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第二章

十六話

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「フォル、まって……」
「どうしたレイ?」
 朝の集合時間前、村の出口まで行こうとしたら後ろから突然腕を掴まれ、レイにその場で引き止められた。
 そして彼女に体を引っ張られるがまま、近くにあった建物の後ろ側へと隠れる。
「あそこ……いる。闇の……」
 建物の影から彼女が恐る恐る指を差さして伝える方向。
 私はそこに視線を預けて目を凝らし、じっと見つめた。
 馬車の御者と他の客人に話しかけているのは、上から下まで黒で統一された生地に、金の装飾が所々で施された服を羽織っている……こののどかな村にいるにはとても似つかわしくない風貌の男だった。
「もしかしてあれが闇の魔法師?」
「そう。私を封印したのとは違うヤツだけど、全身を黒に統一された服で、腕の所にそいつと同じ鷲のマークが付いている……彼は絶対に仲間だわ」
 レイはそう言って、ぶるぶると体を震わせた。
 封印を施された例の魔法師から、レイはよほど怖い目に合ったようだ。
「私たちを探しに来たのだろうか」
「分からないけど、たぶん……」
 それは困ったな。
 よりにもよって馬車の集合時間が押している時に……。

 このまま隠れていたら馬車は行ってしまうが、レイが見つかってしまうかもしれないリスクを考えると、ここは出て行かない方が賢明か? 
 せめてヤツが今どんな会話をしているのか内容が分かればなぁ……対策の仕様もあるというのに。
(読唇術を学んでおくべきだった)
「フォル、隣の国に行くにはヒエウ回りしか方法はないの? もしかしたら港も先回りされているかもしれない……」
「その可能性は充分にありそうだな。船以外で行く方法もあるにはある。ここからも見えるあの高い北の山を何個か越えればおそらく……船よりもずっと時間はかかるだろうが」
 問題は山越えや野宿をするための準備も資金も、今の私たちには全然足りないということ。
「初級ポーションの材料を集めてクランに持っていく時間もないしな。きっと何日も野宿する必要があるから、今の状態のままではどう足掻いても準備不足だ」
「私の魔法で火と水は出せるけど……」
「それはかなり助かるな。野生の動物を狩りしながら進めば、飲食は何とかなるかもしれない。ただ……」
 山は上に登れば登るほど、気温も冷えてくる。
 レイの火魔法があるとはいえ防寒着も毛布もテントも何もない今の状態では、恐らく私たちの体は保たないだろう。
「あ、フォル! あの闇の魔法師、村に入ってくるわ……村人に一人一人話しかけて、やっぱり誰かを探している感じ!」
「うし、とりあえず今は上に逃げよう」
 私とレイは建物の影から影へと移動しながら、慌てて村の北の方へと向かった。
 あの魔法師が自分たちを探しているかどうかはまだ分からないが、相手が相手だけに警戒は必要だろう。

    ◇  ◇  ◇

 村の北の方へと進むと、警備員だと思われる人物が出口に立っていた。
「お嬢さんたち、どうかしましたか? この先は森と山とモンスターも出るダンジョンくらいしかないですよ?」
「ダ、ダンジョン……」
 警備員の言葉を聞いてレイは困った顔をしていたが、変わって私はその手もあったかと別の企みがふつふつと湧いてきた。
「レイ、このまま旅をしている冒険者のフリをして、ダンジョンに入ろう? それで、もしかしたらヤツの目を誤魔化せるかもしれない。脱獄犯とその共犯者が国外へ逃亡しようと企んでいる最中、まさか途中のダンジョンで悠長に寄り道をしているだなんて、たぶん誰も思わないだろう?」
 私はレイにだけ聞こえるように、なるべく小さな声でそう提案する。
 レイもすぐに同意してくれたが、我ながら中々いい手だとは思うんだ。
 ついでにレベルも上がるし、モンスターからレアアイテムまでゲットできるかもしれない。
 それにダンジョンの先は山の向こう側へ出られる可能性もあるし……うまく行けば一石三鳥だな。

「すみません、私たちは日々の鍛錬のために、色々なダンジョンを回っている冒険者なんです。なので、そこを通してもらえるとありがたいのですが……」
 そう言って私は、見習い冒険者となった時にクランからもらったネームプレートを警備員に見せた。
 ついでに現在のレベルも伝える。
「フォル・スノウ様……確かに冒険者の方なんですね。でも、そちらの方は……?」
「私はレイ・スノウです。この人の姉で……冒険者ではないのですが、妹が心配で付いてきてしまったというか……でも魔法はそれなりに使えます」
「ああ、なるほどご家族……分かりました。冒険者の方なら入って全然大丈夫ですよ。一般の人には危険なので、この先へ行くことはおススメしていないのですが、ここのモンスターはそこまで強いというわけではないで……フォル様のレベルだったらおそらく余裕で進めるかと思います」
 村の警備の人はそう言って、私たちをすんなりと通してくれた。
 私とレイはお礼を言って、森の中へと進む。

「……意外とうまくいったわね」
 村が後ろに見えなくなるくらいの場所まで来たところで、レイはそう呟いた。
「うん。やっぱりクラン同盟の肩書きって大きいんだなと改めて感じたよ。こんな見習いでも危険区域へ簡単に通してくれるわけだし」
「そうね。私も早くクランに入りたくなってきちゃったわ」
 それなら無事にクラン同盟のある街に着いたら、ぜひレイにも入ってほしい。
 二人で封印を解く方法を探しながら頑張っていっぱい依頼をこなして、今よりももっと強くなればもはや怖いものなんて無いからな。
 これからが楽しみだぞっと!
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