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第二章
十ニ話
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地下牢まで行くと、一番手前にある牢……その鉄格子の向こう側に、この場には到底似つかわしくない風貌の可愛いらしい女性が中へ入っていた。
その女性は、肩口まである栗色の髪を内巻きにカールしていて、グリーンでくっきりとした綺麗な目が特徴的である。
彼女の名はレオナ・パルキンと言って、何も知らずに歩いていた私の足元に、転移サークルの魔法陣を展開し、いきなりスラム街まで飛ばすという暴挙に出た……張本人だ。
私は彼女と二人きりで話がしたいからと、レイグラートと看守には、この場からお引き取りをしてもらった。
「あら……王太子様たちを追い出して、私のような者と二人きりになってしまって良かったのかしら? とてもとても高貴な身分をお持ちのフォルティエナ・シーファン様……これではか弱いあなたを殿方様たちが悪女から守ってくれませんわよ?」
レオナは嫌味っぽくそう言って、私との対面をとても不愉快そうに顔を歪めた。
これではせっかくの可愛い顔が台無しである。
「レオナ……単刀直入に聞くが、あなたはもしかしてヒロインなのか?」
「……は?」
「どうか隠さずに、本当のことを教えてほしい」
「ちょっ……あなた、いきなり何を言ってるの? ヒロイン? はぁ……なにそれ……意味がわからない」
私の質問で先ほどまでの態度は一変、レオナの表情からは明らかに戸惑いを隠せない様子が見られた。
どうやらかなり驚かせてしまったらしい。
レオナはゲームの世界のヒロインではなかったのだろうか……。
「レオナ、あなたは転移サークルを展開できる能力持ちだと聞いたが?」
「それは間違ってないけど……あなたを辺境の荒れた地に飛ばして、戻ってこれないようにした理由は、ただの私の嫉妬よ。入学当時から密かに憧れていた王太子様が、公爵家の令嬢だからって何の面白味もない女の婚約者にされたのが、ただ単純に気に食わなかっただけ。ヒロインだとか、よく分からない単語のそんな話なんかじゃないわ。……どう? これで満足かしら?」
レオナはレイグラートへ密かに憧れていた。
爆走の理由は婚約者への嫉妬……それは本当だろうか?
彼女の言葉からは嘘をついている感じはしないが……念のため、もう少し問い詰めてみよう。
「では、ゲームのことは?」
「はぁ? ゲーム? なにそれ……知らないわ。さっきから何度もわけ分からないことを言わないで。私はあなたのことが気に食わなかったから、腹いせに自分の特殊能力を使った。ただ、それだけの話よ! そもそも……ただの平民である私があの学園に入れたのは、そのユニーク能力があったからであって……でも今は……」
レオナは悲痛な様子で、私にそう訴えた。
やはり……彼女は転生者ではないようだな。
つまりヒロインというのは、こちらの勘違いだった……。
ならば……。
「なぁ、レオナにそんな凄い能力があるなら、私と一緒にパーティを組まないか?」
「は……はぁああ??? あ、あなた……自分が何言ってるか分かってるの?! 自分を酷い目に合わせた相手とパーティ組むとか……ホント、意味がわからないしっ! ちょっと、正気なの?!」
レオナはそう叫んでから、右手で頭を抱えて、心底呆れた様子でその場に項垂れた。
私はそんなに変なことを彼女に言ったのだろうか。
「レオナ、その能力は絶対に使える。私に力を貸して欲しいんだ」
「なにそれ……じゃあさ、私を自由にしてくれるように、あなたがレイグラート様に口添えをしてよ。それが出来たら、あなたと一緒にパーティ組んであげてもいいわよ?」
「あぁ、分かった」
私は即答すると、レオナは深いため息をついた。
自由になる以外に、まだ何か……要望が足りないのだろうか?
