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2.セイは今日も元気一杯
同期生たち
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シティヴェアリストレイは欧州大陸の中心となるシティで、シティシャムシールの次に大きな宇宙空港を持っている。ここには大企業アールグレイ社の本社があり、別名シティアールグレイとも言われている。それはこのシティの住民がどこかでアールグレイ社と繋がりを持っているせい。シティの自治権は完全にアールグレイ社に握られている。シティ全体がアールグレイ社と一体となっていると言っても過言ではない。
アールグレイ社は宇宙船のエンジンの製造で有名な会社。現在、宇宙船のエンジンシェアの九十%は、アールグレイ社とその傘下の子会社に占められている。惑星同盟パトロールのパトロール船はもちろん、練習用のシャトル、月-地球間の専用シャトルも全て、アールグレイ社の最新鋭のエンジンが取り付けられている。
シティヴェアリストレイに行く楽しみは、アールグレイ-アミューズメントフィールドにある。シティヴェアリストレイの西の広大な敷地に建てられた地球連邦最大の遊園地だ。企業の利潤還元を目的としているために、入場料は安い。《永遠の子供たち、誰でも気軽に遊びにおいでよぉ!》なんてださいコピーでも、一度訪れたことがある人はその魅力に取りつかれる。
園内は種々のエリアに分かれ、もちろんあたしのお目当てはシュミレーションエリア。子供の頃、ノエルたちとここに遊びに来たことがある。四次元空間に展開される幾つかの設定パターンを自由に組合わせて好きな世界を創り出し、コンピューター相手に戦ったり、冒険したりと自分自身が実体験さながらに遊べるのだ。
ノエルたちは自分たちが宇宙警察官のくせに、いつも宇宙警察官の設定で楽しんでいた。フェリシアとジョアンは参加しなかったけど、あたしは必ずまぜて貰った。
初めてここで遊んだ時のこと。意識に合せて、あたしの手の中にプラズマ銃が現れる。あたしは実物ではないにしても久しぶりに銃の感覚を味わって御機嫌だった。ノエルたちはあたしが銃を扱えるとは思ってなかったらしく、あたしが実体化させた銃を見て狼狽していた。あたしはコンピューターが創り上げる凶悪犯人に向けて、標準を合せた。あたしの銃から出た光線は一直線に犯人の心臓を射抜く。アルフレッドから教わった通りに正確に相手の心臓を狙った。皆、呆然としていた。
このゲームは実際に銃などを扱ったことが無くても、補助装置を使って自分のレベルを上げることが出来る。ノエルたちは当然のようにに補助装置は使わなかった。もちろんあたしも断った。自分の腕に自信があったもの。
「セイは銃が扱えるのか?」
当惑気味にノエルがあたしに尋ねた。あたしは首肯しながら、宇宙船の操縦も簡単に操作できることも話した。皆が驚愕する訳がわからなかった。あたしにしてみればそれが当たり前のこと。それから、ノエルはかがんであたしの肩に両手を置いて、あたしにどんな生活をしてきたのか聞いた。九才の子供だったあたしは悪びれもせずにそれまでの暮しを話した。ノエルは険しい顔つきをしてあたしの話を聞いていた。
ノエルがあたしを自分の両親の家に連れて行くようになったのはそれからだった。その後サラママとシュラパパがいる手作りの牧場があたしの家となり故郷になった。
「セイ、ここだよ」
あたしはシティヴェアリストレイの宇宙空港のパトロール専用ゲートを抜けると、真っ直ぐにトイレに向かった。もちろん、このいまいましい候補生の制服を脱ぐためよ。あたしはいつもの気軽なジーンズ姿になると、バッグの中にグレイの服を詰込んだ。
