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第一章
四話
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家に帰宅したら、軽く家事をしてお風呂にも入って……。
そうして夜の刻もそこそこに過ぎた頃、私は風呂上がりの体に部屋着の姿で、自分のベッドの上に勢いよく腰を下ろした。
「ふは……」
これでやっとゆっくりできる……楽しい寛ぎの時間の始まりだ。
私はこの瞬間が人生で一番好きである。
ここは1DKの小さな部屋の中だけど、録画した映画を見たり好きな漫画をスマホで読んだりと、とても落ち着ける唯一無二の場所なのだ。
(……と、そろそろ夜の九時か)
私はスマホを鞄から取り出すと、ロックを解除してメッセージアプリを開けた。
相良栞里……そう表記された私のLINNアカウント。
このアプリに登録してあるフレンドのリスト欄には、家族の名前と同学年の友達ばかりがズラリと並んでいた。
私は先ほど棚の上に置いたままだった、真宵くんから渡された紙を手に取る。
そこには幼馴染である彼の携帯電話の番号とLINNのIDが記されていた。
(わざわざ遠くまで会いに来て、せっかく連絡先をくれたんだし、とりあえず登録はしないと失礼だよね)
私は真宵くんの電話番号をアドレスに登録した後、LINNのIDを打ち込んでフレンド申請をする。
するとすぐに相手から承認されたという表示が出てきた。
(えらく早いな……)
真宵くんもアプリを見ていたのだろうか。
どんな文面でコメントを送ろうかなと考えていると、文字を打つ場所がいきなり通話の着信画面に切り替わって、私は思わず驚きの声を上げる。
「えっ、えっ……えっ?」
ろくに心の準備もできないまま、私は慌てて通話ボタンを押した。
「も、もしもし?」
『栞里? 今、平気?』
「平気だけど……いきなり電話が来たから、ちょっとびっくりしたよ」
『ごめん、ずっとスマホ見てたら栞里から承認の通知が来たから嬉しくて……声が聞きたくなった』
真宵くん、ずっとスマホ見てたのか。
まぁ高校生だしなぁ……たぶんゲームとかしてたんだろうね。
『栞里は何してたの?』
「今? えっと……家事を済ませて、お風呂に入って……少しダラダラしてたところ」
『そうなんだ……あのさ、栞里の番号もLINNに打っといて……あ、いいや、今言って。そのまま登録しちゃうから』
「え、今? えっと番号は確か……」
私はかろうじて覚えている自分の携帯番号を真宵くんに伝えた。
『オーケー、登録完了。じゃあそのまま住所の方もヨロ』
「住所は◯◯市◯◯区の……って! なにちゃっかり聞き出そうとしてんの?!」
『……教えて』
「だから……」
困るんだってば。
今の真宵くんには、私はまだあまり慣れていないの。
幼馴染とはいえ、年頃になった男子がいきなり家に来られても戸惑うだけだよ。
『教えてくれないなら、栞里を降ろした駅で栞里が来るまで毎日ずっと待ってるけど……』
「えっ……」
な、なにそれ、怖い。
それにちょっと今日の真宵くん、強引すぎないか?
なんで? 本当一体どうしちゃったの?
『栞里、お願い……』
「もう……わかったわよ」
押しが強い真宵くんの言葉に観念した私は、口頭でここの住所を伝えた。
たぶん今教えなくても、どうせいつかは真宵くんにバレてしまうだろうから。
もう……なんで私が通ってる大学なんか教えちゃったんだ、お姉ちゃん。
おかげで自分よりも年下の男の子の気まぐれに、なぜか私が振り回される羽目になっちゃったじゃないか。
まぁでも……真宵くんとずっと疎遠のままだったことは、私の方でも寂しかったから別に良いんだけどさ。
あとはできれば、もう少しこちらの気持ちを推し量ってくれると嬉しいんだけど……。
『栞里、ありがとう……じゃ、もう遅いからまた』
「あ、でもいきなり家に来たりしないで……って、言ってる途中で切られた! もう!」
さっきは自分は私の弟だなんて思ってないなんて言って冷たく突き放したくせに、急に連絡先をよこしたり、こっちの家を知りたがったり……もう一体なんなんだ。
思春期の男子って本当によく分かんない。
もういっそのこと、明日は朝から出かけてしまおうか。
彼はこちらには昼ごろ来るって言ってたし……早めに逃げることは可能だ。
まぁそんなことをしても、今の真宵くんなら私が帰ってくるまでずっと家の前で待ってそうではあるが。
(それで近所から変な噂されても困るし……なんか扱いにくい……非常に扱いにくいよ)
私はフレンド登録された真宵くんのLINNのアカウントを改めて見てみた。
彼のプロフィール画像は、なぜか変な形の石の写真である。
なんかこの形の石、どこか見たことあるような気がすんだけど……。
(って、あぁもう! これ以上真宵くんのこと、考えるのやめやめ! 大学二年生にもなって、年下の高校生に振り回されてどうするの? しっかりしろ、私!)
私はキッチンまで走り、買ってきた夜食やお菓子を部屋まで持ってきてテーブルの上に広げた。
そして、甘いジュースを片手に録画していた映画を再生する。
こうなったらもう今夜は現実逃避でもして、ストレス発散するしかない!
