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人狼さんと追って来た元婚約者たち
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人狼さんが狼バージョンに変身して、ぼくを背に乗せると、皆が手を振ってくれた。ぼくも手を振った。人狼さんが走りだすと、周りは霞みだして何も見えなくなった。人狼さんは半日で千キロの道を走れるはずだ。隊商の馬車で行くよりもずっと時間を短縮できる。
『エリシュオーネ様の北の神殿は、北エリシュオーネの北東端にあります。ここからなら、一週間ほどで着くでしょう』
ウエストエンドを抜ける手前で、人狼さんの長フェーズは休憩を取った。太陽が登ったからだ。人狼さんは太陽の光に弱い。逃れるように近くの風穴に潜り込んで、フェーズは人型バージョンに戻った。といっても、顔は狼のままだ。
ぼくはセレインが持たせてくれた袋から適当に食事を作った。
『エリシュオーネ様に食事を作っていただけるとは、恐れ多いことでございます』
フェーズは畏まっていたが、ぼくは気遣う必要はないと叱った。ぼくは今、人間のモエギでもう、エリシュオーネではないのだ。過去に拘りたくない。それでいて、ぼくは過去から逃げることができずにいる。フェーズが寒く無いように気遣い狼の姿で横たわるそばでぼくも眠った。夜どおし走ってきたので、ぼくは疲れ果てていた。もふもふの毛皮は暖かくて心地よい。ぼくはついついそのもふもふの耳をさわさわして感触を楽しんでしまった。フェーズは何も言わなかった。誇り高い人狼さんの長老なのに、元神のぼくのペット扱いの態度には流石に呆れているだろうと思いながらも、そのもふもふの感触がたまらなくてついつい身体中をなでなでしてしまったぼくは心の底で謝りながらも、楽しんでしまったのだ。美味しいご飯をまた作るから許してほしいとぼくは呟いた。
ぼくが目覚めると、フェーズは既に起きていた。フェーズが鼻をクンクンと鳴らした。
『人間が三人、馬でウエストエンドを通り過ぎていきます………エリシュオーネ様、お会いになりますか?二人はたぶん、今のエリシュオーネ様の血筋に近い方だと思われます。匂がそう教えるのです』
ぼくはピンと来た。タクミくんとタクトくん、それにフェルだ。たぶん、ここで擦れ違っても、あの三人のことだ、ぼくを追って、北の神殿に来る。ぼくが来るなと言っても必ず後を追ってくる。
「会ってくるよ」
ぼくは立ち上がった。
『ではもう少し人数を増やします』
フェーズはフッと風穴の闇の中にかき消えた。外に出たぼくは風を呼んだ。身体がフワンと浮き上がり、次の瞬間、ぼくは三人の前に立っていた。三人の乗っていた馬が怯えたようにいなないた。タクミくんとタクトくんは素早く手綱を握り、馬をいさめた。フェルは怯えた馬にしがみついている。タクトくんが馬が暴れないようにとフェルの馬を無理やり押さえ込んだらしい。
「この馬鹿!勝手に一人で出かけるな!目もろくに見えねえのに、馬鹿モエギ!」
タクミくんが馬から降りて、ぼくを頭ごなしに怒鳴りつけた。いつになく、タクミくんの顔、真剣だ。ぼくはしおらしくシュンとなる。
「心配したんだぞ。おまえに何かあったら、俺は………」
タクミくんはぼくをギュッと抱きしめた。そんなタクミくんの態度にぼくはどうしてよいのかわからなくてあわあわと一人慌ててしまった。
「ダメです。タクミさん、モエギさん協定を破るんですか?」
フェルがぼくの身体を引っ張って、タクミくんとの間に割り込んだ。
「ああ、わりい。俺、つい」
タクミくんが照れたように頭をかき上げた。
「何、そのぼくの協定って?」
二人は顔を見合せて、俯いた。
「婚約解消してフリーになったモエとみんなでグループ交際するって話さ。もちろん抜け駆けなしでね」
タクトくんが三頭の馬を引きながら、近寄ってきた。ぼくの顔、たぶん真っ赤だ。
「な、何よ、その話は。ぼくを抜きにして勝手につくんないでよ」
「ちなみにこれは元婚約者同盟だ。当然、レンダークさんにも守らせるぜ」
タクミくんが語気を強くして付け足した。
「つまり、タクミさんはモエギさんとの婚約解消に不本意なのです。ぼくはまだ、モエギさんの婚約者ですから、別に構わないのですが………」