「あなたって、ものすごーく変わってるわね。本当に公爵令嬢なの? でもざーんねん、その頼みの綱の能力、封じ込まれちゃったの。だからね、あなたにとって何の価値もない私よ」
レオナはそう言って、鼻で笑って見せた。
「……封じこまれた?」
「えぇ、捕まる時に強い魔力持ちの男にね。たぶんあれは……この国の裏側にいる闇魔法師だわ。目がとても冷たくて、人の命なんて何とも思っていない顔だった……」
レオナはそう言うと、肩をぶるっと震わせた。
どうやらその男はよほど怖い存在だったらしい。
でも裏の闇魔法使いなんて、この国にいるんだな。私も今初めて知ったよ。
「その闇魔法師を説得することは?」
「無理だと思う。だって、かなり曰く付きの人物というか、王国の暗部の人間……つまり暗殺でもなんでもやってのける危ない集団の一人なのよ? どこに居るかも分からないし、きっと対話なんてとても無理だわ……」
それだと仮にその男を探し出せたとしても、レオナにかけた封印は解いてくれなさそうだな。
それどころか私も国の裏切り者として秘密裏に処理されて、シーファン家は没落させられてしまうかもしれない。
レオナの説明から、安易に触れない方がいい人物なのは解った。
「なぁ……それならその封印を解く別の方法を、これから一緒に探しに行かないか? 学園には休学届けを出してさ、二人で冒険者として世界を旅するんだ。理由はそうだな……別の国への留学なんてどうだろうか?」
確かクラン同盟は、世界共通の集団。
国が変わっても、冒険者としては普通に活動できるはずだ。
「はぁ……あなたって本当に変わってる。私やここの人達とは全然違う世界を見ているんだもの……いいわ、分かった。ここから出られたら、私もその話に乗ってあげる。ユニークの転移魔法は封じられてしまったけれど、これでも私は属性魔法の方でも上級保持者なの。きっと色々な面で役に立つわよ」
「それは頼もしい! レオナ、ありがとう! さっそくレイグラートを説得してくるよ」
私はそう言って、地下牢の頑丈な扉へと向かった。
「全く……とんだ公爵令嬢ね。噂と全然違うじゃない。てっきり臆病で軟弱な令嬢だと思っていたのに……スラム街へ飛ばしても、簡単に戻ってこられるわけだわ、ふふふ」
レオナは牢から出て行こうとする私にも聞こえるよう、わざと大げさな声でそう言ってから、独りで楽しそうに笑っていた。
その女性は、肩口まである栗色の髪を内巻きにカールしていて、グリーンでくっきりとした綺麗な目が特徴的である。
彼女の名はレオナ・パルキンと言って、何も知らずに歩いていた私の足元に、転移サークルの魔法陣を展開し、いきなりスラム街まで飛ばすという暴挙に出た……張本人だ。
私は彼女と二人きりで話がしたいからと、レイグラートと看守には、この場からお引き取りをしてもらった。
「あら……王太子様たちを追い出して、私のような者と二人きりになってしまって良かったのかしら? とてもとても高貴な身分をお持ちのフォルティエナ・シーファン様……これではか弱いあなたを殿方様たちが悪女から守ってくれませんわよ?」
レオナは嫌味っぽくそう言って、私との対面をとても不愉快そうに顔を歪めた。
これではせっかくの可愛い顔が台無しである。
「レオナ……単刀直入に聞くが、あなたはもしかしてヒロインなのか?」
「……は?」
「どうか隠さずに、本当のことを教えてほしい」
「ちょっ……あなた、いきなり何を言ってるの? ヒロイン? はぁ……なにそれ……意味がわからない」
私の質問で先ほどまでの態度は一変、レオナの表情からは明らかに戸惑いを隠せない様子が見られた。
どうやらかなり驚かせてしまったらしい。
レオナはゲームの世界のヒロインではなかったのだろうか……。
「レオナ、あなたは転移サークルを展開できる能力持ちだと聞いたが?」
「それは間違ってないけど……あなたを辺境の荒れた地に飛ばして、戻ってこれないようにした理由は、ただの私の嫉妬よ。入学当時から密かに憧れていた王太子様が、公爵家の令嬢だからって何の面白味もない女の婚約者にされたのが、ただ単純に気に食わなかっただけ。ヒロインだとか、よく分からない単語のそんな話なんかじゃないわ。……どう? これで満足かしら?」
レオナはレイグラートへ密かに憧れていた。
爆走の理由は婚約者への嫉妬……それは本当だろうか?
