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「残酷な、と仰いますと?」
「ええ。こゆみちゃんはもう、向こうに居場所がなくなってしまいますね」
イークレスの瞳に一瞬、歓喜の色が宿ったが、彼の顔を見ていないミユキは気が付かない。気がついていたら殺気をふたつみっつ送っていただろう。
「あっちの世界は……私たちの国の国民性というのかな──はですね、いや、それも関係ないかな? 誰でもそうかもしれませんね。その、近しい人の突然の死は……ご遺体を確かめないと納得できないでしょ?」
腕を組み、考えこむミユキにテントの高校生たちから声がかかった。
「あの、やっぱなんか小さい感じですけど」
「お、半年で育ったんですかね? 成長期? で、どうします?」
「え?」
テントから靴をひっかけて出てきた立花の制服は、肩と腕がぱつぱつで変な皺が寄っているし、ズボンは丈が短いし、太腿もきつそうだった。
「うーん、体をですね、半年分戻すのと、制服を体に合わせるの、どっちがいいかなと思いまして」
「え、それ選択制?」
「制服」
「制服がいい」
「俺も制服を合わせてほしいです」
「体はこのままがいい」
「できたら制服を少し大きめに仕上げてほしい」
「あ、俺もそれでお願いします。あと二年あるし」
「俺も」
テントから次々と返ってくる声に立花が苦笑し、俺も制服を合わせてください、大きめに、と言った。
「合点承知です」
(親御さん達は驚くかもだけど、まぁ、成長期だしね。頑張ってごまかせよ?少年たち……)
ぱん、と手を合わせ、手のひらを上に向けるときらきらと光が舞い、テントと立花を包み込んだ。
「ルルラララ~♪ ジャストフィット~じゃなくてちょうどいいより少し大きめに仕上がりますように~~~~おまけに丈夫で夏は涼しく冬は暖かく春と秋は快適に~~~~汚れにくくて乾きやすく、みんなを護ってくれますようにね~~」
((((((?なんだその呪文?))))))
「「「「「っておおおおおおぉぉぉ?!」」」」」
「なんでこんな……!!?」
首をひねりながらテントから出てきた少年たちは制服を着ていることもあり、学園ドラマの登場人物のようだった。ちょっとマッチョっぽいけど。あとは髪の毛かな。
「ミユキさーん、お願いします」
今度は一人用の着替えテントから怜美の声がしたので行ってみると怜美が顔を赤くしていた。体はテントの中である。
「その、ちょっと胸が……」
招き入れられ、ミユキがテントに頭だけ突っ込むと、育ちすぎた?バストがブラウスのボタンを引きちぎりそうになっている。
「ブラは大丈夫?」
「ばっちりです」
小声のミユキに怜美は小さく頷いた。
「なんか、こっちのブラって覆うだけで……かたちが……」
怜美が見せてくれたそれは、あまりにも貧相なごわごわした布切れでこれを思春期の少女がつけていたなんて気の毒なくらいだ。これはブラジャーではない、しかしこれをもってしてもナイスなバディのこの女子高生は只者ではないのであろう。けしからん。
ブラウスとスカート、ブレザーと靴のサイズを合わせるために、むにゃむにゃと鼻息荒く呪文を唱え終わったミユキに怜美が笑顔で親指を立てた。
「やっぱ21世紀ニッポン、サイコー!! ありがと、ミユキさん」
(まぶしい……現代女子高生恐るべし)
夏光、こゆみと順にサイズを合わせ、テントをしまい込んでいると全員がこれまで着ていた服を並べ置いている。いや、こゆみは自分で持っていたが、イークレスが恭しく受け取ってどこぞにしまっていた。
(勇者と聖女が着ていた服、とか言ったら高く売れるんだろうか……)
ぼんやり見ていると夏光がいい笑顔で聞いてきた。
「これ燃やしてもいいですかぁ?」
「え、いや、世界樹さんの下では「いいですよ、燃やしてください」えええ?!」
ぽん、と音を立てて燃え上がる炎を前に、ミユキの横でいい笑顔で答える世界樹の人である。
「えええ? 結界は? あ、やっぱ世界樹さんには通用しないんですね」
見上げるミユキに世界樹さんは苦虫を嚙み潰したような顔をした後、きれいに微笑んだ。
「いえ、やはり地上からはね、無理でした。けれど私はこの樹の根の張っている場所にはどこへでも行けますので。ああ、あの子も入れてくださいますか?」
「え」
世界樹さんの視線の先にうろうろとしているカケルがいたので結界を解き、かけ直す。結界の中に入ってきたカケルはミユキに大きく手を振ってコウスケとふたばのところに走っていった。
小さく手を振っていた世界樹さんがミユキの顔を覗き込んで、問うた。
「……先ほどのは、あなたの仕業ですね?」
「さっき……あ、ばれましたか? そういえば同じような名前だから無効になるんですかねぇ。魔法の類いではないし、できるかどうか試したかったんですよね……。それに、えーと、ぶっつけ本番というのは苦手なので試運転ってやつです。不快にしてしまったならすみませんでした」
「………いえ、お気になさらず」
「ありがとうございます。さて、こっちもうまくいけばいいんですけどね」
「何をされるのです?」
「う──ん、何と言いますか、禁忌? ダミーを一体とでもいうのでしょうかね……? その前に、説明会です」
やる気がなさそうに、ミユキは元祖勇者たちのもとに歩き出したのだった。
