年下幼馴染みは加減しない

みなみ抄花

文字の大きさ
上 下
9 / 21
第一章

九話

しおりを挟む
「栞里ちゃん、待ってよ!」
 家の近くの裏山で遊んでいると、そうやってよく私の後をついてきていた三つ年下の男の子。
 色素の薄い髪色に、エアリーショートヘアが似合っている少しハーフぽい顔立ちの真宵くんは、いつも落ち着いた雰囲気の服装が多かった。
 彼を本当の弟のように思っていた私は、よくお姉さんぶりながら彼と関わっていた記憶がある。
「ねぇ真宵くんは、秘密基地って知ってる?」
「そのくらい僕だって知ってるよ。誰も知らないヒミツのお家だ」
「そう。それをね、今ここで一緒に作ってみない?」
「栞里ちゃんと……二人だけのヒミツのお家を?」
「うん、そう」
 私の返事を聞いて、少し照れながら嬉しそうに頷いていた真宵くん。
 私はその時の彼の様子をよく覚えている。

 私たちは基地のベースとなる場所を決めたら、さっそく落ちている使えそうな木の枝を探した。
 そして自分たちの背よりも長く頑丈そうな太めの枝を、基地の基礎となる二本の木の幹に、家から持ってきた縄紐で縛る。
 そこに長くて軽めの枝や大きめの葉っぱで周りを囲った。
 出来上がったのはとても簡素な作りの秘密基地だったが、私たちは夏休みの期間をよくその場所で過ごしていた。
 少しくらいのにわか雨なら大丈夫だったりして、基地をうまいこと利用していたものだ。
「真宵くん、もし二人だけの時に変な人が来たら、このブザーを鳴らしてすぐに逃げるのよって、お母さんが」
 完成した秘密基地の中で私はそう言って、母から預かった防犯ブザーを真宵くんに見せた。
 真宵くんは頷くと、その場で私の手を握ってくる。
「栞里ちゃん、僕もそれ持ってるよ。でも……もし変な人が来たら、僕が盾になって栞里ちゃんを守るからね」
 そう言って私の目をじっと見つめてくる真宵くんだ。
「も、もう何言ってるのよ、弟のくせに……そういう時はブザーを鳴らしたら、一緒に大人の人がいるところまで逃げるのよ」
「え、うん……でも……」
「それに私の方がずっとお姉さんなんだから……真宵くんを守るのは私の役目だよ?」
「う、うん……それはわかってる」
 真宵くんは顔を下に傾けて、寂しそうに頷いた。
 その時の彼の表情の意味が、当時の私には全く見当もつかなかったけれど。
 女の子みたいな見た目をしている真宵くんが、頑張って私に男気を見せようとしてくれたのが、なんかいじらしくて微笑ましい……。
 困ったことが起きた時に、真宵くんを助けてあげられるのは年上である私の方だって、いつも頭の中で考えていたけど、真宵くんは真宵くんなりに私のことを守ろうとしてくれていたみたいだね。

「僕ねえ……大きくなったら栞里ちゃんと結婚したいんだ」
 そう言って頬を赤く染め、綺麗な目で私の顔をじっと見つめてくる真宵くん。
「え……でも私は、大人になって結婚するなら年上の人がいいなあ」
「えぇー……やだよ栞里ちゃん」
「だ、だってー……優しくてステキな年上の男の人ってなんか憧れちゃうんだもん」
 私はそう言って、自分のウェディングドレスを着た姿を想像し、ついうっとりと惚けた顔になった。
 そういえばそんなことをずっと考えていた時期があったな……なんて。
 すると真宵くんは急に真面目な顔になって、私とまだ握っている自分の手に力を入れた。
「栞里ちゃん、僕だっていつかは大人のオトコになるんだよ」
「まぁそれはそうだけど……でも大人になったって、真宵くんはいつまでも私の可愛い弟だもん」
「えー弟はやだよー……」
「だめー! 真宵くんは弟なのー!」
 私がそう言い張ると「わかったよー……今はね」と諦めた顔で真宵くんは呟いた。
 こんなやり取りがあったことなんて、今の今まですっかり忘れていたけど……。

   ◇ ◇ ◇

 私は瞑っていた目をうっすらと開けた。
 すると目の前には、見覚えのある白い天井が見える。
 ここは……自分が借りているいつもの部屋だ。
 実家ではない一人暮らしをしている方の家。
 どうやら私は、真宵くんと一緒に過ごしていた子ども時代の夢を見ていたらしい。
(あれは真宵くんと一緒に基地を作った時の過去の思い出……)
 今思い出してみると分かる、あの時の真宵くんの私への真っ直ぐな気持ち。
 私だけがずっと彼を弟だと思い込んでいて、でも真宵くんにとってはそうじゃなかったんだって……今更ながらに気がついた。
(真宵くんは小さい頃からずっと私のことを想ってくれていたの? でもじゃあ何で……)
 彼が中学に入ったら、急に私と疎遠になってしまったのだろう。
 その時は私も高校生になったばかりだったし、真宵くんと小学生の頃のような関係になるのは確かに難しかったとは思う。
 でも真宵くんのお家は、私の実家から目と鼻の先の距離に住んでいるのに、私は何年もまともに彼と会うことがなかった。
 まるで私だけが真宵くんに避けられていたみたいな……。
 向こうにまだ住んでいて、高校に通っていた時の三年間、私は真宵くんと挨拶すらまともに交わした覚えがない。
 不思議な空白の期間である。
 それなのに……真宵くんは、今頃になってまた再び私の前に現れた。
 一体なぜ?
(うーん……子どもの頃を多少思い出しても、今の真宵くんが何を考えているのかなんて……まるで分からない)
 私はモヤモヤとした感情を頭の中でぐるぐると募らせながら、暗闇の中で静かに目を閉じていたら、また再び深い眠りへと落ちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

予知姫と年下婚約者

チャーコ
恋愛
未来予知の夢、予知夢を視る女の子のお話です。下がってしまった未来予知の的中率を上げる為、五歳年下の美少年と婚約します。 本編と特別編の間に、番外編の別視点を入れました。また「予知姫と年下婚約者 小話集」も閑話として投稿しました。そちらをお読みいただきますと、他の視点からお話がわかると思いますので、どうぞよろしくお願いします。 ※他サイトにも掲載しています。 ※表紙絵はあっきコタロウさんに描いていただきました。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

世界くんの想うツボ〜年下御曹司との甘い恋の攻防戦〜

遊野煌
恋愛
衛生陶器を扱うTONTON株式会社で見積課課長として勤務している今年35歳の源梅子(みなもとうめこ)は、五年前のトラウマから恋愛に臆病になっていた。そんなある日、梅子は新入社員として見積課に配属されたTONTON株式会社の御曹司、御堂世界(みどうせかい)と出会い、ひょんなことから三ヶ月間の契約交際をすることに。 キラキラネームにキラキラとした見た目で更に会社の御曹司である世界は、自由奔放な性格と振る舞いで完璧主義の梅子のペースを乱していく。 ──あ、それツボっすね。 甘くて、ちょっぴり意地悪な年下男子に振り回されて噛みつかれて恋に落ちちゃう物語。 恋に臆病なバリキャリvsキラキラ年下御曹司 恋の軍配はどちらに? ※画像はフリー素材です。

処理中です...