えていたキャンベル教官は、僕が剣を握ったのと同時に僕の腕に剣を当てた。
僕はそんな激しい痛みと骨に響く痺れに耐えきれず、とうとう武器を落としてしまった。
その姿を捉えたキャンベル教官は武器をしまい、腰に手を当てながら大きく深呼吸をする。
「ふううぅぅ......少しずつではあるが精度は向上しつつある。だが如何せん三大神に祈る気持ちが足りないな」
「はぁ...はぁ......すみません」
「なに、元々違う神を信仰しておったのだ。それは仕方のないことだが......今のままではいかんな」
形で息をする僕の背中を軽く叩いているキャンベル教官は、すこしだけ難しい顔をしていた。
「のうロイよ。主は此度の作戦に同行を求められたと思っている?」
「えと、僕が先生の一番近くにいたからですか......?」
「まあ、それもあるだろがもっとも大きな理由は、お前がやつを一番仕留める可能性が高いからだ」
「ぼ、僕がですか? 僕なんかよりディアナさんとか、キャンベル教官のほうが可能性は高いと想いますけど......」
僕は困惑気味に反論するが、キャンベル教官は至って真剣な面持ちで言葉を続ける。
「実力だけで言えばそうだろうな。事実お前はやつに殺されかけた」
「なら......」
「だがお前は生きている。先日お前が俺にに言ったこと......生きているならまだ戦えるとそういったはずだ」
確かに前回キャンベル教官と戦った時は、決着がついて教官が油断して後ろを向いたときに、無礼にも僕は剣を突きつけたが......結局それもバレていて、すぐ反撃を食らってしまった。
「いいかロイ。"情報の紐付け"という行為は何も魔法にだけ有効というわけではない。お前がま負けてないと...まだ戦えると強く思ったのなら、相手の意志を大きく揺さぶれる場合だって十分にある」
「思いで......ですか?」
「ああ、そうだ。お前が剣を振るう理由.....それは何だ?」
「僕が剣を振るう理由......それは、先生を止めるためです」
「いいか。やつは今、聖人になろうとしている。いやもっと正確に言うのなら、聖人になった者たちと似た経緯で、意図せずに聖人化しかけていると言うべきか」
先生が聖人に? そんな事あり得るのか?
そんな事を考える僕であったが、先日からその一端を体験していることを思い出し、僕はキャンベル教官の顔を凝視する。
「気がついたか? やつは魔法がそうであったように。過去の聖人達がそうであったかのように......人々の恐怖の集合意識によって、そやつの実力以上の力を得てしまった。身の丈以上の力は確実に本人を蝕み、そしていずれはヒトの域を越えてしまう。結果はどうであれな」
僕は騎士団に入り先生の行方や評価などをよく耳にしていた。
曰く王国騎士団最大の怨敵。
曰く過去最悪の凶悪殺人鬼。
曰く最凶の剣豪......剣鬼であると。
キャンベル教官が言うには、そんな人々の念が先生という一人のヒトに集中し、聖人達がそうであった様に変わりつつあるという。
「だがな。まだやつを殺す......いやすまない。言い直そう。やつを救う手立ては確かにある」
「別に気を使わなくても大丈夫です。先生はそれだけの事をしてきたのは確かですから......続けて下さい」
キャンベル教官は明らかに僕に気を使っている。だが騎士団に入って僕はもう、先生と相対する覚悟は既に決まっている。たとえ先生を殺さなければ為らないしても......何故なら、きっと先生なら僕に「躊躇するな。それがお前の成すべきことならば」と言うはずだから。
「わかった...続きだが。あのとき居合わせた数人の騎士団員と、同行していた3人のギルドマンに聞いた話だが。やつはお前を殺せる状況だと言うのに、すぐには殺さずあえてギルドマンの一人に射たれ、お前を殺さぬ様に仕向けたと感じたらしい」
「サラさんたちがそんな事を......」
「そしてロイの切り傷は確実に命を奪える距離にいながら、すべて骨によって阻まれていたらしい」
「先生が僕にそんな甘い斬撃を加えたと?」
「状況証拠的にそうとしか言えんのだ。事実その前に切られている"剣鬼の偽物"は確実に致命傷となる部位を切られているだけではなく骨ごと肉を断たれていた。そんな男が強化魔法も未熟な子供を、偽者のように両断できないとは考えにくい」
確かに言われてみればそうだ。先生の偽物は少なくとも先生の動きにはついて行けてた。
