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珠希の章
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雨だった。
それも土砂降りだ。傘を差しても意味がないほどの雨は初めてだった。革靴の中はすでにぐしょぐしょで歩くたびに足の指がふやけていくような感触だったし、制服のスカートは重く、絞れば洗面器に半分くらいは 水を溜めることができそうになっていた。
「百合香」
雨音にかき消されて最初、その声は届かなかった。
「百合香!」
ぱしゃぱしゃと水溜まりを避けることなく走りながら、もう一度叫んだ。
ようやく呼ばれた方の少女が振り返った。
「珠希、どしたの?」
珠希は小さく溜息をついた。
「五回、呼んだのに気付いてくれないんだもん」
「この雨じゃ、無理だよ」
「びしょ濡れだね」
長身の珠希は百合香と自分の制服を見下ろして笑った。
「うち、寄ってく? そろそろ止むと思うよ」
百合香は明るく変わってきた空を見ながら言った。
「……」
沈黙の意味を察したのか、百合香は付け加えた。
「弥生は、たぶんいないと思う」
「じゃ、お邪魔させてもらおうかな」
ふん、と百合香は鼻で笑った。
「やな、笑い」
「そ? 前はそこがいいって誉めてくれたじゃん」
「そうだっけ?」
雨の中でふたりは笑った。
それも土砂降りだ。傘を差しても意味がないほどの雨は初めてだった。革靴の中はすでにぐしょぐしょで歩くたびに足の指がふやけていくような感触だったし、制服のスカートは重く、絞れば洗面器に半分くらいは 水を溜めることができそうになっていた。
「百合香」
雨音にかき消されて最初、その声は届かなかった。
「百合香!」
ぱしゃぱしゃと水溜まりを避けることなく走りながら、もう一度叫んだ。
ようやく呼ばれた方の少女が振り返った。
「珠希、どしたの?」
珠希は小さく溜息をついた。
「五回、呼んだのに気付いてくれないんだもん」
「この雨じゃ、無理だよ」
「びしょ濡れだね」
長身の珠希は百合香と自分の制服を見下ろして笑った。
「うち、寄ってく? そろそろ止むと思うよ」
百合香は明るく変わってきた空を見ながら言った。
「……」
沈黙の意味を察したのか、百合香は付け加えた。
「弥生は、たぶんいないと思う」
「じゃ、お邪魔させてもらおうかな」
ふん、と百合香は鼻で笑った。
「やな、笑い」
「そ? 前はそこがいいって誉めてくれたじゃん」
「そうだっけ?」
雨の中でふたりは笑った。
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