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第二章

二十話

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「お、お邪魔しま~す……」
 真宵くんの家は一人で住むにはとても広い、モダンで二階建ての大きな建物だ。
 私は玄関から入り、靴を揃えて中へと入った。
(この家に来たの、かなり久しぶりかも……)

 玄関の目の前にある廊下、その先の扉を開ければ、広いダイニングキッチンとリビングのお出ましだ。
「とりあえず、今から夕飯作るよ。カレーでいい?」
「うん、ありがとう。真宵くん、今は一人で家事とかしてるの?」
「自分の分だけはね……掃除は……ほら、あいつが」
「あいつ?」
 私は静かに機械音をたてながら、床で動いている物体を見た。
 この機械は……今、流行りのル◯バというやつだろうか?
「……これは便利」

 真宵くんは私をソファへの方へと案内した後、袖をめくって手を洗い、メンズエプロンを身につけてキッチンに立った。
 真宵くんのその慣れた仕草に、私はついドキッとしてしまう。
(か、かっこいい……)
 それはもう……彼は本当に高校生なのか? と思わせるほどに。
 私だって今でこそ一人暮らしをしているから、家ではそれなりに家事をやっているとはいえ、そこまで料理とかに身を入れているわけではない。
 作らないで済むなら、それでも良いと思っている人間だった。
 親御さんがずっと不在だったからとはいえ、やっぱり真宵くんは、普通の男子高校生とはちょっと違う気がした。
(これは惚れてまうわ……)


「あ、そうだ……」
 キッチンで作業をしている真宵くんの姿に見惚れていた私は、急に大事なことを思い出して、ソファから立ち上がった。
「栞里? またコート着て、どうかしたの?」
 料理の手を止めて、こちらの方へとやってきた真宵くん。
 別にわざわざ中断しなくても、大丈夫なのに……。
「ちょっと今からコンビニにね」
「え、なんで?」
「着替え持ってきてないから、買いに行こうと思って」
 さすがに二日続けて同じ下着を、ずっと身につけたくはないからね。
 そしてそれを聞いた真宵くんは、とても真剣な顔になって、私のをじっと見てきた。
「うちに洗濯乾燥機あるよ。服は俺の貸すし、乾くまで下着はつけなくても、俺は全然……て、いてっ」
 私は真宵くんが言い終わる前に、彼の肩を軽めにパシッと叩いたあと、廊下の方へと出ていった。
 後ろの方で「ちぇ」という声が聞こえた気がしたが……。
(も、もう、男の子って、男の子って……スケベ!)


    ◇ ◇ ◇


 真宵くんの家から15分ほど歩いた先にあるコンビニで、必要最低限のお泊まりセットを購入してきた私は、タイミングを見計らって誰にも気づかれないよう、そっと静かに家の中へと入った。
(真宵くんとさっき揉めてたことや、今私がこの家に入ったことが、どうかうちの家族や知り合いには見られていませんように……)
 今日家族に会ったばかりで、すでに神奈川に帰ったと思われている私が、実は真宵くんの家に泊まってましたーなんて知られたら、さすがにちょっと恥ずかしい。
 そこはもう誰にも見られていないことを、祈るしかないけれど。

 再び例の広いリビングダイニングまで戻ると、真宵くんのカレーは、あとはルーを入れて煮込むだけという最終段階を迎えていた。
 私は真宵くんの邪魔にならないよう、彼に声だけかけてソファの方に座った。
 そしてメールや着信の確認をしようと、自分の鞄からスマホを取り出す。
 その際、前に真宵くんからもらったキーホルダーと猫の人形が目に入った。
(そういえば君たちもいたんだね。今日は一緒にお泊まりだね)
 これをもらった時は、まさか真宵くんと付き合うことになって、そのまま家に泊まることになるなんて、思ってもいなかった。
 人生って本当、先が読めないものだね。

 しばらくして、部屋の中にカレーの香ばしい匂いが広がってきた。
 それに加えて、炊飯器の蒸気から出た、ご飯が炊き上がってきている匂いまでするのだ。
 これはかなり食欲をそそる香りのコンボである。
 私は真宵くんの指示を受けながら、お皿やコップの用意をした。
 そして真宵くんが作ってくれた少し辛めのカレーを二人で味わいながら、幸せってこうやって二人で作り上げていくものなのかもな……と、じんわり感じ始めていた。

 食事を終えてひと段落ついた私たちは、階段を上がり、真宵くんの部屋の方に移動した。
 真宵くんの部屋は、パソコンが置いてあって、適度に本や漫画も置いてあって……なんというか、子どもの頃によく来ていた時とあまり変わっていない、シンプルで男の子らしい部屋だった。
「あれ、あの棚の所にある石……」
(なんか見たことがある)
 あ、そうだ。
 真宵くんのLINNのプロフィール画像で見かけたんだわ。
 やっぱりあれは、思い出の品か何かなんだろうか?

「あの石は……栞里がくれたやつ」
「えっ?」
「前に海行った時に……」
「そう……」
(だったっけ)
「その時も二人きりになってから、栞里に好きだって伝えたんだけどね」
「えっ……」
 真宵くん曰く、過去の自分は私に何度も告白していたのだという。
 それを私はことごとくを連呼して、ヘラヘラと真宵くんの告白をかわしていたらしいのだ。

「栞里ってほんっと、にっぶいよね」
「ごめんてば……」
「別にいいよ、これからずっと俺が独占するんだから……」
 真宵くんはそう言って、私の口に自分の口を重ねた。
「ん……」
 優しく動く唇が心地よい。
 やっぱり真宵くん、キスが上手いね。
 私は思わず、とろんとした顔になってしまう。

「と……ごめん、俺、栞里に謝らなきゃいけないことがある」
 え、ここに来て真宵くんが私に謝ること……?
 えっと、一体なにかな~……?
「実は眠ってる栞里に、何度もキスした前科あり」
「は?? え、い、いつ?!」
「さぁ……たぶん小3くらいでは……すでにしてたかも。栞里が泊まりに来たり、自分がそっちの家に泊まるたびに」
「えぇぇぇ?!」
 これはもしかして、前に真宵くんが言いかけてたやつ……ですかね?!
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