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第一章

一話

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「あ~……仕事だる。ソア、食い終わったらこのままベッドへ直行しねぇ?」
「何言ってんの、あんたまた寝る気? というか、今さっき起きたばかりでしょうが」
 広い広いテーブルでの朝の食事中、目の前に座っている人物から突然放たれた言葉。
 黒い髪に猫のような輝く金色の目を持ち、鼻筋の整ったバランスの良い顔出ち……この美しすぎる外見に反して、いつも粗暴な彼の態度や言動には、かなりのギャップを感じざるを得ない。

「そういう意味じゃねぇんだよ」
「なら、どういう意味よ」
「ちっ、察しのわりぃやつだな」
 この会話相手の名前は、リオ・ダンシェケルト。
 侯爵家の御曹司で大金持ち、頭脳も優秀で魔法能力は高く、超ハイスペック男子なのだが、この通り中身は俺様オラオラ系の紛うことなき性格破綻者……そして、私の現夫げんぷでもあった。
 さらに、彼の持つ魔力量は尋常ではない。
 諸事情により私が不在中、こいつは魔力暴走を起こし、危うく世界を危機に陥れる寸前というところまでいった過去がある。

 変わってこの私はというと、実はこの世界の住人ではなく、元々は異世界の人間だった。
 別の世界の日本という国から生まれた、本名睦見むつみ香桜かお、享年18歳である。
 大学入学を前にして、溺れた子犬を助けるため川に飛び込んでしまい、子犬を岸に上げて力尽き、命を落とした。
 そして、気づいたら異世界に転生していたのだ。

 この世界は、私が日本にいた頃にやっていた乙女ゲームにとても酷似していた……が、最終的にここは乙女ゲームの世界ではなかった。
 いつか世界を破滅に導くリオの暴走を止めるため、女神の選定により、たまたま選ばれ転生させられたのが私だ。

 そして生前私がどハマりした乙女ゲームは、私が転生後、この世界で適応しやすいよう女神によって作られた特注のものだったというのが真相。
 そのため、現実のこの世界とゲームの世界では、設定にだいぶ差異があった。
 ちなみに女神のゲームでは、リオ・ダンシェケルトという人物は、私にとってはかなりのNGキャラであり、攻略どころかちょっとしたイベントすら回避し続けていたほどに苦手なタイプだったのだ。

 しかし、いざ転生してみれば、今は現実のリオと一緒に住んでいるというね。
 なんだ、これ。 
 女神に用意されたこの少女の体、年齢で言うと17歳。
 少しウェーブした青い長髪に茶色の目をもつ、かなりの美少女である。
 今年、リオと晴れて夫婦となったソアは、ソア・リペンドール改め、ソア・ダンシェケルトとなった。
 正直なところ……この名前にはまだ慣れていないんだけどね。

「仕事サボって、今日は一日セックスしたいと俺は言ってんだよ」
「ああ、そうでしたか。では、お断りします」
 私はいつも通り、リオの無茶な提案を突っぱねた。
「……拘束魔法、展開」
「!」
 こちらに向けられたリオの手が光った瞬間、私は慌ててシールド魔法を自分にかけた。
 なんとか阻害ブロックはできたが、その際に目の前の食事が吹っ飛んでしまう。
 こやつ……本当、どこまで頭がおかしいんだ。

「ちっ、学校で余計な力つけやがって」
「へへー残念でしたっ」
「夜はぜってぇ犯すからな、ソア!」
「だからお前、それただの犯罪だっつの!」
 途端に機嫌が悪くなったリオは、黙って部屋を出て行く。
 そして、待機していたメイドさんが、散乱したお皿などを慌てて片付けていた。
(はぁ、リオのこういう所、本当嫌っ……これでも新婚なんだから、もう少しムードというものをね……)
 私は別にリオとセックスしたくないわけではない。
 でも、そういうのって無理強いすることじゃないし、時と場合を考えて自然に発生するものだと思うんだわ。
 こいつはゆがんだ性格と言動で、絶対に人生を損している。


 この一年……私たちの学業はそれなりに忙しかった。
 私が異次元の狭間に落ちたせいで、二人ともこの世界での二年間を棒に振ってしまったから、最後の一年で勉強三年分を一気に詰め込んだ形だ。
(まぁ、成績優秀で魔法も超上級者なリオは、たぶん余裕だったろうけどね)

 そもそもリオは、魔力暴走を起こして世界を危なくした張本人。
 あのまま私があいつを止めることができなかったら、リオ自身の異形化がさらに進んで……最悪、世界でとかになっていたかもしれない。
 まぁ、リオの体も元に戻ったし、今は夫婦になれたのだから、そこは良かったんだろうけども……。
 たまにこいつの愛が重い異常性が強いのは言わずもがな。

 リオはこないだ19歳になった。
 そして私の転生先の、このソアの体……実はこの世界で不在だった二年分は全く成長していないのだが、書類上ではリオと同学年になっている。
 時間の流れが違う時空の狭間に落ちてしまったせいで、こちらの世界では二年も経っていたのが、私の方では一日も時間が進んでいなかったからだ。
 この私不在の空白の二年間は、リオにとって精神的にかなり影響が大きかったようで、私が戻った後もしばらくは様子がおかしかった。
 どこか追い詰めていた感じだったし、私が少しでも離れると怒り出すこともしばしば……。

(わかってる……二人が一番良かった時に、私が突然消えてしまったことで、あいつの心にかなりの傷を与えてしまったということは……)
 そんな状態で一年間を過ごして、学校の卒業と同時に式を挙げ、夫婦となった私たち。
 リオも春から初任式とか、侯爵家の仕事とか忙しかったから、今また少し不安定になっているんだと思う。
 すれ違い生活が多くて、ずっとレス気味だったし……。
 こうやって結婚し一緒に住むようになったのに、中々時間が合わないことにリオは不満なのだろう。
 でも……どうしよう。
 ナターリア(女神)から、また世界の危機ってことで、厄介な任務を押し付けられていて、私はしばらくこの街から離れなければいけないかもなんだけど……。
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