「ええ。こゆみちゃんはもう、向こうに居場所がなくなってしまいますね」
イークレスの瞳に一瞬、歓喜の色が宿ったが、彼の顔を見ていないミユキは気が付かない。気がついていたら殺気をふたつみっつ送っていただろう。
「あっちの世界は……私たちの国の国民性というのかな──はですね、いや、それも関係ないかな? 誰でもそうかもしれませんね。その、近しい人の突然の死は……ご遺体を確かめないと納得できないでしょ?」
腕を組み、考えこむミユキにテントの高校生たちから声がかかった。
「あの、やっぱなんか小さい感じですけど」
「お、半年で育ったんですかね? 成長期? で、どうします?」
「え?」
テントから靴をひっかけて出てきた立花の制服は、肩と腕がぱつぱつで変な皺が寄っているし、ズボンは丈が短いし、太腿もきつそうだった。
「うーん、体をですね、半年分戻すのと、制服を体に合わせるの、どっちがいいかなと思いまして」
「え、それ選択制?」
「制服」
「制服がいい」
「俺も制服を合わせてほしいです」
「体はこのままがいい」
「できたら制服を少し大きめに仕上げてほしい」
「あ、俺もそれでお願いします。あと二年あるし」
「俺も」
テントから次々と返ってくる声に立花が苦笑し、俺も制服を合わせてください、大きめに、と言った。
「合点承知です」
(親御さん達は驚くかもだけど、まぁ、成長期だしね。頑張ってごまかせよ?少年たち……)
ぱん、と手を合わせ、手のひらを上に向けるときらきらと光が舞い、テントと立花を包み込んだ。
「ルルラララ~♪ ジャストフィット~じゃなくてちょうどいいより少し大きめに仕上がりますように~~~~おまけに丈夫で夏は涼しく冬は暖かく春と秋は快適に~~~~汚れにくくて乾きやすく、みんなを護ってくれますようにね~~」
((((((?なんだその呪文?))))))
「「「「「っておおおおおおぉぉぉ?!」」」」」
「なんでこんな……!!?」
首をひねりながらテントから出てきた少年たちは制服を着ていることもあり、学園ドラマの登場人物のようだった。ちょっとマッチョっぽいけど。あとは髪の毛かな。
「ミユキさーん、お願いします」
今度は一人用の着替えテントから怜美の声がしたので行ってみると怜美が顔を赤くしていた。体はテントの中である。
「その、ちょっと胸が……」
招き入れられ、ミユキがテントに頭だけ突っ込むと、育ちすぎた?バストがブラウスのボタンを引きちぎりそうになっている。
「ブラは大丈夫?」
「ばっちりです」
小声のミユキに怜美は小さく頷いた。
「なんか、こっちのブラって覆うだけで……かたちが……」
怜美が見せてくれたそれは、あまりにも貧相なごわごわした布切れでこれを思春期の少女がつけていたなんて気の毒なくらいだ。これはブラジャーではない、しかしこれをもってしてもナイスなバディのこの女子高生は只者ではないのであろう。けしからん。
ブラウスとスカート、ブレザーと靴のサイズを合わせるために、むにゃむにゃと鼻息荒く呪文を唱え終わったミユキに怜美が笑顔で親指を立てた。
「やっぱ21世紀ニッポン、サイコー!! ありがと、ミユキさん」
(まぶしい……現代女子高生恐るべし)
夏光、こゆみと順にサイズを合わせ、テントをしまい込んでいると全員がこれまで着ていた服を並べ置いている。いや、こゆみは自分で持っていたが、イークレスが恭しく受け取ってどこぞにしまっていた。
(勇者と聖女が着ていた服、とか言ったら高く売れるんだろうか……)
ぼんやり見ていると夏光がいい笑顔で聞いてきた。
「これ燃やしてもいいですかぁ?」
「え、いや、世界樹さんの下では「いいですよ、燃やしてください」えええ?!」
ぽん、と音を立てて燃え上がる炎を前に、ミユキの横でいい笑顔で答える世界樹の人である。
「えええ? 結界は? あ、やっぱ世界樹さんには通用しないんですね」
見上げるミユキに世界樹さんは苦虫を嚙み潰したような顔をした後、きれいに微笑んだ。
「いえ、やはり地上からはね、無理でした。けれど私はこの樹の根の張っている場所にはどこへでも行けますので。ああ、あの子も入れてくださいますか?」
「え」
世界樹さんの視線の先にうろうろとしているカケルがいたので結界を解き、かけ直す。結界の中に入ってきたカケルはミユキに大きく手を振ってコウスケとふたばのところに走っていった。
小さく手を振っていた世界樹さんがミユキの顔を覗き込んで、問うた。
「……先ほどのは、あなたの仕業ですね?」
「さっき……あ、ばれましたか? そういえば同じような名前だから無効になるんですかねぇ。魔法の類いではないし、できるかどうか試したかったんですよね……。それに、えーと、ぶっつけ本番というのは苦手なので試運転ってやつです。不快にしてしまったならすみませんでした」
「………いえ、お気になさらず」
「ありがとうございます。さて、こっちもうまくいけばいいんですけどね」
「何をされるのです?」
「う──ん、何と言いますか、禁忌? ダミーを一体とでもいうのでしょうかね……? その前に、説明会です」
やる気がなさそうに、ミユキは元祖勇者たちのもとに歩き出したのだった。
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