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第一章
三話
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ルルムの街にある、リオのご両親から譲っていただいた別邸に私たちは今住んでいるが、例のドラゴンというのは、この街の西門から出て北へと進んだ先にある、霊峰山の上にいるらしい。
今までは、これといった人間とのトラブルも聞かなかったというが、最近になって近隣の村で暴れ出しているというのだ。
一体どうしてなのかは、ナターリアにも分からないらしいが、霊峰山のドラゴンが倒されることで、世界が危なくなってしまうのなら、女神に名指しされた私は、もうそこへ行くしかないだろう。
クラークさんには確か乗馬できる単独の馬をお願いしたはずだったのだが、彼に用意されたものは馬車だった。
「その、なぜ馬車を……?」
「はい……リオ様がいない間に、奥様に何かあっては困りますもので、護衛を何人かつけることになりました。その際、荷も増えたので馬車に……」
「クラークの気持ちはありがたいけど……でも、急ぐんです……こうしている間にも、世界が危機になってしまうかも。それに、ちんたら馬車でなんか行ってられないんですよ。私は自分の最低限の荷だけ持って、先に行っていますから、一人で乗れる馬をすぐに用意してください。行き先は霊峰山です」
「かしこまりました……出過ぎた真似をして申し訳ございません」
やばいな……クラークさんは確かに護衛をつけることになりましたと言った。
つまり、誰かが命令したということだろう。
彼に命令できる立場の人間は限られている。
そう、つまりリオ……とかね。
まぁどちらにせよ、あまり時間はないのだ。
私は即席で用意された馬へとまたがり、すぐに出発した。
「急にごめんね、馬さん。よろしく」
『お嬢、久しぶりだね。なに、お安い御用さ』
この馬さんは、前に王都や雷鳥がいる山へ行く時にとても世話になった子だ。
とりあえず、私たちは西門を出て、北へ北へと先を目指した。
(馬で走れば、霊峰山まで数時間でたどり着けるはず)
ナターリアとは、夢の中や神殿でしか会話することができないので、移動中に詳細を確認できないのが困りものだ。
ルルムの街の西門を出る際、見慣れぬ冒険者たちが街へ入っていくのが見えた。
もしかして、これからギルドに集まって……準備ができ次第討伐に?
もしそうだとしたら、やはりあまり時間がない。
道も絶対に間違えれないし……。
私は手綱を持つ腕に集中して、先を急いだ。
◇ ◇ ◇
「疲れたら言ってね」
『大丈夫。僕は馬の中でも体力がある方なんだよ』
馬を走らせていて、本人から直接様子を教えてもらえるのは、私にかなり有利な部分だ。
困った時はすぐに対処できるし、馬との連携もばっちりである。
「山の近くの村に着いたら、一度休憩しようね」
『そうしてもらえると、ありがたい。そういえば、僕はご主人様からトクという名前をつけてもらったよ』
「トクね? 私はソアよ。よろしく、トク」
そうして、ルルムの街を出てから、随分と時間が経ったが……。
「どうしよう……目的の村が全然見えてこない」
もしかして、道を間違えたのだろうか。
ずっと北へ北へと進んできたけど、もしかしたら完全に北ではなかったのかもしれない。
私は途端に焦り出す。
「こんな時、スマホがあればすぐに地図で確認できるのに……」
『ソア嬢、落ち着いて? この辺は僕もあまり来たことがなくて不慣れだけど、少し先に人の声がうっすらと聞こえるよ。確かに予定よりちょっと遅くなったけど、たぶんもう少しで村に着くんじゃないかな?』
「ホント? それなら良かった」
トクの言った通りに先まで進むと、小さな村が見えた。
ここが、目的の近隣の村だろうか?
私は入口のところに立っている、門番のような人に尋ねてみた。
「すみません、ここは霊峰山の近くの村ですか?」
「そうですよ。最近、ドラゴンが村に降りてくることがあって警戒してます。今はまだ、人命を犠牲にすることなく追い払うことができていますが……いつまたドラゴンが襲撃してくるか分からないので、旅人の方も村の中をうろつく際は、重々気をつけてください」
彼の警告の言葉に私は頷いた。
とりあえず、この村で合ってはいたようだ。
そして、やはりドラゴンのことで村の人たちはとても困っているもよう。
私はトクから降りて、その場で彼に水を提供する。
トクはかなり喉が渇いていたようで、ガブガブと音を立てて水を美味しそうに飲んでいた。
「あの……もしかして、ソア様という方ですか?」
少し経って、門の外に馬の紐を繋げようとしていたら、村の衛兵ぽい人に突然名前を呼ばれた。
「え、はい、そうです……でも、どうして名前……」
「お連れの方が村でお待ちです。こちらへ、どうぞ」
……連れ?
もしかして、馬車の方が先に着いてしまったんだろうか?
しかしその割には村の外にそれらしき乗り物はないし、馬が三体繋がれているだけだ。
もちろんこの場に白馬のアナもいない。
もしや、護衛の人たちも馬車から乗馬に変えて、私をすぐに追いかけてくれたのだろうか。
でも、それよりも……。
「後から出発した護衛の人に追い越されるなんて、着くのがそんなに遅くなってしまった? どうしよう……衛兵さん、ごめんなさい。あまり時間がないかもしれなくて、やっぱり村には寄らずに山の方へ向かいます!」
「えっ、ちょ……」
私は嫌な予感がして、彼の静止も聞かずにトクにまたがり、霊峰山まですぐに出発した。
「トクごめんね! 山のふもとまで着いたら、そこで私を降ろしてくれていいから。食事も置いて行くし、ゆっくり食べて待ってて!」
『了解了解!』
彼にはずっと走ってもらってたから、少しスピードは抑え目に走る。
私の計算だと、あと30分ほどで着くはずなんだ。
せめて、ギルドの冒険者たちよりも先に入口までは到着しないと!
