復讐の慰術師

紅蓮の焔

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12章 放浪

195話 お泊りの朝

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次の朝……

ガバッ!

荒い息で上体を起こすとまだ少し暗い青白い光が窓から射し込んでいた
「朝か」
寝袋から出るとパタンと折り畳み、鞄に入れると再び窓から外を眺めた
「……あら? 起きていらしたんですか?」
「あ、はい。五月蝿かったなら謝ります」
起きてきたナクリにペコリと頭を提げると、ふふっ……と小さな笑いが聞こえてきた
「大丈夫ですよ。何時もこの時間帯に起きておりますので……レンゼ様の声は全く聞こえませんでした」
微笑む栗毛の女性を見て微笑んで返すと再び窓から空を見上げた
「お好きなんですか? 空」
「ええ、こうしてると……気持ち良いので……」
「……そうなんですか」
再び空を見上げるとレンゼの目が潤った
「朝、何か食べたい物があればお聞き致しますが?」
「……いつも……皆が食べている物で構いません」
「そうですか。畏まりました」
ドアが閉まる音が聞こえ、レンゼは店の裏道を見下ろした
毛が薄汚れた野良猫がゴミ箱を漁っていてまだ少し暗かった
「ハァ……」
窓の側から離れると思いっきり伸びをした
「……遂にセントラル来たんだ……ジェネット商会の情報……税金くらい納めてるだろうし絶対にある! それからロゼの情報もガッチリ掴んでロゼを危険に晒した奴を殴り殺す!」
拳をグッと握り締めて決心すると体をほぐ
「あれ? 起きてたの~?」
「あ、あぁ~……すみません……」
レンゼが目を逸らして謝るとシルビアはポンッとレンゼの頭に手を置いてベッドを降りた
「あれ? ナクリは?」
「ナクリさんなら出て行ったみたいだけど……あ、泊めてくれてありがと! ナクリさんに謝っといて!」
鞄を肩に掛けて部屋から出てドアを閉めると凭れかかってニッと笑った
「嘗めるなよぉ……? 忘れられてたとしても俺にだって感謝の意くらいはあるんだよ……!」
走って階段の所まで行き、跳んで階段を降りるとつま先から着地して、ストッと余り音を立てずに降りる事に成功した
「ナクリさん……一体何を?」
外にもあったデルビル磁石式壁掛け電話機と同じ物がカウンターの壁に掛けられていてハンドルを回す栗毛の女性に後ろから声を掛けた
「……気付いてたんですか?」
「だって……考えてみて下さいよ。まだ誰も起きていない……外から足音すら聞こえない時間帯に起きてきて何時もこの時間帯に起きてるなんてどんな超人でも寝不足になると思いますよ」
ナクリはハンドルを回していた手を止めた
「慣れですよ」
「慣れでも毎日毎日、一人で沢山の客の料理を作ってたら倒れますよ。更に睡眠時間も少ない上に余り食事もされてなかった。そんな事してて倒れない方がおかしい事この上ない」
「……勘の良い子供ガキはこれだから嫌いなんですよ……」
溜め息を吐いて振り返ってレンゼと視線を交わした
「それで? どこまで知ってるんですか?」
「知ってるも何も……何も知りませんよ。俺はただおかしな点を挙げてみただけであって特に何か知ってる訳でもない。知っている点と言えば朝食の事を聞いておいて朝食を作っていない所ですかね? あ、後は何処かに電話しようとしてた事」
「フッ……分かりました。貴方の巧みな話術に敬意をひょうして一つ、教えて差し上げましょう。じきにこの国は化物に滅ぼされます。なので化物並の力を持つレインさんを始末すれば……この国はまだ助かるかもしれないんですよ。分かったならそこで待ってて下さい」
再び電話に向き直り、ハンドルを回し始めた
「化物? どうやって滅ぼされるとか分かったんだよ」
「一つだけとお伝えした筈ですが?」
ナクリがハンドルを回し続けていると電話から音が聞こえてきた
『どちらへお繋ぎしますか?』
「中央軍捜査本部へ」
『……畏まりました。暫くおまちください……プツッ……はい。こちら捜査本部。用件をお伝え下さい』
「はい。せんだ……」
ナクリが話し始めると同時にレンゼに足を引っ掛けられ電話に顔面をぶつけた
「邪魔する訳ですか……つまり貴方は化物の味方だ……と?」
「かけ間違えました~!」
そう叫ぶとナクリから受話器を奪い取り、元の位置に戻した
「あの人は化物じみてるけど化物じゃない。本当の化物はあんなのじゃない」
ナクリを睨んでそう言うとナクリは裾からナイフを取り出した
「邪魔をするなら客人と言えど容赦はしませんよ?」
「そうか。俺だって殺しに来るなら容赦はしない」
左手首からナイフを引き抜くと右手に持ち直して構えた
「……ではサヨウナラ」
そう言うとナクリはナイフを素早く振り下ろした
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