タクミくんが容赦なくバコンとフェルを叩いた。おい、一応国の王子に対してその態度でいいのかと突っ込みたくなるほどに爽快な叩き方だ。
そうだとぼくは思い出した。理不尽な婚約は取り消されたけど、フェルとの婚約は王家の希望なので、そのままになっている。そこでぼくは重大な事実に気付いた。このままでいくと、ぼくはフェルと結婚しなければならない羽目になる。今までは他に三人も婚約者がいたせいで、別に誰をということもなく平穏無事だった。だが、今のぼくの婚約者はフェル一人で、成年式が過ぎたら、当然興し入れなんて話が出てくるに決まっている。それでなくても、ぼくの婚約者がフェル一人になった事実を知って、アリカがキャンキャンとうるさいのだ。まずい、これは非常にまずい。
「おまえな、自分さえよければ、俺たちはどうでもいいって言うのか?」
「ち、違いますよ。だから、モエギさん協定にきちんと参加しています。えっと、一つ、モエギさんと絶対に二人でデートしないこと、一つ、一人でモエギさんにむやみに近付かないこと、一つ、レンダークさんと絶対に二人にしないことでしたよね」
「何よ、その最後は!」
ぼくは目を三白眼につり上げた。フェルがビクンと身体を縮こませた。
「すみません!モエギさん、怒らないで下さい。ぼく、ぼく、やっぱり、レンダークさんにモエギさんを取られたくないんです。だから、タクトさんに全部話したんです。そしたら、タクミさんにも話が伝わってしまって、それで………」
ぼくはどうしようもなく頭が痛くなって、その場に頭を抱えてペタンと座り込んだ。また厄介なことになっている。
『エリシュオーネ様、我々の準備は整っております』
ぼくは上を見上げた。崖の上に人狼さんが四匹立っていた。夕日が沈みかけているので、辺りは赤く染まっている。
「じゃ、ぼくがエリシュオーネだと知ってるんだ」
「あ、ああ」
タクミくんがポリポリと頭をかいた。タクトくんも申し訳なさそうな顔をしていた。
「ぼくはこれから、北の神殿に行く。もう一人のぼくと決着をつけるんだ。ぼくはアザレイを暗黒神として復活させたくない。アザレイにまたエルシュラン兄様を殺させたくない。モエギを失った悲しみは、エルシュラン兄様を何度殺したって消えやしない。それよりも悲しみが増すばかりだ。自分がみじめになるだけだ」
ぼくはやるせない怒りで地面を拳で殴りつけた。レンダークさんは北の神殿でアザレイを待っているはず。アザレイに殺されるためにだ。そんなことはエリシュオーネの救いにはならないのだ。
「モエギさん、ぼくももう一人のエリシュオーネ様に会うべきだと思うんです。ぼく、何もできませんが、エリシュオーネ様にぼくがモエギだった頃の思いを伝えたいのです。ぼくはエリシュオーネ様に愛されただけで幸せでした。エリシュオーネ大陸がいつまでも幸福であれば、それでよかったのです」
「うん」
ぼくはパタパタと土埃を払いながら立ち上がった。そうだ、フェルがいればアザレイもきっと思い留まってくれる。それは甘い考えだったがこの時は期待したのだ。
「人狼さんたちが、北の神殿まで運んでくれるんだ」
ぼくの声にスッと人狼さんたちが現れた。三人はビクンと後ずさった。
「大丈夫だよ」
ぼくは昨日のことを話した。急いで、北の神殿に行かなければならなくなった事実も話した。アザレイがレンダークさんを殺した後ではもう遅いのだ。アザレイは、また狂気に支配され、暗黒神が復活することになる。人狼さんたちは狼バージョンに姿を変えた。またぼくはもふもふとうれしくてフェーズの耳を遠慮なく触らせてもらった。
「おい、馬はどうする?」
タクトくんが掴んでいる馬の手綱を困ったように振った。
『仲間に昨日の隊商たちの元へ届けさせましょう』
フェーズがスッと消えると、馬も姿を消した。タクトくん一人が残されて、ギョッと立ち竦んでいる。
「人狼さんがエチゴヤさんに馬を預けに行ってくれた」
ぼくが説明すると、タクトくんは髪をかき上げながら、
「どうも、俺、馴染めねえな」
ボソッと呟いた。
ぼくたちは人狼さんの背に乗って、一路北の神殿を目指した。
タクミくんとタクトくんは、人狼さんの背にうまく馴染んでいる。フェルだけは一人でギャアギャアと喚き散らしていた。ぼくはフェルを乗せた人狼さんに憐憫の情を寄せている。合掌!
