剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

文字の大きさ
上 下
8 / 74

覚悟と意志

しおりを挟む
 オレはロイを弟子にむかえ、次の街へと向かう道中で休憩がてら技を教えながら少し考え事をしていた。

「さて…ロイを弟子にしたのは良いが、宿代が増えるのは問題だな。しばらくは野宿でもするか?」

 旅の武芸者にとって最も大きな問題...それは金である。ギルドに所属していたり特定の街に留まるならオレのような流れ者でも金を稼ぐ手段は幾分か存在する。

 しかし…今のオレは定住をせず街を転々としているせいで、ギルド登録の条件でもある住民証明が無いのだ。

 住民証明は一定期間以上街に住む者や長期間街に滞在する商人などに発行されるモノだ。王国内のどの街であれ、この住民証明さえあれば王国すべてのギルドを通して依頼など受発注することが出来る。

 逆に言えばこの証明ができない限り、正式な依頼を受けることができないのである。

「違法な依頼を受けるのは流石にリスクがでかい…さてどうしたものか…」

 そう悩んでいるとロイが顔を覗き込んでくる。

「先生?なにか悩み事ですか?」

「ああ、お前の宿代をどうするべきか考えていた。流石に貧民街とはいえ王都の小綺麗な場所で暮らしてたなら野宿は嫌だろ?」

「いやぁ、別に大丈夫だと思いますけど…でも宿を取れるならそれに越したことはないですね」

「ふむ…どうしたものか」

「あ…!!」

 ロイが突然何かを思い出したかのように大袈裟な動きをする。

「ギルドで依頼を受けましょう!!」

「それができたらはじめからしている。俺はギルドの受注要件を満たしていないから依頼は受けられない」

「え…そうなんですか? 僕はたまにギルドで簡単な依頼を受けてましたけど…」

…今ロイはギルドで依頼を受けていたといったか?

「何故それを今まで黙っていた」

「え…だって聞かれなかったですし…」

 そうか。よくよく考えてみればロイはオレと違い、貧民街とはいえ王都に住んでいたのだった。なら住民証明を持っていても不思議ではない。

「はぁ…そうだな。そこら辺を聞いてないオレも悪かった」

「いえ…僕ももっとはやく言えばよかったですね。ごめんなさい」

「謝る必要はない。それに依頼を受けれるなら宿代をかせぐことも容易になる」

 これなら旅の問題の大部分は解決できる。ただロイに任せっきりになるのは癪ではあるが…

「問題は解決した。続きを始めるぞ」

「はい先生!!」

 休憩のために中断していた戦いの稽古を再開する。

「ではまずはお前がどのくらい戦えるか見せてもらう。オレを討つ気で来い」

  俺は剣を抜きロイへと構える。それに反応してロイも慌てて剣を構える。

「はい…!!」

 ロイは腰を落とし剣を横に構える。

「では…いきます!!」

 掛け声とともにロイはウィルとの距離を一気に狭める。ロイの剣はウィルの剣よりも短いため間合いに入るには相手が振るう前に動く必要があった。

「…あまいな」

 剣がウィルに当たる。そう思った瞬間、ロイの剣に重い衝撃が奔る。明らかに自分より遅く動いたはずのウィルの剣がロイの剣を受け止めていた。

「っ…!?」

 ロイはすぐさま距離を取ると、今度はサイドに回り込む。

「これならどうだ!!」

 ロイはウィルの死角から横薙ぎに脚を狙う。しかしまたしてもロイの放った攻撃はウィルの剣に阻まれてしまう。

「虎牙流…根刺し。なんてこと無いただ剣を地面に突き立て、相手の横払いを防ぐ技だ」

「…くそ!!」

 ロイはまた距離を取る。しかし…

「攻撃しては引く。悪い戦法ではないが、自らより疾い相手に対して行うのはいただけない」

 そう言いながらロイとの距離を一気に詰め、切先をロイの首筋に当てる。

「…参りました」

 その言葉をききウィルは剣を鞘に戻しながら総括を始める。

「動きは悪くない。死角にはいってすぐさまオレの脚を狙ったのも良かった。しかし…」

「攻めが消極的すぎるな。お前はいつもこうやって戦っていたのか?」

「いつもはもう少し攻撃を繋げていたのですが…先生の間合いに入って攻撃を防がれた後、次の動きに移行する瞬間に身体がうまく動いてくれなかったんです」

「そうか。ロイもう一度オレと立ち会え」

「もう一度ですか…わかりました」

 ロイはまた剣を構える。しかしウィルは剣を構えようとはしない。

「あのー先生?」

「どうした。早くかかってこい」

 ウィルは一向に動かないロイに早く攻めてくるよう促す。

「流石に先生でも素手で剣に対抗するのは無理なんじゃ…」

「やってみなければわからんだろう?いいから早くこい」

「…わかりました。怪我しても知りませんからね!!」

 ロイは構えの状態からまたもウィルとの距離を一気に詰める。

「なるほどな…」

しかし今度は剣が触れるよりも早く、ウィルが身体を移動させロイの剣を持つロイの腕を抑えていた。

「え…!?」

「ロイお前は人を殺したことはあるか?」

 おもむろにウィルが質問をしてくる。

「人は…無いです」

「やはりそうか。お前が何故消極的なのかわかった」

「…なぜですか?」

「お前の放つ攻撃は殺すのではなく、あくまでも相手を戦闘不能にするためのモノだ。お前の攻撃は意思も覚悟も弱く、故にオレの技に気圧されてしまっている」

「意思と覚悟が弱い…」

「恐らくまだ生き物を殺す事への免疫がないからだろうが、もし本当の技を身に着けたいのなら…いずれは誰かを殺す覚悟を持たねばならない」

「…」

「どれだけ崇高な目的を掲げようが…オレたちが修める技術は殺しの技だ」

「殺しから目を背けるような軟弱者が本物を手に入れれるわけがない。今はまだそれでいいが、いずれはその壁に直面する事になる」

「そうなったらお前は選択を迫られる。それだけは心に留めておけ」

 そう言いウィルはロイに背を向け次の街へと歩きはじめた。

 ロイは剣を鞘に戻しただ黙ってウィルの後を追った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

処理中です...