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四章 進む道の先に映るもの
158話 『傷付けられて』
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──殺人者の家族って話、ほんと?
その言葉が耳を打ち、レイカは目を剥く。真剣な眼差しがレイカを見つめ、眉をひそめた。その言葉に困惑して、レイカは同じように驚いた様子で口をぽかんと開けているしずかへと目を向ける。
「それで、どうなの?」
真偽を確かめるようなその目線に、レイカは固唾を飲んで「あー」とか「えー」とか、そう言った声を出して十分に心を落ち着かせた後に、レイカは「ううん」と答えた。
それをほっとした顔で、しずかは自分の胸を撫で下ろした。
「ていうか、どうしてそんな事、思ったの? 私、人殺しの家族なんて知らないよ?」
目尻を引き上げ、目線を鋭利に研ぐ。その黒い瞳で眼前の少女を見定めるように、ホリのあらゆる箇所へ鋭利に研いだ視線を走らせる。手、腕、首、顔、口、鼻、目──、彼女の口が開かれ、眉根が下がっていく。目が細くなっていき、口の端が引き上げられていく。
ありもしない疑いをかけられたレイカは、相手の意図と目的を探るので思考を埋め尽くしていた。しかし、彼女は──ホリは、そんなレイカの気苦労も知らずにニカッ、と突然笑い出して、レイカは驚きに目を丸くした。
「なーんだ、そっか!」
彼女は、笑った。
それに目を丸くして、固まる。
「いやぁ、良かった良かった! いやね、廊下歩いてたらそんな噂があってさ、てか、なんでそんな噂が流れてるのかよく分かんないんだけど、でもさ、こう言うのってはっきりしてた方がスッキリしない? 私はするから聞いたんだけど。ちゃんと答えてくれてありがと、石田さん!」
「え、あ、うん」
「それじゃ、次の時間は理科だけど、移動だからね! 早く行きなよー! 理科室の入り口混むから!」
それじゃーねー!と手を振りながら離れて行ったホリは、教室の入り口のドアに体をぶつけて半回転しながら段差で躓いて廊下に顔面から倒れ込んだ。
流れるようなその所作に一瞬、レイカは呆気に取られた。
次の瞬間に聞こえてきた鈍い音によって正気を取り戻し、「ちょえ!?」と彼女を見に行く。
──倒れた彼女は鼻血を出して目を回し、理科の用意をばら撒いて、一種の注目を集めていた。それをレイカはただただ呆然と見つめ、その後ろではしずかがあわあわと口元に手を当てて狼狽えていた。
「これ、先生呼ばなくちゃ」
そう呟き、先生を呼びに行こうとして、誰かが先に呼んできたらしい先生が彼女を保健室まで運んで行った。それを見送って、レイカは唾を飲み込んだ。
「私もちょっと気を付けよ」
「何か言ったー?」
口籠るように言ったその言葉に、隣を歩くしずかが首を傾げ、覗き込むようにレイカの顔を見る。思い出したように言ったレイカの顔を、じぃー、と見つめ、されるレイカは「にゃば!?」と大きな声を出してしまい、咄嗟に口を押さえた。
「ちょ、ちょっと! 脅かさないでよ!」
「えー、そんなつもりー、なかったんだけどなぁー」
「あ、理科室だ」
「そっかー。理科室もー、一階だったねー」
理科室に入ると、クラスメイトが半数以上も入っていて、そこまで広くはないのも相まって結構な渋滞を作り出していた。しかもそれらがほとんど入口付近に集まっているのもその原因の一つだろう。
「むぎゃ! とぉ、れ、な、いぃぃ~……!」
「ひぃー、レーカちゃーん」
前にたむろするクラスメイトと、後ろから押し寄せるクラスメイト。その中間地点に立ち入ってしまったレイカは「うぎゃー!」と叫んだ。しかしその叫びも、前後ろから上がる喧騒によってかき消されてしまった。
※※※
レイは部屋の隅に小さく丸まっていた。
