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第一章
三話
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転生をした日から、数日が経った。
あれから私は、令嬢の一日というものをそれなりに体験しているのだが、はっきり言って『つまらん』の一言に尽きる。
その上まだ家出をするための準備が何もできていなのだ。
それもそのはず……この令嬢付きのメイド、いついつ見ても隙がない。
私が変な行動をすればすーぐに追いかけてきて、やたらと止めに入ってくるのだ。
昨日なんて廊下の床で筋トレをしながら唸っていたら、慌ててベッドまで担ぎ込まれ、医者にまで診せられてしまった始末。
(廊下でやったのがまずかったのか? このメイドに大げさに騒がれることが怖くて、なんかもう筋トレできない)
かといって今ここでまた威圧の魔法をメイドに使ってもな……。
この弱小な令嬢の姿では、一人で底辺ダンジョンの攻略すらもきっとできんだろうし。
私はそばで給仕をしている厄介なモブメイドを、令嬢の赤い眼でじっと見つめた。
もういっそ、こいつをパーティに加えて、攻略に利用できないだろうか……と。
ネットゲームをする時の自分ルール!
初期でソロゲーかます時は、NPCだろうがクソ雑魚アイテムだろうが、底上げするまでは使えるものは何でも使うスタイルに徹すること!
いくらどっかのゲームに似ていたとしても、今の私にとっては死んだら終わり……の紛れもない現実の世界。
現実には残機なども存在しない。
格上相手へ特攻して、死に戻り覚悟で相打ち狙い、レベル爆上げ計画とかは絶対に無理な話だから、強くなるためには底辺でもなんでも数叩いて、経験値を稼げないと意味がないのだ。
「お嬢様、そんなに私をじっと見つめて、一体どうしたのですか?」
「ねぇ、あなた……私のパーティに入らない? 入ってくれたら、色々と優遇するわよ」
つっても今のメンバーは、私一人しかいないけどな!
オンリーワンパーティだけどなっ!
「いえいえ、そんな恐れ多い……私のようなメイド如きが、王太子様にお呼ばれしているパーティなんて……フォルティエナお嬢様と一緒に出席できるわけがございません」
「ちが……」
そんな話はしてねーよ!
つーか、そっちのパーティじゃねえんだよ!
正直、威圧の特殊能力があったとしても、さすがにこの棒切れのような少女の体では強くなるのにまだまだ時間もかかる。
だからこそNPCでも何でも利用して、今できることからやっていこうと思ったのにな。
このメイド、令嬢の体よりもずっと力があるから、多少はモンスターの盾にでもなるかなっていう卑劣な作戦だじょ。
◇ ◇ ◇
「……あら? 大変ですわっっ……」
ん?
モブメイドが窓の外を見て急に狼狽え出した。
一体なんだね?
どうかしたのか。
「先ほどからお屋敷の前に止まっている馬車なのですが……よく見たら、王家の家紋がついています! まさか……王太子様直々にシーファン家までお越しになられて……?」
な、なんだって!
お披露目会までになんとか力をつけて、逃げ出してやろうかと企んでいたのに……。
例の王太子、いきなりアポイントも無しに直接シーファン家まで来やがったかっ!
応接間へと案内された王子は、私が部屋を訪ねると近づいてくるなりその場で膝をついて、私の手を取りこちらへと顔を向けた。
そして和やかな笑顔を見せる。
(おぉ、キラキラの背景にも馴染んで……定番の金髪イケメン王子だー……)
「フォルティエナ・シーファン嬢……この度は挨拶が遅れましたこと、お詫び申し上げます。私はローファン王国の第一王子、レイグラート・ローファン……あなたの婚約者となった男です」
パンパカパーン!
フォルティエナは婚約者の名前を手に入れた!
……って、そんなことはどうでもいい!
はー……まさかの王太子自らのご登場とはね。
この時点で不義でも働いたら、即効で婚約破棄してくれないだろうか?
「なぜ急に……」
私は不快であるという意志表示のつもりで、険しい顔を第一王子へと向けた。
「親同士が交わした婚約とはいえ、一度こうして顔を合わせてじっくりとフォルティエナ嬢と話をしてみたかったのです」
そんなんお披露目会まで待っとけよ。
なんでそこのメイドといい、この王太子といい、絶妙なタイミングでうまい具合にほっといてくれないんだ!
