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四章 進む道の先に映るもの
161話 『未だ生を知らず』
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装着していた眼帯を見つける事ができず、鞄の中の予備を着けて、レイは足早に担任の下に戻った。
「……無かったのか?」
「はい。ありませんでした」
「なら、誰かが取って行ったのかもな。すまんが、俺には分かりかねるぞ」
「はい、分かりました」
ぺこりとお辞儀をして、レイはベッドに腰掛ける。
数分前の会話の内容を脳内再生して、レイは右目を細めた。
──はい。滝本さんです。君と同じクラスの。
──滝本さんに呼ばれて……。
それは両方共、副担任から聞いた話で、レイはその名前を何度も繰り返し思い出す。
滝本さん。滝本入江。彼女は何のために眼帯を持って行ったのか。新幹線での会話。
──腹の探り合いなど無粋、無意味。全く以て意味の無い行為に過ぎない。
そうさせているのは誰だと口走りそうになり、レイは首を横に振る。
そうではない、と直前の思考を否定して、レイは大きなため息を吐いた。
「──一旦落ち着こう。何か、どこかにすれ違いがあるんだ。あの時みたいに。話せばきっと……」
本当に?と聞いてくる疑問がある。それは、未だ彼女の事を信じられない自分自身だと、そう思った。
「剣崎くんいますか?」
若い女性の声が重たい空気の部屋の中に響いて、レイは入り口に立つ彼女の存在に気がついた。
きっちりとした様子で立つ彼女を尻目に気づき、先生は姿勢を直して顔を向けて対応した。
「ん? ああ、砂糖先生。どうかしましたか?」
パソコン作業を止めて、先生は入り口の方に体を向ける。
「はい。えっと、さっき剣崎くんが部屋に来て、それで夜ご飯を食べられるか聞こうとしたらもう戻っていて……」
レイの方に顔を向けた先生に、頬を硬くするレイ。その反応を黙って見つめ、それからすぐに「剣崎」とレイを呼ぶ。
「──食べられそうか?」
短いその言葉を聞き、レイは「え、あ、はい」と頷きながら言った。
「──なら行ってこい。旅館の方にあまり迷惑はかけられないから、先生達が用意した弁当になるが」
「ありがとうございます」
「剣崎くん、こっちこっち。こっちに来て下さい。先生が美味しそうなものを選んで来ましたから」
手招きして、レイを誘導する彼女について行き、部屋を出る間際に立ち止まってちらりと振り返る。先生がパソコンを打っていた。
すぐに彼女の後を追いかけて小走りになり、すぐにその隣に追いついた。
「いやぁ、嫌われちゃったかと思いましたぁ」
あはは、とにこやかに笑いながらそう言った彼女に、レイは首を横に振って答えた。
「い、いえっ。そんな事はないです」
「分かってますよ。剣崎くんは、優しい子ですから」
「そんな……ボクは、優しくはないですよ」
目を伏せてそう言うレイに「いいえ」と彼女は返す。
「優しいですよ。石田さん──えっと、石田レイカちゃんから楽しそうに、話を聞いているので」
レイは目を見開いて、彼女の顔を見上げる。彼女はレイの方を見て楽しそうに微笑んでいた。俯き、胸に手を当てて近くにはいない、彼女の事を想う。
「レイカちゃんが……」
呟いた事にレイは気付かず、ただ、目を細めて、笑っていた。
はっ、と気が付いたレイは咄嗟に首を左右に振り、それから顔を上げた。ちらりと、隣を歩く副担任の顔を見る。
「えっと、どんな話をしてたんですか?」
「気になります?」
「あ、いえ。その……」
「すみません、今のは先生のちょっとしたイジワルです」
後ろの方で楽しげな声が廊下に響いて、レイに届いた。即座に振り向くが、見渡す限りそこには何も見えない。
「今はお風呂の時間ですから、ちょっと盛り上がっているんでしょうね」
安心して下さい、と彼女はレイの手を取り言う。
「お風呂の時間は、皆がお風呂から上がった後、鉢合わせしないように先生達が配慮してますので」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、気にしないでください。──そうだ。剣崎くんは何か嫌いなものとかってありますか?」
