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第二章

十一話

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 週末を終えて、また通学とバイトの日々が始まる。
 二年生までは必修の科目も多いので、一限から取っている講義もけっこうあった。
 私の方からはあまり真宵くんに連絡が取れないでいたが、週末にまた会えないかというメッセージが彼から何度か来ていた。
 木曜の夜になって、私は今週はバイトがあるから会うのは厳しいということをLINNで伝える。
 すると『なら店に行く』という内容の返事が真宵くんから返ってきた。
 私は突然のことに戸惑い、しばらく返信できないでいると、それからすぐに真宵くんから着信が入った。
(ま、またいきなり電話……)
 さすがに今ここで無視をするわけにいかない。
 私は仕方なく通話のボタンを押した。
「真宵く……」
『栞里はさ、俺にバイト先へ来られたら都合の悪いことでもあんの? もしかしてそこに栞里の好きなやつがいるとか? ねぇ』
 電話に出ると、開口一番にそう言葉を発してきた真宵くん。
 彼の少し低くなった声がちょっと怖いんだけど。
 なんか勝手に勘違いして怒っていませんか?
「そんな人はいないけど……私のバイト先なんか来てもつまらないと思うよ?」
『栞里がいてつまらないわけがないし。ねぇ、バイト終わったらさ、そのままどっか行こうよ。飯でも映画でも良いからさ……』
「でも、終わるの夕方になっちゃうから。真宵くんはまだ高校生なんだし、あまり遅くまでこっち神奈川にいたらダメじゃない?」
 そっちの家だって、駅からそこそこに距離があるわけだしね。
 それに真宵くんはまだ未成年なんだからさ。
 男の子でも夜遅く一人で出歩くのは危ないよ?
『栞里は知ってると思うけどうちの親、共働きでいつも帰ってくるの遅いし平気だよ』
「そういう問題じゃありません。それ以前、警察に補導されますよ」
『制服で行かないし……それにたとえ制服でも22時じゅうじまでだったら大丈夫でしょ』
 などというやり取りがしばらく続いた。

「そういえば、真宵くんのバイトの方は大丈夫なの?」
『あ? 平気平気。俺がやってるの主にIT関係の入力業務で在宅が多いし』
「な、なにそれ……君は横文字に強い人種というやつかい?」
 というか真宵くんって理系だったの?
 全然知らなかったよ。
 そういや子供時代、真宵くんの学校の成績とかも私は気にしたことがないや。
 昔一緒に裏山を走り回っていたところを見ても、スポーツも普通に色々とできそうだし。
 しかも今の彼は身長も高くて、ちょっと中性的だけどかなりイケメンの部類に入る。
 うーん、今更だけど、真宵くんって学校でもかなりモテてそうだなって。
(なんだろう、この人生の不平等感は……)
 それにちょっとだけ、心がモヤモヤする。
 同学年の女の子たちとか、やっぱり仲良しなのかな……。
『Excelの勉強も兼ねて、図面作成したり、入力業務できるから便利だよ。リモートなら通勤の時間も短縮できるし』
「な、なるほど……」
 こうやって改めて真宵くんのことを知ると、なんか随分と高スペックな高校生なんだなって急に実感が湧いてくる。
 もう昔みたいに、ただ小さくて可愛い男の子じゃなくなっちゃったんだね。
 そんな彼が好意を寄せる相手が、私なんかで本当に良いのだろうか?
 今の真宵くんと私との接点なんて、ただ幼馴染みってことだけだぞ……。
 一種の気の迷いというか、真宵くんが私を好きとかもう、何かの間違いバグなんじゃないかという気すらしてくる。

「真宵くんって、パソコン得意だったんだね。うちにも一応あるけど、大学のレポート用に使ってるノートしかないから……」
『へぇ、栞里の家にもPCあるんだ……良いじゃん』
「ま、まぁ……」
 今の時代、手書きでレポート書くってあまり聞かないしね。
 大学行ってる学生には、パソコンは欠かせない必需品だよね。
「あ、じゃあ私もレポート作成があるから、そろそろ切……」
『栞里、バイト先の名前と場所言ってから切って。それとも教えてくれるまで何度もかけ直そうか?』
「ぐっ……」
 この流れのまま、しれっと上手いこと誤魔化せるかなって思ったんだけど、生憎とそうはいかなかったようだ。
 しかも今の私には、完成させなければならないレポートがあるのは事実。
 そんなことで夜の間中、レポート作成の邪魔をされては敵わない。
 それにこの感じだと、今教えなければ明日の夕方とかに真宵くんはこちらの家まで来てしまいそうな勢いだ。
 私はしぶしぶ大学のそばにある、バイト先の店名を伝えて、通話を切った。
(働いてるところを知り合いに見られるのって、普通に恥ずかしくて戸惑うんだけど……)
 もちろん自分が通っている大学のそばだから、店に友人が訪ねてきたことは数え切れないほどあるが……。
 それとこれとは別の問題である。
 なんせ店に来たいと言う相手が、ずっと身内みたいに思っていた気難しい年頃の男の子なのだ。
 しかも、自分に対して積極的に好意を示してくるという……かなり微妙な立ち位置。
(バイト先のユニフォーム、スカート短めだしちょっと恥ずかしいんだよね)
 短いと言っても膝上くらいなのだが、今の私の基本的な服装は長めのワンピースかパンツスタイルが多いから、そのくらいでもスカート丈が少し心もとないなと感じてしまう。
(もし途中でストッキングが伝線しちゃったりしたら困るから、すぐ替えれるように予備を何個か持っていっとこう)
 などと余計なことを色々と考えている私。
 これは別に真宵くんに働いている自分を良く見せたいとか、情けない姿を見られたくないとか、そういうことではない……ないのだ。
(せっかく遠くからわざわざ来てくれるんだし、真宵くんお客さんに不快な思いはさせたくないだけよ)
 などと言い訳じみたことを、何度も何度も頭の中で考えていた。
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