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第三章

二十五話

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 朝から元気に試験クエストを終えたレイは、無事私と同じ見習い冒険者となった。
 私たちがC級に上がれるのはいつになるのかなぁ……なんて思いながら掲示板を眺めていると、レイの付き添いが終わったアレクもこちらまでやってきて話しかけてくる。
「何か気になる依頼があったか?」
「うん。アレクが昨日言ってた鉱山の方にいるファイアーバードと、南の熱帯雨林の方にいるアルラウネもいいなと思ってるんだけど、ちょっとこっちも気になってる」
 私はそう言って、今日追加されたばかりの依頼書を指で差した。
「こっから船で行く宝島か……この島の森は地属性も多いが、洞窟の中のモンスターは水属性がほとんどだ。少しレイさんには不利かもしれないな……」
「そうか……なら、ここはレイとの討伐とは別で行こうかな……」
「別?」
 私はアレクの言葉に頷く。 
「もちろん、島の討伐の方は私が一人で行くんだよ。レイとのクエが終わって時間があったらな。あ、アレクにはレイの護衛を中心にお願いしたいから、その間は二人で別の討伐に行っててくれて構わないよ? レイのことはよろしく頼むぜ?」
 そうすれば同時に鍛錬も積めるし、時間を無駄にしなくて済むからな。
 それにアレクに任せとけば、レイのことはかなり安心だ。
「ま、待て待て、一人じゃさすがに……シドにはフォルの護衛だって任されてるんだからな? というか実際のメインはお前で……」
「平気だって。狙われてるのは私じゃないんだから」
 昨日は私にも変な警告が来たけど直接じゃなかったし、レイの封印を勝手に解こうとさえしなきゃ平気だろ、たぶん。
「フォル、私だってそのくらい付き合うわよ~……もう水くさいな」
「んー……でも、それじゃ水晶でのBOSSの時みたいに、レイのレベルは上がらないだろ? 良いんだよ、大丈夫。ほら、洞窟のモンスターのレベルだって今の私とちょうど同じくらいだし」
 まぁ、水晶のBOSSはユケル騎士団長が倒しちゃったから、私にはほとんど経験値が入らなかったけど、彼が来るまでに攻撃した分は少し加算されてた。
 だから今はLvが30なんだ。
 ちなみに自分のLvを知るには、クランに置いてある装置に手をかざすか、リザードマン討伐の時にもアレクに調べてもらった、額で測る体温計みたいな鑑定アイテムで調べることができます。
(サファイアが売れて少しお金に余裕ができたから、私もさっき鑑定できるやつを買ってきたんだ。ちょっとお高めだったけど……)
「フォル、せめて同じ島にはいましょうよ……私は島の森の方のモンスター討伐でも全然良いし」
「でも、森の方はレベルが低いよ……10前後だから倒してもあまり意味ないかも」
「だからって……」
「フォル」
 レイと言い合っていると、突然アレクが低い声で私の名を呼んだ。
 いつもと声のトーンが違うから、私の体は思わずドキリとする。
「俺は昨日暴走すんなって言ったよな? 変な魔族に狙われてる可能性がある以上、単独行動は絶対にダメだ」
「でも……」
 狙われているのは私じゃないのに?
「でもじゃない。あまり我儘言うなら、このまま担いで王都に連れ帰るぞ?」
「うっ……分かったよ」
 そこまで言われたら仕方ないな……。
 うん……。

 ……よし!
 なら一緒に島に行ってくれそうな私と同じくらいのレベルの人を、あとでクランに戻ってきたら探そう!
 誰かとパーティを組めば単独じゃなくなるし、アレクもきっとOKだよね?
 と、いうわけで、とりあえず今は無難な所でヒエウの南にある熱帯雨林のアルラウネの討伐に決めた。
 ファイアーバードがいる鉱山の方は、ちょっと足場が悪そうだからここは消去法だ。

    ◇ ◇ ◇

 討伐クエストの依頼を受けたら、今度は武器と防具を扱う店舗までやってきた。
「アレク、今回はちゃんとお金はあるから……って、そうだ、この前のダガー代……」
「あー……それか、いいよ返さなくて。今回、シドから受けた二人の護衛の報酬額がヤバいから、むしろフォルたちには還元してやりてえくらいで……」
「そんなに?」
「あぁ、なぜか王国から直接、金が支払われてるんだ。通常の護衛クエストだったらあり得ない額の金額……そうだな二人分合わせると丸二つは違うと思って良い」
 丸が二つって言うと……えっと、この世界の共通の通貨はmkマルケで取引がされていて、10mkマルケでパンが一個買えるから、日本の感覚だと1mkマルケは10円くらいの価値かな?
 確か護衛のクエストの報酬は、一人の護衛につき時間給で150~300mkマルケくらいが妥当で、そこに丸が二つ付くとなると、仮に一番低い額に合わせたとして15,000mkマルケ
 それを日本円にしてみると、私たちを護衛するだけで時給が15万円?! 
 一日分で360万円……いや、もしかするともっとかも……や、やば……高額にもほどがあるだろ!
 何考えてるんだ、レイグラートは!

「アレクさん、そういえば昨日はどうでした? ちゃんと寝れました?」
「ん? よく寝れたよ。朝までぐっすり」
 国から支払われるアレクへの報酬額の計算に私が取り憑かれている頃、レイはアレクに昨夜のことを尋ねていた。
「え、そうなんですか? へぇ……アレクさんって意外と図太いんですね」
「あ、ああ……? 少なくとも23年生きてきた人生で、俺が繊細な性格だと周りから言われた試しがないな……」
「いや、そういう意味じゃなくて……だって昨日食堂でフォルがアレクさんに……」
 レイの言葉を聞いて、アレクは不思議そうな顔をする。
 彼女が何を言っているのか、本気で分からないといった様子だ。
「フォル? 確か昨日の夜は討伐の話をしたよな? それからは俺もけっこう酔ってたみたいで、あんまり覚えてねーんだけど……フォル、俺たちに何かあった?」
「360万……いや、もしかするともっとかも……ブツブツブツブツ……」
「なぁ、フォル聞いてる? 俺ら昨日の夜、何かあったのか?」
「えっ……は?」
 いきなり話題をこちらに振られて私はびっくりする。
 昨日の夜?
 って食堂でのことか?
「えー……いや、何もないだろ? 普通に飯食ってそれぞれ寝ただろ? あ、飯代はアレクが奢ってくれたや……えっと、昨日はありがとな?」
「そうなんだ。まぁ気にすんなよ、理由はさっき言った通り……だから」
 ああ、破格外の報酬の件……。
「それ以外は私にも分からないが?」
「だよなぁ……」
「うっそ……進展するどころか、逆に後退してるじゃないのっ! 何でをアンタが覚えてないのよー!」
 自分の思惑が見事に外れたレイは、そう叫んでから深い深いため息をついていた。
 私とアレクからしたら、何が何だかサッパリだ、レイ。
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