当たり前の幸せを

紅蓮の焔

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一章 泡沫の夢に

46話 『最期』

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 ファミリーレストランを出てまたお墓へ向かって歩いて行く。
 少し、気が引けた。
 こんな僕がミズキさんと会ってもいいのかな。と思ったりもする。
 歩くごとに緊張してくる。
 ……前を歩いていたネネさんが立ち止まった。

「ケーキ、買って行かない? ミッちゃんに」
「そーしよー! レイくんもそれで良いよね!」
「う、うん。良いよ」

 思えば、ミズキさんの好みなんて全く知らなかった。
 付き合って、一ヶ月も経っていなかったのに。まだ、これからだったのに……。

「ミッちゃんが好きだったケーキ……あっ、あったあった!」

 ミズキさんが好きだったケーキ……。えっと……モンブラン……。
 栗、なのかな……。くり。ミズキさんが好きだった味。

「すみません。僕にも一つ、下さい」

 値段は四百円。大丈夫。
 それを貰って、一口食べる。
 甘くて、口の中で溶けていく。
 上に乗っていたのはやっぱり栗だった。
 ネネさんが買ったケーキはレイカちゃんが左手に持っている。
 ……食べ終わった。ミズキさんが好きだった味。
 この味を、一生忘れる事は出来ないと思う。
 ミズキさん……。
 信号で止まった。
 墓地はもうすぐそこに見えてきた。
 とても緊張して、拳を作ろうとしたら、何かを掴んでいた。

「レイくん……? 手……」
「あっ……ごめんなさいっ……!」

 気付かないうちにレイカちゃんの手を掴んでいたみたいだった。みたいと言うより、掴んでいた。
 気付かなかった。本当に。
 信号が青になって、ネネさんを先頭に二人並んでついて行く。
 凄く、緊張している。安心できない。不安で、不安で、とてもじゃないけれど……いや、とてもかもしれないけれど……よく分からないけれど……! 何か、とても、怖い……。
 墓地の雰囲気じゃなくて、僕のせいでミズキさんが……泣いちゃダメだ……。がまん……っ。
 ……でも、やっぱり、怒られそうで……とても怖い……。

「遂に、着いたね……」

 墓地に入る所で立ち止まった。
 行きたいけど、行きたくなくて……よく分からなくなってきた。

「レイくん、大丈夫……?」

 心臓がドクドクと音を立てて、呼吸が速くなってくる。
 胸が、苦しい……。キュッと締まるような、そんな感じがする。

「大丈夫……だと思う」
「手、繋ごう?」
「……うん。……ありがとう、レイカちゃん」

 それでも、やっぱり少しは怖い。
 だけど、レイカちゃんの手は温かくて、少しだけ安心した。

「ミッちゃんのお墓は……奥の方にあるみたい」

 奥……。ネネさんがちらりと僕の方を見た。

「大丈夫……?」
「……? はい。大丈夫だと思います」
「それなら、良いんだけど……」

 奥の方にミズキさんが……。
 この墓地はけっこう広い。
 一番奥がなんとか見える程度の広さで、ミズキさんはその辺りに居るらしい。

「ぅァァ……緊張してきたぁぁ……」
「だ、大丈夫。大丈夫だよ、きっと」
「ミッちゃんに凄い怒られる気がするんだよなぁ……。だって、レイくんとケンカしちゃったし……。仲直り出来たけど……その……やっぱり緊張する……」
「レイカちゃん」
「ん? 何? レイくん」
「ミズキさんは許してくれるよ。きっと」
「そ、そだよね! 仲直りもしたしお土産も持って来たし!」

 他愛無い会話をしながらネネさんについて行った。
 一歩あるくごとに震えそうになる。だけど、なんとか耐えれている。
 誰かが横切って行った。……えっ?
 振り返って見る。その人の後ろ姿が、どこか見覚えのある気がして、でも、やめた。

「レイくん?」
「なんでもないよ」

 ふと、ネネさんが足を止めた。
 ここが──、

「ここに、ミッちゃんが居るわ」

 ここにミズキさんが……。
 線香が立てられている。
 まだ長くて、煙も上がっている。
 ……さっきの人が、立てたのかな。
 それじゃあ、さっきの人が、ミズキさんのお父さん……だったりするのかな……。

「ミッちゃん……」

 するっと僕の手からレイカちゃんの手が離れて「ミッちゃん……」両手にその箱を持った。

「私、ね。その……レイくんと、ケンカしちゃって……あ、でも今は仲良しだよ? ……その、ミッちゃんが生きてたら、怒られちゃってたかな……? やっぱり……。……だけど、ミッちゃんは、もう……怒れないんだよね……」ゆっくりと墓に近付いて「はい。お誕生日プレゼント。誕生日は、まだ先だけど……私、バカだから。もう、忘れたくないから……」

 胸が締まって、泣いていた。声は出なかった。ただ……涙が流れた……。ネネさんは分からないけど……たぶん、泣いていると思う……。ああ……空は、蒼い。
 ミズキさん……。見ていますか……? あなたの事は、きっと誰も忘れません。
 あなたと過ごした短い日々を、僕は忘れる事なんて出来ません。
 ありがとう……。また、会えると嬉しいです……。





[作者からのコメント]
 これで一章が終わりました。
 一人称は初めてで三人称も混ざってますが……まあ、そこは……見逃していただけると幸いです。
 二章までは間が開くかと思いますがお待ちいただければ幸いです。
 それではまたお会いできる事をお祈りしています。
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