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警告
6秒間で攻撃を始めます。
速やかに閉じて出ていきなさい。
ここは貴方ごときが覗いていいところではありませんよ。
5、4、3、2、1
時間切れです。
身の程をわきまえなかった自分を恨みなさい。
鑑定は得意だった。
された側にバレたことは一度もないくらいに。
しかしこれは、いつも覗いていたステータス画面ではない。
暗闇の中で石板のような画面に浮かぶ大小入り混じった文字に呆気にとられていた怜美が気づいた時には警告の6秒間は過ぎ去っていた。
(ていうか、6秒じゃないよね? 早すぎ!しかも5秒だったよね?)
怜美の体が暗闇に放り出され、空間に浮かぶ。自分の手すら見えない、確かに目は見開いているのに。
突然、ぷうぅんと耳元で虫の羽音が響く。虫は死ぬほど嫌いなのに!
(やめて! 助けて!)
腕に何かが這う感触が広がっていく。手で払っても虫の気配はないのに、感触だけが全身にざわざわと広がる。
(いやぁ! 助けて! ごめんなさい!)
泣き叫んでも、声は闇に吸い込まれて響かない。誰にも届かない。
怜美は泣きながら、自分で自分を抱きしめて体を丸め、闇の中を堕ちていった。
=======================
「あのぅ、これはあなたの仕業ですか?」
久々な気がするが、前回会ったのは昨夜だったか、その前の夜だったか………ともかく最近だ。
巨大な石板の前にあの男が立っている。営業マンっぽいが、顔つきがふてぶてしい感じがするのは気のせいだろうか。男は頷いてから、答えた。
「ふてぶてしいなどとは失礼な。
───ええ。私の仕業です。というかこれは通常の仕様ですよ」
天使(見習いというのもかなり怪しいが見習いということにしておこう)は相変わらず心は読めるらしい。みゆきは小さくため息をついた。
「見習いです。そもそもひとさまのステータスを覗くとバチがあたるものですよ。おばあちゃんが言ってませんでしたか?」
「ええと、覗いてもいいようにダミーを用意されていたのでは?」
天使(見習い)は片眉を上げて、体を折り曲げたまま気を失っている怜美を一瞥した。
「その、天使さん。この子達は二百年の間、封印の石にされてたみたいなんですけど、他の場所でも同じことが起こってるんですか?」
「随分と単刀直入にお尋ねになりますね」
みゆきはにこりと笑った。
天使(見習い)も微笑んだ。
「悪い笑顔ですよ」
「え?」
実は、みゆき本人は[にこり]と笑っているつもりなのだが、笑われている側には[にたり]としか見えていないことが多い。要するに、何か企んでいるようにしか見えなかった。
「まぁ、いいでしょう。ご察しのとおり、他の場所でも同様のことが起こされています。守護竜が言っていたとおり、どちらもあまりもたないと思われます。そもそも、わざわざ召還して、しかも10人も! なのに百年程しか封印できないなんて、情けないと思いませんか?」
「いえ、その、二百年だったそうですが……」
「ええ。よほど優れた方々だったのでしょう。守護竜達も頑張ってくれたようですし。で、他の場所にも行かれるのですか?」
(えっ? とめないのか? こんなときって普通とめない?)
