上 下
33 / 34
最終章

三十三話

しおりを挟む
 私たちは王都の西口に着き、ヒエウまでの遠距離馬車を門から少し離れた場所で腰を下ろして待っている。
「そういえば……この間にちょっと調べてみようかな」
「調べる?」
 アレクの言葉に私は頷き、鞄から鑑定アイテムを出した。
 そして自分の額に当ててみる。

 性別:女
 レベル:34 転生者
 特技、魔法:回復魔法/中級
 パッシブスキル:高貴なる乙女
 ユニークスキル:威圧魔法/上級

「あれ……隠しステータスが無くなってる」
 私に魔法をかけた魔族が死に、無事に記憶が戻ったからだろうか?
 貴族じゃなくなっても、このパッシブスキルは消えないんだな……それに……。
「転生者ってなに?」
「うわっ、アレク! 勝手に許可なく覗くなよ!」
 もう、びっくりするだろ!
 それにアレクに自分のステータスを見られるなんて……ちょっと恥ずかしいじゃないか。
「フォル……この転生者って……」
 そんな私の言葉もどこ吹く風か。
 アレクは全く気にした様子もなく、何度も同じことを聞いてくる。
 少しまずい部分を彼に見られてしまったかもしれない。
「えっとそこは急に変わったから、私も初めて見た表示だし何のことだかさっぱり?」
「ふ~ん……俺はここ、いつも英雄の末裔になってる」
「おぉ、英雄……さ、さすがはアレクだな」
「の末裔だけど」
 いやいや、充分アレクはこの世界の英雄だと思いますがね。
 本人にはあまり自覚がないのかな?
 そういうところはとても謙虚だね。
 それにしても……さっきから、アレクがずっと私の顔を見つめてくるんだけど……。
 うーん、何かな?
 どうしたのかな?
「あと三年くらいは俺も待つ……かなぁ」
「え~っと、一体なんの話?」
「キスはあと一年くらい……」
「キ……だからアレクは何を……」
「口に出して言っていいの?」
 アレクはニヤっとした笑顔を向けた。
「うっ……」
 くそ……こいつ、やっぱりカッコいいな。
 それに絶対女慣れしてやがる。
 まぁ初めて会った時に、女には困ってないって自分で言ってたくらいだし?
 さぞかしおモテになったのだろうよ、今までもこれからも。
 もし私の前世の年齢がアレクに知られてしまったら、即効で彼との関係が進んでしまいそうだ。
 だからこの事実は永遠に伏せておこうと思う。
 じゃないと、急展開過ぎて私の心が保たん!

「それで……レイはさっきから何やってんの?」
「あぁ、フォル……ちょっと試しに転移サークルを出してみようと思ってね……でも、なんかダメなのよね」
「んー……ちょっと失礼」
 私はレイの額に鑑定アイテムを使ってみた。

 性別:女
 レベル:29 大魔女の末裔
 特技、魔法:火、水魔法/上級
 パッシブスキル:なし
 ユニークスキル:転移魔法/上級

「あ……隠しステータスが無くなってるわ! クランで調べた時は、封印されし魔女になってたから……」
「良かった……でもじゃあ、なんで使えないんだろう?」
 レイと私はうーんと考える。
 すると私たちの横で、大きなため息が聞こえた。
「マジックポイントが足りないんじゃないか? さっきの戦闘でだいぶ使ってただろ?」
「あ……」
 そうだったそうだったと私たちは笑った。
 その時のアレク師匠の呆れた顔が忘れられない。

 しばらくしてやってきた馬車に私たちは乗り込んだ。
 今回はラッキーなことに、客は私たちだけだ。
 しばらくは仲間だけでゆっくりできそうである。
「ヒエウに戻ったら、助けてくれたオルト兄弟にまた会えるかな」
「オルト兄弟?」
「うん、林の中で困ってるところを助けてくれたんだ」
 私は二人に彼らのことを詳しく話した。
 