「嫌いなもの……は、いえ、特には」
「それなら良かったです。コンビニ弁当ですが、バランスの良さそうな物を選んで来ましたよ」
「その、気を遣わせて、ごめんなさい……」
「そんなに気を揉まないで! 先生達は誰も面倒だなんて思ってないですし、倒れた人を心配するのは当然のことですから!」
ドヤっ、と鼻息荒く胸を張る副担任を見つめて、楽しげに苦笑する。
あ、とレイの隣を歩いていた彼女が立ち止まった。レイも釣られて立ち止まり、その視線の向く先を見る。何気なく、ただ、反射のように。
そこには、白いワンピースを纏う少女が立っていた。
※※※
「あー、疲れたー。ゲームしたーい」
「駄目に決まってるでしょー。まったく、レイくんいないとすぐにだらけちゃって」
夕飯を摂り終えたレイカとネネ。二人は向かい合ってテーブルの上で睨み合っていた。
互いの目にはそれぞれ、強い信念が宿っており──
「私はぁ! ゲームがしたいですっ!」
「知らないわよ。無駄に大声出さないで」
二人は一日目から幸先の悪い、険悪な関係を築き始めていた。
ぷっくりと頬を膨らませて睨みつけるレイカと、冷たい視線を送りながら胸の下で腕を組むネネ。対極的な二人は互いを敵視していた。
「て言うかレイカちゃん」
「なぁに、ネネさん。私の信念は硬いよ。鋼の剣だよ。絶対に折れやしないよ」
「勉強しないと──擽るわよ?」
「久々に聞いたよその脅し! あと、一応してるもん! この前のテストだって点数高かったじゃん!」
ガタリと音を立てて立ち上がって机を広げたテキストごと叩く。
その行動にネネはため息を吐いて額に手を当てた。
「この前はこの前。今回は今回。私は今の話をしてるのよ。さ、勉強しなさい」
「ネネさんのいじわるーっ!」
「勉強しないレイカちゃんがわるいんですぅー!」
「ネネさんのバカーっ!」
「バカって言う方がバカなんですぅー! 良いから早く勉強しなさいっ! レイくんに言いつけちゃうわよ!」
「ネネさんのいじわるー! あほー! ばかー!」
「バカじゃないですぅ! レイカちゃんよりも賢いですぅ! なんなら中一の時の私だってレイカちゃんより頭良かったですぅ!」
「大人げないじゃん! ネネさんが賢いからって私が賢くなるわけじゃないし!」
「だからこその勉強でしょーが! 教えてあげるから早く勉強しなさいっ!」
「教えられなくても一人でだいじょーぶだもん! バカにしないでよ!」
「じゃーやってみせなさい!」
「うん! 分かったよ! やるから! やってみせるから! 後で私の方が賢いって証明されて、泣いちゃっても知らないから!」
「誰も泣きませんー! それに、そんな事いってる内は私の方が賢いですぅー!」
べー、と舌を出されて、レイカは唇を尖らせてから俯いて、テキストを進め始める。
それを見ながら、ネネはふぅ、と小さな息を吐いて目を細めた。
やっぱり、ここが好きなんだなぁ、と、ネネはいなくなった彼の事を想起する。決して声には出さない、彼の事を。少し容量が悪く、けれど悪い人ではなかった、心根の優しい彼を。
「ネネさん」
「ん?」
ふと名前を呼ばれ、瞬きをした。見れば、レイカが頬杖をつきながらネネを伺うように見つめている。目が合い、大人の余裕とも言える微笑みを浮かべて見せた。
「なぁに、レイカちゃん」
「ここさー、分かんないから教えてー」
そう言いながらテキストを開いてネネの顔面に押し付ける。
しばらく、ネネは固まってしまう。数瞬の後、ネネはため息を吐いて「あのねぇ……」と面倒臭そうに、重ったるそうな声でテキストを受け取り、それの距離を少し離す。
「こんなに近くじゃ見えないでしょ」
「だって、ネネさんあんまり構ってくれないし……」
テキストを持っていた腕ごとテーブルの上に伏せて、テーブルに頬を付ける。視界に映るソファと、画面の端が少しだけ見えるテレビ。今は画面は暗転しているけれど、ついつい目がそちらへ向いてしまう。
そんなレイカに、ネネはレイカの頭を両手でわしゃわしゃと捏ねくり回して言う。
「構ってるじゃない。こうして一緒に勉強してあげてるでしょ」
