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第三章

三十話

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『わ、わかった……聖獣に認めているのは、魔力の強いモノだけだが、今回はソアの顔を立てて、特別に承認しようじゃないか』
 やった……。
 女神の寛大なご配慮、感謝いたします。
 これで、きっとお猿さんも安心ですよ。
 あ、もし別の土地で、彼女の仲間を見つけたら、ここに連れてきてあげようかな。
 いいですよね? ナターリア。
『も、もちろんじゃ……しかし、ソアもワシに中々言うようになったじゃないか。丁寧な言葉の裏にヒシヒシと感じる容赦のないプレッシャーは、精神的にじわじわと効いたぞ』
 すみません……かなり強気でいかせてもらっちゃいましたね。
 その件につきましては謝ります。
『ま、まぁ良い。ところで、仲間にした聖獣たちの様子はどうかね?』
 みんな大活躍してくれて、とてもありがたい存在です。
 特に、あのカバ妖精さんには本当に助かりましたよ……主にリオ対策で。
『あ、あぁ、そういえば妖精の女王をテイムしたのだったな。あの女王は聖獣の中でもNo.1の強さを誇るから、お主も安心して頼るが良い。しかし、我が子孫も嫉妬で自分の妻を困らせ、本気で怒られるとは情けないのう……いつまでも成長せんやつじゃ』

 え、あのカバ妖精さん、まさかの女王?! 
 しかも聖獣で一番強いの?! え、そうなの?!
 そういえば、リオも二階から飛び降りてまで逃げたらしいし……。
(人間なのに怪我しないのかよ)
 それにリオのあれ……やっぱり嫉妬だったのか。
 心が弱いとか、売り言葉に買い言葉で、私もついリオに嫌なこと言っちゃったから、向こうもあんな暴言に出たんだろうけど……。
 それでも、自分のヤキモチでお猿さんを見捨てようとしたことや、セグレット様の横で泣か……ごにょごにょ……のあの発言は、今でも絶対に許せーんっ!
 TPOを考えられないにも程があるよ!
『確かにあやつは、まだまだ未熟者じゃ。前よりは成長しているようだが……時おり、精神が子どもに戻りよる』
 ですよね、セグレット様の顔を見ただけで、なんかイラついていましたし……。
『それに、あの攻略用キャラの設定に使った金髪の御仁は、かなりイイ男だのう。ワシもお主の話を聞いているうちに、ふと気がついたのだが、捕まえた猿を部屋に放し飼いにしていたり、訪ねてきたお前たちを簡単に部屋に入れたところといい、おそらく元々わざと猿を逃すつもりの算段じゃっただろう』

 えっ、まさか……。
 ギルドマスターのセグレット様が、そんな王都のエリートに逆らうようなことを?
『そうでなきゃ、その状況でソアにすぐ追っ手がついていないことがまず腑に落ちん。しかし、お主が逃げている間は、ギルドにそんな動きは無かったのだろう? しかも、ギルドマスターである本人が、不穏な様子のお主と廊下ですれ違っているわけだから……普通だったらその時点で怪しむはずじゃ』
 確かに考えてみたらそうだ。
 横目でちらっと見た程度だが、廊下で走っていく私に、セグレット様は普通に手を振っていた。
 じゃあ、本当に私たちが情に駆られてお猿さんを逃す、もしくはリオが上に圧力かけるのを見越して……?!
 あぁ、セグレット様はやっぱり素敵な人だ。
 今度会ったら絶対にお礼を言わなくちゃ。
『まぁ、だからこそ嫉妬するのだろうがのう……子孫も。全くもって難儀なやつじゃが、まぁ良い。あやつのしたことは、ソアが怒るのもごもっともじゃろうて。お主は自分の思うままに行動せい。さて、そろそろはワシは引っ込むからな。では、さらばじゃ』
 ナターリアはそう言うと、突然反応がなくなった。

(自分の思うままに……か)
 私はこれからどうしたいのかな。
 リオとどうなりたいのかな。
 結婚して数ヶ月経っても、リオとの新婚生活は、どこかふわふわと浮ついている感じがして、私自身に実感がわいていないのも事実。
 そもそも私が日本で育った環境や、ついこないだまで送っていた寮生活とじゃ、今の生活が全然違い過ぎるんだ。
 リオとの婚約の申し出を受けた時から、ある程度は覚悟していたことだけども、やっぱり想像していたものリオと結婚と、実際に経験してみるのとでは、雲泥の差だった。
 ソアの家もだけど、執事やメイドさん、スタッフの方がいる、全てが上げ膳据え膳の貴族みたいな生活に、転生前は私だって多少なりとも憧れていたことはあった。
 あったけども、やっぱり私は根っからの庶民……すぐには慣れないわよね。

 でも……それでも侯爵家の御曹司と結婚した。
 それは、リオが好きだったから。
 確かにリオには、今日みたいに困らせられることも結構ある。
 でも……あれでも良いところも、負けないくらい沢山あるんだ。
 そばにいれば、いつも守ってくれて、何かあれば助けてくれて、あんな嫉妬なんかしなくったって、私が一番好きなのはリオだということに変わりはないのに。
 でも、そういうのって、夫婦になっても中々伝わりにくいものなんだねぇ……。
 それとも相手がリオだからというのもあるのか?
 まともな男性と付き合ったことが無いから、よく分からない。
(私の前世での彼氏いない歴、年齢と同じだったしね……)

   ◇  ◇  ◇

 私は森の中を引き返し、ドラゴンくんの待つ砂浜まで戻った。
『あるじ、おそかったね。そろそろかえるの?』
「うん、そうだね。戻ろうかな……」
 戻ると言っても、今はリオと顔を合わせづらいから、やっぱり行くならリペンドール家かな?
 ソアの実家なら、リオが勝手に入ってくることもできないし、ソアの両親には夫婦喧嘩したって伝えれば、数日くらいは匿ってくれるだろう。
(そしてドラゴンくんが降り立つ場所は……リペンドール家のそばにある、大きな木が一本生えた丘がいい。うん、あの辺りにしよう)
「とりあえず王都のほうまで飛んでもらっていい? あとはその都度で細かく教えるから」
『いいよ。くらくなるまえに帰ろう』
 私たちはナターリアの島を出発した。
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