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第二章
十四話
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「栞里には色んなものをもらった」
真宵くんはそう言って、私の目をじっと見た。
えー……そんなに?
うーん、全然思い出せないんだけど。
私は黙っていると、真宵くんの表情に変化が現れる。
(あ、また……)
何か言いたそうな感じの彼の……顔。
なんだろう?
真宵くんはいつも私に何に気がついてほしいのだろうか。
「本当……栞里はにぶちんだね」
「に、にぶ?」
そう呟いた真宵くんは、自身の右手で私の左手を正面から掴み、指を交互に重ねてきた。
彼のひと回り大きな手、そして長い指が私の手をすっぽりと覆う。
真宵くんのこの不可解すぎる行動は、私の心をいつもいつも騒つかせるのだ。
「ななな……」
「ほら……手も体も俺の方が栞里よりこんなにでかい。今の栞里くらいいくらでも簡単に力で押さえ込める。じっくり考えてとは言ったけど俺だって男だし、限界はあるんだからね?」
真宵くんに顔を近づけられ耳元でそう囁かれたあと、今度は髪や顔、唇などを優しく指でなぞられた。
彼の攻めに入った言葉と、急に取られたスキンシップに、私の心はついて行けず、頭の中までショートしている。
顔が真っ赤になったまま思考が停止した状態の私は、真宵くんの触れてくる指や手になされるがままだ。
そして真宵くんの指が、私の顎をくいっと上に傾けたところで私はハッと我に帰り、咄嗟に彼から体を引き離して後ろの方へと後ずさった。
「ちょ、ま……まてまてまて?」
「あー……あともう少しだったのに……」
もう少しだったのに……じゃないよ!
こんな人目もあるところで……今、あなた何しようとした? え?
「公の場で何を……」
「ん? なら今から上の階のカラオケでも行く?」
そ、そんなの、行ってたまるもんですか!
今の真宵くんと二人きりになんてなったら、一体何されるか分かったもんじゃない。
「も、帰ります!」
私はそう言って、慌ててゲームセンターの入口に向かい、そのまま外へと出て行った。
そんな私の後ろを静かに追いかけてくる真宵くんだ。
私は顔の火照りが取れぬまま、だいぶ暗くなった歩道の上をしゃかしゃかと早足で歩く。
そうして気がつくと、いつの間にか駅とは反対の方向へとかなりの距離を進んでいた。
小さな公園の前に来たところで、追いついてきた真宵くんにぐっと左手を掴まれる。
「栞里これ以上どこ行くの? ここは駅とは反対方向だから……」
「わ、わかってるよ……」
ただあの、周囲の目がこちらに注目している気まずい空間から、すぐにでも離れたかっただけ。
だって真宵くん、私が恥ずかしくなることばかりするんだもの。
あんな恋人みたいな接し方をされても……今の私にはとても耐えられない。
しかもその相手である真宵くんは、かなりイケメンで年下の高校生な上、つい最近まで弟みたいに想っていた幼馴染なのに……。
「私……」
「ん?」
「ああいうこと慣れてなくて……心臓がバクバクして……だから……」
ここで思わず「ごめん」って言って、また逃げだしたい気持ちをなんとか我慢した。
今またここで逃げてしまったら、この前のみなとみらいでの時の二の舞になってしまう。
さすがにそれでは自分が情けない。
それに真宵くんがイヤだとか嫌いだとか……そういうことじゃない。
そういうことじゃないんだ。
ただ、うまく伝えることができない。
今も逃げだしたい気持ちは確かなんだけど。
「……それは俺もだよ、ほら」
真宵くんはそう言って、私の腕を引っ張り、彼の胸の上に私の手を押し付けた。
自分の手の平の中心から伝わってくる、真宵くんの心臓の鼓動。
それは……私と同様にかなり速く脈打っていた。
「栞里といて、俺も普通にこうなるから……まぁ当たり前じゃん?」
「真宵くんも……こんなにドキドキしてるんだ」
「うん」
ああいうこと自然にできるのは、真宵くんが色々と経験豊富だからだと思ってた。
でも……。
(この場で緊張しているのは私だけじゃない……)
私と真宵くんは公園のベンチに座ると、お互いにゆっくりと深呼吸をした。
そして再び言葉を交わし始める。
「栞里と一緒にいるとつい触れたくなる。でもそれは栞里が好きだからであって……誰でも良いわけじゃない」
真宵くんはそう告げて、真剣な顔で私の目を見てきた。
思わず吸い込まれてしまいそうになる。
少し色素の薄い……彼のきれいな瞳。
「でも真宵くん、キスもうまか……い、いや、なんでもない」
「俺のキスが上手い?」
真宵くんはそう言うと、今度は少し驚いた顔をした。
あれ?
