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第一章
四話
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フォルティエナって学生だったのか。
まぁ15歳設定なんだから当たり前だな。
ローファン王国にある、唯一無二の王立学園。
そこへシーファン家の両親に促されて、久しぶりに登校してみれば、想像をはるかに超えた周りの騒々しさにしばらく呆気に取られた上、私の体はかなり疲弊した。
公爵家の令嬢で第一王子の婚約者。
フォルティエナは、身分も見た目も申し分ない完璧なキャラクターだ。
だからなのか、取り巻きからの取り巻かれ方がすんげーし、こちらの気を引こうとする令嬢たちの執拗さがやべーやべー……。
(朝からずっと……授業が終わるたびに、どっかの令嬢たちの人渦に巻き込まれて、フォルティエナの華奢な体が埋もれる……)
「フォルティエナ様は、いつもお美しくしていらっしゃる」
「さすがはレイグラート様の婚約者」
「フォルティエナ様、もし良ければこれから侯爵家の娘である私と、ランチをご一緒いたしませんこと?」
無駄にキラキラと綺麗に着飾った少女たちが、フォルティエナの周りをこれでもかと言うほどに取り囲んでくる。
(会話がかみ合わない令嬢たちとの付き合い……疲れる……疲れるわ。今日はもう早退しようかな……うん、そうしよう)
私はそう思い、自分の鞄を持ち上げると、そばにいた令嬢の一人が急に大きな声を荒立てた。
「フォルティエナ様! 見てください! あそこの庶民たち!」
「は? 庶民?」
「そう、庶民ですわ。家から持ってきた弁当などを教室で広げて……恥ずかしくないのかしら? 卑しい身分の者が、貴族と一緒の学舎なんて本当に嫌ですわよねぇ……」
「いや、別に……」
弁当の何が悪いんだ。
それに私も、中身は立派な元庶民だよ。
貴族と平民が同じ場所にいるのがそんなに悪いことなんか?
はぁ……この令嬢たちの感覚には、全くもってついていけないな。
そもそもこいつらって一体何しに学校来てんの?
キャワキャワしながら貴族同士で媚び売って、庶民いびりしてるだけ?
(先祖や親の栄光で上位カーストなだけのガキんちょどもが、さも偉そうにさぁ……)
付き合ってられんわ。
早々にこの空間から離脱……と。
「フォルティエナ様? どうなさいました?」
「申し訳ありません。私少々用事がございまして……これで失礼いたします」
私は取り巻きたちの中を忍者の如くススススッとすり抜けて、教室を後にした。
これから私はこの学校の図書館に行って、近場にあるダンジョンの攻略本でも探そうかと考えてるんだからさ。
こちとら好きでこの令嬢の体に転生したわけじゃなし……もう色々とほっといてほしい。
今の私にとっちゃ、この弱小令嬢の体でどうレベル上げしていこうかと模索することの方が、貴族ごっこをするよりもずっと大事なことなんだよ!
◇ ◇ ◇
私は王立学園の図書館までやってきた。
学園の図書館は、思っていたよりも随分と大きな建物だったが、ここは家柄の良い若者や成績が優秀な生徒を多く集めている学校のようだから、大事な書物の保管場所はどうしても規模が大きくなってしまうのだろう。
私は図書館の入り口から入り、受付にいる職員に話しかけた。
「失礼、この国の周辺にある初心者用ダンジョンの、攻略に適している書物はないだろうか? あったら貸して欲しいのだが」
「え……あ……」
受付にいる若い女性の職員は、かなり驚いた様子でこちらを見ている。
「聞こえなかったかな? ダンジョンについての書物で調べたいことがあるのだが……えっと……」
「あ、失礼しました……フォルティエナ・シーファン様ですよね。お噂などで色々と存じております……が、その……話し方や雰囲気が聞いていたイメージとあまりにも違ったものですから……」
おっと……いかん。
つい素が出ていたか。
ダンジョン攻略への期待ばかりが先立って、お嬢様言葉を使うのをすっかり忘れていた。
まぁ、図書館の受付の人にそうそう会うワケでもなし……このまま砕けた話し方でも別に良いか。
「噂とは当てにならないものだ。ところで、先ほどの質問だが……」
「周辺ダンジョンの攻略についての本ですよね? 申し訳ありません……実は先ほど、フォルティエナ様と入れ違いで、レイグラート王太子様がその辺りの書物を全て持っていかれまして……」
「レイグラート王子が?」
「はい……従者の方も一緒に来られ、大量に運んでいかれました」
なんと……王子の方もダンジョン攻略のために一役買ってくださるおつもりだったか。
これはさっそく王子がいる場所まで訪ねる必要があるな。
でも、王子って学校では普段どこにいるんだ?