「ちーがーうーのーっ」
バンバンテーブルを叩いていると、頭頂部にチョップを喰らってしまい「あだっ?」と頭を両手で守ることにしながらネネを上目遣いで睨み付けた。
ネネはきょとんと首を傾げて返すと、レイカは長い長いため息を吐いた。
「だってさー、一緒に遊んでくれないじゃーん。あーあ。レイくん早く帰って来ないかなぁ……。お土産なんかよりレイくんの方が大事だったよ。レイくんはこの家のお宝だね。家宝っていうの? きっとそれだよ。はーあ。今頃レイくんは何してんだろ」
「修学旅行でしょ。今の時間なら──お風呂か自由時間か、あとはそうね、夕飯かしら? いやでも、修学旅行の夕飯は早かった気が……」
米神に指を立てて眉をひそめるネネに、レイカはほっぺたを膨らませる。
考え込むその姿にレイカはじたばたと足を振り、「もー、ネネさんは役に立たないんだからぁ」とからかい気味に口元を緩めて言う。
その緩んだ頬をつねった。
「いだだだだだだだだっッ!!」
涙目になるレイカににこにこと笑顔を向けながら、ネネは囁くようにその涙を浮かべる顔に笑顔を近づけながら言った。
「なら、ご飯作ったり勉強教えたりしなくて良いわね」
「えっ、ちょっ! ネネさん!?」
「あーあ、今日のご飯レイカちゃんの好きなのだったのになー」
「ごめんなさいごめんなさい! うそうそ! ウソだって! ネネさんのことからかっただけ! ごめんなさい! 許してー! だからご飯作ってよーっ!」
「嘘よ。私が仕事を怠ったらレイカちゃん、ダメ人間になっちゃうもの。それに、お金も貰ってるしね」
「もー! 脅かさないでよ! ビックリしたじゃん!」
「フフふふふー。どう? 楽しかった?」
「楽しくないよっ。ブラックジョークやめてよっ」
「分かったわよ。やめるやめる。それで? 分からない所って?」
「あ、そうだよ。分かんないんだよ。ほらここ」
「はいはい。ここはたしかね……」
こうして時間は過ぎていく。
その二人を、彼女は静かにただ、見守っていた。
[あとがき]
レイくんの方がちょっと不穏なのに対してレイカちゃんの方は平和ですねぇ。まだねっ!
次回からは二月一日まで毎日更新!
展開が亀みたいですが、もうちょっとだけお付き合いください。
「……無かったのか?」
「はい。ありませんでした」
「なら、誰かが取って行ったのかもな。すまんが、俺には分かりかねるぞ」
「はい、分かりました」
ぺこりとお辞儀をして、レイはベッドに腰掛ける。
数分前の会話の内容を脳内再生して、レイは右目を細めた。
──はい。滝本さんです。君と同じクラスの。
──滝本さんに呼ばれて……。
それは両方共、副担任から聞いた話で、レイはその名前を何度も繰り返し思い出す。
滝本さん。滝本入江。彼女は何のために眼帯を持って行ったのか。新幹線での会話。
──腹の探り合いなど無粋、無意味。全く以て意味の無い行為に過ぎない。
そうさせているのは誰だと口走りそうになり、レイは首を横に振る。
そうではない、と直前の思考を否定して、レイは大きなため息を吐いた。
「──一旦落ち着こう。何か、どこかにすれ違いがあるんだ。あの時みたいに。話せばきっと……」
本当に?と聞いてくる疑問がある。それは、未だ彼女の事を信じられない自分自身だと、そう思った。
「剣崎くんいますか?」
若い女性の声が重たい空気の部屋の中に響いて、レイは入り口に立つ彼女の存在に気がついた。
きっちりとした様子で立つ彼女を尻目に気づき、先生は姿勢を直して顔を向けて対応した。
「ん? ああ、砂糖先生。どうかしましたか?」
パソコン作業を止めて、先生は入り口の方に体を向ける。
「はい。えっと、さっき剣崎くんが部屋に来て、それで夜ご飯を食べられるか聞こうとしたらもう戻っていて……」
レイの方に顔を向けた先生に、頬を硬くするレイ。その反応を黙って見つめ、それからすぐに「剣崎」とレイを呼ぶ。
「──食べられそうか?」
短いその言葉を聞き、レイは「え、あ、はい」と頷きながら言った。
「──なら行ってこい。旅館の方にあまり迷惑はかけられないから、先生達が用意した弁当になるが」
「ありがとうございます」