なんか意外だ……。
もっと……余裕あるかと。
「うん、だから慣れてるのかなって」
「栞里に対して上手いのは当たり前だよ、だって昔……」
「え?」
「あー……ごめん、なんでもない……忘れて」
そう言った真宵くんの顔は、公園の薄暗い街灯の下で見ても分かるくらい、かなり赤くなっていた。
忘れろと言われても、気になってしまうのですが……?
何か聞いちゃいけないことを聞いてしまったような気がする。
「とにかく! 俺も栞里が初めてだから……そんな節操のない人間だとは思わないように」
真宵くんは心外だ……と少しふてくされた顔でそう言った。
「う、うん……」
「好きなのは栞里だけ……他はいらない」
最後はよく聞こえないような小さな声でボソリと呟いた真宵くん。
(じゃあ二人とも観覧車でがファーストキス……? で、いいのよね? あれ?)
私は思わず口元を両方の手で覆い隠した。
これ以上はもうなんか色々と耐えられぬ心境だ。
「あ……もしかして最後のやつ、聞こえた?」
「え、な、何も考えてないわよ!」
「ん? 何か別のこと考えてたの?」
「ちが……」
さっき最後の方で真宵くんがボソッと言った言葉は私にはよく聞こえなかった。
けど、それとは別にやっぱり私の鼓動は速くなってしまって、中々うまく言葉を伝えられない。
真宵くん相手だと、どうしてこんなにも心がかき乱されてしまうのだろうか。
真宵くんはそう言って、私の目をじっと見た。
えー……そんなに?
うーん、全然思い出せないんだけど。
私は黙っていると、真宵くんの表情に変化が現れる。
(あ、また……)
何か言いたそうな感じの彼の……顔。
なんだろう?
真宵くんはいつも私に何に気がついてほしいのだろうか。
「本当……栞里はにぶちんだね」
「に、にぶ?」
そう呟いた真宵くんは、自身の右手で私の左手を正面から掴み、指を交互に重ねてきた。
彼のひと回り大きな手、そして長い指が私の手をすっぽりと覆う。
真宵くんのこの不可解すぎる行動は、私の心をいつもいつも騒つかせるのだ。
「ななな……」
「ほら……手も体も俺の方が栞里よりこんなにでかい。今の栞里くらいいくらでも簡単に力で押さえ込める。じっくり考えてとは言ったけど俺だって男だし、限界はあるんだからね?」
真宵くんに顔を近づけられ耳元でそう囁かれたあと、今度は髪や顔、唇などを優しく指でなぞられた。
彼の攻めに入った言葉と、急に取られたスキンシップに、私の心はついて行けず、頭の中までショートしている。
顔が真っ赤になったまま思考が停止した状態の私は、真宵くんの触れてくる指や手になされるがままだ。
そして真宵くんの指が、私の顎をくいっと上に傾けたところで私はハッと我に帰り、咄嗟に彼から体を引き離して後ろの方へと後ずさった。
「ちょ、ま……まてまてまて?」
「あー……あともう少しだったのに……」
もう少しだったのに……じゃないよ!
こんな人目もあるところで……今、あなた何しようとした? え?
「公の場で何を……」
「ん? なら今から上の階のカラオケでも行く?」
そ、そんなの、行ってたまるもんですか!
