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第二章

十五話

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 そういえば、リオには兄との会話も聞かれてたかな?
 そんな変なこと言ってないから大丈夫だと思うけど、なんかそこまで監視されるのって、ちょっと窮屈よねぇ……。
(……よし、リオにはいつもやられっぱなしだし、さっきもらった変身アイテム使って、ちょっとだけ驚かせちゃおうかな)
 いきなりソアが見つからなくなったら、きっと焦るに違いない。
 リオのそんな姿を傍目で見ているのも楽しそうだ。くふふ。

 私は服屋で試着した服をそのまま購入し、店を出た。
 そして建物のかげに隠れてから、変身アイテムを自分に使う。
 その瞬間、香桜かおの姿になれるよう、強く念じた。
 体に変化を感じた私は、湖に映った自分を確かめてみる。
(おお! やった、大成功!)
 見事、前世の陸奥むつみ香桜かおの姿になった私は、思わず懐かしさが込み上げてきた。
 文句なしに日本人だけどさ、やっぱ良いよね……だって、生まれた時からずっと一緒だったんだもの。
 ……さて、センチメンタルな気分はひとまず置いといて、せっかくだし街をうろうろしますか。
 今の服は冒険者用だし、長い黒髪はフードで隠したし、これなら絶対に気づかれないぞ。うふふ。

   ◇  ◇  ◇

(うっそ……)
 ……本当に気づかれないんですけど。
 さっき橋のところでリオの近くを通ったけど、普通に素通りされたし、全く見向きもされなかった。
 えっ、私けっこうショック受けてる?
 でもまぁ、目的は達成できたんだから、とりあえずここは切り替えて……。
 せっかくだし、トクたちの顔を見に馬の宿舎の方へ行ってみよう。

『あれ? お嬢、なんか姿が変わった?』
「トク! やっぱり、あなたには私が誰だか分かるのね」
『そりゃあ、分かるよ。だって、匂いが変わらないもの』
 そうかぁ、さすがは動物だわ。
 姿が変わっても、すぐに分かってくれる誰かがいるってのは嬉しいわねぇ。
「トク、ここの食事は美味しいって言ってたじゃない? だから私、トクにお土産を持ってきたのよ。これ、良かったら食べて」
『ヒヒンっ! 美味しそうなリンゴの匂い!』
 私は手に持っている包みを開けて、トクに見せた。
「リンゴサンドですって。パンに挟んであるの。トクはパンも好きでしょ? いっぱい買ったから隣の子と一緒に食べて」
『ありがとう、お嬢!』
 私はトクともう一人の馬さんの足元に、サンドウィッチを置いた。
 二頭は嬉しそうに食べている。

 ふと、後ろを振り向くとリオがこちらへと向かってくるのが見えた。
 私は思わず左手を袖の中に隠し、トクたちの横で固まる。
「……トクはまだいるしな。この街から出たわけじゃなさそうだ。なぁ、トク……ソアを見てねぇよな?」
『ソアはここにいるのに……ご主人様は変身したこと知らないのかい?』
 私は横にいるトクに苦笑いだけを返した。
「……俺にも馬の言葉が解ればな。街の中をもう少し探してみっか。全く……どこ行っちまったんだか」
 リオはそう言うと、馬の宿舎から離れていく。
「……はぁ、びっくりした」
『ソア、ご主人様には教えてあげないの?』
「あ、今リオとは隠れんぼしてて……」
『そうなんだ。それにしては元気がなかったけど……』
 確かにそうかもしれない。
 ちょっと意地悪だったかな。
 でも、このアイテムの効果って、どうやったら解除できるんだろう?


 私はトクと別れた後、広場に戻った。
 そして少し死角になった場所のベンチに座って休んでいる。
(はぁ、風が気持ちいい……このまま寝てしまいそう)
 しばらく、うつらうつらしていたら、誰かがこちらへと近づいてきた。
「……ソア、ここか?」
 またリオの声だ……!
 思わずドキリとする。
 今度こそバレちゃったのかな?
「あ、あの……」
「あぁ、なんだ……さっきの子供か」
(ほぇ、気づいてない。しかも子供ってなに?)
 ソアよりも、香桜かおの背は高いはずだし、香桜わたしってそんなに童顔かしら。

「ん? お前、迷子じゃねえよな? 俺も今、大切な人を探してて……」
「大切な人……」
 リオの言葉で私の顔は赤くなった。
 見られないよう、慌ててフードで隠す。
「どこ行っちまったのかなぁ……この街にいるのは間違いねぇんだが……」
「え、えっと……」
 そう言ってリオは隣に座ったが、ちょっと疲れているようにも見えた。
「気配はするんだ。でも姿が見えねぇし、そいつの兄貴もここシャームにいるから、ダブってよく探せねぇんだ。指輪の効力も何か強ぇ力で邪魔されてるし……この街で新しい聖獣でも見つけたんかな」
 リオ、知らない相手の筈なのによく喋るね。
 ちなみに聖獣は見つけてません。
 って、リオはあれからずっと私を探してくれていたのか……ちょっと罪悪感を感じる。
「お前、魔力すごい強いだろう? 俺と同じ匂いがプンプンするぜ。しかも何か懐かしい感じもする」
「えっ?」
 香桜かおはこの世界で魔力が強い?
 それは知らなかった。
 余興用のアイテムで変身しただけなのに、すごい再現力だなぁ。

「はぁー……大事な女一人探せない。情けねぇなぁ……こんなことなら離れるんじゃなかった」
 リオ……なんか色々とごめん。
 探している相手、目の前にいるんだけどね。
 気配も指輪も辿れなくて、見た目もここまで別人だったらさすがにリオでも分からないよね。
「お前も、好きな女はとことん守れよ」
「は……」
 もしかして私、ずっと少年だと思われてた?
 まじか……まぁ、別に良いんだけどさ。
 こうやってリオの本音も聞けたし、リオから逃れたい時はこの手が使えるじゃんとかちょっと思ってたけど、今はそんな気も失せている。
(あとで道具屋さんに、早めに戻る方法があるか聞いてみよう)
 私がそう決心した時、急に吹いた強めの風に煽られて、よろけた拍子に私の肩がリオの腕にそっと触れると、スゥと気持ちの良い何かが体の中を巡った。

「い、今のは……」
「お前、俺の魔素に反応した?」
 ……魔素?
「ぼ、僕の力がお兄さんに何かしたの?」
「無意識か……今、俺の魔力がお前に持ってかれたんだよ。触れただけで」
 え、そんなことってある?
 ナターリアが香桜わたしを選定したのって、もしかしてコレが理由……?
「ところでお前、どっから来たんだ? その格好は冒険者なんだろ?」
「あ……ぼ、僕っ! そろそろ行かないと!」
 私は慌てて立ち上がり、座っていたベンチから後ずさった。
 このままだと、なんか色々とボロが出そうで……。
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