アレックスたちは一般ゲートのロビーであたしを待っていた。アレックス、フィリップ・ハウアー、クリストファー・ノース、マイケル・メイヤーの四人だ。もう一人アレックスがつるんでいたリチャードはまだ病院にいる。皆、制服から、あたしと似たようなジーンズルックだ。普段、制服で気軽に動いている癖がついていて、私服になっても気軽に動ける服にしてしまう。何か悲哀を感じるなぁ。女の子として終わっていると同室の三人からは言われる。彼女たちは躍起になって、あたしの意識改革をしようと試みるも面倒で課題を手伝わないと強迫してやめてもらった。
「ここにはフィリップの家があるから、そこに荷物を置かせて貰うんだ」
フィリップのお母さんは、温かくあたしたちを迎えてくれた。初対面のあたしが挨拶をすると、
「女の子を連れてきたのは初めてよ」
そう言って笑った。フィリップは照れ臭そうだった。普段は女扱いしないくせに。今日はここに泊めて貰うことになっている。
アールグレイ-アミューズメントフィールドは昔と少しも変わっていない。ここはシュミレーションエリア。あたしは吹き出した。アレックスたちが設定したのも宇宙警察官。まるで、ノエルたちみたい。
「ちょっと、何が悲しくて宇宙警察官が宇宙警察官するわけぇ?」
あたしは言いながら、笑い転げている。皆は情けない顔を見合せていた。
「そんなにおかしいかな?」
アレックスはきまり悪そうに頭をかいた。
「別にいいけど」
「いつもこれで遊んでたんだ」
マイケルも照れ臭そうにしている。
「俺たち、宇宙警察官といっても、まだ候補生だろう。早く、実戦になれたくてさ」
フィリップが言い訳がましくそう言った。皆も照れたように頷いている。ああ、と私もやっと気づいた。あの頃のノエルたちの気持ちに。きっと彼らもそうだったのだと今になってわかった。
「セイはパトロールを経験をしてから入学してきたから、僕たちの気持ちがわからないかもしれないけどね」
「わかるけど、実際とは違うよ。これはあくまでもゲームだもの。普段は単調な生活の繰り返しだよ。毎日、書類の整理に追われて一日が過ぎて行くだけ。危機感なんてありはしない。それでいて、変なところから事件が飛び出してくる。事件が起きたら、のんびりなんてしていられないし、解決させるまでは皆、各惑星を飛び回っているもの」
あたしの言葉を四人は興味津々に聞いている。あたしは少しはにかんだ。大層なこと言えるだけの経験を持っている訳じゃない。
「と言ってもあたしだって、そんなに長くいた訳じゃないよ。あたしに関わる事件の為の一時的処置ってやつ。だから、あたしも学校に放り込まれたんだけどね」
あたしは四人の視線が恥かしくて俯く。あたしは照れ隠しに頭のバンダナを外すとまた巻き直した。よし、あの頃ノエルたちと相手に頑張った腕前を見せてやろうとあたしは気合を入れる。
「早くやろうよ」
あたしは四人を促して、自分の手にプラズマ銃を出した。皆もあわてて銃を出現させる。
「やった。あたしが一番ね」
「ちえっ、また負けだ」
アレックスがくやしそうにあたしを見る。フフフとあたしは黒い微笑みを向ける。ノエルたちの方がどんなにシビアだったことか。大人げなく、子供のあたし相手に真剣に挑んできたのだ。そんな経験をしているあたしがお子様のレベルのアレックス立ちに負けるものか。
「アレックスはまだいい方さ。俺たちなんて完全に負けてるよ」
クリストファーがため息交じりにそう言った。
「セイの射撃の腕前には感心するよ」
フィリップが脱帽したというようなジェスチャーをする。マイケルも「うん、うん」と頷く。
「年季が違うもの」
笑いながら、あたしの胸は少し痛んでいる。こうして、同年代の子と過ごしていると自分が普通に生きてきたんじゃないと思い知らされる。あたしはホームにいた時の違和感を思い出していた。あの時、あたしがホームに馴染めなかったのは、自分と明らかに違う育ち方をしてきた子供たちへの反発心が強かったからだ。
「もう一回行こう」