今の真宵くんと二人きりになんてなったら、一体何されるか分かったもんじゃない。
「も、帰ります!」
私はそう言って、慌ててゲームセンターの入口に向かい、そのまま外へと出て行った。
そんな私の後ろを静かに追いかけてくる真宵くんだ。
私は顔の火照りが取れぬまま、だいぶ暗くなった歩道の上をしゃかしゃかと早足で歩く。
そうして気がつくと、いつの間にか駅とは反対の方向へとかなりの距離を進んでいた。
小さな公園の前に来たところで、追いついてきた真宵くんにぐっと左手を掴まれる。
「栞里これ以上どこ行くの? ここは駅とは反対方向だから……」
「わ、わかってるよ……」
ただあの、周囲の目がこちらに注目している気まずい空間から、すぐにでも離れたかっただけ。
だって真宵くん、私が恥ずかしくなることばかりするんだもの。
あんな恋人みたいな接し方をされても……今の私にはとても耐えられない。
しかもその相手である真宵くんは、かなりイケメンで年下の高校生な上、つい最近まで弟みたいに想っていた幼馴染なのに……。
「私……」
「ん?」
「ああいうこと慣れてなくて……心臓がバクバクして……だから……」
ここで思わず「ごめん」って言って、また逃げだしたい気持ちをなんとか我慢した。
今またここで逃げてしまったら、この前のみなとみらいでの時の二の舞になってしまう。
さすがにそれでは自分が情けない。
それに真宵くんがイヤだとか嫌いだとか……そういうことじゃない。
そういうことじゃないんだ。
ただ、うまく伝えることができない。
今も逃げだしたい気持ちは確かなんだけど。
「……それは俺もだよ、ほら」
真宵くんはそう言って、私の腕を引っ張り、彼の胸の上に私の手を押し付けた。
自分の手の平の中心から伝わってくる、真宵くんの心臓の鼓動。
それは……私と同様にかなり速く脈打っていた。
「栞里といて、俺も普通にこうなるから……まぁ当たり前じゃん?」
「真宵くんも……こんなにドキドキしてるんだ」
「うん」
ああいうこと自然にできるのは、真宵くんが色々と経験豊富だからだと思ってた。
でも……。
(この場で緊張しているのは私だけじゃない……)
私と真宵くんは公園のベンチに座ると、お互いにゆっくりと深呼吸をした。
そして再び言葉を交わし始める。
「栞里と一緒にいるとつい触れたくなる。でもそれは栞里が好きだからであって……誰でも良いわけじゃない」
真宵くんはそう告げて、真剣な顔で私の目を見てきた。
思わず吸い込まれてしまいそうになる。
少し色素の薄い……彼のきれいな瞳。
「でも真宵くん、キスもうまか……い、いや、なんでもない」
「俺のキスが上手い?」
真宵くんはそう言うと、今度は少し驚いた顔をした。
あれ?
なんか意外だ……。
もっと……余裕あるかと。
「うん、だから慣れてるのかなって」
「栞里に対して上手いのは当たり前だよ、だって昔……」
「え?」
「あー……ごめん、なんでもない……忘れて」
そう言った真宵くんの顔は、公園の薄暗い街灯の下で見ても分かるくらい、かなり赤くなっていた。
忘れろと言われても、気になってしまうのですが……?
何か聞いちゃいけないことを聞いてしまったような気がする。
「とにかく! 俺も栞里が初めてだから……そんな節操のない人間だとは思わないように」
真宵くんは心外だ……と少しふてくされた顔でそう言った。
「う、うん……」
「好きなのは栞里だけ……他はいらない」
最後はよく聞こえないような小さな声でボソリと呟いた真宵くん。
(じゃあ二人とも観覧車でがファーストキス……? で、いいのよね? あれ?)
私は思わず口元を両方の手で覆い隠した。
これ以上はもうなんか色々と耐えられぬ心境だ。
「あ……もしかして最後のやつ、聞こえた?」
「え、な、何も考えてないわよ!」
「ん? 何か別のこと考えてたの?」
「ちが……」
さっき最後の方で真宵くんがボソッと言った言葉は私にはよく聞こえなかった。
けど、それとは別にやっぱり私の鼓動は速くなってしまって、中々うまく言葉を伝えられない。
真宵くん相手だと、どうしてこんなにも心がかき乱されてしまうのだろうか。
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