当たり前の幸せを

紅蓮の焔

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二章 無意味の象徴

51話 『罪罰』

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 白と黒の空間、ここ最近、ずっと見る。
 何が原因でこれを見るのか分からないけれど、なんだかリゼちゃんに会う度、少し嬉しかったり悲しかったりする。

「いっぱい、怖いね」

 うん。

「あのオジサンとか、あと六日後の……アレとか……」

 うん。

「聞いてる?」

 うん。

「レイって今、どんな気持ち?」

 うん。

「怖い?」

 うん。

「聞いてない?」

 う……ん? 聞いてる。聞いてるよ。でも普通は、聞いてる? って聞くと思うんだけど……。

「ちゃんと返してくれないから」

 分かった。

「それじゃもう一回聞くよ? レイは怖い?」

 ……怖い……のかな? よく分からない。その事を考えると頭がボーッとなって、気が付いたら何がなんだか分からなくなってる。みたいな。

「私は怖いよ。死んじゃうかもしれないし……」

 ……そっか。

「死んじゃうの……イヤだし……」

 うん……。

「レイは、怖くないの?」

 僕は……どうなんだろう。死ぬのが怖い……って聞かれたら、分からない。だけど、まだ、死にたくはない……かな……?

「じゃあ、頑張ろうね」

 うん。頑張る。ミズキさんに見せても、恥ずかしくないようにしたいから。

 ……ああ、白くなっていた。
 気付かなかった。目が、覚める。

「……朝」

 空気がヒンヤリと冷たく張り詰めている。
 少し、憂鬱。
 着替えて、部屋を出て、レイカちゃんを起こしてから一階に下りる。リビングまで行くとネネさんが待っていてテーブルの上に今日の朝食が並べられていた。

「おはよう、レイくん」
「おはようございます。ネネさん」
「レイカちゃんはどう?」
「少し眠たいらしいですけど起きて今着替えている途中だと思います」
「それじゃあ先に食べちゃいましょ」
「はい」

 ご飯は美味しい。だけど……味気ない。甘くてふっくらした白ごはんは美味しいのに、何か味気ない。
 ずっとだ。
 レイカちゃんが来た。少しだけリビングが明るくなった気がしたけれど、あまり、変わらなかった。
 学校。学校に行っても相変わらず独り。たまに杉浦さんに声をかけられる。
 そして──、

「っ……!」
「あ、わり。ぶつかっちまった」

 そう謝ってどこかへ行ったのは大西くん。ミズキさんの事が、とても大好きで有名な人だった。一度だけ、僕に手を出した所を先生に見つかって怒られてから先生に見つからない、もしくは見つかっても大丈夫な程度の事しかして来なくなった。

「大丈夫だよ」

 笑って見せても怒らせるだけだから、少し悔しそうな顔をすれば良い。それで少しでも前のように戻れれば……それで。
 学校が終わってもまだある。
 変わったのは「おにいちゃん」アイカちゃんが正門の前で待っていること。

「待っててくれたんだ」
「うんっ。おにいちゃんと会えるの、楽しみだから……!」
「ありがとう」

 そっと微笑んであげる。「行こっか」歩き出すアイカちゃんの隣を足取りを合わせてゆっくり歩く。

「おにいちゃんの……その……好きな人……どんな人だったんですか……?」

 話したような気もする。だけど、ここでそう言っても意味は無い気がする。「ミズキさんはね、独りだった僕に話しかけてきてくれた優しい人なんだよ。イジメられっ子って言うのかな。僕。そんな僕に優しく声をかけてくれて、勇気をくれた。凄く優しい人なんだよ。ミズキさんは」
「私も、いつか、そうなりたい……です」
「……成れると良いね」
「っ……! はいっ!」

 アイカちゃんはとても嬉しそうに頷いて、僕も微笑み返した。
 それだけ……。それだけだけど。他に何かしてあげられるわけじゃないから……。
 ……そんな風に話しているとアソコに着いた。

「おにいちゃん、また、一緒に……」
「うん良いよ。帰ろう。また」
「ありがとう……! またね、おにいちゃん……!」

 手を振って別れる。初めて出逢った時よりも明るくて少しホッとしている。
 でも、僕がホッとしても何も変わらない。変えないといけないのは僕なんだ。
 アイカちゃんの為に、やるんだ。
 強くならないといけない。皆を守って、今を変える為に。
 それで少しでも良い方向に向かえば良い。悪い方向には、向かないようにする。
 僕にできる事と言ったら、それくらいしかない。
 ……視られた。きっと、あの人だ。名前は聞いていないけれど、きっとあの人だ。いや、聞いてた。思い出した。『こーいち』くんだ。

「よっ、レイ」
 ほら。「どうしたの?」
「いやぁ……マズったマズった」そう言うコーイチくんの顔には渇いた笑みが張り付いている。
「……何が、マズったの……?」
「知りたいか……? とか言っても話すんだけどな。まあな? 明日にでもお前誘って顔合わせ的な? アレしようとしてたわけだ。まあ七人? そんくらい居たしな? そん中で一人抜けたわけだ。つまり、六人? に減ったんだよ」
「そうなの……?」
「これがけっこう痛手でさぁ、まあ、お前と話した事あるの俺と是枝くらいだろ? だからこう教えに来たわけ。わかる? 伝言ゲーム的な。分からなくても言うけどな。とにかく、お前とは一応先に顔合わせしとけって話。オーケー? オーケーだな?
よし。行くぞ」
「え……? 今から……?」
「そうだけど?」
「あっ、だ、だったら、先ず、その……」
「なんだよ。顔合わせよりも必要な事なんだろうなぁ? ンんんー?」
「ネネさんに、連絡を……」
「んなもんあとで良いんだよあとで。じゃあ行くぞー」
「え……いや……」
「じゃあもうとっとと連絡しろ!」

 きっとコーイチくんは優しいんだと思う。携帯は……あった。家の電話番号を選んで……繋がった。

「もしもし?」
「えっと……ネネさん、ですか?」
「あ、レイくん。どうしたのー?」
「少し友達とお出かけするので帰りが遅くなります」
「暗くなる前には戻ってきてちょうだいね」
「はい。分かりました」
「……終わったか?」
「うん」携帯をカバンに直して「終わったよ」
「よっし」と歩き出す「特にお前は弱いからなぁ……オレも人の事言えねーけどお前ほどじゃねーし? なんなら鍛えてやる。てか決定な。ま、このオレが鍛えてやるんだからきっとサイキョーになれるぞ。サイキョーに。まあそんな凡庸な能力じゃオレには勝てねーがな! ワハハハハハ!」
「は、ははは……」
「っとまあ、そんなこんなで着いたな。待ち合わせの場所。オレらの拠点的なアレだ。まあリーダーの家? だがな!」
「思ったけれど、なんで顔合わせなんだろう」
「そりゃ……あれだろ。敵になったとしても顔は覚えとけ的な」
「そ、そうなんだ……」
「ほら、着いたぞ」

 案外、普通の家だった。もっとこう……怖いと言うか、すごいと言うか……そんな感じのものをイメージしていたんだけど……違った。マンションだし。

「ほら、行くぞー」
「ま、待って……!」
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