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第三章
二十一話
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ナターリアの教会から、数キロ離れた先の森の中。
地面についた彼らの足跡を頼りに、私たちは騎士団の後を追う。
「何か聞こえるか?」
「ううん、何も……」
「団員たちもまだ化け物を見つけてねぇのか……じゃあ、サーチ」
ここで再び索敵魔法の登場だ。
羽の生えた沢山のふわふわとした光が、森の中を広範囲に飛んでいく。
今回のリオは、サーチの範囲魔法を展開させたようだ。
「……もっと何キロか先だな。多数の人間と異常な魔力のヤツがそう離れてねぇところに……いる」
「それだと騎士団と魔物の接触はすぐにでも……」
「ああ、起きる」
「ならば……急ぎましょう」
私とリオは、できる限りペースを上げて、森の奥へと駆けた。
今は昨日買った冒険者の服を着ているので、いつものワンピースよりは私も動きやすい。
◇ ◇ ◇
しばらく森の中を進むと、大きな爆発音とともに動物の威嚇した『ギィィーーッ!』という奇声が、そう遠くない場所から聞こえた。
(……いる。ピンクの化け物!)
私とリオが、騎士団のいる後ろ側から回って近づくと、魔物の姿がはっきりと見えた。
体長は5メートルくらい。
魔物の牙は、異常なほどに口の外へと飛び出し、目は白目のまま見開いていて、所々で血走っている……まさにトランス状態と言えるだろう。
体を覆うピンクの毛は、興奮のせいか棘のように鋭く逆立っていた。
そして……。
(やっぱり……猿のような見た目に、尻尾は……黄色い!)
「リオっ!」
「あぁ、間違いねぇ……島の猿だ」
私たちは魔物の姿を確認した後、見知った顔である騎士のそばへと駆けつける。
その騎士は私たちの存在に気がつくと、驚いた顔をして、魔法を唱えるのを中断した。
「ソアと……リオ殿? 一体、なぜここに?」
「お兄様! 教会のことを聞いて加勢に来ました!」
私はそう言って、思わず兄に飛びつきそうになったが……そこはなんとか抑えた。
(こんな状況だし……我慢だ、我慢!)
「義兄上、現況はどうなっている?」
「あ、あぁ……教会を襲撃した魔物を百人体制で追ってきたんだが、あの図体のわりに中々すばしっこくて、まだ捕獲できずにいるんだよ。団員の中にはすでに怪我をした者もいる」
リオの質問に答えた兄の言葉から、今の状況は騎士団側にあまり優勢とはいかないようだ。
逆に、時間が経てば経つほど、不利にもなってくるだろう。
「お兄様、さっきの爆発音は……」
「こちらの攻撃の音だが、全て避けられている。おかげで森の中の木が多数燃えて、地面は穴だらけだ。そちらの消火活動にも、今は人を取られている状態で……」
確かに、この辺一帯はすでに森の中とは思えぬほどに、焼け野原状態である。
私たちが着くまでに、かなり激戦していたことが分かる。
「団長さんは、どちらに?」
「たぶん前線にいるよ。俺はまだ新人で若造だから、後衛で団員のフォローに回っている」
シュウカンはそう言って、仲間に再び支援魔法をかけ始めた。
私の回復魔法はまだ中級程度だが、多少は援助になるだろうと自分もフォローに加わる。
森の中では、巨体であるレージドラゴンくんは召喚できないし、ライライでもあの魔物の相手は厳しそうだ。
なので、ここは私も回復と支援に専念することにした。
「もし捕まえたいなら、俺が横からヤツの動きを抑えるが……」
「リオ殿……貴方の能力の評判は聞いてます。このままでは団員の怪我は増えるばかりだ……俺が後で団長に説明しておきますので、どうかご助力をお願いします」
「了解した」
リオはそう言って、騎士団の横を素早く回り込む。
そして、少し離れた場所で、長めの詠唱を唱え出した。
リオの存在に気づいた騎士団員は、彼を護るように前へと出づる。
たとえリオのことをよく知らない団員だとしても、貴族の格好を見れば、即座に保護対象なのだろう。リオにそんな必要は、おそらくないのだけど。
そもそもあの魔物は、たぶんリオの力で……。
「……ソア、そういえばリオ殿は丸腰だったけど、彼は帯刀をしていないのかい?」
「リオはいつも持っていないですね。なんか必要だったら火でも水からでも、剣の代わりを作り出せるそうです」
「なるほど……さすがだな」
リオは詠唱を終えると、猿の魔物に重力の増強魔法をかけた。
これは、霊峰山にいたドラゴンにも使った術である。
リオの重力魔法がかかると、ピンク猿は一気に地面へとめり込み、動きが止まった。
そしてリオは、即座に拘束魔法を展開させる。
光のロープが猿の魔物の体に巻きつき、完全に動きを封じ込めた形だった。
(これ、ドラゴンの元へ行く日の朝、リオが私にかけようとしたのと同じヤツじゃん。こんなのを自分の妻に使おうとするなんて……もう、リオめ~!)