今までは、これといった人間とのトラブルも聞かなかったというが、最近になって近隣の村で暴れ出しているというのだ。
一体どうしてなのかは、ナターリアにも分からないらしいが、霊峰山のドラゴンが倒されることで、世界が危なくなってしまうのなら、女神に名指しされた私は、もうそこへ行くしかないだろう。
クラークさんには確か乗馬できる単独の馬をお願いしたはずだったのだが、彼に用意されたものは馬車だった。
「その、なぜ馬車を……?」
「はい……リオ様がいない間に、奥様に何かあっては困りますもので、護衛を何人かつけることになりました。その際、荷も増えたので馬車に……」
「クラークの気持ちはありがたいけど……でも、急ぐんです……こうしている間にも、世界が危機になってしまうかも。それに、ちんたら馬車でなんか行ってられないんですよ。私は自分の最低限の荷だけ持って、先に行っていますから、一人で乗れる馬をすぐに用意してください。行き先は霊峰山です」
「かしこまりました……出過ぎた真似をして申し訳ございません」
やばいな……クラークさんは確かに護衛をつけることになりましたと言った。
つまり、誰かが命令したということだろう。
彼に命令できる立場の人間は限られている。
そう、つまりリオ……とかね。
まぁどちらにせよ、あまり時間はないのだ。
私は即席で用意された馬へとまたがり、すぐに出発した。
「急にごめんね、馬さん。よろしく」
『お嬢、久しぶりだね。なに、お安い御用さ』
この馬さんは、前に王都や雷鳥がいる山へ行く時にとても世話になった子だ。
とりあえず、私たちは西門を出て、北へ北へと先を目指した。
(馬で走れば、霊峰山まで数時間でたどり着けるはず)
ナターリアとは、夢の中や神殿でしか会話することができないので、移動中に詳細を確認できないのが困りものだ。
ルルムの街の西門を出る際、見慣れぬ冒険者たちが街へ入っていくのが見えた。
もしかして、これからギルドに集まって……準備ができ次第討伐に?
もしそうだとしたら、やはりあまり時間がない。
道も絶対に間違えれないし……。
私は手綱を持つ腕に集中して、先を急いだ。
◇ ◇ ◇
「疲れたら言ってね」
『大丈夫。僕は馬の中でも体力がある方なんだよ』
馬を走らせていて、本人から直接様子を教えてもらえるのは、私にかなり有利な部分だ。
困った時はすぐに対処できるし、馬との連携もばっちりである。
「山の近くの村に着いたら、一度休憩しようね」
『そうしてもらえると、ありがたい。そういえば、僕はご主人様からトクという名前をつけてもらったよ』
「トクね? 私はソアよ。よろしく、トク」
そうして、ルルムの街を出てから、随分と時間が経ったが……。
「どうしよう……目的の村が全然見えてこない」
もしかして、道を間違えたのだろうか。
ずっと北へ北へと進んできたけど、もしかしたら完全に北ではなかったのかもしれない。
私は途端に焦り出す。
「こんな時、スマホがあればすぐに地図で確認できるのに……」
『ソア嬢、落ち着いて? この辺は僕もあまり来たことがなくて不慣れだけど、少し先に人の声がうっすらと聞こえるよ。確かに予定よりちょっと遅くなったけど、たぶんもう少しで村に着くんじゃないかな?』
「ホント? それなら良かった」
トクの言った通りに先まで進むと、小さな村が見えた。
ここが、目的の近隣の村だろうか?
私は入口のところに立っている、門番のような人に尋ねてみた。
「すみません、ここは霊峰山の近くの村ですか?」
「そうですよ。最近、ドラゴンが村に降りてくることがあって警戒してます。今はまだ、人命を犠牲にすることなく追い払うことができていますが……いつまたドラゴンが襲撃してくるか分からないので、旅人の方も村の中をうろつく際は、重々気をつけてください」
彼の警告の言葉に私は頷いた。
とりあえず、この村で合ってはいたようだ。
そして、やはりドラゴンのことで村の人たちはとても困っているもよう。
私はトクから降りて、その場で彼に水を提供する。
トクはかなり喉が渇いていたようで、ガブガブと音を立てて水を美味しそうに飲んでいた。
「あの……もしかして、ソア様という方ですか?」
少し経って、門の外に馬の紐を繋げようとしていたら、村の衛兵ぽい人に突然名前を呼ばれた。
「え、はい、そうです……でも、どうして名前……」
「お連れの方が村でお待ちです。こちらへ、どうぞ」
……連れ?
もしかして、馬車の方が先に着いてしまったんだろうか?
しかしその割には村の外にそれらしき乗り物はないし、馬が三体繋がれているだけだ。
もちろんこの場に白馬のアナもいない。
もしや、護衛の人たちも馬車から乗馬に変えて、私をすぐに追いかけてくれたのだろうか。
でも、それよりも……。
「後から出発した護衛の人に追い越されるなんて、着くのがそんなに遅くなってしまった? どうしよう……衛兵さん、ごめんなさい。あまり時間がないかもしれなくて、やっぱり村には寄らずに山の方へ向かいます!」
「えっ、ちょ……」
私は嫌な予感がして、彼の静止も聞かずにトクにまたがり、霊峰山まですぐに出発した。
「トクごめんね! 山のふもとまで着いたら、そこで私を降ろしてくれていいから。食事も置いて行くし、ゆっくり食べて待ってて!」
『了解了解!』
彼にはずっと走ってもらってたから、少しスピードは抑え目に走る。
私の計算だと、あと30分ほどで着くはずなんだ。
せめて、ギルドの冒険者たちよりも先に入口までは到着しないと!
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