剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

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討伐隊への志願

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 無事試合が終わり合流した3人は、今後の動きについて話し合っていた。

「それじゃあ、これからお二人はズギ交易町に向かうのですね?」

「ああ」

「先生一つ良いですか? 僕ズギ交易町って知らないんですが、何がある町なんですか?」

 初めて聞く町の名前に興味津々のロイが、ウィルにどういった町なのか尋ねる。

「どういう町か……これといって特に何も無い普通の町だな。強いて言うのであれば、海に面していること。あとは水上町コスタルマ行きの、船があることくらいか?」

 ズギ交易町の特徴を聞いて、少し期待外れと言った面持ちのロイだったが、水上町コスタルマという単語に激しく反応する。

「コスタルマってあの……!?」

「あのってなんだ?」

 いきなり目を輝かせて近寄って来るロイに、ウィルは若干気圧される。それを見かねたレヴィルが、ロイが言っている事へ補足をする。

「きっとコスタルマ伝説についてのことでしょう」

「ああ、コスタルマ伝説か……たしか第2次人魔大戦の時に、勇者ヘルメが魔族陣営の水龍ヤムズと戦った逸話の……」

「そうです!! それですよ先生!!」

  いつもよりも元気な姿のロイは先程までの、戦闘で疲弊していたとは思えないほど、異様なテンションの高さで、両の手を上下にブンブンと動かしていた。

「もちろんコスタルマにも行くんですよね先生!?」

「いや、今回の目的地は、コスタルマではなく法国だ」

「……なーんだ。コスタルマには寄らないんですね。ん? 法国が次の目的地ですか?」

 コスタルマによらず次の目的地に向かうと、告げられたロイは肩を落とす。しかし直ぐに次の疑問が浮かび上がる。そのことについて質問しようとするが、レヴィルが先に質問をしてしまった為、聞きそびれてしまう。

「法国ですか。そういえば法王庁《ほうおうちょう》で行われる生誕祭はもうすぐでしたね。それに行かれるのですか?」

「ああ、元々オレは法国の出だ。久しぶりに戻っておこうとおもってな。それにロイにも一度、法国の生誕祭《せいたんさい》を体験させるのは、いい刺激になりそうだ。」

「え、法国の生誕祭《せいたんさい》ってやばい祭りなんですか?」

「何故そうなる。単純に規模が違うからだ。それに今回は300年祁《ねんき》、もしかしたら聖者も来るかもしれん」

「聖者……?」

 コレまた初めて聞く単語に、疑問符がロイの頭に浮かび上がった。

「コスタルマ伝説は知っているのに、三大神の聖者は知らないのか……不思議なやつだなお前は」

「三大神……あっもしかして、智神マキナの生まれ変わりって言われてる?」

「ああ、それだ」

「うーん、僕は三大神についてはよくわからないんですよね。それに僕のお父さんが信仰してたのは、もともと女神信仰でしたから」

「そう言えば、女神の軌跡を知っていたな。お前にしては博識だと思ったが、そういうことだったのか」

「確かに学はないですけど、バカにしすぎじゃないですか!?」

 頬を膨らましながらウィルに抗議するロイ。その光景を見たウィルとレヴィルは暫くの間、微笑ましく笑いあった。





「それでは先生。僕たちはもう少し街を探索したら帰りますので!!」

「ああ、それは構わないがお前は戦ったばかりだ。無理はするなよ?」

 そう言うとウィルは人ごみに紛れるように宿屋へと戻って行った。その光景を見送り、ウィルの姿が完全に消えたことを確認すると街の散策を開始した。

「ウィル様はやはりすごい方ですね」

 突然ウィルのことを褒めだすレヴィルを前に、ロイはキョトンとした表情で呆ける。

「どうしたんですか急に?」

「いえ、先程の帰り際に見せた運足。人混みをまったく異に返さず、まるで何も無い一本道を通っているかの様に歩いていかれた。あれは並の鍛錬では身につけられませんよ」

「たまに先生の歩くスピードが早すぎて、置いていかれそうになる時がありますからね。よく考えてみれば確かにあんな人混みで、あんなにスムーズに歩くのって難しいですよね」