「剣崎くん、こっちこっち。こっちに来て下さい。先生が美味しそうなものを選んで来ましたから」
手招きして、レイを誘導する彼女について行き、部屋を出る間際に立ち止まってちらりと振り返る。先生がパソコンを打っていた。
すぐに彼女の後を追いかけて小走りになり、すぐにその隣に追いついた。
「いやぁ、嫌われちゃったかと思いましたぁ」
あはは、とにこやかに笑いながらそう言った彼女に、レイは首を横に振って答えた。
「い、いえっ。そんな事はないです」
「分かってますよ。剣崎くんは、優しい子ですから」
「そんな……ボクは、優しくはないですよ」
目を伏せてそう言うレイに「いいえ」と彼女は返す。
「優しいですよ。石田さん──えっと、石田レイカちゃんから楽しそうに、話を聞いているので」
レイは目を見開いて、彼女の顔を見上げる。彼女はレイの方を見て楽しそうに微笑んでいた。俯き、胸に手を当てて近くにはいない、彼女の事を想う。
「レイカちゃんが……」
呟いた事にレイは気付かず、ただ、目を細めて、笑っていた。
はっ、と気が付いたレイは咄嗟に首を左右に振り、それから顔を上げた。ちらりと、隣を歩く副担任の顔を見る。
「えっと、どんな話をしてたんですか?」
「気になります?」
「あ、いえ。その……」
「すみません、今のは先生のちょっとしたイジワルです」
後ろの方で楽しげな声が廊下に響いて、レイに届いた。即座に振り向くが、見渡す限りそこには何も見えない。
「今はお風呂の時間ですから、ちょっと盛り上がっているんでしょうね」
安心して下さい、と彼女はレイの手を取り言う。
「お風呂の時間は、皆がお風呂から上がった後、鉢合わせしないように先生達が配慮してますので」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、気にしないでください。──そうだ。剣崎くんは何か嫌いなものとかってありますか?」
「嫌いなもの……は、いえ、特には」
「それなら良かったです。コンビニ弁当ですが、バランスの良さそうな物を選んで来ましたよ」
「その、気を遣わせて、ごめんなさい……」
「そんなに気を揉まないで! 先生達は誰も面倒だなんて思ってないですし、倒れた人を心配するのは当然のことですから!」
ドヤっ、と鼻息荒く胸を張る副担任を見つめて、楽しげに苦笑する。
あ、とレイの隣を歩いていた彼女が立ち止まった。レイも釣られて立ち止まり、その視線の向く先を見る。何気なく、ただ、反射のように。
そこには、白いワンピースを纏う少女が立っていた。
※※※
「あー、疲れたー。ゲームしたーい」
「駄目に決まってるでしょー。まったく、レイくんいないとすぐにだらけちゃって」
夕飯を摂り終えたレイカとネネ。二人は向かい合ってテーブルの上で睨み合っていた。
互いの目にはそれぞれ、強い信念が宿っており──
「私はぁ! ゲームがしたいですっ!」
「知らないわよ。無駄に大声出さないで」
二人は一日目から幸先の悪い、険悪な関係を築き始めていた。
ぷっくりと頬を膨らませて睨みつけるレイカと、冷たい視線を送りながら胸の下で腕を組むネネ。対極的な二人は互いを敵視していた。
「て言うかレイカちゃん」
「なぁに、ネネさん。私の信念は硬いよ。鋼の剣だよ。絶対に折れやしないよ」
「勉強しないと──擽るわよ?」
「久々に聞いたよその脅し! あと、一応してるもん! この前のテストだって点数高かったじゃん!」
ガタリと音を立てて立ち上がって机を広げたテキストごと叩く。
その行動にネネはため息を吐いて額に手を当てた。
「この前はこの前。今回は今回。私は今の話をしてるのよ。さ、勉強しなさい」
「ネネさんのいじわるーっ!」
「勉強しないレイカちゃんがわるいんですぅー!」
「ネネさんのバカーっ!」
「バカって言う方がバカなんですぅー! 良いから早く勉強しなさいっ! レイくんに言いつけちゃうわよ!」
「ネネさんのいじわるー! あほー! ばかー!」
「バカじゃないですぅ! レイカちゃんよりも賢いですぅ! なんなら中一の時の私だってレイカちゃんより頭良かったですぅ!」
「大人げないじゃん! ネネさんが賢いからって私が賢くなるわけじゃないし!」