数人の先生が会話しながらテーブルの周りに座り、テレビを見ている。今後の方針の事や、愚痴や、明日の天気まで、とにかく色んな内容を話しているのを左から右に聞き流し、レイは窓の外を見た。
レイカちゃん、今頃何してるかな。
胸中でそう呟きながら、レイは小さく吐息した。窓の外は部屋の中を照らす電気のせいで、更に暗くなったように感じるけれど、赤く染まり始めた空に、まだ青い色も残っている。
それを見ながら、レイは左の眼窩の奥で蠢く『何か』が、どろりと波打つのを感じ、咄嗟にそこを押さえた。一つ、深呼吸をする。──声がした。
『約束は、ちゃんと守るから、安心してね』
自分の口が勝手に動いて、レイは顔をしかめた。
声は、声だけは確かに幼い少女のような、別のものだった。けれども確かに、動いたのはレイのそれなのだ。それに、レイは奥歯を噛み締める。少し前に、一度あったそれは今もまたこうして、レイの心を掠めて、傷をじくじくと滲ませる。
「二弥ちゃんがああなったのは、このせいなのに……」
そう弱々しく呟き、頭を抱えて更に縮こまろうとすると、耳の後ろからガリッ、と音がした。
「──っ、ぅ」
顔をしかめ、右目に涙が滲んだ。
頭から指を離し、顔の前に持って行くと、音の正体が判明した。赤くべっとりと濡れたそれが、爪の間に挟まったその肉片が悠々と物語っている。レイは耳の後ろの肉を自ら抉ったのだと。
おぞましいその手を隠すように立ち上がって、レイの方を見た先生に「トイレです」と、そう言ってレイは部屋を出た。通路は左に行けば女子部屋が並び、トイレはその奥にある。見張りの先生が、通路の終わりに椅子を用意して、座っている。
レイは走り抜けるように少し早足で女子部屋の前を通り抜けると、先生の横を右に曲がり、トイレに駆け込んだ。個室に入り、自分の手を見る。第一関節辺りまで、親指以外の四本が血塗れで、それを見てレイは自分の行動にぞっとしなかった。
もし先生に見つかればどうするんだ、そう自分に言い聞かせて、レイは数分の時間が経つのを待った。個室から出ると、左に先生が見えた。扉は、個室には付いているものの、その前には扉は無く、床がフローリングからタイルに置き換わっているだけだ。
先生の様子を伺いながら手洗い、そして耳の後ろを洗い、傷が既に塞がっている事に目を細め、血を洗い流した。爪の間の肉片も洗い流し、レイはポケットからハンカチを取り出す。それでまず、耳の後ろを拭いてそれから手を拭きながらトイレから出た。先生と目が合う。軽く会釈して、レイはやはり少し早足で、駆け足気味に部屋へと戻って行った。
それからどれだけと言うほど時間が経っていないが、外が賑わい始めた。
レイが自分の鞄の隣に座ろうとした時だった。先生達がテレビを消したりして立ち上がり、その中の一人、初老を迎えているらしきふくよかな女性が、レイに声をかけた。
「剣崎さん、これから夕ご飯なのだけれど、大丈夫?」
それがレイの立場を気遣ったものだと気が付いたのは、数秒遅れての事だった。
「──はい、平気です」
「なら、先生達はこれから生徒達を統率しなければいけないから行くわね」
「はい、ありがとうございます」
そう言ってから、先生達が部屋を出て行ってから、レイは小さく唸った。
眼帯を外す。その奥から、粘り気のあるどす黒い液体が溢れそうになって、咄嗟に上を向き、その体勢のまま鞄の中を漁り、ティッシュ箱から一枚、それを取り出し左目に当てる。それから首を元に戻すと、ティッシュが黒く滲んだ。
一人で良かったと、レイは目を閉じ、溜め息混じりに思った。
少しして、通路が静かになった所で目を開けると、レイは眼前の影に肩を震わせた。
「そんな、なん、で……」
鼓動が速くなり、ティッシュが黒く滲んでいくのが早くなる。
レイは何か言いたげに口を動かし、けれどもそれは声にならず、あわあわと口が動くだけに留まる。
「それは、こっちの台詞だよ」
それは、体操着姿で現れた滝本入江だった。
「君が、どうしてここにいるのか、聞いても? ──できれば、その目の事も、聞いておきたいのだが……」