人狼さんたちは、夜走って昼間は休むので、ぼくたちも夜行性になっている。うっく、このまま、夜遊び好きのいけない子になりそうで恐い。意外とノブユキさんとルイさんは自分たちのハチャメチャさは棚に上げて、ぼくには厳しい。ぼく、普通の生活に戻れるのかな?人狼さんの背で真剣に考えている。それでももふもふは辞められない。
『ここが北の神殿です』
フェーズはぼくたちを背から降ろした。目の前に岩に閉ざされた洞窟がある。北の神殿は暗黒神エリシュオーネがここに封印したのだ。モエギが死んだ場所を二度と目にしたくなかったからだ。
「どうもありがとう。ここまででいいよ。あとはぼくたちだけで行くから。きみたちが幸福に暮らせるように絶対にしてみせる」
『エリシュオーネ様、どうぞ、ご無事で』
フェーズと他の人狼さんたちは、ペコンとお辞儀をするとスッと消えた。ぼくはしばらく人狼さんたちが消えた方向を見つめた。もうあの素晴らい毛皮をもふもふができないのが寂しい。
「おい、ここどうやって入るんだ?」
タクトくんと岩に閉ざされた洞窟入口の周囲を調べ回っていたタクミくんが、お手上げというように怒鳴った。
「うん、こっちにお父さんたちが昔に開けた穴がある」
ぼくは右側に回った。洞窟の周りにバラバラと生えた雑草に隠された入口。十五年ほど前にルイさんが派手に穴を開けた跡だ。ぼくは穴の周囲を調べた。滑った跡があり、雑草が薙ぎ倒されている。確かにレンダークさんはここにいる。ぼくは慎重に中に入り込んだ。後から、タクミくん、フェル、タクトくんの順でついてきた。
『エリシュオーネ様の北の神殿は、北エリシュオーネの北東端にあります。ここからなら、一週間ほどで着くでしょう』
ウエストエンドを抜ける手前で、人狼さんの長フェーズは休憩を取った。太陽が登ったからだ。人狼さんは太陽の光に弱い。逃れるように近くの風穴に潜り込んで、フェーズは人型バージョンに戻った。といっても、顔は狼のままだ。
ぼくはセレインが持たせてくれた袋から適当に食事を作った。
『エリシュオーネ様に食事を作っていただけるとは、恐れ多いことでございます』
フェーズは畏まっていたが、ぼくは気遣う必要はないと叱った。ぼくは今、人間のモエギでもう、エリシュオーネではないのだ。過去に拘りたくない。それでいて、ぼくは過去から逃げることができずにいる。フェーズが寒く無いように気遣い狼の姿で横たわるそばでぼくも眠った。夜どおし走ってきたので、ぼくは疲れ果てていた。もふもふの毛皮は暖かくて心地よい。ぼくはついついそのもふもふの耳をさわさわして感触を楽しんでしまった。フェーズは何も言わなかった。誇り高い人狼さんの長老なのに、元神のぼくのペット扱いの態度には流石に呆れているだろうと思いながらも、そのもふもふの感触がたまらなくてついつい身体中をなでなでしてしまったぼくは心の底で謝りながらも、楽しんでしまったのだ。美味しいご飯をまた作るから許してほしいとぼくは呟いた。
ぼくが目覚めると、フェーズは既に起きていた。フェーズが鼻をクンクンと鳴らした。
『人間が三人、馬でウエストエンドを通り過ぎていきます………エリシュオーネ様、お会いになりますか?二人はたぶん、今のエリシュオーネ様の血筋に近い方だと思われます。匂がそう教えるのです』
ぼくはピンと来た。タクミくんとタクトくん、それにフェルだ。たぶん、ここで擦れ違っても、あの三人のことだ、ぼくを追って、北の神殿に来る。ぼくが来るなと言っても必ず後を追ってくる。
「会ってくるよ」
ぼくは立ち上がった。
『ではもう少し人数を増やします』