「とめませんよ? みゆきさんの行動に制限はありませんから」
「はぁ……。じゃあ、もうひとつ確認をお願いします。その、転移なら元の場所に戻ることは可能でしょうか?」
「そうおっしゃると存じておりましたよ。転移ならば一定の制限はございますが、可能です」
「その制限ってなんでしょうかね?」
「またまた遠慮なくご質問されますねぇ。原則として、こちらからは一方通行となります。二度とこちら側に戻ってくることはできません」
「……それだけですか?」
「大事なことです」
天使(見習い)は、にこりと微笑んだ。完璧な営業スマイルである。
みゆきは、思い出したように言った。
「あ、じゃあ、時間は? 二年前に戻ることはできますか?」
「それもおっしゃると思っていましたよ。しかし、今はそれにお答えすることができません。申し訳ないのですが」
「──そうですか……。いえ、ありがとうございます。ほんと、いろいろありがとうございます」
ぺこりと頭を下げたみゆきに、天使(見習い)は小さく目を見開いた。
「よろしいのですか? こんな解答で」
「え? 十分です。あと、いろんなことができるようにしていただいているし。
──瘴気を浴びても平気だし、そもそも瘴気を元から絶てるとか、地図で見た場所(いたずら書き程度)とか思い描いた場所にテレポートできるとか、アイテムボックスを他人に分けられるとか、むっときたら足腰立たないくらいびびらせられるとか、見えてもいない場所にいるオークを全滅させられるとか、ああ、針で刺した傷があっという間にふさがるなんてのもありましたね。それから背後に立った人間は半死半生の目に遭わせられるし、ほんとありがたいもんです。ありがとうございます」
再度深々と頭を下げたみゆきをじっと見つめた天使(見習い)は、一瞬だけ、にやりとわらう。
「まだまだほかにもあるのですが、とりあえずは喜んでいただけたようで、こちらも頑張った甲斐がございます。努力が報われるというものですね。ちなみに、ここだけの話ですが、某森のお話のように首が落ちたらはいおしまいというわけではありませんのでご安心ください」
「え?」
「私の仕様は全てにおいて完璧でございますので」
沈黙の後、天使(見習い)は笑った。
みゆきも乾いた笑いを浮かべるしかない。
「う……ん」
足元から怜美の呻き声が聞こえて、みゆきは視線を落とした。
「時間のようですね。お迎えに来られたのでしょう?」
「ええ。鑑定って言ってそのまま意識を失ったので」
「勝手に覗かないようにしないと、もっと痛い目に遭うと教育してくださいね」
(いやいやもう十分なのでは? なんか泣いてたみたいだし……)
「次からはダミーが見られるようにしておきます。彼女は想定外に能力がありましたので、止むを得ずの措置とさせていただきました。私としたことが油断してしまい、反省しております」
反省しているとは思えない口調である。
「さて、この次は是非とも、もっと落ち着いた時間にごゆっくりといらしてくださいね」
「はい。最後にお願いをもうひとつ……」
「残りの場所はみゆきさんのお手持ちのノートに記載させていただいておりますよ」
天使(見習い)は少しだけドヤ顔であった。
「至れり尽くせりで申し訳ないです」
みゆきは屈んで白く冷たくなった玲美の手首をそっと握った。
「ではまた、よろしくお願いします」
頭を小さく下げたみゆきと玲美の姿が視界から消えていく。
「此方こそ、よろしく」
男も、低く応えた。
6秒間で攻撃を始めます。
速やかに閉じて出ていきなさい。
ここは貴方ごときが覗いていいところではありませんよ。
5、4、3、2、1
時間切れです。
身の程をわきまえなかった自分を恨みなさい。
鑑定は得意だった。
された側にバレたことは一度もないくらいに。
しかしこれは、いつも覗いていたステータス画面ではない。
暗闇の中で石板のような画面に浮かぶ大小入り混じった文字に呆気にとられていた怜美が気づいた時には警告の6秒間は過ぎ去っていた。
(ていうか、6秒じゃないよね? 早すぎ!しかも5秒だったよね?)
怜美の体が暗闇に放り出され、空間に浮かぶ。自分の手すら見えない、確かに目は見開いているのに。
突然、ぷうぅんと耳元で虫の羽音が響く。虫は死ぬほど嫌いなのに!
(やめて! 助けて!)
腕に何かが這う感触が広がっていく。手で払っても虫の気配はないのに、感触だけが全身にざわざわと広がる。
(いやぁ! 助けて! ごめんなさい!)
泣き叫んでも、声は闇に吸い込まれて響かない。誰にも届かない。
怜美は泣きながら、自分で自分を抱きしめて体を丸め、闇の中を堕ちていった。
=======================
「あのぅ、これはあなたの仕業ですか?」
久々な気がするが、前回会ったのは昨夜だったか、その前の夜だったか………ともかく最近だ。
巨大な石板の前にあの男が立っている。営業マンっぽいが、顔つきがふてぶてしい感じがするのは気のせいだろうか。男は頷いてから、答えた。
「ふてぶてしいなどとは失礼な。
───ええ。私の仕業です。というかこれは通常の仕様ですよ」
天使(見習いというのもかなり怪しいが見習いということにしておこう)は相変わらず心は読めるらしい。みゆきは小さくため息をついた。
「見習いです。そもそもひとさまのステータスを覗くとバチがあたるものですよ。おばあちゃんが言ってませんでしたか?」
「ええと、覗いてもいいようにダミーを用意されていたのでは?」
天使(見習い)は片眉を上げて、体を折り曲げたまま気を失っている怜美を一瞥した。
「その、天使さん。この子達は二百年の間、封印の石にされてたみたいなんですけど、他の場所でも同じことが起こってるんですか?」
「随分と単刀直入にお尋ねになりますね」
みゆきはにこりと笑った。
天使(見習い)も微笑んだ。
「悪い笑顔ですよ」
「え?」
実は、みゆき本人は[にこり]と笑っているつもりなのだが、笑われている側には[にたり]としか見えていないことが多い。要するに、何か企んでいるようにしか見えなかった。
「まぁ、いいでしょう。ご察しのとおり、他の場所でも同様のことが起こされています。守護竜が言っていたとおり、どちらもあまりもたないと思われます。そもそも、わざわざ召還して、しかも10人も! なのに百年程しか封印できないなんて、情けないと思いませんか?」
「いえ、その、二百年だったそうですが……」
「ええ。よほど優れた方々だったのでしょう。守護竜達も頑張ってくれたようですし。で、他の場所にも行かれるのですか?」
(えっ? とめないのか? こんなときって普通とめない?)