私はこの王太子と特に話すこともないので、黙っていた。
「緊張されていますか……?」
黙っていた。
「お可愛らしい……」
黙っていた。
「まさに花のように美しいお方だ」
黙っていた。
「あなたの強い眼差しに私の心は奪われてしまいました。目は口ほどに物を言う……分かっています。私たちはおそらく相思相愛……ですね?」
黙……って、だぁあ! もう!
なんじゃ、この王子は!
何しても嫌ってくれそうにない!
「そういえば、フォルティエナ様は特殊な能力が使えるとか……実は、私もなんです」
ん?
特殊な能力……だと?
それは興味あるな。
そこの王太子よ、早く話したまえ。
「どんな能力をお待ちで?」
「はい、私は王太子としてある程度の剣技や魔法はもちろん使えるのですが、実はモンスターを倒すと、もらえる経験値が二倍になるという特殊なパッシブスキルが備わっているのです。はは、変わっているでしょう? 前線には滅多に出ない上、誰かとパーティを組むなんてこともない立場の人間なのに、そんなものあってどうするのか……無用の長物ですよ」
やっぱり王太子は前線には出ないのか……。
って、それよりも経験値が二倍?! 二倍だと!!
それにこの言い方だと、パーティメンバーにも振り分けられる特技のようではないか。
こ、これは……なんとしても手放しちゃいけないやつだ!
「レイグラート様、なんて素敵な能力を! 私はあなた様(のエグい能力)に心底惚れてしまいました」
「ほ、本当ですか! 私もフォルティエナ様に……ひ、一目惚れしてしまって……」
おぉ、王子も令嬢の威圧の力に一目惚れか!
わかる、わかるよ!
自分じゃ使えない能力持ちを発見したら、思わず飛びついちゃうよな!
ネトゲ廃人としては、パーティ組みたくなっちゃうよな!
「……ぜひ、一緒に(ダンジョンへ)行きましょう。約束してください……いつまでも私のそばにいるって……」
「はい、未来永劫……あなた様と共に生きていきたいです」
うっし、王太子ゲット!
この調子でいけば、異世界ライフも楽しくなりそうじゃないか!
他の攻略キャラの能力はよく知らんが、このレイグラート王子だけは、どっかのヒロインにも奪われないように善処しなくてはな!
あれから私は、令嬢の一日というものをそれなりに体験しているのだが、はっきり言って『つまらん』の一言に尽きる。
その上まだ家出をするための準備が何もできていなのだ。
それもそのはず……この令嬢付きのメイド、いついつ見ても隙がない。
私が変な行動をすればすーぐに追いかけてきて、やたらと止めに入ってくるのだ。
昨日なんて廊下の床で筋トレをしながら唸っていたら、慌ててベッドまで担ぎ込まれ、医者にまで診せられてしまった始末。
(廊下でやったのがまずかったのか? このメイドに大げさに騒がれることが怖くて、なんかもう筋トレできない)
かといって今ここでまた威圧の魔法をメイドに使ってもな……。
この弱小な令嬢の姿では、一人で底辺ダンジョンの攻略すらもきっとできんだろうし。
私はそばで給仕をしている厄介なモブメイドを、令嬢の赤い眼でじっと見つめた。
もういっそ、こいつをパーティに加えて、攻略に利用できないだろうか……と。
ネットゲームをする時の自分ルール!
初期でソロゲーかます時は、NPCだろうがクソ雑魚アイテムだろうが、底上げするまでは使えるものは何でも使うスタイルに徹すること!
いくらどっかのゲームに似ていたとしても、今の私にとっては死んだら終わり……の紛れもない現実の世界。
現実には残機なども存在しない。
格上相手へ特攻して、死に戻り覚悟で相打ち狙い、レベル爆上げ計画とかは絶対に無理な話だから、強くなるためには底辺でもなんでも数叩いて、経験値を稼げないと意味がないのだ。
「お嬢様、そんなに私をじっと見つめて、一体どうしたのですか?」
「ねぇ、あなた……私のパーティに入らない? 入ってくれたら、色々と優遇するわよ」
つっても今のメンバーは、私一人しかいないけどな!
オンリーワンパーティだけどなっ!
「いえいえ、そんな恐れ多い……私のようなメイド如きが、王太子様にお呼ばれしているパーティなんて……フォルティエナお嬢様と一緒に出席できるわけがございません」
「ちが……」
そんな話はしてねーよ!
つーか、そっちのパーティじゃねえんだよ!