彼女の言葉からは嘘をついている感じはしないが……念のため、もう少し問い詰めてみよう。
「では、ゲームのことは?」
「はぁ? ゲーム? なにそれ……知らないわ。さっきから何度もわけ分からないことを言わないで。私はあなたのことが気に食わなかったから、腹いせに自分の特殊能力を使った。ただ、それだけの話よ! そもそも……ただの平民である私があの学園に入れたのは、そのユニーク能力があったからであって……でも今は……」
レオナは悲痛な様子で、私にそう訴えた。
やはり……彼女は転生者ではないようだな。
つまりヒロインというのは、こちらの勘違いだった……。
ならば……。
「なぁ、レオナにそんな凄い能力があるなら、私と一緒にパーティを組まないか?」
「は……はぁああ??? あ、あなた……自分が何言ってるか分かってるの?! 自分を酷い目に合わせた相手とパーティ組むとか……ホント、意味がわからないしっ! ちょっと、正気なの?!」
レオナはそう叫んでから、右手で頭を抱えて、心底呆れた様子でその場に項垂れた。
私はそんなに変なことを彼女に言ったのだろうか。
「レオナ、その能力は絶対に使える。私に力を貸して欲しいんだ」
「なにそれ……じゃあさ、私を自由にしてくれるように、あなたがレイグラート様に口添えをしてよ。それが出来たら、あなたと一緒にパーティ組んであげてもいいわよ?」
「あぁ、分かった」
私は即答すると、レオナは深いため息をついた。
自由になる以外に、まだ何か……要望が足りないのだろうか?
「あなたって、ものすごーく変わってるわね。本当に公爵令嬢なの? でもざーんねん、その頼みの綱の能力、封じ込まれちゃったの。だからね、あなたにとって何の価値もない私よ」
レオナはそう言って、鼻で笑って見せた。
「……封じこまれた?」
「えぇ、捕まる時に強い魔力持ちの男にね。たぶんあれは……この国の裏側にいる闇魔法師だわ。目がとても冷たくて、人の命なんて何とも思っていない顔だった……」
レオナはそう言うと、肩をぶるっと震わせた。
どうやらその男はよほど怖い存在だったらしい。
でも裏の闇魔法使いなんて、この国にいるんだな。私も今初めて知ったよ。
「その闇魔法師を説得することは?」
「無理だと思う。だって、かなり曰く付きの人物というか、王国の暗部の人間……つまり暗殺でもなんでもやってのける危ない集団の一人なのよ? どこに居るかも分からないし、きっと対話なんてとても無理だわ……」
それだと仮にその男を探し出せたとしても、レオナにかけた封印は解いてくれなさそうだな。
それどころか私も国の裏切り者として秘密裏に処理されて、シーファン家は没落させられてしまうかもしれない。
レオナの説明から、安易に触れない方がいい人物なのは解った。
「なぁ……それならその封印を解く別の方法を、これから一緒に探しに行かないか? 学園には休学届けを出してさ、二人で冒険者として世界を旅するんだ。理由はそうだな……別の国への留学なんてどうだろうか?」
確かクラン同盟は、世界共通の集団。
国が変わっても、冒険者としては普通に活動できるはずだ。
「はぁ……あなたって本当に変わってる。私やここの人達とは全然違う世界を見ているんだもの……いいわ、分かった。ここから出られたら、私もその話に乗ってあげる。ユニークの転移魔法は封じられてしまったけれど、これでも私は属性魔法の方でも上級保持者なの。きっと色々な面で役に立つわよ」
「それは頼もしい! レオナ、ありがとう! さっそくレイグラートを説得してくるよ」
私はそう言って、地下牢の頑丈な扉へと向かった。
「全く……とんだ公爵令嬢ね。噂と全然違うじゃない。てっきり臆病で軟弱な令嬢だと思っていたのに……スラム街へ飛ばしても、簡単に戻ってこられるわけだわ、ふふふ」
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