フェーズはフッと風穴の闇の中にかき消えた。外に出たぼくは風を呼んだ。身体がフワンと浮き上がり、次の瞬間、ぼくは三人の前に立っていた。三人の乗っていた馬が怯えたようにいなないた。タクミくんとタクトくんは素早く手綱を握り、馬をいさめた。フェルは怯えた馬にしがみついている。タクトくんが馬が暴れないようにとフェルの馬を無理やり押さえ込んだらしい。
「この馬鹿!勝手に一人で出かけるな!目もろくに見えねえのに、馬鹿モエギ!」
タクミくんが馬から降りて、ぼくを頭ごなしに怒鳴りつけた。いつになく、タクミくんの顔、真剣だ。ぼくはしおらしくシュンとなる。
「心配したんだぞ。おまえに何かあったら、俺は………」
タクミくんはぼくをギュッと抱きしめた。そんなタクミくんの態度にぼくはどうしてよいのかわからなくてあわあわと一人慌ててしまった。
「ダメです。タクミさん、モエギさん協定を破るんですか?」
フェルがぼくの身体を引っ張って、タクミくんとの間に割り込んだ。
「ああ、わりい。俺、つい」
タクミくんが照れたように頭をかき上げた。
「何、そのぼくの協定って?」
二人は顔を見合せて、俯いた。
「婚約解消してフリーになったモエとみんなでグループ交際するって話さ。もちろん抜け駆けなしでね」
タクトくんが三頭の馬を引きながら、近寄ってきた。ぼくの顔、たぶん真っ赤だ。
「な、何よ、その話は。ぼくを抜きにして勝手につくんないでよ」
「ちなみにこれは元婚約者同盟だ。当然、レンダークさんにも守らせるぜ」
タクミくんが語気を強くして付け足した。
「つまり、タクミさんはモエギさんとの婚約解消に不本意なのです。ぼくはまだ、モエギさんの婚約者ですから、別に構わないのですが………」
タクミくんが容赦なくバコンとフェルを叩いた。おい、一応国の王子に対してその態度でいいのかと突っ込みたくなるほどに爽快な叩き方だ。
そうだとぼくは思い出した。理不尽な婚約は取り消されたけど、フェルとの婚約は王家の希望なので、そのままになっている。そこでぼくは重大な事実に気付いた。このままでいくと、ぼくはフェルと結婚しなければならない羽目になる。今までは他に三人も婚約者がいたせいで、別に誰をということもなく平穏無事だった。だが、今のぼくの婚約者はフェル一人で、成年式が過ぎたら、当然興し入れなんて話が出てくるに決まっている。それでなくても、ぼくの婚約者がフェル一人になった事実を知って、アリカがキャンキャンとうるさいのだ。まずい、これは非常にまずい。
「おまえな、自分さえよければ、俺たちはどうでもいいって言うのか?」
「ち、違いますよ。だから、モエギさん協定にきちんと参加しています。えっと、一つ、モエギさんと絶対に二人でデートしないこと、一つ、一人でモエギさんにむやみに近付かないこと、一つ、レンダークさんと絶対に二人にしないことでしたよね」
「何よ、その最後は!」
ぼくは目を三白眼につり上げた。フェルがビクンと身体を縮こませた。
「すみません!モエギさん、怒らないで下さい。ぼく、ぼく、やっぱり、レンダークさんにモエギさんを取られたくないんです。だから、タクトさんに全部話したんです。そしたら、タクミさんにも話が伝わってしまって、それで………」
ぼくはどうしようもなく頭が痛くなって、その場に頭を抱えてペタンと座り込んだ。また厄介なことになっている。
『エリシュオーネ様、我々の準備は整っております』
ぼくは上を見上げた。崖の上に人狼さんが四匹立っていた。夕日が沈みかけているので、辺りは赤く染まっている。
「じゃ、ぼくがエリシュオーネだと知ってるんだ」
「あ、ああ」
タクミくんがポリポリと頭をかいた。タクトくんも申し訳なさそうな顔をしていた。
「ぼくはこれから、北の神殿に行く。もう一人のぼくと決着をつけるんだ。ぼくはアザレイを暗黒神として復活させたくない。アザレイにまたエルシュラン兄様を殺させたくない。モエギを失った悲しみは、エルシュラン兄様を何度殺したって消えやしない。それよりも悲しみが増すばかりだ。自分がみじめになるだけだ」