「この服も一緒に選んでくれて……」
「ふ、服を選んだ?」
「うん、前に着てた服、かなりボロボロになっちゃったから……でも、この服可愛いって言ってくれたよ」
 アレクはじっと見てくる。
 そんなに似合うかしら? なんて。
「すごく可愛いわよ~? 選んでくれた兄弟くんたちはセンスがいいわね」
「うん、嬉しかった。可愛いから嫁に欲しいとまでお世辞を言ってくれて……」
「あら~? それはきっとお世辞じゃないわよぉ?」
 レイはそう言いながらニヤニヤした顔でアレクを見ているのが、少々気になるところではあるけれど。
「……フォル、他に欲しい服があるか?」
「え、今? そうだねぇ……クエストに行く用の装備は欲しいけど……でも、自分で買うから別にいいよ?」
「じゃあ小物とか……」
「アレクはこの剣を買ってくれたじゃないか……それで充分だよ」
 私は短剣をぎゅっと握りしめた。
 この二つの剣はアレクが選んでくれたとても大事な宝物だ。
「そういえば、あの布……」
 私はふと、アレクから前にもらったあの藍色の布を思い出した。
「あぁ、あれか…… まだ持ってるけど、さすがに……」
「洗濯して使えるかな?」
「え、捨てないのか?」
 私は首を縦に振る。
「私にとっては大事なお守りみたいな物なんだ……捨てられない」
「フォル……」
 するとレイは馬車の中で急に私たちから距離を取って、くるっと窓の方を向いた。
「アレク、私は後ろの方を向いてるので、ぜひどうぞ? さぁどうぞ? いざ!」
「レイ、お前な……」
「ん? なんの話だ?」
 私は首を傾ける。
 この二人はまた一体何をやってるんだ?
 コントか? 
「一年は待つ……いや、16歳になったら……ってことで。そこまでは俺の理性が……あぁ、くそ」
「16歳……私の誕生日は来月だけど?」
「はっ?」
「えっ?」
 記憶が戻ったから、その辺のことも思い出したんだ……しっかりと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

冤罪で殺された悪役令嬢は精霊となって自分の姪を守護します 〜今更謝罪されても手遅れですわ〜

犬社護
ファンタジー
ルーテシア・フォンテンスは、《ニーナ・エクスランデ公爵令嬢毒殺未遂事件》の犯人として仕立て上げられ、王城地下の牢獄にて毒殺されてしまうが、目覚めたら精霊となって死んだ場所に佇んでいた。そこで自分の姪と名乗る女の子《チェルシー》と出会い、自身の置かれた状況を知る。 《十八年経過した世界》 《ルーテシアフォンテンスは第一級犯罪者》 《フォンテンス家の壊滅》 何故こんな事態となったのか、復讐心を抑えつつ姪から更に話を聞こうとしたものの、彼女は第一王子の誕生日パーティーに参加すべく、慌てて地上へと戻っていく。ルーテシアは自身を殺した犯人を探すべく、そのパーティーにこっそり参加することにしたものの、そこで事件に遭遇し姪を巻き込んでしまう。事件解決に向けて動き出すものの、その道中自分の身体に潜む力に少しずつ目覚めていき、本人もこの力を思う存分利用してやろうと思い、ルーテシアはどんどん強くなっていき、犯人側を追い詰めていく。 そんな危険精霊に狙われていることを一切知らない犯人側は、とある目的を達成すべく、水面下で策を張り巡らせていた。誰を敵に回したのか全てを察した時にはもう手遅れで……

虐められて引きこもりになって自殺して悪役令嬢に転生した私は、とことん破滅への道を突き進みますわ!

奏音 美都
恋愛
 小さい頃から、虐められ体質だった。幼い頃は顔がブスだから、無愛想だから、無口だからと虐められ、小学生になると更に母親がいないから、バカだから、貧乏だから、臭いからと虐められ、中学生になると私の存在自体が目障りだと虐められ……引きこもりになった。  さようなら、つまらない私の人生……  今度生まれ変わったら、生きてる実感を持てるような人生を歩んでみたい。  そんな私を待っていたのが、乙ゲーの悪役令嬢として迎えた転生だった。  こうなったら、悪役令嬢としてとことん破滅への道を突き進みますわ!

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。 ――というのは表向きの話。 婚約破棄大成功! 追放万歳!!  辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。 ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19) 第四王子の元許嫁で転生者。 悪女のうわさを流されて、王都から去る   × アル(24) 街でリリィを助けてくれたなぞの剣士 三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ 「さすが稀代の悪女様だな」 「手玉に取ってもらおうか」 「お手並み拝見だな」 「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」 ********** ※他サイトからの転載。 ※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

処理中です...