「あ、の──えっと……その……」
咄嗟に答える事が出来なかったレイに、彼女は開いた目を鋭く尖らせ、素早く周囲に向ける。そこに誰もいない事を確認し、小さな吐息の後に、彼女は優しく言った。
「誰にも言いはしない。確約しよう。だから、教えてはくれまいか。君のその目の事も、なぜここにいるのかも。──話せる範囲で良い。答えてくれ」
「あの、その……」
「例えどれだけ信じられない事を言われようと、バカにしたりはない。だから頼む」
──レイは、唇を引き結び、震えながら開いた口を濡らし、言った。
「ボクは、超能力者だ」
「ちょう、のうりょく、しゃ? ──ああ、超能力者か」
こくんと頷き、レイは目を背けた。
「そうは、言っても──物を浮かせたり、スプーンを曲げたりとかじゃなくて、その、片腕が、剣みたいに、硬くて、鋭くなるんだ」
「それは、あれかい。ゲーム等に出て来る、あの剣かい?」
頷き、レイは苦虫を噛み潰したような顔で、ティッシュを顔から下ろした。滝本入江の顔が、ティッシュへと向く。半信半疑の瞳をそのティッシュにぶつけながら、そこに滲む黒いそれを眺める。
「最近は、使ってないけれど、少し前に、使う事があったんだ」
「──それが、学校で噂されている、岩倉さんが、殺害された事件の時のことかい?」
「うん」
「──なるほど、分かった」
彼女は、一呼吸を置いてから、言う。
「君は、確かに岩倉ミズキを殺害していない」
その言葉に、レイは強く目を見開いた。そう言った彼女を見上げ、レイは瞳孔を震わせる。その様子に、滝本入江はこう告げる。
「──しかし、他人を傷付けてはいるようだな」
[あとがき]
最近、あとがきの量がえげつない事になっている気がするので、自重します。
次回から五十字以内で。ちなみに前回言ってた話は修正しました。今度はバッチリ確認もして。
そして今日は七日なので七草粥を食べました。めちゃくちゃ美味かった!
次回は一月十五日!あと何回か一週間更新にしたら、毎日更新か三日更新に戻します。それじゃあ、次回!
その言葉が耳を打ち、レイカは目を剥く。真剣な眼差しがレイカを見つめ、眉をひそめた。その言葉に困惑して、レイカは同じように驚いた様子で口をぽかんと開けているしずかへと目を向ける。
「それで、どうなの?」
真偽を確かめるようなその目線に、レイカは固唾を飲んで「あー」とか「えー」とか、そう言った声を出して十分に心を落ち着かせた後に、レイカは「ううん」と答えた。
それをほっとした顔で、しずかは自分の胸を撫で下ろした。
「ていうか、どうしてそんな事、思ったの? 私、人殺しの家族なんて知らないよ?」
目尻を引き上げ、目線を鋭利に研ぐ。その黒い瞳で眼前の少女を見定めるように、ホリのあらゆる箇所へ鋭利に研いだ視線を走らせる。手、腕、首、顔、口、鼻、目──、彼女の口が開かれ、眉根が下がっていく。目が細くなっていき、口の端が引き上げられていく。
ありもしない疑いをかけられたレイカは、相手の意図と目的を探るので思考を埋め尽くしていた。しかし、彼女は──ホリは、そんなレイカの気苦労も知らずにニカッ、と突然笑い出して、レイカは驚きに目を丸くした。
「なーんだ、そっか!」
彼女は、笑った。
それに目を丸くして、固まる。
「いやぁ、良かった良かった! いやね、廊下歩いてたらそんな噂があってさ、てか、なんでそんな噂が流れてるのかよく分かんないんだけど、でもさ、こう言うのってはっきりしてた方がスッキリしない? 私はするから聞いたんだけど。ちゃんと答えてくれてありがと、石田さん!」
「え、あ、うん」
「それじゃ、次の時間は理科だけど、移動だからね! 早く行きなよー! 理科室の入り口混むから!」
それじゃーねー!と手を振りながら離れて行ったホリは、教室の入り口のドアに体をぶつけて半回転しながら段差で躓いて廊下に顔面から倒れ込んだ。
流れるようなその所作に一瞬、レイカは呆気に取られた。