「とめませんよ? みゆきさんの行動に制限はありませんから」
「はぁ……。じゃあ、もうひとつ確認をお願いします。その、転移なら元の場所に戻ることは可能でしょうか?」
「そうおっしゃると存じておりましたよ。転移ならば一定の制限はございますが、可能です」
「その制限ってなんでしょうかね?」
「またまた遠慮なくご質問されますねぇ。原則として、こちらからは一方通行となります。二度とこちら側に戻ってくることはできません」
「……それだけですか?」
「大事なことです」
天使(見習い)は、にこりと微笑んだ。完璧な営業スマイルである。
みゆきは、思い出したように言った。
「あ、じゃあ、時間は? 二年前に戻ることはできますか?」
「それもおっしゃると思っていましたよ。しかし、今はそれにお答えすることができません。申し訳ないのですが」
「──そうですか……。いえ、ありがとうございます。ほんと、いろいろありがとうございます」
ぺこりと頭を下げたみゆきに、天使(見習い)は小さく目を見開いた。
「よろしいのですか? こんな解答で」
「え? 十分です。あと、いろんなことができるようにしていただいているし。
──瘴気を浴びても平気だし、そもそも瘴気を元から絶てるとか、地図で見た場所(いたずら書き程度)とか思い描いた場所にテレポートできるとか、アイテムボックスを他人に分けられるとか、むっときたら足腰立たないくらいびびらせられるとか、見えてもいない場所にいるオークを全滅させられるとか、ああ、針で刺した傷があっという間にふさがるなんてのもありましたね。それから背後に立った人間は半死半生の目に遭わせられるし、ほんとありがたいもんです。ありがとうございます」
再度深々と頭を下げたみゆきをじっと見つめた天使(見習い)は、一瞬だけ、にやりとわらう。
「まだまだほかにもあるのですが、とりあえずは喜んでいただけたようで、こちらも頑張った甲斐がございます。努力が報われるというものですね。ちなみに、ここだけの話ですが、某森のお話のように首が落ちたらはいおしまいというわけではありませんのでご安心ください」
「え?」
「私の仕様は全てにおいて完璧でございますので」
沈黙の後、天使(見習い)は笑った。
みゆきも乾いた笑いを浮かべるしかない。
「う……ん」
足元から怜美の呻き声が聞こえて、みゆきは視線を落とした。
「時間のようですね。お迎えに来られたのでしょう?」
「ええ。鑑定って言ってそのまま意識を失ったので」
「勝手に覗かないようにしないと、もっと痛い目に遭うと教育してくださいね」
(いやいやもう十分なのでは? なんか泣いてたみたいだし……)
「次からはダミーが見られるようにしておきます。彼女は想定外に能力がありましたので、止むを得ずの措置とさせていただきました。私としたことが油断してしまい、反省しております」
反省しているとは思えない口調である。
「さて、この次は是非とも、もっと落ち着いた時間にごゆっくりといらしてくださいね」
「はい。最後にお願いをもうひとつ……」
「残りの場所はみゆきさんのお手持ちのノートに記載させていただいておりますよ」
天使(見習い)は少しだけドヤ顔であった。
「至れり尽くせりで申し訳ないです」
みゆきは屈んで白く冷たくなった玲美の手首をそっと握った。
「ではまた、よろしくお願いします」
頭を小さく下げたみゆきと玲美の姿が視界から消えていく。
「此方こそ、よろしく」
男も、低く応えた。
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