私は呆れた顔で見ていたが、リオは猿を見下ろしながら複雑な顔をしている。
「……すごい」
シュウカンがそう言って驚いていると、騎士団員たちから、突如リオに向けて歓声があがった。
地面についた彼らの足跡を頼りに、私たちは騎士団の後を追う。
「何か聞こえるか?」
「ううん、何も……」
「団員たちもまだ化け物を見つけてねぇのか……じゃあ、サーチ」
ここで再び索敵魔法の登場だ。
羽の生えた沢山のふわふわとした光が、森の中を広範囲に飛んでいく。
今回のリオは、サーチの範囲魔法を展開させたようだ。
「……もっと何キロか先だな。多数の人間と異常な魔力のヤツがそう離れてねぇところに……いる」
「それだと騎士団と魔物の接触はすぐにでも……」
「ああ、起きる」
「ならば……急ぎましょう」
私とリオは、できる限りペースを上げて、森の奥へと駆けた。
今は昨日買った冒険者の服を着ているので、いつものワンピースよりは私も動きやすい。
◇ ◇ ◇
しばらく森の中を進むと、大きな爆発音とともに動物の威嚇した『ギィィーーッ!』という奇声が、そう遠くない場所から聞こえた。
(……いる。ピンクの化け物!)
私とリオが、騎士団のいる後ろ側から回って近づくと、魔物の姿がはっきりと見えた。
体長は5メートルくらい。
魔物の牙は、異常なほどに口の外へと飛び出し、目は白目のまま見開いていて、所々で血走っている……まさにトランス状態と言えるだろう。
体を覆うピンクの毛は、興奮のせいか棘のように鋭く逆立っていた。
そして……。
(やっぱり……猿のような見た目に、尻尾は……黄色い!)
「リオっ!」
「あぁ、間違いねぇ……島の猿だ」
私たちは魔物の姿を確認した後、見知った顔である騎士のそばへと駆けつける。
その騎士は私たちの存在に気がつくと、驚いた顔をして、魔法を唱えるのを中断した。
「ソアと……リオ殿? 一体、なぜここに?」
「お兄様! 教会のことを聞いて加勢に来ました!」
私はそう言って、思わず兄に飛びつきそうになったが……そこはなんとか抑えた。
(こんな状況だし……我慢だ、我慢!)
「義兄上、現況はどうなっている?」
「あ、あぁ……教会を襲撃した魔物を百人体制で追ってきたんだが、あの図体のわりに中々すばしっこくて、まだ捕獲できずにいるんだよ。団員の中にはすでに怪我をした者もいる」
リオの質問に答えた兄の言葉から、今の状況は騎士団側にあまり優勢とはいかないようだ。
逆に、時間が経てば経つほど、不利にもなってくるだろう。
「お兄様、さっきの爆発音は……」
「こちらの攻撃の音だが、全て避けられている。おかげで森の中の木が多数燃えて、地面は穴だらけだ。そちらの消火活動にも、今は人を取られている状態で……」
確かに、この辺一帯はすでに森の中とは思えぬほどに、焼け野原状態である。
私たちが着くまでに、かなり激戦していたことが分かる。
「団長さんは、どちらに?」
「たぶん前線にいるよ。俺はまだ新人で若造だから、後衛で団員のフォローに回っている」
シュウカンはそう言って、仲間に再び支援魔法をかけ始めた。
私の回復魔法はまだ中級程度だが、多少は援助になるだろうと自分もフォローに加わる。
森の中では、巨体であるレージドラゴンくんは召喚できないし、ライライでもあの魔物の相手は厳しそうだ。
なので、ここは私も回復と支援に専念することにした。
「もし捕まえたいなら、俺が横からヤツの動きを抑えるが……」
「リオ殿……貴方の能力の評判は聞いてます。このままでは団員の怪我は増えるばかりだ……俺が後で団長に説明しておきますので、どうかご助力をお願いします」
「了解した」
リオはそう言って、騎士団の横を素早く回り込む。
そして、少し離れた場所で、長めの詠唱を唱え出した。
リオの存在に気づいた騎士団員は、彼を護るように前へと出づる。
たとえリオのことをよく知らない団員だとしても、貴族の格好を見れば、即座に保護対象なのだろう。リオにそんな必要は、おそらくないのだけど。
そもそもあの魔物は、たぶんリオの力で……。
「……ソア、そういえばリオ殿は丸腰だったけど、彼は帯刀をしていないのかい?」
「リオはいつも持っていないですね。なんか必要だったら火でも水からでも、剣の代わりを作り出せるそうです」
「なるほど……さすがだな」
リオは詠唱を終えると、猿の魔物に重力の増強魔法をかけた。
これは、霊峰山にいたドラゴンにも使った術である。
リオの重力魔法がかかると、ピンク猿は一気に地面へとめり込み、動きが止まった。
そしてリオは、即座に拘束魔法を展開させる。
光のロープが猿の魔物の体に巻きつき、完全に動きを封じ込めた形だった。
(これ、ドラゴンの元へ行く日の朝、リオが私にかけようとしたのと同じヤツじゃん。こんなのを自分の妻に使おうとするなんて……もう、リオめ~!)
私は呆れた顔で見ていたが、リオは猿を見下ろしながら複雑な顔をしている。
「……すごい」
シュウカンがそう言って驚いていると、騎士団員たちから、突如リオに向けて歓声があがった。
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