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第三章

二十一話

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 食事が済んだ私たちは、食堂の方から宿の部屋へと移動した。
 ユケル騎士団長が取ってくれた部屋は、要人向けの特別な造りになっていて、広いリビングのある部屋を中心に、内側から鍵のかかる個室が何ヶ所もあるタイプのVIPで豪華なルームだった。 
 そこで私たちはフカフカの深いイスに座って、ゆっくりと休んでいる。
(しかも、部屋では食後のデザート付きと来たもんだ……やるな、ユケル殿。それにこの村は客人の対応に慣れていたもんな……そりゃあ、こういう部屋も普通に用意されてるよな)
「シーファン家への連絡では、フォル殿は王城に留まっていることになっておりますので、どうかご安心を……」
「あぁ、そうなのか」
 シーファン家の屋敷にいたメイドは果てしなく煩かったから、正直もうあの家に戻りたくないし、別に良いんだけど……。
 それはそれで、フォルティエナの実家から娘が行方不明だと無駄に騒がれなく済んで、好都合ではあるか?
「ねぇユケルさん、少しお尋ねしたいんですけど……もし私が普通に王国に捕まっていたとしたら、フォルにした事は本来どれくらいの罰を受けることになっていたのかなって。ちょっとそこが気になってしまって……」
「そうですね……公爵家の令嬢、ましてや未来の王妃になるかもしれないお方に危害を加えることは、この国ではかなり重い罪になります……」
(げ……未来の王妃ぃ? そうだった……完璧に忘れていた。なんか上手いこと破棄されてない雰囲気を醸し出しちゃってるが、レイグラートの婚約者ポジションをキープしたままだったら、フォルティエナの未来は自然となってしまうんだった……うげげっ)
 厄介事を思い出した私は、無意識のうちに口に含んでいたフォークを思わずカチンッと噛む。
(いてて……)
 本物の令嬢ならこんな行儀の悪いこと、絶対にしないんだろうなぁ……だが、私はやる女だ。
 そんな私の心の葛藤など知る由もない彼らは、そのまま二人で会話を続けている。
「普通ならば爵位の剥奪か懲戒免職……しかしレイさんは爵位のない学生なので、妥当なところで退学処分といったところでしょうか。それに加えて、あなたとご家族の郊外への追放は免がれないでしょうが、こんなイタズラ紛いの罪で、貴重なユニーク能力を封じたりなんてことはさすがにしません。二度と悪用しないという約束を書面で交わして、おそらく終わりです。もちろんこれは、あくまでもフォル殿がということが前提での罪の重さになりますが……ね」
 ユケル騎士団長の見解には、私も納得のいくところがある。
 どう罪が転んで重くなったとしても、精々がそんなところだろうなと。
 だいたい変だと思ったんだよ。
 あれくらいのことでチート能力を封印されて、ましてや極刑になるなんてさ……。
 まぁ、極刑になるかもしれないと勝手に思い込んだのは、何を隠そうこの私だけどな。
 でも、あの状況ではそう重く考えても仕方あるまい?
 レイが受けた仕打ちを考えれば……。
 それに、レイグラートの言い方もあやふや過ぎるんだよな。
 もっとこう……今回はこういう内容の罰になります! キリッ! って、分かりやすく言ってくれれば良かったのに。
 まぁ、令嬢に気を遣ってオブラートに包んだ言い方をしたのかもしれないが、こちとらガチで異世界生活始めたばかりの身なんだからさ。
 法のルールとかもまだよく知らんのよ。
 まぁそんなこと、元々この世界にいた人たちにとって、知ったこっちゃあない私事ではございますがね。

「ユケルさん、教えてくれてありがとう。退学と郊外への追放は仕方ないかな。うん、罰としては妥当だと思う」
 レイはそう言って、納得したような顔で頷いた。
「はい。ただ、フォル殿はそれを望んでいらっしゃらないようですし、レイさんのことはおそらくこのまま闇から闇へ……何も無かったことになるとは思います。レイグラート様、結構ショックだったようなんですよ。その……フォル殿を相当に怒らせてしまったんじゃないかと、私が出発する間際までずっと気にされていて……」
 ユケル騎士団長は最後まで言い終わらないうちに、私の方へとチラッと視線を向けた。
 う、そんな憐憫れんびんを誘うような顔で、わざわざこちらを見なくとも……。
「別に……怒ってはいない。心底呆れてはいたが」
「そ、それは随分と手厳しいお気持ちの表明ですね……」
 私の言葉を聞いてユケル騎士団長は、自分が支える主人への同情を隠せない顔で深い深いため息を吐いた。
「フォ、フォルもさ、せっかくだから王子様とまた仲良くしましょう? ね? だってあなた、未来の王妃様なんだし……」
「はー……王妃なんて絶対にゴメンだね」
 レイの言葉に私はそう言って、キッパリと突っぱねた。
 そもそも何もかもが人選ミスなんだってば。
 私を選んだのはどっかの神様か悪魔か天使か知らんけど、この転生は色々と初期段階から間違っちゃってんの。
 だってこの体の中身は元ゲーマーでただのオタク……なんだよ?
「……これは、失った信頼を取り戻すのは相当大変そうですよ……王太子様」
 ユケル騎士団長はかなり落胆した様子で、そう呟いた。
 いや、別に王妃になりたくない理由はじゃないんだけどな……。
 まぁ面倒くさいから、そういうことにしておこう。

    ◇  ◇  ◇
 
 村で一泊したあと、私たちは港町ヒエウまで向かう馬車へと乗り込む。
 途中で中間にある村に何度か滞在をしながら、二日後の昼には無事にヒエウの街まで到着できた。
「ここがヒエウ……海の匂いがするわ」
「随分と大きくて賑やか街なんだな」
 ヒエウは海の沿岸に沿って造られた、まるで三日月のカーブを描いているような、見た目にも美しい港の街だ。
 サーモンピンク色のレンガで統一された建物が並ぶ光景は、誰が見ても素敵だった。
「ヒエウの街の宿や店舗は南側に集中していますが、私たちが今いるここ東側にはクラン同盟があります。北側は住宅地が多い場所ですね。そしてその北側の区域には、海が一望できる高台もありまして、被災時に避難するための場所でもあります。そして海のある西側にはもちろん港が栄えておりまして、新鮮な海産物を扱う大きな市場もあるようです」
 ユケル騎士団長がヒエウの街の特徴を、ざっくり分かりやすく教えてくれる。
 初めて来た場所だけど、おかげで街の概要がすんなりと把握できた。
「じゃあ……まず私は、ここの近くにあるクラン同盟へ行ってくるわね。フォルはその間に南側へ行って、ユケルさんと一緒にそれサファイアを換金してきてよ」
「えっ、レイ一人で大丈夫なのか?」
「平気平気、登録の申し込みくらい。換金が終わったらクランの所に来てくれれば良いから……」
 レイはそう言って、どんどん一人で先に行ってしまう。
(なんか……彼女変わった? ちょっと元気になったというか、やる気に満ちているというか……)
「レイさん、ここ数日で急に明るくなりましたね。彼女の中で何か吹っ切れたことでもあるんでしょうか……」
「どうだろうね。まぁなんとなく、そうなった要因は分かるけどね」
 たぶんユケル騎士団長に例のことを色々と話せてからだと思う。
 一先ず私たちは、南側にある鑑定屋を目指して足を進めることにした。
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