「きっとウィル様の修める武術に、由来するものなのでしょう」

「先生の武術は確か……元々は体術を中心に据えた技術だって言ってましたよ」

 ロイの発言を聞き、レヴィルは納得する。確かに体術をメインにする流派なら、運足に重きを置くのは当然である。勿論剣術も決して怠っているわけではないが、身体操作という点ではやはり体術メインの流派には見劣りしてしまう。

「なるほど、それなら納得です。そう言えばロイ様?」

 レヴィルは先程の闘技場でロイが見せた技術について、とある疑問をいだいていた。

「はい。なんですか?」

 その疑問とは……

「ロイ様の扱う武術て、もしかして堅豪流ではないですか?」

「はい。そうですが、何でわかったんですか?」

 レヴィルは心のなかで、「やっぱりそうか……」とこの時ばかりは、自分の勘の良さを恨む。

「実は数年前に堅豪流の師範を名乗っている方が、最近巷を賑わせている辻斬りによって殺害された疑惑があるのです」

「え……?」

 レヴィルの言葉がロイの思考を停止させる。そして混乱するロイを尻目に、レヴィルは淡々と話を進める。

「堅豪流の師範と名乗る男性は、幾つかの特徴的な技を扱っていると有名だったので、その文献を探し出すことは容易でした。そしてその文献に書かれた技法と、先程ロイ様が闘技場で使っていた技にそっくりだったのです」

「……その殺害された男性は、ユーゴという名前ではなかったですか?」

 ロイは恐る恐る質問をする。自分の予想が外れていてくれと祈りながら。しかし現実は非情であった。

「ええ、身元は割れています。ユーゴ•カルヴェズ。45歳。男性。そしてそのユーゴは行きつけの酒場にて、息子がいると……そして技を教えている唯一の存在だと漏らしていました」

 ロイは言葉を失ってしまう。たった今聞かされた、自らの肉親の死。

 ロイの胸に訪れるある感情。そして今まで捜索を続けていた、父の死を覚悟していながらも、いざ現実にそれを聞かされるとこうまで動揺してしまうものなのか……という悲嘆。

「……」

「ロイ様。どうかロイ様のフルネームを、教えていただけませんか?」

 レヴィルは残酷なことだと分かっていながらも、ロイの名を尋ねる。

「……カルヴェズ。ロイ•カルヴェズが僕のフルネームです。そしてユーゴ•カルヴェズは、僕の父さんです。」

「……やはりそうでしたか」

 レヴィルは普段のロイとは全く違う、その悲嘆の表情を目の当たりにしたことで一瞬たじろいでしまいそうなる。しかしここまで来たら引き返せない。レヴィルはつづきを話しはじめる。

「ロイ様。よく聞いてください。我々は今、ユーゴ•カルヴェズを殺害したと思われる辻斬り……【虎牙《こが》の剣鬼《けんき》】の居場所を、おおよそ掴んでいます」

「!?」

「そして近い内に、【虎牙《こが》の剣鬼《けんき》】の討伐隊が組まれることも決定されています。その際にはギルドを通して討伐隊の志願者も募る予定です。この意味はわかりますね?」

「はい……!!」

「ロイ様。【虎牙《こが》の剣鬼《けんき》】は非常に危険な人物です。我々の同士も沢山殺られています。それでもこの討伐隊に志願しますか?」

「レヴィルさん。僕がこの旅に出た理由は、父の武術を世間に広く知らしめる事。そして新たな目標……父の仇である【虎牙《こが》の剣鬼《けんき》】をこの命を賭けてでも討つことです!! だからその討伐隊に、僕は志願します!!」

「……その覚悟しかと受け取りました。ギルドに通達が出るのは、これから約1ヶ月後です。良いですか、志願枠に定員はありません。ですがきっと沢山の猛者が志願するでしょう。貴方はそのものたちに遅れを取らぬよう、これからの一ヶ月の間ウィルさんに、師事してもらうのです。」

「はい!!」

「言いたいのはそれだけです。さあ、街の散策を始めましょう」

「え? 早速修行しなくていいんですか?」

「ロイ様は今決して軽くない怪我をしているのですよ。傷が開いてしまうので、今日くらいはゆっくりしないとダメですよ」

「まあ、レヴィルさんがそう言うなら……」

 こうして若干の気まずさを感じながらも、二人は日が陰るまでの間、街の散策を楽しんだ。
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