んー……よく知らね。
とりあえず詳しそうな誰かに尋ねてみるかね。
「それは失礼した。たぶんそれは私のためだ。教えてくれてどうもありがとう」
「まぁ、そうでしたか! 王太子様はフォルティエナ様の婚約者様ですものね! 書物や資料はお二人でダンジョン攻略についての研究や、文集の作成などに使われるのでしょうか?」
「まぁ、そんなところだ」
実際は王子と他の数人でパーティを組んで、ダンジョンに乗り込むつもりなんだが。
きっとそんなこと伝えても、貴族の娘が王子とダンジョン攻略など、冗談だと思われるのがオチだろうから黙っていた。
笑われるぐらいならまだいいが……下手するとシーファン家や王家に連絡が行って、本気で止められるかもしれないし。
(面倒くさい立場の人間に転生しちゃったよなぁ……令嬢じゃなくて、剣士か冒険者が良かったなぁ……)
私は受付の女性にお礼を言って、図書館を後にした。
そしてレイグラートを探しに行くことにする。
まぁ15歳設定なんだから当たり前だな。
ローファン王国にある、唯一無二の王立学園。
そこへシーファン家の両親に促されて、久しぶりに登校してみれば、想像をはるかに超えた周りの騒々しさにしばらく呆気に取られた上、私の体はかなり疲弊した。
公爵家の令嬢で第一王子の婚約者。
フォルティエナは、身分も見た目も申し分ない完璧なキャラクターだ。
だからなのか、取り巻きからの取り巻かれ方がすんげーし、こちらの気を引こうとする令嬢たちの執拗さがやべーやべー……。
(朝からずっと……授業が終わるたびに、どっかの令嬢たちの人渦に巻き込まれて、フォルティエナの華奢な体が埋もれる……)
「フォルティエナ様は、いつもお美しくしていらっしゃる」
「さすがはレイグラート様の婚約者」
「フォルティエナ様、もし良ければこれから侯爵家の娘である私と、ランチをご一緒いたしませんこと?」
無駄にキラキラと綺麗に着飾った少女たちが、フォルティエナの周りをこれでもかと言うほどに取り囲んでくる。
(会話がかみ合わない令嬢たちとの付き合い……疲れる……疲れるわ。今日はもう早退しようかな……うん、そうしよう)
私はそう思い、自分の鞄を持ち上げると、そばにいた令嬢の一人が急に大きな声を荒立てた。
「フォルティエナ様! 見てください! あそこの庶民たち!」
「は? 庶民?」
「そう、庶民ですわ。家から持ってきた弁当などを教室で広げて……恥ずかしくないのかしら? 卑しい身分の者が、貴族と一緒の学舎なんて本当に嫌ですわよねぇ……」
「いや、別に……」
弁当の何が悪いんだ。
それに私も、中身は立派な元庶民だよ。
貴族と平民が同じ場所にいるのがそんなに悪いことなんか?
はぁ……この令嬢たちの感覚には、全くもってついていけないな。
そもそもこいつらって一体何しに学校来てんの?
キャワキャワしながら貴族同士で媚び売って、庶民いびりしてるだけ?
(先祖や親の栄光で上位カーストなだけのガキんちょどもが、さも偉そうにさぁ……)
付き合ってられんわ。
早々にこの空間から離脱……と。
「フォルティエナ様? どうなさいました?」
「申し訳ありません。私少々用事がございまして……これで失礼いたします」
私は取り巻きたちの中を忍者の如くススススッとすり抜けて、教室を後にした。
これから私はこの学校の図書館に行って、近場にあるダンジョンの攻略本でも探そうかと考えてるんだからさ。
こちとら好きでこの令嬢の体に転生したわけじゃなし……もう色々とほっといてほしい。
今の私にとっちゃ、この弱小令嬢の体でどうレベル上げしていこうかと模索することの方が、貴族ごっこをするよりもずっと大事なことなんだよ!
◇ ◇ ◇
私は王立学園の図書館までやってきた。
学園の図書館は、思っていたよりも随分と大きな建物だったが、ここは家柄の良い若者や成績が優秀な生徒を多く集めている学校のようだから、大事な書物の保管場所はどうしても規模が大きくなってしまうのだろう。
私は図書館の入り口から入り、受付にいる職員に話しかけた。
「失礼、この国の周辺にある初心者用ダンジョンの、攻略に適している書物はないだろうか? あったら貸して欲しいのだが」
「え……あ……」
受付にいる若い女性の職員は、かなり驚いた様子でこちらを見ている。
「聞こえなかったかな? ダンジョンについての書物で調べたいことがあるのだが……えっと……」
「あ、失礼しました……フォルティエナ・シーファン様ですよね。お噂などで色々と存じております……が、その……話し方や雰囲気が聞いていたイメージとあまりにも違ったものですから……」
おっと……いかん。
つい素が出ていたか。
ダンジョン攻略への期待ばかりが先立って、お嬢様言葉を使うのをすっかり忘れていた。
まぁ、図書館の受付の人にそうそう会うワケでもなし……このまま砕けた話し方でも別に良いか。
「噂とは当てにならないものだ。ところで、先ほどの質問だが……」
「周辺ダンジョンの攻略についての本ですよね? 申し訳ありません……実は先ほど、フォルティエナ様と入れ違いで、レイグラート王太子様がその辺りの書物を全て持っていかれまして……」
「レイグラート王子が?」
「はい……従者の方も一緒に来られ、大量に運んでいかれました」
なんと……王子の方もダンジョン攻略のために一役買ってくださるおつもりだったか。
これはさっそく王子がいる場所まで訪ねる必要があるな。
でも、王子って学校では普段どこにいるんだ?
んー……よく知らね。
とりあえず詳しそうな誰かに尋ねてみるかね。
「それは失礼した。たぶんそれは私のためだ。教えてくれてどうもありがとう」
「まぁ、そうでしたか! 王太子様はフォルティエナ様の婚約者様ですものね! 書物や資料はお二人でダンジョン攻略についての研究や、文集の作成などに使われるのでしょうか?」
「まぁ、そんなところだ」
実際は王子と他の数人でパーティを組んで、ダンジョンに乗り込むつもりなんだが。
きっとそんなこと伝えても、貴族の娘が王子とダンジョン攻略など、冗談だと思われるのがオチだろうから黙っていた。
笑われるぐらいならまだいいが……下手するとシーファン家や王家に連絡が行って、本気で止められるかもしれないし。
(面倒くさい立場の人間に転生しちゃったよなぁ……令嬢じゃなくて、剣士か冒険者が良かったなぁ……)
私は受付の女性にお礼を言って、図書館を後にした。
そしてレイグラートを探しに行くことにする。
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