あたしは陽気に声を出した。四人ともあたしの声にあぁと短い声で反応した。
「今度こそ勝つからな」
「簡単に負けてあげないよぉ」
あたしはアレックスの頭を小突いた。アレックスも負けずにあたしの頭を小突いてくる。ここ最近、こうしてあたしたちは親近感を持つようになった。
「こら、二人で盛り上がるな」
三人も割り込んできてあたしたちは小犬の様にじゃれ合った。あたしは笑い転げる。皆でお腹を抱えて思いっきり笑った。ノエルはあたしにこうした友達を作れと言いたかったのかもしれない。ノエルの士官候補生学校時代の友人は本当に得難い人材が多い。たぶん、ノエルがあたしを学校に放り込んだ本音はあたしがこんな風に同世代の中で年相応になれることなのだ。ノエルはいつもあたしのためになることばかり考える。不器用な奴だとあたしは自嘲する。
「手伝わせてごめんなさいね」
「いいえ、お世話になるのにこの位当たり前です」
あたしはフィリップの母親に慣れない女言葉なんか使っている。あたしは自分から、夕食の手伝いを志願した。キッチンでさっきから忙しく立ち働いている。彼の母親もサラママ並に昔ながらの料理方法で食事を作るのが好みらしい。
フィリップは男二人兄弟の弟で、父親がアールグレイ社の技術者をしている。二才年上の兄リックはヴェアリストレイ大学の工学部に通っていた。
「兄さんは父さんみたいにアールグレイ社の技術者になるつもりだよ」
と、フィリップが紹介の時にそう言った。
「お前が女の子を連れてくるなんて珍しいな。どういう風の吹き回しだ」
「そうだな、フィルは今まで一度も女の子を家に連れてきたこと無かったな」
父親と兄にからかわれて、フィリップは赤くなっている。男たちは居間のソファーでくつろいでいた。
「セイは女の子じゃないんだよ」
抗議するようなフィリップの声。アレックスたちもうんうんと同調している。
「確かにそれは言える」
「男友達みたいなんだよね」
「一緒にいても女の子って気がしないんだよ。することが俺たちと変わらないしな」
言いたい放題言ってくれる。居間に楽しそうな笑い声が響く。
あたしはキッチンで一人不貞腐れる。どうせ、あたしは女じゃないよぉ。あたしは時間を見て、オーブンで焼いていたお肉に鉄串を突き刺して、ひっくり返した。
「皆、言いたいこと言っているわね。あの子たちにはまだ、あなたの魅力がわからないのよ」
フィリップの母親があたしを慰める。あたしはジェニー母様を思い出した。あんなことがなければ、あたしは母様のそばで女の子らしく育っていたはず。女の子のあたしを想像して、あたしの胸は急に息苦しくなる。あたしは思い浮かんだ黒髪の男の顔を意識の下に無理に閉じ込める。あたしには普通に育ってきたフィリップたちが羨ましい。
その日の夜、あたしはフィリップの父親とアールグレイ社のエンジンの改良点について、熱く議論を交わした。それは技術者の卵のリックまで巻き込んで、三人で徹底的に話し合った。パトロール船に乗るようになって、あたしはエンジンに物足りなさを感じている。それを素直に口にしただけなのだが、ついムキになった。これが後でとんでもないことになろうとは、この時のあたしは少しも思わなかったよぉ。
「セイは凄いよ。父さんたちと対等に話しているんだものな」
次の日、フィリップが感心したようにあたしを見る。あたしたちはフィリップの部屋で輪になって雑談していた。
「俺たちにはチンプンカンプンだよ」
「セイ、パトロールよりも技術者になった方が良かったんじゃないか?」
「駄目、駄目、あたしは研究室が嫌なの。あんなところでジッとしていたら、カビが生えそうで嫌よ」
あたしはマクブライドを思い出して身震いをした。何も知らないアレックスがあたしの態度に笑い転げる。
「確かにセイはジッとしている奴じゃないよな」
「言える、言える」
