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化け物と剣鬼
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額に生えた幾多にも重なり合った一本角。
赤黒く汚れた猛獣の様な爪。
不気味な神聖を感じさせる純白の毛。
人とかけ離れた異様な体格。
その特徴を上げたらキリがない異形にその場に居合わせた全員がある事を悟った。こいつは過去の人魔対戦の逸話で語られる様な魔族であると…つまり…
「全員…アレと戦おうなんて思わないで下さい。もしアレがその気なら我々は一瞬で全滅です」
ロバートは指示を出しながらも魔族に対抗する手段を考えていた。しかしそれもすぐに無意味であると知る事になる。
「ぐはっ!?」
コールマンの近くにいたはずの魔族の姿が一瞬で消えたかと思うと、次の瞬間にはロバートの目の前に現れ殴り飛ばされる。
「ロバートさん!?...グガッ!?」
ロバートが馬車に激突し血を吐きながら気を失った。その様子に驚いている近くにいた二人の騎士団員を、まるで羽虫を払うように弾き飛ばす。
「先生どうしますか!?」
「ロイ。下がっていろ」
ウィルは剣を構え身体強化の魔法をかけながら、こちらを見ている魔族を警戒する。しかしその警戒も虚しく魔族の初動を見逃してしまった。
(…なんだとっ!?)
ウィルが驚愕する。その速さはロバートのような最速最短の距離を狙う【雷光一閃】とは違い。過去に唯一初動を見抜けなかった、剣聖コハクの歴戦の技術が生み出す運足とも違う。
それを例えるならば、生物として上位な存在の速さ。目にも止まらぬ速度を生み出す純粋な力の結晶。
故に誰も敵わない。人ならざる存在に人は敵わない。人に出来るのはその厄災が過ぎ去るのを祈ることのみ。
「先生!?」
(オレは一体何をされた…?体中きしむような痛みがある…)
ウィルは現状を静かに確認する。限られた視界内に馬車が見えないことから、さっきまで立っていた場所の十数メートルも後方に吹き飛ばされ木に激突し座り込んでいるとわかる。
全身が痛み呼吸をすることすら難しい。そんな絶望的な状況だというのに、ウィルの顔には自然と歪んだ笑みが浮かぶ。
遠くで魔族に襲われているのか、ロイや騎士団員の叫び声が聞こえてくる。
(動け…これで終わりじゃないだろう…)
ウィルは軋む肉体にムチを打ち、なんとか顔を上げ現状を認識する。
馬車の周囲で倒れるロイの姿。そんなロイに覆いかぶさって守るように倒れている男装の麗人レヴィル。
馬車にめり込む形で項垂れている、どこまでも胡散臭い笑顔の男ロバート。そしてその男に忠実な騎士団員達。
その全てが体を欠損させたるか、五体満足だが多量の血を流している状態で倒れ伏していた。
ウィルは…鬼はその現実をその眼でただ静かに見ていた。
•
•
•
「は、はははっ!! 騎士団を簡単に蹴散らすとは流石だ。あの役立たずの獣とは大違いだ!!」
この状況を作り上げた元凶のコールマンは高らかに声を上げ笑う。
「おい!!俺の拘束具を壊してくれ!!」
その声に反応したのかの様にコールマンの側へ移動する。そして…
「グェッ!?」
魔族はうつ伏せになって拘束されているコールマンの首を踏みつけると、まるで潰れたカエルのような声を出す。
「その命令には従えんな」
「なん…だと?お前は何を…ッ!?」
魔族はコールマンを踏む力を少しずつ強くしていく。
「人間。貴様は勘違いしている」
「勘違い?」
「お前が使ったそれは…お前らの言葉で表すなら【太陽の呼び声】だ。それは代償を払って我らと契約する代物。我々を自由に使役できる物ではない」
「代償だと?」
「ああ、そうだ。前回は上手く騙して代償を払わずに済んだようだが今回はそうはいかないぞ」
どんどん首にかける力を強める。コールマンは自分の骨が軋む音を感じながら、魔族の話を聞くことしかできない。
「我は今機嫌が良い。久しぶりに声が聞けたからな。今回の代償はお前とそこで死んだふりをしている人間の命で勘弁してやろう」
「それじゃあアイツらを殺した意味が…な…」
意味がない…そう呟く暇も与えずに首をへし折る。そして次にロイに腕を切られてからずっと死んだふりをしていた賊に近づく。
「…お、おい!!た、たすけ」
その賊が咄嗟に起き上がり命乞いをするのを無視して、顔面鷲掴みにするとそのまま鋭い爪で骨ごと砕く。
「ふむ…もう戦う意味はないのだがな」
魔族は先程殴り飛ばした男が死んでいるはずの場所を見る。そこには額から多量の血を流しながら剣を握り、コチラを眺めている男が立っていた。
「さて、貴様はどうしたい。我は今は気分が良い。死に方くらいは選ばせてやろう」
化け物は不気味な男に興味を示し始めていた。化け物はその男に問う自らと戦いたいのかと…
「…どうするか?」
鬼は無機質な眼を向けその問いに答える。目の前の化け物を品定めするかのように眺めながら…
「簡単なことだ。貴様を斬って終いにする」
その言葉を合図に【化け物】と【剣鬼】は同時に動き始めた。
赤黒く汚れた猛獣の様な爪。
不気味な神聖を感じさせる純白の毛。
人とかけ離れた異様な体格。
その特徴を上げたらキリがない異形にその場に居合わせた全員がある事を悟った。こいつは過去の人魔対戦の逸話で語られる様な魔族であると…つまり…
「全員…アレと戦おうなんて思わないで下さい。もしアレがその気なら我々は一瞬で全滅です」
ロバートは指示を出しながらも魔族に対抗する手段を考えていた。しかしそれもすぐに無意味であると知る事になる。
「ぐはっ!?」
コールマンの近くにいたはずの魔族の姿が一瞬で消えたかと思うと、次の瞬間にはロバートの目の前に現れ殴り飛ばされる。
「ロバートさん!?...グガッ!?」
ロバートが馬車に激突し血を吐きながら気を失った。その様子に驚いている近くにいた二人の騎士団員を、まるで羽虫を払うように弾き飛ばす。
「先生どうしますか!?」
「ロイ。下がっていろ」
ウィルは剣を構え身体強化の魔法をかけながら、こちらを見ている魔族を警戒する。しかしその警戒も虚しく魔族の初動を見逃してしまった。
(…なんだとっ!?)
