元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花

文字の大きさ
上 下
15 / 34
第二章

十五話

しおりを挟む
 馬車で王都を出てから随分と時間が経った。
 もう外は薄暗い。
 この馬車は乗り合いなので、乗客は当然知らない人しかいないのだが、みんなお疲れなのか静かに外を眺めている人が多かった。
 これから向かう港町の名前は『ヒエウ』と云う。
 王都からヒエウの街へ行くには馬車でニ~三日ほどかかるので、今夜は途中の小さな村に寄って夜を過ごすつもりらしい。
「フォル、こうやって長時間座っているだけでも、馬車ってけっこう疲れるのね」
 ため息混じりにそう呟いたのはレイだ。
 その感想には私も文句なしに同意する。
「何か暇を潰せるものも何も持ってこなかったしな」
 こういう隙間時間はスマホか携帯型のゲームでもあれば、退屈せずに楽しめたのだろうが。
(この世界は本かカードゲームくらいしか娯楽がなさそうだからなぁ……王室の図書館から何冊か本を借りてくれば良かったか)

 そうこうしているうちに馬車は滞在予定の村に着いた。
「ヒエウへ向かうお客さま、今晩はこちらの村で一泊します。明日また出発いたしますので、朝の八時までに同じこの場所に来てください」
 馬車の御者はそう告げると、乗客の私たちを村の宿まで案内してくれた。
 この村は、日本で言う平均的な町内くらいの大きさしかないが、港町へ向かう遠距離馬車の中間地点によく利用されているらしく、客人に対する村の対応はとても慣れている様子だった。
 馬車で一緒に乗り合った人たちは、商人らしき男性とその娘と思われる若い女性、身なりから冒険者であろう中年男性二人に仲睦まじい若夫婦の計六人。
(特に問題はなさそう人たちだったけど……ヘタに仲良くなって身バレでもしたら困るしな。用事が済んだらレイと朝まで部屋で大人しくしてるか)
 私はそのことをレイに伝えると、彼女も同じことを考えていたようで、二人で素早く食事と入浴を済ませたら早々に部屋の中へと引きこもった。

 宿の部屋はそれなりに快適で、ドアの横には大きなクローゼット、窓側には小さなテーブルとイスがあり、奥の方にはベッドが二つ並んでいるだけだったが一晩休むには充分の広さである。
「今日は満月なのね、キレイ。それに私にとって、今日はとても特別な日だったわ」
 レイはそう言って、宿の人が用意してくれた水差しの水をお供に窓際のテーブルの前に座って、うっとりとした表情で外を見ている。
「レイはロマンチックなんだな」
「うちは平民だったから、メルヘンな世界とか素敵な王子様との未来を妄想するくらしいか娯楽がなかったもの」
 そう言って、レイはどこか寂しそうに笑っていた。
(転生前のうちはもちろん庶民だけど、娯楽はいっぱいあった。日本て一般人が当たり前のように活躍できる良い国だったんだな……)
 もう帰れなくなって初めて祖国の長所を知る。 
 それに……今回のことでレイも生まれた国を捨てることになってしまったんだよな。

「フォル、ありがとね。私あなたに会えて良かったと本気で思うわ。もっと早くから私もフォルの良さに気がついていれば、嫉妬に狂って罪を犯すなんて愚かな真似はしなかったかもしれないのに……最終的にはこうやって、あなたまで辛い現実へ巻き込む形になってしまった。今更後悔をしてももう遅いけど、一時の感情ですごく馬鹿なことしたなって……」
 レイはそう言って、静かに涙を流した。
 どうやら自分がした事を彼女はかなり悔やんでいるようだ。
 たった一つの過ちでこんな若い娘が牢に入れられ、重い罪を背負わされる。
 レイグラートの言葉を聞いた時、ここは怖い世界なんだなと思い知らされたんだ。

「むしろ私はレイにお礼を言いたいね。だってレイが遠くへと飛ばしてくれたおかげで、あの重っ苦しい家と学園から、簡単に抜け出すことができたんだから」
「フォル……」
 そうでなければクラン同盟に登録するのは、もっとずっと後のことになっていただろうし、あの時あの場所でアレクと出会うこともきっとなかった。
「確かにスラム街で賊に追いかけられた時はちょっと焦ったが、この威圧魔法で普通に対処できたし、レイの罪が重くなったのって、転移魔法を使ってしまった相手が王族に関係する公爵令嬢フォルティエナだったからだろう? 魔法をかけられた私自身がもう許しているのに、相手の身分によって罪の重さが変わるとか……そんなのやっぱり馬鹿げてる。弱い者を追い詰めて貴族を優遇する法律なんか、従う価値もないくだらない制度だなって思っただけだよ」
 私は本音をスパンと言ってのけた。
 そんな私の言葉にレイは驚きを隠せない様子だ。
「そんなこと言う人初めて見たわ……でも、そっか……従う価値がないってフォルは思ったから、私を逃してくれたんだね」
「うん。情状酌量の余地も与えない制度は論外」
「んん?」
「被害者が訴えの棄却を申し出ているのに、それすらも精査しないし。というかそもそも私は処罰しろって言った覚えもない。よってあれは不成立!」
「え、待って待って待って……どういうこと?」
「あ、ごめん。なんか思考が暴走した」
 前世で生きていた現代日本での法制度と比べても仕様がないことだが……あまりにも不平等だとは思う。

 私の独特な言い分にレイはワケが分からないといった感じで混乱していたが、私が言いたいのはレイはそこまで罪に問われるほど悪いことはしてないってこと、少なくとも私はそう思っているということの二つ。
 とりあえすそれだけが伝われば今は良かった。
 そして私とレイは今後のことも含めて色々と話し合い、ある程度時間も回った所でベッドの方に移動する。
 すると旅の疲れもあったのか、気がつけば二人とも朝までぐっすりと眠ってしまっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢、前世の記憶を駆使してダイエットする~自立しようと思っているのに気がついたら溺愛されてました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢エヴァンジェリンは、その直後に前世の記憶を思い出す。 かつてダイエットオタクだった記憶を頼りに伯爵領でダイエット。 ついでに魔法を極めて自立しちゃいます! 師匠の変人魔導師とケンカしたりイチャイチャしたりしながらのスローライフの筈がいろんなゴタゴタに巻き込まれたり。 痩せたからってよりを戻そうとする元婚約者から逃げるために偽装婚約してみたり。 波乱万丈な転生ライフです。 エブリスタにも掲載しています。

学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです

はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。 とある国のお話。 ※ 不定期更新。 本文は三人称文体です。 同作者の他作品との関連性はありません。 推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。 比較的短めに完結させる予定です。 ※

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...