「つまりやつはお前を殺すことが出来ない程に場を持ってしまったか。何かしら別の要因によって一時的に正常な......と言っても一般論でいうところの正常な意識に戻った可能性がある。俺的には前者なら稀に見かけるから説明もつくが、後者になると話はまた変わってくる」
「......もしかしてこれが原因とかありますかね?」
そう言うと僕はおもむろに隠していた"禊《みそぎ》の杭《くい》"を取り出し、キャンベル教官へ見せた。するとキャンベル教官は驚愕の表情を浮かべ、超至近距離まで近づいてきた。
...ちょっと威圧感がすごい。
「これは"閼伽《あか》の器《うつわ》"か!? 何故こんな物を持っているんだ!?」
目をひん剥き口早に言葉をまくし立てるキャンベル教官の剣幕に、一瞬だけたじろいでしまうが、一度息を吐くと冷静にこれまでの僕がしてきた事を説明をした。
◇
「なるほどな。ディアナがお前しか勝てないと言っていたのは、そういう理由だったのか」
僕の話を聞いて一人で勝手に納得した様に、何度も頭を頷いているキャンベル教官。そんな彼に僕は疑問を投げかける。
「えっと、なにかわかったんですか?」
「ああ、すまん。お前のこれまでの旅の経緯を聞いて、一つの疑問が解けたんだ」
「疑問ですか?」
「ああ、お前が死ななかった理由だ。ワシは少し勘違いをしていたらしい」
「勘違い? それはどういう......」
「両方だ。お前が死ななかった理由は、やつの情......そしてその他の要因である"閼伽の器"。この両方が原因だったのだ。片方ではなくな」
「これが......」
「ああ、"閼伽の器"は元々、智神マキナが作り出した最初の魔法具として知られている」
「ええ、それは僕も聞いたことがあります」
僕は粗言葉に頷く。
「そうだろうな。それを聞いたのは、グレン・ウィンザーという魔道具屋の店主らしいな」
「はい。そうですね」
「やつは魔法学会の鼻つまみ者として有名だが、こと魔法具に関しての知識量は、どんな魔法使いや学者より優れている」
「グレンさんを知っているんですか?」
「ああ当然だ。なんせやつの書いた論文は見るに耐えない妄言書として有名だからな」
そう言うキャンベル教官の顔は一切の嘲りが含まれていない至って真剣な顔であった。
「だがそんな評価をくだされるのは、帝国ぐらいのもの。あちらの魔法はこっちの魔法と違って、再現性の高い現実的な魔法......どちらかと言うと魔術に近いものだからだ」
「魔術と魔法って違うんですか?」
「そうだな。まあ、そこは今回の話にはあまり関係がなし、詳しく話すと時間が足りないから今回は置いておくとして。とにかくワシが言いたいのは、彼の魔法理論は王国的には正しいということが言いたかったのだ」
「それはわかりましたが、それと僕が死ななかった事にどんな繋がりが?」
「閼伽の器は使用者から、悪しき物を退ける力があるという。そして使用者の願い......祈りを相手に打ち込めるとも言われている」
確かにグレンさんもそんな事を言っていたが、それを証明する方法はないと嘆いていたのを思い出す。
「グレンさんはこの魔法具にはその力があるけど、そういった事を証明することは不可能だって......」
「だがその不可能というものは、王国の魔法学的には可能だと証明されている。一見矛盾している様で混乱するとは思うがな」
「悪しき者......この場合は先生がそれになると」
「そうだ」
「そして使用者の願いを相手に打ち込めることができると......」
「ああ、レヴィルから報告を受け取っていたディアナは、だからこそお前をこの作戦に加えたのかもしれん。"閼伽の器"の使用した可能性が高いお前をな。そしてあわよくば、やつを閼伽の器で止めてくれると信じて」
確かにそれなら僕なんかを編入させたのに納得はいくが、先生に勝てない今の状態ではあまり意味がないのではとも思ってしまう。
「よくよく考えてみれば、隊が違う騎士団と魔法師団を同じく部屋にする理由がないし。もしかしてそれが理由だったりして......」
流石にそれは僕の考え過ぎかな?
「いや、ディアナの事だ。本当に魔法を学ばせるつもりでそうしていたのかもしれん。いくらやつの権限でも、勝手な魔法師団への編入は許可されないからな。あそこは偏屈者の魔窟だから、お前のようなディアナの特権で入った者をよく思ていない奴らも少なくい」
「最近思うんですけどディアナさんって結構、わがままだったりします......?」
「...まあ、そうだな。見た目が良いのと、圧倒的な実力で許されているフシはある」
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