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第三章

二十三話

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「魔族らしきヤバそうな奴にかけられた、ユニークの封印を解きたいつう事情は分かったが……結局フォル、お前はどうしてえんだ?」
「ん? 私?」
 ユケル騎士団長が王都へ戻るためにこの街を離れてから、ヒエウの南側まで戻ってきた私たちは、食堂の一席を借りてアレクとレイとともに今後についての作戦会議中だ。
「お前がレイさんの封印を解きたい理由だよ」
「私か? 私はレイのユニーク魔法が使えたら、冒険者として一緒に動くのに超絶便利だろうなと!」
「はい、わかった。で……だ、あんたはどうなんだ? 今すぐ解きてえのか?」 
 私の返事に一言で答えたアレクは、今度はレイの意向を尋ねる。
「わ、私は……正直、身に余る能力だったから別に……自分がドン底の状態の時にフォルが必要としてくれたのがただ嬉しかっただけで……彼女の期待に応えたかったのが一番の理由ね」
 え、そうだったのか?
 レイ……私のために……なんか心にじわるぞ。
 ぐすっ。
「わかった。まぁ、解く方法は簡単だ。かけた奴を倒せばいい」
 確かに簡単だな。
 アレクならきっとそれも可能だろう。
 つまりこれからみんなで問題の魔族を探しに行くんだな?
「ただ……今そいつを倒すのは得策じゃない」
「え、そうなのか?」
「そうだ。別にお前らは、今すぐその能力を必要としてねーんだろ? 魔族ちゅうヤベー奴が多数いんなら、仮に一人倒して封印を解いたとしても、どうせまた狙われるだけだ。ならお前らは、まず冒険者としての鍛錬を積んだ方が良い」
 確かに……アレクの言うことは一理ある。
 今日みたいにレイが一人の時、また狙われる可能性が高いし、敵は得体の知れない能力を使う化け物だ。
 そいつらに『二度はない』と警告もされている。
 こちらはなるべく敵を刺激しないように、慎重に動いた方がベストなのだろう。
「なら、まずは明日レイに試験クエストを終わらせてもらって、本格的な依頼を受けるんだな! よっしゃ!」
「まぁそうなんだがフォル、お前はちょっと暴走する癖があっから、そこは気をつけた方がいい」
「はーい」
 言われてしまったな。
 まぁその通りなんだが。

「ねぇ、フォル」
「ん?」
 アレクとの会話も落ち着いた頃、今度はレイが声をひそめて私に耳打ちをしてきた。
 一体なんの用件だい?
「フォルが実は公爵令嬢とか王太子様の婚約者だってことは、アレクさんに伏せちゃって本当に良かったの?」
「良いんだよ、そんなこと。アレクには関係ない話なんだからさ。いちいち言わなくたって、シーファン家からはどうせ家出してる身だし、そっち王太子の方もきっとそのうち破棄になるから」
「え、そうかなぁ? レイグラート様はかなりフォルのことを想ってくれてる気がするんだけど……その辺も含めてアレクさんに、きちんと伝えた方が良いと思うんだけどなぁ……フォルったら、彼の名前付きのリボンなんていつも身につけちゃって……これだとあげた方も色々と勘繰っちゃうわよ?」
 これリボンじゃないし。
 アレクが顔の泥を拭けって言って寄越しただけのただの高価な布だ。
 それにレイグラートが私のことを想ってる?
 まさかそんなわけないだろ?
 親同士が勝手に決めた結婚だぞ。
 王妃教育もされていない私なんか、彼は最終的に選ばないって。
 まだ王子も年齢的に若いから、慌てて次を探していないだけだよ。
 あと数年もすりゃあレイグラートの気も変わって、また別の妃候補ができるさ。
 アレクだってそんなこと別に気にならないだろうし、そもそも知りたくもないことだと思うけどな。
「なに、二人でヒソヒソ喋ってんだよ」
「べ、別に? アレクには関係な……」
「えっと、恋バナです。フォルの恋バナ」
「ブッ……」
 うわ、アレクが飲み物を噴き出した!
 もう、何やってんだよ……って、なんか酒臭いんだがっ!
 いつの間に酒なんか頼んだんだ?
 はー……アレクいいなあ……私も飲みたいなぁ……。
 そういえば、この世界の成人年齢っていくつなんだろう?
 17歳のレイも、今まで一緒にいて一度もお酒を飲んでいないところを見ると、やっぱこの世界でも18歳からとかなのかね?
 あ~……この転生した体が15歳なんて子どもじゃなければ……前世の時のように私も飲めるのに。
「あ、アレクさん、やっぱり気になります? フォルの……」
「や、別に俺は……」
 おいおいレイ、急に変なこと言うからアレクが動揺しちゃってるじゃないか。
 ほら、こんな話されてもアレクだって困るんだよ。
 偉大なS級ヒーロー様には全くもって興味のない話だろうからさ。
 この体の身分や恋バナなんて。
「まぁそれは良いとして、レイは確か王太子が好きなんじゃなかったのか?」
 だから、フォルティエナに嫉妬したんだろ?
 なんかこの前も私に王子と仲良くしようとか言ってたし、ちょっと気持ち変わり過ぎじゃね?
「うーん、そりゃあずっと憧れてたけど、彼はやっぱりどう頑張っても手が届かない地位にいる人だし……今はユケルさんがちょっと良いかなって、密かに想ってるの……ふふ」
 そう言って、レイは頬を赤らめた。
 おお、まじか……ユケル騎士団長……確かに彼はイケメンだし騎士だし強いし……。
 でも……そうか。
 レイ、王子はもう良くなったのか。
 昨今の乙女は乗り替えが早いんだな。
 はは、残念だったなレイグラート……自分の知らぬ所で、いつの間にかこんなに可愛い子を逃したんだぞ。
 勿体ない……今ごろクシャミなんかしてたりしてな、王子。
「ユケル殿は確かにすごく素敵だったが……せっかくレイって名前付けたのに意味がないな。変えるか?」
「あ、確かに……まぁ、元の名前より気に入ってるから、これからもレイのままで良いんだけど……それでさ、フォルは気にならないの?」
「何がさ」
「そりゃあ……」
 レイはそう言って、アレクの方をチラリと見る。
「彼よ、彼」
「彼ぇ?」
 って、誰だよ。
 だけじゃ、ザックリし過ぎて分からんわ。
 世の中にはどれだけのがいると思ってる。
「だって彼、フォルと相性良さそうだし、イケメ……」
「わ、悪いけど、その辺の話は俺のいない所で言ってくれねえか? そ、そのフォルのす、好きな男の話とか……」
「は、はい……スミマセン、へへ……アレクさん、フォルの話で動揺しちゃってますね?」
「いや、だから……」
 おお、よく言ってくれたアレクよ。
 やっぱりアレクは私のこんな恋話なんて興味ないよな?
 王太子の婚約者の立場で、今は公爵家の実家を家出中とか余計なことアレクに言わなくてホント良かったわ。
 そんなことよりも、明日からのクエストのことを話す方がずっと大事だよ。
 レイもまずはそっちをアレクと相談しようぜ?
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