あたしは四人に蹴りを入れた。四人は顔を見合せて、あたしにかかってくる。あたしは飛び退いて、再び四人に次々に蹴りを繰り出す。さすがにアレックスだけは、今度はあたしの蹴りを避けた。アレックスはあたしに足払いをかける。あたしは転んで、笑い出した。四人も笑い転げる。学校ではこんな風にじゃれ合うことが出来ない。あたしたちはここで思いっきり憂さ晴らしをした。
アールグレイ社は宇宙船のエンジンの製造で有名な会社。現在、宇宙船のエンジンシェアの九十%は、アールグレイ社とその傘下の子会社に占められている。惑星同盟パトロールのパトロール船はもちろん、練習用のシャトル、月-地球間の専用シャトルも全て、アールグレイ社の最新鋭のエンジンが取り付けられている。
シティヴェアリストレイに行く楽しみは、アールグレイ-アミューズメントフィールドにある。シティヴェアリストレイの西の広大な敷地に建てられた地球連邦最大の遊園地だ。企業の利潤還元を目的としているために、入場料は安い。《永遠の子供たち、誰でも気軽に遊びにおいでよぉ!》なんてださいコピーでも、一度訪れたことがある人はその魅力に取りつかれる。
園内は種々のエリアに分かれ、もちろんあたしのお目当てはシュミレーションエリア。子供の頃、ノエルたちとここに遊びに来たことがある。四次元空間に展開される幾つかの設定パターンを自由に組合わせて好きな世界を創り出し、コンピューター相手に戦ったり、冒険したりと自分自身が実体験さながらに遊べるのだ。
ノエルたちは自分たちが宇宙警察官のくせに、いつも宇宙警察官の設定で楽しんでいた。フェリシアとジョアンは参加しなかったけど、あたしは必ずまぜて貰った。
初めてここで遊んだ時のこと。意識に合せて、あたしの手の中にプラズマ銃が現れる。あたしは実物ではないにしても久しぶりに銃の感覚を味わって御機嫌だった。ノエルたちはあたしが銃を扱えるとは思ってなかったらしく、あたしが実体化させた銃を見て狼狽していた。あたしはコンピューターが創り上げる凶悪犯人に向けて、標準を合せた。あたしの銃から出た光線は一直線に犯人の心臓を射抜く。アルフレッドから教わった通りに正確に相手の心臓を狙った。皆、呆然としていた。
このゲームは実際に銃などを扱ったことが無くても、補助装置を使って自分のレベルを上げることが出来る。ノエルたちは当然のようにに補助装置は使わなかった。もちろんあたしも断った。自分の腕に自信があったもの。
「セイは銃が扱えるのか?」
当惑気味にノエルがあたしに尋ねた。あたしは首肯しながら、宇宙船の操縦も簡単に操作できることも話した。皆が驚愕する訳がわからなかった。あたしにしてみればそれが当たり前のこと。それから、ノエルはかがんであたしの肩に両手を置いて、あたしにどんな生活をしてきたのか聞いた。九才の子供だったあたしは悪びれもせずにそれまでの暮しを話した。ノエルは険しい顔つきをしてあたしの話を聞いていた。
ノエルがあたしを自分の両親の家に連れて行くようになったのはそれからだった。その後サラママとシュラパパがいる手作りの牧場があたしの家となり故郷になった。
「セイ、ここだよ」
あたしはシティヴェアリストレイの宇宙空港のパトロール専用ゲートを抜けると、真っ直ぐにトイレに向かった。もちろん、このいまいましい候補生の制服を脱ぐためよ。あたしはいつもの気軽なジーンズ姿になると、バッグの中にグレイの服を詰込んだ。
アレックスたちは一般ゲートのロビーであたしを待っていた。アレックス、フィリップ・ハウアー、クリストファー・ノース、マイケル・メイヤーの四人だ。もう一人アレックスがつるんでいたリチャードはまだ病院にいる。皆、制服から、あたしと似たようなジーンズルックだ。普段、制服で気軽に動いている癖がついていて、私服になっても気軽に動ける服にしてしまう。何か悲哀を感じるなぁ。女の子として終わっていると同室の三人からは言われる。彼女たちは躍起になって、あたしの意識改革をしようと試みるも面倒で課題を手伝わないと強迫してやめてもらった。
