オタクおばさん転生する

ゆるりこ

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18 柿崎航平くん視点

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 異世界召喚されてしまったらしい。

 これで俺の人生は終わったも同然だ。

 子供の頃からお受験に勤しみ、小中高は勉強とサッカーに励み、最近彼女ができて、さあ!これからだ!って時だったのに……。気がついたらワケわかんない場所で、外人のおっさん達に囲まれて、勇者だ勇者だって、なんですか?   ワケわかんねーよ。

 勇者ってなんだ?   ヨ○ヒコしか知らねーし。
 ポケモ○とマリオ○ートには出て来なかったぞ。

 不満たらたらで目の前の料理を食べていた。味が薄いくらいで、材料は、鶏肉っぽい味のものや、キャベツっぽい野菜やら、手の込んだ作りの高級な感じのもので、嫌いではない。でも、食べた気があまりせず、力が抜けていく気がした。

 召喚された部屋から連れ出され、長い廊下をひたすら歩き、階段を昇り、渡り廊下を歩いて、街並みを見た時、ここが日本ではないとわかった。そもそもみなさん外人だし。

「ねえ、あのおばさん、どうなったのかな?」

 横に座っている秋月尚弥が心配げに呟いた。
 秋月が誰かを心配するなんて珍しい。
 こいつは小学校の時から一緒だが、物静かな美少年で、滅多に喋ることもなく、そのくせなんでもできて、女子から絶大な人気を集めているのだ。だが、誰かを気にするところなど見たことがなかった。目の前で誰かが転んでも、すっと避けて通り過ぎる(実際に何度も目撃した)ヤツだ。

 色素の薄い瞳に、亜麻色の髪はサラサラしている。男の俺だって、こいつの顔が人一倍キレイだと判る。モテモテだということも。

「あのおばさん、チョー強そうじゃなかった?」

「は?」
 ワケわかんないよ。

「だって、一瞬で3発叩きこんだんだよ?   裏拳肘撃ち回し蹴り」

 思い出したのか、うっとりとしている。視界に入り込んだこの世界のお姉さん方もうっとりとみとれているようだ、こいつに。こいつのモテモテは異世界でも続くらしい。

「見たのか」

「うん。見ちゃった」

 てへぺろ、みたいな口調の秋月に一瞬焦る。
 こいつ、こんなヤツだったっけ?

「ほら、ちゃんと撮れてたし」

「ええええ?」

 何と、スマホで録画してやがった。いつの間に?

「こっちに喚ばれる前、黒板を撮ってたんだよね。で、そのままだったから、偶然なんだけど」

「え?   じゃあ、こっちに連れて来られた瞬間は?」

「残念。画面真っ白で何もないんだ。一瞬だったよ……。それに、これももうそろそろ電池切れかな」

 バッテリーが切れそうなら、動画なんか見なければいいのにと、秋月を見ると情けない顔で小さく笑った。

「圏外だし…… 」

 そうなんだ。俺のスマホもとっくに電池切れでどうしようもなくなっている。圏外だし、使えない方が諦めもつくかもしれない。

「うちの母親と同じくらいの歳のおばさんだったなぁ。犬連れてよく、あの辺散歩してたよね。あの犬、ビーグル犬」

「へぇ」

「あのおばさん、ゴ○ゴだよね~」

 突然話に割り込まれて、そちらを向くと、同じクラスの笹神が立っていた。俺と秋月の席の間だ。こんな改まった感じでも自由に動けるとは……。その背後には騎士っぽいのがついてきている。

「背後に立ったからって、吹っ飛ばすかなぁ」

「3発喰らわせたんだって」

 秋月からせしめた情報を流してやると、秋月が自慢げに動画を見せた。スロー再生している。電池切れが近いのに。

「お!  すげー!  よく撮れたな。ホントだ、3発だ」

「ササカミ様」

 背後の騎士が笹神の後ろからスマホの画面を覗き込み、固まった。やっぱ、こっちには無いものだよね。人間がフリーズしたところ、初めて見たかも。

「あ、俺、トイレ行くんだった」

 笹神は思い出したように顔を上げて、騎士を小突いて意識を取り戻させた。 

「すみません、お願いします」

「トイレ、俺も行く」
「僕も」

 2人が立ち上がると、俺たちの後ろにいた騎士達も何やら目配せしてついてくるようだ。喚ばれた11人に1人ずつ付けられている。きっと見張りなんだろう。
 外人だから年齢も判りにくい。若そうだけど、おでこと頭頂部の境目が曖昧……つまり、おでこが広かった。笹神に付いている騎士は頭頂部から攻めてくるタイプで、秋月の……なんてことだ!  見渡すとほぼ、全員!  この国の男の髪の毛は根性がないのか、環境が劣悪なのか、遺伝なのか、寂しいことになっているのに、気がついた。残っている毛髪も、トウモロコシのひげのようだ。こっちにいたら俺もこうなるのかな……。不安になって思わず髪を掻き上げてみる。

 広間の扉を騎士が開けて、廊下に出ると
 薄暗い廊下の向こう側から何やら柔らかな緑色の光が漂ってきていた。

「なに、あれ……」

 笹神が呟くのと、騎士が俺たちを庇うように前に出るよりも早く、全員を包み込んで奥へと流れて行き、広間の扉の前まで行ったところで俺たちに吸い込まれるようにして消えた。

「あれ……?」

 さっきまであった倦怠感のようなものがなくなっている。そして、ズボンのポケットで小さな振動がして、スマホを取り出すと、液晶画面が明るく輝いて、起動を始めていた。

「なんで………?」

 笹神もスマホの画面を確認していたが、同じなのか、驚いた顔で俺の顔を見る。

「……満タンなんだけど、なんで?」

 秋月はどうなのかと、顔を見たが、彼は口をポカンと開けて呆けたように前方少し上を見たまま固まっていた。こんな表情は、やはり見たことがなかったが……。その視線の先を追った俺と笹神も、やはり呆けるしかなかった。

 だってそこには、三竦み状態でお互いを見て、驚愕の表情を浮かべる騎士が、三人とも艶々のロン毛をなびかせていたのだから。











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