ウィルが驚愕する。その速さはロバートのような最速最短の距離を狙う【雷光一閃】とは違い。過去に唯一初動を見抜けなかった、剣聖コハクの歴戦の技術が生み出す運足とも違う。
それを例えるならば、生物として上位な存在の速さ。目にも止まらぬ速度を生み出す純粋な力の結晶。
故に誰も敵わない。人ならざる存在に人は敵わない。人に出来るのはその厄災が過ぎ去るのを祈ることのみ。
「先生!?」
(オレは一体何をされた…?体中きしむような痛みがある…)
ウィルは現状を静かに確認する。限られた視界内に馬車が見えないことから、さっきまで立っていた場所の十数メートルも後方に吹き飛ばされ木に激突し座り込んでいるとわかる。
全身が痛み呼吸をすることすら難しい。そんな絶望的な状況だというのに、ウィルの顔には自然と歪んだ笑みが浮かぶ。
遠くで魔族に襲われているのか、ロイや騎士団員の叫び声が聞こえてくる。
(動け…これで終わりじゃないだろう…)
ウィルは軋む肉体にムチを打ち、なんとか顔を上げ現状を認識する。
馬車の周囲で倒れるロイの姿。そんなロイに覆いかぶさって守るように倒れている男装の麗人レヴィル。
馬車にめり込む形で項垂れている、どこまでも胡散臭い笑顔の男ロバート。そしてその男に忠実な騎士団員達。
その全てが体を欠損させたるか、五体満足だが多量の血を流している状態で倒れ伏していた。
ウィルは…鬼はその現実をその眼でただ静かに見ていた。
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「は、はははっ!! 騎士団を簡単に蹴散らすとは流石だ。あの役立たずの獣とは大違いだ!!」
この状況を作り上げた元凶のコールマンは高らかに声を上げ笑う。
「おい!!俺の拘束具を壊してくれ!!」
その声に反応したのかの様にコールマンの側へ移動する。そして…
「グェッ!?」
魔族はうつ伏せになって拘束されているコールマンの首を踏みつけると、まるで潰れたカエルのような声を出す。
「その命令には従えんな」
「なん…だと?お前は何を…ッ!?」
魔族はコールマンを踏む力を少しずつ強くしていく。
「人間。貴様は勘違いしている」
「勘違い?」
「お前が使ったそれは…お前らの言葉で表すなら【太陽の呼び声】だ。それは代償を払って我らと契約する代物。我々を自由に使役できる物ではない」
「代償だと?」
「ああ、そうだ。前回は上手く騙して代償を払わずに済んだようだが今回はそうはいかないぞ」
どんどん首にかける力を強める。コールマンは自分の骨が軋む音を感じながら、魔族の話を聞くことしかできない。
「我は今機嫌が良い。久しぶりに声が聞けたからな。今回の代償はお前とそこで死んだふりをしている人間の命で勘弁してやろう」
「それじゃあアイツらを殺した意味が…な…」
意味がない…そう呟く暇も与えずに首をへし折る。そして次にロイに腕を切られてからずっと死んだふりをしていた賊に近づく。
「…お、おい!!た、たすけ」
その賊が咄嗟に起き上がり命乞いをするのを無視して、顔面鷲掴みにするとそのまま鋭い爪で骨ごと砕く。
「ふむ…もう戦う意味はないのだがな」
魔族は先程殴り飛ばした男が死んでいるはずの場所を見る。そこには額から多量の血を流しながら剣を握り、コチラを眺めている男が立っていた。
「さて、貴様はどうしたい。我は今は気分が良い。死に方くらいは選ばせてやろう」
化け物は不気味な男に興味を示し始めていた。化け物はその男に問う自らと戦いたいのかと…
「…どうするか?」
鬼は無機質な眼を向けその問いに答える。目の前の化け物を品定めするかのように眺めながら…
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