「ここにはフィリップの家があるから、そこに荷物を置かせて貰うんだ」
フィリップのお母さんは、温かくあたしたちを迎えてくれた。初対面のあたしが挨拶をすると、
「女の子を連れてきたのは初めてよ」
そう言って笑った。フィリップは照れ臭そうだった。普段は女扱いしないくせに。今日はここに泊めて貰うことになっている。
アールグレイ-アミューズメントフィールドは昔と少しも変わっていない。ここはシュミレーションエリア。あたしは吹き出した。アレックスたちが設定したのも宇宙警察官。まるで、ノエルたちみたい。
「ちょっと、何が悲しくて宇宙警察官が宇宙警察官するわけぇ?」
あたしは言いながら、笑い転げている。皆は情けない顔を見合せていた。
「そんなにおかしいかな?」
アレックスはきまり悪そうに頭をかいた。
「別にいいけど」
「いつもこれで遊んでたんだ」
マイケルも照れ臭そうにしている。
「俺たち、宇宙警察官といっても、まだ候補生だろう。早く、実戦になれたくてさ」
フィリップが言い訳がましくそう言った。皆も照れたように頷いている。ああ、と私もやっと気づいた。あの頃のノエルたちの気持ちに。きっと彼らもそうだったのだと今になってわかった。
「セイはパトロールを経験をしてから入学してきたから、僕たちの気持ちがわからないかもしれないけどね」
「わかるけど、実際とは違うよ。これはあくまでもゲームだもの。普段は単調な生活の繰り返しだよ。毎日、書類の整理に追われて一日が過ぎて行くだけ。危機感なんてありはしない。それでいて、変なところから事件が飛び出してくる。事件が起きたら、のんびりなんてしていられないし、解決させるまでは皆、各惑星を飛び回っているもの」
あたしの言葉を四人は興味津々に聞いている。あたしは少しはにかんだ。大層なこと言えるだけの経験を持っている訳じゃない。
「と言ってもあたしだって、そんなに長くいた訳じゃないよ。あたしに関わる事件の為の一時的処置ってやつ。だから、あたしも学校に放り込まれたんだけどね」
あたしは四人の視線が恥かしくて俯く。あたしは照れ隠しに頭のバンダナを外すとまた巻き直した。よし、あの頃ノエルたちと相手に頑張った腕前を見せてやろうとあたしは気合を入れる。
「早くやろうよ」
あたしは四人を促して、自分の手にプラズマ銃を出した。皆もあわてて銃を出現させる。
「やった。あたしが一番ね」
「ちえっ、また負けだ」
アレックスがくやしそうにあたしを見る。フフフとあたしは黒い微笑みを向ける。ノエルたちの方がどんなにシビアだったことか。大人げなく、子供のあたし相手に真剣に挑んできたのだ。そんな経験をしているあたしがお子様のレベルのアレックス立ちに負けるものか。
「アレックスはまだいい方さ。俺たちなんて完全に負けてるよ」
クリストファーがため息交じりにそう言った。
「セイの射撃の腕前には感心するよ」
フィリップが脱帽したというようなジェスチャーをする。マイケルも「うん、うん」と頷く。
「年季が違うもの」
笑いながら、あたしの胸は少し痛んでいる。こうして、同年代の子と過ごしていると自分が普通に生きてきたんじゃないと思い知らされる。あたしはホームにいた時の違和感を思い出していた。あの時、あたしがホームに馴染めなかったのは、自分と明らかに違う育ち方をしてきた子供たちへの反発心が強かったからだ。
「もう一回行こう」
あたしは陽気に声を出した。四人ともあたしの声にあぁと短い声で反応した。
「今度こそ勝つからな」
「簡単に負けてあげないよぉ」
あたしはアレックスの頭を小突いた。アレックスも負けずにあたしの頭を小突いてくる。ここ最近、こうしてあたしたちは親近感を持つようになった。
「こら、二人で盛り上がるな」