次の瞬間に聞こえてきた鈍い音によって正気を取り戻し、「ちょえ!?」と彼女を見に行く。
──倒れた彼女は鼻血を出して目を回し、理科の用意をばら撒いて、一種の注目を集めていた。それをレイカはただただ呆然と見つめ、その後ろではしずかがあわあわと口元に手を当てて狼狽えていた。
「これ、先生呼ばなくちゃ」
そう呟き、先生を呼びに行こうとして、誰かが先に呼んできたらしい先生が彼女を保健室まで運んで行った。それを見送って、レイカは唾を飲み込んだ。
「私もちょっと気を付けよ」
「何か言ったー?」
口籠るように言ったその言葉に、隣を歩くしずかが首を傾げ、覗き込むようにレイカの顔を見る。思い出したように言ったレイカの顔を、じぃー、と見つめ、されるレイカは「にゃば!?」と大きな声を出してしまい、咄嗟に口を押さえた。
「ちょ、ちょっと! 脅かさないでよ!」
「えー、そんなつもりー、なかったんだけどなぁー」
「あ、理科室だ」
「そっかー。理科室もー、一階だったねー」
理科室に入ると、クラスメイトが半数以上も入っていて、そこまで広くはないのも相まって結構な渋滞を作り出していた。しかもそれらがほとんど入口付近に集まっているのもその原因の一つだろう。
「むぎゃ! とぉ、れ、な、いぃぃ~……!」
「ひぃー、レーカちゃーん」
前にたむろするクラスメイトと、後ろから押し寄せるクラスメイト。その中間地点に立ち入ってしまったレイカは「うぎゃー!」と叫んだ。しかしその叫びも、前後ろから上がる喧騒によってかき消されてしまった。
※※※
レイは部屋の隅に小さく丸まっていた。
数人の先生が会話しながらテーブルの周りに座り、テレビを見ている。今後の方針の事や、愚痴や、明日の天気まで、とにかく色んな内容を話しているのを左から右に聞き流し、レイは窓の外を見た。
レイカちゃん、今頃何してるかな。
胸中でそう呟きながら、レイは小さく吐息した。窓の外は部屋の中を照らす電気のせいで、更に暗くなったように感じるけれど、赤く染まり始めた空に、まだ青い色も残っている。
それを見ながら、レイは左の眼窩の奥で蠢く『何か』が、どろりと波打つのを感じ、咄嗟にそこを押さえた。一つ、深呼吸をする。──声がした。
『約束は、ちゃんと守るから、安心してね』
自分の口が勝手に動いて、レイは顔をしかめた。
声は、声だけは確かに幼い少女のような、別のものだった。けれども確かに、動いたのはレイのそれなのだ。それに、レイは奥歯を噛み締める。少し前に、一度あったそれは今もまたこうして、レイの心を掠めて、傷をじくじくと滲ませる。
「二弥ちゃんがああなったのは、このせいなのに……」
そう弱々しく呟き、頭を抱えて更に縮こまろうとすると、耳の後ろからガリッ、と音がした。
「──っ、ぅ」
顔をしかめ、右目に涙が滲んだ。
頭から指を離し、顔の前に持って行くと、音の正体が判明した。赤くべっとりと濡れたそれが、爪の間に挟まったその肉片が悠々と物語っている。レイは耳の後ろの肉を自ら抉ったのだと。
おぞましいその手を隠すように立ち上がって、レイの方を見た先生に「トイレです」と、そう言ってレイは部屋を出た。通路は左に行けば女子部屋が並び、トイレはその奥にある。見張りの先生が、通路の終わりに椅子を用意して、座っている。
レイは走り抜けるように少し早足で女子部屋の前を通り抜けると、先生の横を右に曲がり、トイレに駆け込んだ。個室に入り、自分の手を見る。第一関節辺りまで、親指以外の四本が血塗れで、それを見てレイは自分の行動にぞっとしなかった。
もし先生に見つかればどうするんだ、そう自分に言い聞かせて、レイは数分の時間が経つのを待った。個室から出ると、左に先生が見えた。扉は、個室には付いているものの、その前には扉は無く、床がフローリングからタイルに置き換わっているだけだ。