そうして夜の刻もそこそこに過ぎた頃、私は風呂上がりの体に部屋着の姿で、自分のベッドの上に勢いよく腰を下ろした。
「ふは……」
これでやっとゆっくりできる……楽しい寛ぎの時間の始まりだ。
私はこの瞬間が人生で一番好きである。
ここは1DKの小さな部屋の中だけど、録画した映画を見たり好きな漫画をスマホで読んだりと、とても落ち着ける唯一無二の場所なのだ。
(……と、そろそろ夜の九時か)
私はスマホを鞄から取り出すと、ロックを解除してメッセージアプリを開けた。
相良栞里……そう表記された私のLINNアカウント。
このアプリに登録してあるフレンドのリスト欄には、家族の名前と同学年の友達ばかりがズラリと並んでいた。
私は先ほど棚の上に置いたままだった、真宵くんから渡された紙を手に取る。
そこには幼馴染である彼の携帯電話の番号とLINNのIDが記されていた。
(わざわざ遠くまで会いに来て、せっかく連絡先をくれたんだし、とりあえず登録はしないと失礼だよね)
私は真宵くんの電話番号をアドレスに登録した後、LINNのIDを打ち込んでフレンド申請をする。
するとすぐに相手から承認されたという表示が出てきた。
(えらく早いな……)
真宵くんもアプリを見ていたのだろうか。
どんな文面でコメントを送ろうかなと考えていると、文字を打つ場所がいきなり通話の着信画面に切り替わって、私は思わず驚きの声を上げる。
「えっ、えっ……えっ?」
ろくに心の準備もできないまま、私は慌てて通話ボタンを押した。
「も、もしもし?」
『栞里? 今、平気?』
「平気だけど……いきなり電話が来たから、ちょっとびっくりしたよ」
『ごめん、ずっとスマホ見てたら栞里から承認の通知が来たから嬉しくて……声が聞きたくなった』
真宵くん、ずっとスマホ見てたのか。
まぁ高校生だしなぁ……たぶんゲームとかしてたんだろうね。
『栞里は何してたの?』
「今? えっと……家事を済ませて、お風呂に入って……少しダラダラしてたところ」
『そうなんだ……あのさ、栞里の番号もLINNに打っといて……あ、いいや、今言って。そのまま登録しちゃうから』
「え、今? えっと番号は確か……」
私はかろうじて覚えている自分の携帯番号を真宵くんに伝えた。
『オーケー、登録完了。じゃあそのまま住所の方もヨロ』
「住所は◯◯市◯◯区の……って! なにちゃっかり聞き出そうとしてんの?!」
『……教えて』
「だから……」
困るんだってば。
今の真宵くんには、私はまだあまり慣れていないの。
幼馴染とはいえ、年頃になった男子がいきなり家に来られても戸惑うだけだよ。
『教えてくれないなら、栞里を降ろした駅で栞里が来るまで毎日ずっと待ってるけど……』
「えっ……」
な、なにそれ、怖い。
それにちょっと今日の真宵くん、強引すぎないか?
なんで? 本当一体どうしちゃったの?
『栞里、お願い……』
「もう……わかったわよ」
押しが強い真宵くんの言葉に観念した私は、口頭でここの住所を伝えた。
たぶん今教えなくても、どうせいつかは真宵くんにバレてしまうだろうから。
もう……なんで私が通ってる大学なんか教えちゃったんだ、お姉ちゃん。
おかげで自分よりも年下の男の子の気まぐれに、なぜか私が振り回される羽目になっちゃったじゃないか。
まぁでも……真宵くんとずっと疎遠のままだったことは、私の方でも寂しかったから別に良いんだけどさ。
あとはできれば、もう少しこちらの気持ちを推し量ってくれると嬉しいんだけど……。
『栞里、ありがとう……じゃ、もう遅いからまた』
「あ、でもいきなり家に来たりしないで……って、言ってる途中で切られた! もう!」
さっきは自分は私の弟だなんて思ってないなんて言って冷たく突き放したくせに、急に連絡先をよこしたり、こっちの家を知りたがったり……もう一体なんなんだ。
思春期の男子って本当によく分かんない。
もういっそのこと、明日は朝から出かけてしまおうか。
彼はこちらには昼ごろ来るって言ってたし……早めに逃げることは可能だ。
まぁそんなことをしても、今の真宵くんなら私が帰ってくるまでずっと家の前で待ってそうではあるが。
(それで近所から変な噂されても困るし……なんか扱いにくい……非常に扱いにくいよ)
私はフレンド登録された真宵くんのLINNのアカウントを改めて見てみた。
彼のプロフィール画像は、なぜか変な形の石の写真である。
なんかこの形の石、どこか見たことあるような気がすんだけど……。
(って、あぁもう! これ以上真宵くんのこと、考えるのやめやめ! 大学二年生にもなって、年下の高校生に振り回されてどうするの? しっかりしろ、私!)
私はキッチンまで走り、買ってきた夜食やお菓子を部屋まで持ってきてテーブルの上に広げた。
そして、甘いジュースを片手に録画していた映画を再生する。
こうなったらもう今夜は現実逃避でもして、ストレス発散するしかない!
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