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第一章

五話

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「……来たわね」
「来たよ」
 予告通り、土曜日の昼頃に訪ねてきた真宵くん。
 今日の彼は昨日と違って私服だけど、ラフなデニムパンツと白のシャツに、紺色のジャケットを羽織ったカジュアルなスタイルが、真宵くんの長身によく似合っている。
 腕や首に付いているアクセサリーも素敵だ。
 そしてどうやら真宵くんは鞄を持ち歩かないタイプらしい。
(前はもうちょっとキチッとした感じのトラッドテイストの服が多かったわよね……そっちは親御さんの好みだったのかな)
 変わって私の格好は、ライトグリーンの生地にフラワープリントされたワンピースの上から、ケーブルニットのカーディガンを羽織っただけの簡単なコーデである。
 ちなみに今はアクセサリーどころか、ネイルすらしていない。
 鞄はいつも使ってるポーチのみ。
 顔はまぁ……大学に通う時と同じくらいにはメイクしている。

「家にはあげないわよ」
「いいよ」
 いいのかい!
「別に部屋に上がり込みたいわけじゃないし……俺が家まで迎えに来たかっただけ。栞里、これからどこか行きたいとこある?」
 それならそうと最初に言ってよ、もう……それに……。
「行きたいところかぁ……うーん……」
 いきなり言われても困っちゃうな。
 夕方には帰って来れるところでしょう?
 この辺の近所じゃ、これといって思いつかない。
「特にないなら、一緒に赤レンガへ行かない? 俺、前から栞里と行ってみたかったんだ」
「え、今から?」
「今から」
 真宵くんはそう言って真顔で頷いた。
 横浜のみなとみらいか……別に今の時間から行けなくはないけれど、思いきりカップルのデートコースだなって。
 たぶん今の時期だと、あの一帯はハロウィンの装飾でいっぱいになっていると思う。

「その辺の地理は栞里の方が詳しいでしょ? 色々と案内してよ」
「さすがに地元の人には敵わないけど……赤レンガ倉庫も含めて何度か友達と行ったことあるよ。あそこには遊園地とか映画館、ミュージアムもあるの」
「いいね、楽しそう」
 でしょう?
 あ、でも真宵くんはまだ高校生だから、遊ぶ予算はある程度決めといた方がいいのかな。
「あそこの遊園地、フリーパスないんだよね。何か乗るたびに毎回チケット使うの」
「へぇ、珍しいね。あ……お金のことは心配しなくて良いよ。俺も一応バイトはしてるから」
「そ、そうなんだ……」
 真宵くん、ちゃんとバイトしてたのね。
 っていうか偉いな、高校生。
 私は高校生の時は特に何もしてなかったわよ。
「じゃあ、色々とあの辺りをぶらぶら回ってみよう。隣の駅には中華街もあるけど……真宵くんもお腹は空いてるよね?」
「まぁまぁ空いてる。でも中華街か……ならそっちを先に行く?」
「良いかも。中華街でご飯食べて、そのまま公園を歩いても、みなとみらいに行けるよ。駅の間があまり離れてないから、徒歩でもそんなに時間がかからない」
 私、あそこ歩くのけっこう好きなんだよね。
 公園の中以外の場所でも、あの辺は道が広いし車もあまり来ないから、ゆったりできて歩きやすい。
 観光客用のオシャレなバスも出てるんだけど、真宵くんはまだ若いからそのくらい歩いたって平気でしょう?
「その辺は栞里に合わせるわ」
「わかった」

 
 私と真宵くんは一緒に最寄りの駅まで歩き、電車を乗り継いでみなとみらい線の元町・中華街駅までやってきた。
 土曜日ということもあって、ここは相変わらず観光客が多い……かなり賑やかな商店街である。
 中華料理のお店も沢山あって、どこを選んだら良いのかといつも迷うところ。
「店だとどこがオススメ?」
「同じ中華でもコースで出てくるお店と、単品で頼むタイプ、注文タイプの食べ放題、ブッフェ形式の食べ放題と色々と種類があるの。まぁ値段的にはブッフェ形式の食べ放題と、単品で頼むタイプってけっきょくあまり変わらないのよね」
 コースで出て来るお店は言わずもがな。
 お値段もお高めで、宴会に使う感じが多いかな。
 注文タイプの食べ放題は、ブッフェの方とあまり金額が変わらない。
「まぁ昼だし、男と女じゃ食べる量も違うから、各自で好きな物と量を工夫できる……」
「ブッフェかな?」
「うん、それで」
 意見が合致した真宵くんと私は、前に友達と行ったことのあるブッフェ形式で食べ放題が売りのお店へと入ることにした。
 ここのデザートの杏仁豆腐がけっこう美味しくて好きだったんだよね。
 また来たかったからちょうど良かったわ。
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