「だからこその勉強でしょーが! 教えてあげるから早く勉強しなさいっ!」
「教えられなくても一人でだいじょーぶだもん! バカにしないでよ!」
「じゃーやってみせなさい!」
「うん! 分かったよ! やるから! やってみせるから! 後で私の方が賢いって証明されて、泣いちゃっても知らないから!」
「誰も泣きませんー! それに、そんな事いってる内は私の方が賢いですぅー!」
べー、と舌を出されて、レイカは唇を尖らせてから俯いて、テキストを進め始める。
それを見ながら、ネネはふぅ、と小さな息を吐いて目を細めた。
やっぱり、ここが好きなんだなぁ、と、ネネはいなくなった彼の事を想起する。決して声には出さない、彼の事を。少し容量が悪く、けれど悪い人ではなかった、心根の優しい彼を。
「ネネさん」
「ん?」
ふと名前を呼ばれ、瞬きをした。見れば、レイカが頬杖をつきながらネネを伺うように見つめている。目が合い、大人の余裕とも言える微笑みを浮かべて見せた。
「なぁに、レイカちゃん」
「ここさー、分かんないから教えてー」
そう言いながらテキストを開いてネネの顔面に押し付ける。
しばらく、ネネは固まってしまう。数瞬の後、ネネはため息を吐いて「あのねぇ……」と面倒臭そうに、重ったるそうな声でテキストを受け取り、それの距離を少し離す。
「こんなに近くじゃ見えないでしょ」
「だって、ネネさんあんまり構ってくれないし……」
テキストを持っていた腕ごとテーブルの上に伏せて、テーブルに頬を付ける。視界に映るソファと、画面の端が少しだけ見えるテレビ。今は画面は暗転しているけれど、ついつい目がそちらへ向いてしまう。
そんなレイカに、ネネはレイカの頭を両手でわしゃわしゃと捏ねくり回して言う。
「構ってるじゃない。こうして一緒に勉強してあげてるでしょ」
「ちーがーうーのーっ」
バンバンテーブルを叩いていると、頭頂部にチョップを喰らってしまい「あだっ?」と頭を両手で守ることにしながらネネを上目遣いで睨み付けた。
ネネはきょとんと首を傾げて返すと、レイカは長い長いため息を吐いた。
「だってさー、一緒に遊んでくれないじゃーん。あーあ。レイくん早く帰って来ないかなぁ……。お土産なんかよりレイくんの方が大事だったよ。レイくんはこの家のお宝だね。家宝っていうの? きっとそれだよ。はーあ。今頃レイくんは何してんだろ」
「修学旅行でしょ。今の時間なら──お風呂か自由時間か、あとはそうね、夕飯かしら? いやでも、修学旅行の夕飯は早かった気が……」
米神に指を立てて眉をひそめるネネに、レイカはほっぺたを膨らませる。
考え込むその姿にレイカはじたばたと足を振り、「もー、ネネさんは役に立たないんだからぁ」とからかい気味に口元を緩めて言う。
その緩んだ頬をつねった。
「いだだだだだだだだっッ!!」
涙目になるレイカににこにこと笑顔を向けながら、ネネは囁くようにその涙を浮かべる顔に笑顔を近づけながら言った。
「なら、ご飯作ったり勉強教えたりしなくて良いわね」
「えっ、ちょっ! ネネさん!?」
「あーあ、今日のご飯レイカちゃんの好きなのだったのになー」
「ごめんなさいごめんなさい! うそうそ! ウソだって! ネネさんのことからかっただけ! ごめんなさい! 許してー! だからご飯作ってよーっ!」
「嘘よ。私が仕事を怠ったらレイカちゃん、ダメ人間になっちゃうもの。それに、お金も貰ってるしね」
「もー! 脅かさないでよ! ビックリしたじゃん!」
「フフふふふー。どう? 楽しかった?」
「楽しくないよっ。ブラックジョークやめてよっ」
「分かったわよ。やめるやめる。それで? 分からない所って?」
「あ、そうだよ。分かんないんだよ。ほらここ」
「はいはい。ここはたしかね……」
こうして時間は過ぎていく。
その二人を、彼女は静かにただ、見守っていた。
[あとがき]
レイくんの方がちょっと不穏なのに対してレイカちゃんの方は平和ですねぇ。まだねっ!
次回からは二月一日まで毎日更新!
展開が亀みたいですが、もうちょっとだけお付き合いください。
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