復讐の慰術師

12章 放浪

１９２話 案内

「レンゼちゃ～ん！　私を慰めて～！」
そう叫びながら勢い良くドアを開いてカウンターを飛び越して飛び付いて来るのを咄嗟に回避して尻餅を着くと呆気なく捕まった
「シルさん？　その子は男の子ですよ」
レインがシルビアに教えると少し固まった後、笑い出した
「そんな訳無いわよ～！　女子と男子くらい見分け付くって！」
「ですがその子は余りに女顔が過ぎており一見では女の子と思われがちですがれっきとした男の子ですよ」
「まさか～！　ねぇレンゼちゃん？　女の子だよね～」
首を振るとシルビアは驚愕の表情を浮かべた
「嘘……！　男の子だったの……！？」
シルビアは一旦離れて四つん這いになり、その間にレンゼはレインの隣へ避難した
「どうした？」
「い、いや……なんか嫌な予感がしただけ」
「それは良いのだが……私も買い物から帰って来た所なのだが？」
「じゃ、じゃあ俺も付いていくよ！　ほら、渡さないといけないんでしょ？」
必死に納得させようとしているレンゼを見て溜め息を吐くとレンゼの頭を撫でた
因みに最近、ヒールゥは項うなじか肩に居るのが気に入っているらしい
「分かったが……う～ん……まあ良いだろ」
シルビアを避けて歩いて店の奥に歩いて行く
カウンターを通ってドアを開けて中に入る。中は書類を纏めた物が棚に少しだけ入っていて、ライズリックと栗毛の天然パーマの女性が机を囲んで書類に目を通していた
入ってすぐ右側の壁にはドアが設置されていて、ライズリックの後ろには小さな窓があり赤い斜光が射し込んでいた
「店長。今日の夕飯の買い出し済ませて来ました」
「うん。ナクリに渡して～。ナクリ、そろそろ夕飯頼むよ」
「畏まりました。レイン様」
書類を机に置いて立ち上がり、レインから荷物を受け取った
「いつもありがとう」
「いえ。これが仕事ですので」
ペコリとお辞儀をすると女性はレンゼ達が入って来たドアの右側の壁にあるドアからその先に入って行った
ドアの隙間から見えた光景はキッチンの様に見えた
「あ、そうそう。レインさん悪いけどその子、シルとナクリと同じ部屋に泊まっていくから案内してあげて」
「分かりました」
「ん。ありがと～」
レインはレンゼを連れて部屋を出るとシルビアが立ち直っていて飛び付いて来た

ムギュぅ！

「むふふ～……レンゼくん可愛い～……あれ？　なんかゴツゴツ……」
「シルさん……私です……」
サッとレインの後ろに隠れていたレンゼはシルビアのハグを回避し、苦笑した
「ま、まあ、落ち着いて下さい……ほら！　お店で暴れればまた怒られますよ！」
「うぅ……分かったわよぉ……ハッ！　そ、そうよ！　早く案内してあげましょ！」
レンゼは突然態度を変えたシルビアに嫌な予感しかせず、眉間にシワを寄せた
「おと～さ～ん！　私もレンゼくんに案内しても良い～？」
「別に構わないよ～」
その声が聞こえてきた少し後、くん！？　と驚きの声が聞こえてきた
「こっちよこっち！」
カウンターの隣に上に上がる階段があった様で、その階段を登ると左右対称に二つずつドアがある通路に出た
「案内するね！　まずこっち！」
シルビアは最初に手前の左側のドアを開けて中を見せた
「ぉぅ……マジかよ……」
洗面所が壁に取り付けられ、その隣にはトイレが……しかも前世となんら遜色ないほど発達していた事にもう感嘆の言葉しか出てこなかった
因みに自動で開くとかそんな機能は今の所は無いらしい
見せ終わると反対側のドアを開けた
「こっちがお風呂！　最近のお風呂は凄いよね形とか！　特にシャワー？　だったっけ？　あれもすぐにお湯出て来るし便利！」
「こっちも……でもまだマシだけどね……！」
シャワーの事は一週間とちょっと前にメイリーの家に泊めてもらった時にお風呂に入れられたので知っていたが驚くべきはその形。水道のパイプが丸見えで、そこから一本だけ上に伸び、天井付近で曲がって下を向いていた
しかもそれだけではなく丸い小さな穴が空いている板も付けられていたのだ
「あはは……凄いですね……」
レンゼは苦笑してそう答えると少し奥に行って左側のドアを指差した
「こっちがお父さんとレインさんの部屋！　……で、私やナクリさん。レンゼくんの部屋はこの反対側！」
右側のドアを開けると、左側の壁には棚やタンスが沢山配置されていて、棚には本がぎっしりと詰まっており、棚の上にも本が天井に当たるまで置かれていて棚の前には梯子が一つ設置されていた
しかし、左側に物が集中していてそれ以外は右側の壁に少し大きなベッドが一つだけ設置されていた
「うわぉ……」