当たり前の幸せを

紅蓮の焔

文字の大きさ
上 下
38 / 263
一章 泡沫の夢に

34話 『後悔』

しおりを挟む

「いってらっしゃい」
「行ってきます」と微笑んで振り返りながら靴を履いて、ドアを開ける
「レイくん、学校終わったらバス乗り場でね……?」
「はい。分かりました」

 火葬場までは少し距離があるらしい。と言ってもバスで十五分の距離だ。
 だから、バスで行く。
 そこから少し歩いてすぐ、火葬場が見えてくるらしい。
 二度目、だったと思う。けど、思い出せない。孤児院に入ってすぐ、院長さんが言っていた。『辛かったね、でも、もう大丈夫だからね、あそこに行くのは、最期だけで良いんだよ』と。あそこがどこか聞いた。そうしたら、院長さんは『火葬場』とだけ答えた。これが、一番古い記憶でそれより前の記憶は無い。
 考えたりしてみたけど、分からなくて、その時は考えるのをやめてしまった。
 あの時はあまり何も思ってなかった。
 だけど、今考えてみたら、おかしい、よね……?
 だって……一切憶えてないって、おかしい、多分。きっと、いや……絶対に。
 ダメだ。
 やめよう。
 早く学校に行かないと。
 僕は、駆け足になった。なんでかって聞かれると、よく分からない。だけど、教室に着いた時、また、嫌な視線が突き刺さった。
 怖がる眼、怒りの眼、疑いの眼、訝る眼、嫌悪の眼、眼眼眼。『め』が、僕をずっと観ている。
 怖いを通り越して、気持ち悪い。
 すぐに席について腕に顔を埋めた。
 とても静かで、とても気持ち悪くて……、嫌になっていた。
 なりそうではなく、なっている。既に。ミズキさんが殺されて、僕が疑われるのは、少し分からないでもない。だって、あの場に居たのは死んでしまったミズキさんと、倒れている僕と、多分、死んでいるあの子だけだったから。
 そうすると消去法で僕が殺したと疑われても文句は言えない。
 何も知らない人からすれば、それが真実だから。目に見えるそれが、その人達からしたら、真実だから。
 今日は国語と理科。大丈夫。出来る。
 一日だけだったけど、勉強したから。
 ミズキさんと。
 だから、大丈夫。
 先生が来た。
 朝の挨拶が終わって、少ししてから一時間目が始まる。
 …………………………始まった。
 初めの方は漢字を書いて……次は文法。ここがとても苦手で、よく分からない。五段活用って何? なんだろ。……飛ばそう。次は──、文章問題……、それに、古文……。これは、少しだけ苦手。なんとなくは分かるけど、ちゃんとは分かってない。うーん……、分からない所は後で。…………今度は、文章問題……。えーと、『三年生になって何が出来るようになったか、百二十~百四十字以内で書け。また、二段落構成で書くこと。一段落目で何が出来るようになったか、二段落目でどうやってそれが出来るようになったのかをそれぞれ書きなさい』…………別の問題を先にしよう。
 まだ、時間はあるから、大丈夫。だと思う。考えれば解けるかもしれない。
 頑張ろう。出来るだけ────……………………。

「テストを集めましょー」

 終わってしまった。
 全部は埋める事が出来た。……作文以外。
 次は理科。頑張ろう。出来るかは分からないけど……。

 この休み時間に出来るだけ勉強を「剣崎」
 ……せん、せい……? 担任で、数学の先生。名前は……小森先生……だったと、思う。

「ちょっと来い」

 呼び出されて、廊下に出た。
 ……どんな用だろう。
 あまり、辛くない話が良い。

「剣崎、最近嫌な事が立て続けに起こっているからって暴力はよくないぞ」
「ぇ……?」
「最近ずっと、剣崎に嫌がらせを受けていると何人からも職員室に報告が来ている。名前は言わないぞ」

 待って……。ぇ……? 僕は、何もしてない……。なんで、なんで……?

「次、何かしたら保護者の人と話さないといけない。受験生なんだから、それは嫌だろ?」

 何も、してないのに……、でも、ここで、してないって言ったら、きっと……怒られる。

「分かり、ました……」
「分かればいい。次は理科だからな。頑張って勉強しておけ」

 そんな……、僕は、何もしてない。してないって……。
 席に戻ると、「あ。あっぶねー」そう聞こえて声のした方を振り向いた。
 ……ぇ? 今、視界の端に……──っ……!

「ぃっ──!」

 あ、あぶ、ない……。目尻を、何か、刃物が掠っていった。…………カッターだった。カッターが、後ろの方に転がっている。

「うっわ。きったねー」

 カッターを持ってる人、だと思う。その人がカッターを拾って気持ち悪そうにしていた。

「おーい、そろそろ次のテスト始まるぞー」
「おー。行く行くー」と手を振りながらレイの後ろを通っていく「俺、お前の事許さねえから」そう呟いて

 ……………………大丈夫。僕が痛いだけ。別に何もない。
 それより、テスト勉強。
 あっ、チャイムが鳴ってしまった。
 このまま、やろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...