復讐の慰術師

紅蓮の焔

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17章 もう、後戻りは出来ないから……

286話 深謀遠慮。過去を考えて

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空になったカップをテーブルに置いて、はあぁぁ……。と気持ち良さそうにだらしない顔でテーブルに頬を着く
「ッ!」
突如、覚醒したかと思うと直ぐ様ピシッと姿勢を正して座る
「あ、あの……あり、が、と……ぅ?」
喋りながらフラッと倒れると椅子から転げ落ちた。それを見るとソラの肩をポンッと叩き耳元で囁く
「……ソラ、そろそろ帰りなさい」
「でもママ!」
「良いから、その子を連れて帰って頂戴」
そう言いながら優しく微笑む
「安心して。ママは大丈夫。何かあればあの人に……ね?」
「分かった……でもママ、無理はしないでね……」
「ええ。分かった。遅くても明日には帰って来るから……」
最後にポンッと頭を軽く叩きカップを取るとキッチンに置き、カバンを肩にかけて玄関まで歩いて行く。それを見て慌てて倒れたレンゼを持ち上げるとその後を追い駆ける
「待ってよ! ママぁ~!」
ドアの先、通路に出たソラは鍵を閉めるサラを見て唇を尖らせた
「やっぱり、分かんないよ……」
チラッと瞳を動かしレンゼを少しだけ見詰める
「この子にそこまでする必要あったの……? それにまだ小さいのに……」
鍵を閉め終え、振り返って微笑む
「確かに小さい。でもね、私のせいだから……。貴女にも被害が出るかもしれない。もしもダメだった時、その子がきっと貴女を助けてくれるわよ」
ニコッと歯を見せて大きな笑顔を見せるとカバンをかけ直し階段の方へ歩いて行く
「大丈夫。ママは強いっ」
そう、擦れ違う際に伝えて階段を降りて行った
「ママ……」
哀愁を漂わせて顔をしかめると腕の中で眠っている少年を片腕に一つ奥のドアの前に行き鍵を開けて中に入る
「頑張って……」
そう言ってドアを閉める。廊下を照らす電球が一瞬だけ点灯して再び廊下を明るく照らす


「…………ッ!?」
レンゼは覚醒すると同時に一瞬だけ目を細めて自身の身体をペチペチと触り始めた
「なんとも……ない……じゃあ一体どうなって…………えっ……と、落ち着けぇ……状況整理」
首を左右に動かすと上を見詰めて一度目を瞑る
「本の山に囲まれたベッドの上で寝ていた……と。精々玄関までの通路が見えることが幸いってところか……」
大きく溜め息を吐いて起き上がるとベッドから降りる。欠伸を噛み殺し近くの本の背に書かれた題名を読む
「……まじゅ……え? つまりここに連れて来た奴は魔術師か……。厄介だな……」
下唇を小さく噛むと首を横に振って自分より背の高い本の山を見上げる。すると片手で頭を抱えて小さく唸った
「ったく、余計な奴と仲間になりやがって……クソがッ!」
隣の積み立てられた本の山を殴ると一冊だけ頭の上に落ちていく
「いッてぇええ!」
頭を押さえて転げ回るとその本の角で膝を擦り剥いた。突然のことに驚いた様子で座ると膝を見詰める
「あっ、そう言えば……ッ!」
レンゼはポケットに手を突っ込んで安堵の表情を浮かべ、その後すぐにポケットから手を出す。その手にはペンが握られている
「焦ったぁ……一時はどうなることかと……」
落ちてきた本を見詰め、拾い上げると首を傾げた
「なんだこれ……寓話ぐうわ?」
その本を捲り読み始める

『──昔々のそのまた昔、とある王様が居ました。王様は子供を作れない病気にかかっていました。王様は沢山考えた後、国中にお知らせしました。その内容は、王様の子供を作ることです。しかし、子供を作れない王様に子供を作るなど出来ない。と人たちは帰ってしまいました
しかし、その中で一人だけ王様の子供を作ると言い張った若い夫婦が居ました。一人は金色の髪をした男、もう一人はほとんど白に近い金色の髪を持った女。この二人は錬金術師なのです
それから約一年後、その夫婦はフラスコを持って王様の前に現れました。そのフラスコには小さな人が入っており、それを王様の子供だと言い張るのです。しかしそれに怒った王様は夫婦を国から追い出してしまいました
ですが、国を追い出される前に男はフラスコを返して貰い、水、炭、骨などを王様の前で円状に拡げ、その中心にフラスコを置きました
するとどうでしょう。突然フラスコが割れてしまい、その中の人がみるみる大きくなるではありませんか
少し経つと手のひらと同じくらいの大きさだった小人は、普通の大きさの子供へと変わったのです
子供は王様の子供として育てられ、その国は立派に大きくなりました

お終い』

「……? 何これ。寓話と言うより童話? フラスコの中の小人……人造人間ホムンクルスか。もしかするとこれが奴らの手掛かりになったり……」
パタンッと本を閉じて横に置くと髪をいじりながら目を閉じ、小さく唸り始めた
「やっと起きたのね」
背後から掛けられた声にレンゼはビクッと肩を震わせて振り返った
「ソラ……?」
「起きたのなら丁度よかった。ご飯作ってよ。上手なんでしょ? 私作れないから」
「じゃあ俺をフライパンで殴ろうとした時、キッチンで何してたんだよ」
「作れないから練習に決まってるじゃない。ここじゃ本が有り過ぎて失敗した時の事を考えると気が引けるの。だからママの家で料理の練習してるの。分かってくれた?」
どこかバカにしたような口調に少し眉間にシワを寄せて小さく頷く
「そうそう。材料は適当に使って。じゃ、頑張れ」
ソラはベッドに飛び込み、枕の下に隠していた本を取り出しメガネを掛けて寝転がりながら読み始める
「……この部屋じゃもう昼夜が全く分からん。サラさんの部屋と凄い違いだな」
と、小声で呟くとキッチンの方へ向かい、近くの本を土台代わりに料理を開始した
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