三人も割り込んできてあたしたちは小犬の様にじゃれ合った。あたしは笑い転げる。皆でお腹を抱えて思いっきり笑った。ノエルはあたしにこうした友達を作れと言いたかったのかもしれない。ノエルの士官候補生学校時代の友人は本当に得難い人材が多い。たぶん、ノエルがあたしを学校に放り込んだ本音はあたしがこんな風に同世代の中で年相応になれることなのだ。ノエルはいつもあたしのためになることばかり考える。不器用な奴だとあたしは自嘲する。
「手伝わせてごめんなさいね」
「いいえ、お世話になるのにこの位当たり前です」
あたしはフィリップの母親に慣れない女言葉なんか使っている。あたしは自分から、夕食の手伝いを志願した。キッチンでさっきから忙しく立ち働いている。彼の母親もサラママ並に昔ながらの料理方法で食事を作るのが好みらしい。
フィリップは男二人兄弟の弟で、父親がアールグレイ社の技術者をしている。二才年上の兄リックはヴェアリストレイ大学の工学部に通っていた。
「兄さんは父さんみたいにアールグレイ社の技術者になるつもりだよ」
と、フィリップが紹介の時にそう言った。
「お前が女の子を連れてくるなんて珍しいな。どういう風の吹き回しだ」
「そうだな、フィルは今まで一度も女の子を家に連れてきたこと無かったな」
父親と兄にからかわれて、フィリップは赤くなっている。男たちは居間のソファーでくつろいでいた。
「セイは女の子じゃないんだよ」
抗議するようなフィリップの声。アレックスたちもうんうんと同調している。
「確かにそれは言える」
「男友達みたいなんだよね」
「一緒にいても女の子って気がしないんだよ。することが俺たちと変わらないしな」
言いたい放題言ってくれる。居間に楽しそうな笑い声が響く。
あたしはキッチンで一人不貞腐れる。どうせ、あたしは女じゃないよぉ。あたしは時間を見て、オーブンで焼いていたお肉に鉄串を突き刺して、ひっくり返した。
「皆、言いたいこと言っているわね。あの子たちにはまだ、あなたの魅力がわからないのよ」
フィリップの母親があたしを慰める。あたしはジェニー母様を思い出した。あんなことがなければ、あたしは母様のそばで女の子らしく育っていたはず。女の子のあたしを想像して、あたしの胸は急に息苦しくなる。あたしは思い浮かんだ黒髪の男の顔を意識の下に無理に閉じ込める。あたしには普通に育ってきたフィリップたちが羨ましい。
その日の夜、あたしはフィリップの父親とアールグレイ社のエンジンの改良点について、熱く議論を交わした。それは技術者の卵のリックまで巻き込んで、三人で徹底的に話し合った。パトロール船に乗るようになって、あたしはエンジンに物足りなさを感じている。それを素直に口にしただけなのだが、ついムキになった。これが後でとんでもないことになろうとは、この時のあたしは少しも思わなかったよぉ。
「セイは凄いよ。父さんたちと対等に話しているんだものな」
次の日、フィリップが感心したようにあたしを見る。あたしたちはフィリップの部屋で輪になって雑談していた。
「俺たちにはチンプンカンプンだよ」
「セイ、パトロールよりも技術者になった方が良かったんじゃないか?」
「駄目、駄目、あたしは研究室が嫌なの。あんなところでジッとしていたら、カビが生えそうで嫌よ」
あたしはマクブライドを思い出して身震いをした。何も知らないアレックスがあたしの態度に笑い転げる。
「確かにセイはジッとしている奴じゃないよな」
「言える、言える」
あたしは四人に蹴りを入れた。四人は顔を見合せて、あたしにかかってくる。あたしは飛び退いて、再び四人に次々に蹴りを繰り出す。さすがにアレックスだけは、今度はあたしの蹴りを避けた。アレックスはあたしに足払いをかける。あたしは転んで、笑い出した。四人も笑い転げる。学校ではこんな風にじゃれ合うことが出来ない。あたしたちはここで思いっきり憂さ晴らしをした。
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