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最終章

三十二話

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 夕食を終えた後、シュノルゲルンの客室で、リオに保護の魔法を付け直してもらう。
 そしてその日は指輪を身につけたまま、私は早めに就寝させてもらった。
 そして夢うつつの中、かの女神に語りかける。
『ソア……やっと声が届くようになったか。こちらからもずっと呼びかけてはいたのだが……』
 ナターリア、すみません。諸事情によりずっと交信できていませんでした。
 それで……さっそくですが、女神に聞きたいことがあるんです。
『うむ、お前たちが今までどう動いていたのか、こちらは全て把握しておる。その件も含め、色々と聞きたいこともあるだろう。なんでも聞いてくれ』
 私はナターリアへ疑問に思っていることを全てぶちまけてみることに。
 まずは魔族とリオたちダンシェケルト家の繋がりについて尋ねると、女神の説明はこうだった。

 女神ナターリアは数千年以上も前のはるか昔、魔族の王と強い絆で結ばれていたことがあったそうだ。
 その時に生まれた子供たちの子孫が、今のリオたちダンシェケルト家の一族なのだという。
 その影響から、ごく稀に魔族の王と同等の力を持つ者が、あの一族には生まれてきてしまうという逃れられない宿命があった。
 そして一時はナターリアとも心を通わせていたと思われる魔族の王であるが、千年単位での長い年月の間に段々と狂い始めてしまったのだと女神は云う。
 当時この世界で暮らしていた人族と、どうしてもうまく共存していくことが難しかった魔族たちは、時折人族の棲家を侵略しては残虐な行為を繰り返していた。

 そして圧倒的な魔力を持ち、秩序もなく世界の脅威となってきていた魔の者たちは、そのうち神の云うことすらも聞かなくなっていく。
 人族からは恨まれ、神からも咎められることが多くなった魔族の王は、やがて解り合うことが出来ない人族と共に、この世界で暮らさねばならない世の仕組みを憎んだ。
 そして最後には神を捨て、この世界の全てを破壊しようと目論み出す。
 まずは西側の地を政略した魔王は、そこから多くの魔物や戦闘魔族を生み出し、森を焼き払っては人族を蹂躙していった。

 このままでは人族は絶え、焼け爛れた大地はいずれ生物の住めない死の星となってしまう。
 そうなれば自然のエネルギーを媒介にして生きている魔族ですらも、命を維持していくことができなくなるにも関わらず。
 しかしその神の忠告すらも耳を貸さないほど、魔族の王は狂ってしまっていた。

 どちらを取るか、神は選択せねばならない。
 この星にとって、どちらの生命を優先して残すべきなのかを。
 
 そう考えた女神ナターリアは、やむを得ず人族と手を組み、かつて愛した王を含め、この世界にいる魔族を全て滅ぼすという決断に出た。
 魔族との長い戦いが終わり、女神ナターリアはこの世界のその後の発展を人族に任せると、魔族の血が混ざってしまった神の子どもたちの予後をこっそりと見守りながら、こうやって時折干渉しているのだと云う。

 そして現在、かの魔族発祥の地にある古い遺跡が発見されてしまったことにより、残っていた魔族の妄執のようなものが、この世界で一番魔が強いリオを呼び寄せたがっていた。
 それがシュノルゲルンの山の神殿にも影響を与えていた可能性を指摘する。
 そしてその相反する唯一の存在が、異世界から来たソア(香桜)なのだと、ナターリアは言っていた。

『ソア、色々とすまんかった。まさか数千年前に封印されていた西の遺跡が、ここにきて発掘されているとは思っていなかったんだ。しかし、聖女であるソアがリオのそばにいたことで、あやつは取り込まれずに済んだという事実でもある』
 そんな……もし私がリオのそばを離れていたら、リオが魔に取り憑かれていたかもしれなかったんだ……。
『おそらく子孫の体を傀儡にした魔王が復活していただろう。そして、再び魔の時代の到来だの』
 ひぇ、今考えるとゾッとしますね。
 でもそれなら、封印の紋章のそばにダンシェケルト家の家紋が付いていたのは、彼らが魔族の血も引く一族だったからなんですね。
 そしてリオたちは、神であるナターリアの血も引いていると。
『はるか昔の過ちだよ。かの魔族の王とも我ら神はうまく共存できていたのだが……魔族よりもが早く、増え続ける人族とは領地での諍いが絶えなかった。それゆえ殺戮や戦争という悲劇が起きていた時代も多い。それをワシが咎めるたびに魔族の王の心は病んでいったのだ。寿命も短く入れ替わりの激しい人族の王の方が、神の声を聞き入れやすかったのだろう』
 当時の神はナターリアの一人だけだったんですか?
『最初は多くいたが……みな別の世界へと散った。今残っているのは、太陽神と月の女神、そして生命の神であるワシだけだ』
 ナターリアは生命の神だったんだ……。
『子孫たちは勘違いしてワシをと呼ぶがな。まぁワシはあくまで生命を司る神だよ』
 
 シュノルゲルンの山の神殿で、リオが悪魔みたいな姿になったのはどうしてですか?
側に意識が取られたからだろう。ルドルフの残した邪念に引っ張られたのじゃ』
 キスで魔力が回復する能力は?
『むろん、それはワシが付けた』
 やっぱり……。
『ソアが聖なるクリスタルの力に認められたりと頑張っておったからのう』
 クリスタルの力……。
 じゃあ、ルドルフさんの神殿でリオがクリスタル漬けになったのは……。
『悪魔の姿になった子孫に色々と好き勝手されたソアが、無意識的にあやつにやり返したからじゃな』
 うわ、やっぱりアレは私の仕業ですか、そうですか……。
 その後に、リオの子どもの頃の精神体が出てきたのは一体……?
『それはワシにもよく分からん。が、アレはなんか可愛かったのう』
 はい、それはそれはとても可愛かったです。
 大人のリオとは似ても似つかないくらい。

 それで、今後のことについてなのですが、リオは……その……。
『あやつが魔の闇と神の素質を両方持っておるのは確かだ。しかし、ソアであるお主の存在がリオを救っておるのも事実。つまりは何も心配しなくて良い。お前たちはちゃんと正しい道へ向かっておる』
 そう……なんですね。
 それなら……嬉しいです。
『ふふ、そうだろう? ソアはよくやっておるよ。ワシから見てもそれはもう期待以上じゃ』
 そんな褒められると……恥ずかしいですわ。
『ま、あとは子作りじゃな』
 がく……。
 相変わらずこの女神ってやつは……。
『頑張って励め、ではな』
 あ、ちょっと……もう!
 あの女神、最後はすぐに下ネタで締めくくるんだから……。
 でもまぁ、色々と疑問だったことも含めて、リオたち一族にまつわる深い歴史を知れたのは、良い成果ではあったかな。

 
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