先生の様子を伺いながら手洗い、そして耳の後ろを洗い、傷が既に塞がっている事に目を細め、血を洗い流した。爪の間の肉片も洗い流し、レイはポケットからハンカチを取り出す。それでまず、耳の後ろを拭いてそれから手を拭きながらトイレから出た。先生と目が合う。軽く会釈して、レイはやはり少し早足で、駆け足気味に部屋へと戻って行った。
それからどれだけと言うほど時間が経っていないが、外が賑わい始めた。
レイが自分の鞄の隣に座ろうとした時だった。先生達がテレビを消したりして立ち上がり、その中の一人、初老を迎えているらしきふくよかな女性が、レイに声をかけた。
「剣崎さん、これから夕ご飯なのだけれど、大丈夫?」
それがレイの立場を気遣ったものだと気が付いたのは、数秒遅れての事だった。
「──はい、平気です」
「なら、先生達はこれから生徒達を統率しなければいけないから行くわね」
「はい、ありがとうございます」
そう言ってから、先生達が部屋を出て行ってから、レイは小さく唸った。
眼帯を外す。その奥から、粘り気のあるどす黒い液体が溢れそうになって、咄嗟に上を向き、その体勢のまま鞄の中を漁り、ティッシュ箱から一枚、それを取り出し左目に当てる。それから首を元に戻すと、ティッシュが黒く滲んだ。
一人で良かったと、レイは目を閉じ、溜め息混じりに思った。
少しして、通路が静かになった所で目を開けると、レイは眼前の影に肩を震わせた。
「そんな、なん、で……」
鼓動が速くなり、ティッシュが黒く滲んでいくのが早くなる。
レイは何か言いたげに口を動かし、けれどもそれは声にならず、あわあわと口が動くだけに留まる。
「それは、こっちの台詞だよ」
それは、体操着姿で現れた滝本入江だった。
「君が、どうしてここにいるのか、聞いても? ──できれば、その目の事も、聞いておきたいのだが……」
「あ、の──えっと……その……」
咄嗟に答える事が出来なかったレイに、彼女は開いた目を鋭く尖らせ、素早く周囲に向ける。そこに誰もいない事を確認し、小さな吐息の後に、彼女は優しく言った。
「誰にも言いはしない。確約しよう。だから、教えてはくれまいか。君のその目の事も、なぜここにいるのかも。──話せる範囲で良い。答えてくれ」
「あの、その……」
「例えどれだけ信じられない事を言われようと、バカにしたりはない。だから頼む」
──レイは、唇を引き結び、震えながら開いた口を濡らし、言った。
「ボクは、超能力者だ」
「ちょう、のうりょく、しゃ? ──ああ、超能力者か」
こくんと頷き、レイは目を背けた。
「そうは、言っても──物を浮かせたり、スプーンを曲げたりとかじゃなくて、その、片腕が、剣みたいに、硬くて、鋭くなるんだ」
「それは、あれかい。ゲーム等に出て来る、あの剣かい?」
頷き、レイは苦虫を噛み潰したような顔で、ティッシュを顔から下ろした。滝本入江の顔が、ティッシュへと向く。半信半疑の瞳をそのティッシュにぶつけながら、そこに滲む黒いそれを眺める。
「最近は、使ってないけれど、少し前に、使う事があったんだ」
「──それが、学校で噂されている、岩倉さんが、殺害された事件の時のことかい?」
「うん」
「──なるほど、分かった」
彼女は、一呼吸を置いてから、言う。
「君は、確かに岩倉ミズキを殺害していない」
その言葉に、レイは強く目を見開いた。そう言った彼女を見上げ、レイは瞳孔を震わせる。その様子に、滝本入江はこう告げる。
「──しかし、他人を傷付けてはいるようだな」
[あとがき]
最近、あとがきの量がえげつない事になっている気がするので、自重します。
次回から五十字以内で。ちなみに前回言ってた話は修正しました。今度はバッチリ確認もして。
そして今日は七日なので七草粥を食べました。めちゃくちゃ美味かった!
次回は一月十五日!あと何回か一週間更新にしたら、毎日更新か三日更新に戻します。それじゃあ、次回!
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