正直、威圧の特殊能力があったとしても、さすがにこの棒切れのような少女の体では強くなるのにまだまだ時間もかかる。
だからこそNPCでも何でも利用して、今できることからやっていこうと思ったのにな。
このメイド、令嬢の体よりもずっと力があるから、多少はモンスターの盾にでもなるかなっていう卑劣な作戦だじょ。
◇ ◇ ◇
「……あら? 大変ですわっっ……」
ん?
モブメイドが窓の外を見て急に狼狽え出した。
一体なんだね?
どうかしたのか。
「先ほどからお屋敷の前に止まっている馬車なのですが……よく見たら、王家の家紋がついています! まさか……王太子様直々にシーファン家までお越しになられて……?」
な、なんだって!
お披露目会までになんとか力をつけて、逃げ出してやろうかと企んでいたのに……。
例の王太子、いきなりアポイントも無しに直接シーファン家まで来やがったかっ!
応接間へと案内された王子は、私が部屋を訪ねると近づいてくるなりその場で膝をついて、私の手を取りこちらへと顔を向けた。
そして和やかな笑顔を見せる。
(おぉ、キラキラの背景にも馴染んで……定番の金髪イケメン王子だー……)
「フォルティエナ・シーファン嬢……この度は挨拶が遅れましたこと、お詫び申し上げます。私はローファン王国の第一王子、レイグラート・ローファン……あなたの婚約者となった男です」
パンパカパーン!
フォルティエナは婚約者の名前を手に入れた!
……って、そんなことはどうでもいい!
はー……まさかの王太子自らのご登場とはね。
この時点で不義でも働いたら、即効で婚約破棄してくれないだろうか?
「なぜ急に……」
私は不快であるという意志表示のつもりで、険しい顔を第一王子へと向けた。
「親同士が交わした婚約とはいえ、一度こうして顔を合わせてじっくりとフォルティエナ嬢と話をしてみたかったのです」
そんなんお披露目会まで待っとけよ。
なんでそこのメイドといい、この王太子といい、絶妙なタイミングでうまい具合にほっといてくれないんだ!
私はこの王太子と特に話すこともないので、黙っていた。
「緊張されていますか……?」
黙っていた。
「お可愛らしい……」
黙っていた。
「まさに花のように美しいお方だ」
黙っていた。
「あなたの強い眼差しに私の心は奪われてしまいました。目は口ほどに物を言う……分かっています。私たちはおそらく相思相愛……ですね?」
黙……って、だぁあ! もう!
なんじゃ、この王子は!
何しても嫌ってくれそうにない!
「そういえば、フォルティエナ様は特殊な能力が使えるとか……実は、私もなんです」
ん?
特殊な能力……だと?
それは興味あるな。
そこの王太子よ、早く話したまえ。
「どんな能力をお待ちで?」
「はい、私は王太子としてある程度の剣技や魔法はもちろん使えるのですが、実はモンスターを倒すと、もらえる経験値が二倍になるという特殊なパッシブスキルが備わっているのです。はは、変わっているでしょう? 前線には滅多に出ない上、誰かとパーティを組むなんてこともない立場の人間なのに、そんなものあってどうするのか……無用の長物ですよ」
やっぱり王太子は前線には出ないのか……。
って、それよりも経験値が二倍?! 二倍だと!!
それにこの言い方だと、パーティメンバーにも振り分けられる特技のようではないか。
こ、これは……なんとしても手放しちゃいけないやつだ!
「レイグラート様、なんて素敵な能力を! 私はあなた様(のエグい能力)に心底惚れてしまいました」
「ほ、本当ですか! 私もフォルティエナ様に……ひ、一目惚れしてしまって……」
おぉ、王子も令嬢の威圧の力に一目惚れか!
わかる、わかるよ!
自分じゃ使えない能力持ちを発見したら、思わず飛びついちゃうよな!
ネトゲ廃人としては、パーティ組みたくなっちゃうよな!
「……ぜひ、一緒に(ダンジョンへ)行きましょう。約束してください……いつまでも私のそばにいるって……」
「はい、未来永劫……あなた様と共に生きていきたいです」
うっし、王太子ゲット!
この調子でいけば、異世界ライフも楽しくなりそうじゃないか!
他の攻略キャラの能力はよく知らんが、このレイグラート王子だけは、どっかのヒロインにも奪われないように善処しなくてはな!
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