ぼくはやるせない怒りで地面を拳で殴りつけた。レンダークさんは北の神殿でアザレイを待っているはず。アザレイに殺されるためにだ。そんなことはエリシュオーネの救いにはならないのだ。
「モエギさん、ぼくももう一人のエリシュオーネ様に会うべきだと思うんです。ぼく、何もできませんが、エリシュオーネ様にぼくがモエギだった頃の思いを伝えたいのです。ぼくはエリシュオーネ様に愛されただけで幸せでした。エリシュオーネ大陸がいつまでも幸福であれば、それでよかったのです」
「うん」
ぼくはパタパタと土埃を払いながら立ち上がった。そうだ、フェルがいればアザレイもきっと思い留まってくれる。それは甘い考えだったがこの時は期待したのだ。
「人狼さんたちが、北の神殿まで運んでくれるんだ」
ぼくの声にスッと人狼さんたちが現れた。三人はビクンと後ずさった。
「大丈夫だよ」
ぼくは昨日のことを話した。急いで、北の神殿に行かなければならなくなった事実も話した。アザレイがレンダークさんを殺した後ではもう遅いのだ。アザレイは、また狂気に支配され、暗黒神が復活することになる。人狼さんたちは狼バージョンに姿を変えた。またぼくはもふもふとうれしくてフェーズの耳を遠慮なく触らせてもらった。
「おい、馬はどうする?」
タクトくんが掴んでいる馬の手綱を困ったように振った。
『仲間に昨日の隊商たちの元へ届けさせましょう』
フェーズがスッと消えると、馬も姿を消した。タクトくん一人が残されて、ギョッと立ち竦んでいる。
「人狼さんがエチゴヤさんに馬を預けに行ってくれた」
ぼくが説明すると、タクトくんは髪をかき上げながら、
「どうも、俺、馴染めねえな」
ボソッと呟いた。
ぼくたちは人狼さんの背に乗って、一路北の神殿を目指した。
タクミくんとタクトくんは、人狼さんの背にうまく馴染んでいる。フェルだけは一人でギャアギャアと喚き散らしていた。ぼくはフェルを乗せた人狼さんに憐憫の情を寄せている。合掌!
人狼さんたちは、夜走って昼間は休むので、ぼくたちも夜行性になっている。うっく、このまま、夜遊び好きのいけない子になりそうで恐い。意外とノブユキさんとルイさんは自分たちのハチャメチャさは棚に上げて、ぼくには厳しい。ぼく、普通の生活に戻れるのかな?人狼さんの背で真剣に考えている。それでももふもふは辞められない。
『ここが北の神殿です』
フェーズはぼくたちを背から降ろした。目の前に岩に閉ざされた洞窟がある。北の神殿は暗黒神エリシュオーネがここに封印したのだ。モエギが死んだ場所を二度と目にしたくなかったからだ。
「どうもありがとう。ここまででいいよ。あとはぼくたちだけで行くから。きみたちが幸福に暮らせるように絶対にしてみせる」
『エリシュオーネ様、どうぞ、ご無事で』
フェーズと他の人狼さんたちは、ペコンとお辞儀をするとスッと消えた。ぼくはしばらく人狼さんたちが消えた方向を見つめた。もうあの素晴らい毛皮をもふもふができないのが寂しい。
「おい、ここどうやって入るんだ?」
タクトくんと岩に閉ざされた洞窟入口の周囲を調べ回っていたタクミくんが、お手上げというように怒鳴った。
「うん、こっちにお父さんたちが昔に開けた穴がある」
ぼくは右側に回った。洞窟の周りにバラバラと生えた雑草に隠された入口。十五年ほど前にルイさんが派手に穴を開けた跡だ。ぼくは穴の周囲を調べた。滑った跡があり、雑草が薙ぎ倒されている。確かにレンダークさんはここにいる。ぼくは慎重に中に入り込んだ。後から、タクミくん、フェル、タクトくんの順でついてきた。
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