32 / 35
最終章
三十二話
しおりを挟む
夕食を終えた後、シュノルゲルンの客室で、リオに保護の魔法を付け直してもらう。
そしてその日は指輪を身につけたまま、私は早めに就寝させてもらった。
そして夢うつつの中、かの女神に語りかける。
『ソア……やっと声が届くようになったか。こちらからもずっと呼びかけてはいたのだが……』
ナターリア、すみません。諸事情によりずっと交信できていませんでした。
それで……さっそくですが、女神に聞きたいことがあるんです。
『うむ、お前たちが今までどう動いていたのか、こちらは全て把握しておる。その件も含め、色々と聞きたいこともあるだろう。なんでも聞いてくれ』
私はナターリアへ疑問に思っていることを全てぶちまけてみることに。
まずは魔族とリオたちダンシェケルト家の繋がりについて尋ねると、女神の説明はこうだった。
女神ナターリアは数千年以上も前のはるか昔、魔族の王と強い絆で結ばれていたことがあったそうだ。
その時に生まれた子供たちの子孫が、今のリオたちダンシェケルト家の一族なのだという。
その影響から、ごく稀に魔族の王と同等の力を持つ者が、あの一族には生まれてきてしまうという逃れられない宿命があった。
そして一時はナターリアとも心を通わせていたと思われる魔族の王であるが、千年単位での長い年月の間に段々と狂い始めてしまったのだと女神は云う。
当時この世界で暮らしていた人族と、どうしてもうまく共存していくことが難しかった魔族たちは、時折人族の棲家を侵略しては残虐な行為を繰り返していた。
そして圧倒的な魔力を持ち、秩序もなく世界の脅威となってきていた魔の者たちは、そのうち神の云うことすらも聞かなくなっていく。
人族からは恨まれ、神からも咎められることが多くなった魔族の王は、やがて解り合うことが出来ない人族と共に、この世界で暮らさねばならない世の仕組みを憎んだ。
そして最後には神を捨て、この世界の全てを破壊しようと目論み出す。
まずは西側の地を政略した魔王は、そこから多くの魔物や戦闘魔族を生み出し、森を焼き払っては人族を蹂躙していった。
このままでは人族は絶え、焼け爛れた大地はいずれ生物の住めない死の星となってしまう。
そうなれば自然のエネルギーを媒介にして生きている魔族ですらも、命を維持していくことができなくなるにも関わらず。
しかしその神の忠告すらも耳を貸さないほど、魔族の王は狂ってしまっていた。
どちらを取るか、神は選択せねばならない。
この星にとって、どちらの生命を優先して残すべきなのかを。
そう考えた女神ナターリアは、やむを得ず人族と手を組み、かつて愛した王を含め、この世界にいる魔族を全て滅ぼすという決断に出た。
魔族との長い戦いが終わり、女神ナターリアはこの世界のその後の発展を人族に任せると、魔族の血が混ざってしまった神の子どもたちの予後をこっそりと見守りながら、こうやって時折干渉しているのだと云う。
そして現在、かの魔族発祥の地にある古い遺跡が発見されてしまったことにより、残っていた魔族の妄執のようなものが、この世界で一番魔が強いリオを呼び寄せたがっていた。
それがシュノルゲルンの山の神殿にも影響を与えていた可能性を指摘する。
そしてその相反する唯一の存在が、異世界から来たソア(香桜)なのだと、ナターリアは言っていた。
『ソア、色々とすまんかった。まさか数千年前に封印されていた西の遺跡が、ここにきて発掘されているとは思っていなかったんだ。しかし、聖女であるソアがリオのそばにいたことで、あやつは取り込まれずに済んだという事実でもある』
そんな……もし私がリオのそばを離れていたら、リオが魔に取り憑かれていたかもしれなかったんだ……。
『おそらく子孫の体を傀儡にした魔王が復活していただろう。そして、再び魔の時代の到来だの』
ひぇ、今考えるとゾッとしますね。
でもそれなら、封印の紋章のそばにダンシェケルト家の家紋が付いていたのは、彼らが魔族の血も引く一族だったからなんですね。
そしてリオたちは、神であるナターリアの血も引いていると。
『はるか昔の過ちだよ。かの魔族の王とも我ら神はうまく共存できていたのだが……魔族よりも繁栄が早く、増え続ける人族とは領地での諍いが絶えなかった。それゆえ殺戮や戦争という悲劇が起きていた時代も多い。それをワシが咎めるたびに魔族の王の心は病んでいったのだ。寿命も短く入れ替わりの激しい人族の王の方が、神の声を聞き入れやすかったのだろう』
当時の神はナターリアの一人だけだったんですか?
『最初は多くいたが……みな別の世界へと散った。今残っているのは、太陽神と月の女神、そして生命の神であるワシだけだ』
ナターリアは生命の神だったんだ……。
『子孫たちは勘違いしてワシを子孫繁栄の女神と呼ぶがな。まぁワシはあくまで生命を司る神だよ』
シュノルゲルンの山の神殿で、リオが悪魔みたいな姿になったのはどうしてですか?
『そっち側に意識が取られたからだろう。ルドルフの残した邪念に引っ張られたのじゃ』
キスで魔力が回復する能力は?
『むろん、それはワシが付けた』
やっぱり……。
『ソアが聖なるクリスタルの力に認められたりと頑張っておったからのう』
クリスタルの力……。
じゃあ、ルドルフさんの神殿でリオがクリスタル漬けになったのは……。
『悪魔の姿になった子孫に色々と好き勝手されたソアが、無意識的にあやつにやり返したからじゃな』
うわ、やっぱりアレは私の仕業ですか、そうですか……。
その後に、リオの子どもの頃の精神体が出てきたのは一体……?
『それはワシにもよく分からん。が、アレはなんか可愛かったのう』
はい、それはそれはとても可愛かったです。
今のリオとは似ても似つかないくらい。
それで、今後のことについてなのですが、リオは……その……。
『あやつが魔の闇と神の素質を両方持っておるのは確かだ。しかし、ソアであるお主の存在がリオを救っておるのも事実。つまりは何も心配しなくて良い。お前たちはちゃんと正しい道へ向かっておる』
そう……なんですね。
それなら……嬉しいです。
『ふふ、そうだろう? ソアはよくやっておるよ。ワシから見てもそれはもう期待以上じゃ』
そんな褒められると……恥ずかしいですわ。
『ま、あとは子作りじゃな』
がく……。
相変わらずこの女神ってやつは……。
『頑張って励め、ではな』
あ、ちょっと……もう!
あの女神、最後はすぐに下ネタで締めくくるんだから……。
でもまぁ、色々と疑問だったことも含めて、リオたち一族にまつわる深い歴史を知れたのは、良い成果ではあったかな。
そしてその日は指輪を身につけたまま、私は早めに就寝させてもらった。
そして夢うつつの中、かの女神に語りかける。
『ソア……やっと声が届くようになったか。こちらからもずっと呼びかけてはいたのだが……』
ナターリア、すみません。諸事情によりずっと交信できていませんでした。
それで……さっそくですが、女神に聞きたいことがあるんです。
『うむ、お前たちが今までどう動いていたのか、こちらは全て把握しておる。その件も含め、色々と聞きたいこともあるだろう。なんでも聞いてくれ』
私はナターリアへ疑問に思っていることを全てぶちまけてみることに。
まずは魔族とリオたちダンシェケルト家の繋がりについて尋ねると、女神の説明はこうだった。
女神ナターリアは数千年以上も前のはるか昔、魔族の王と強い絆で結ばれていたことがあったそうだ。
その時に生まれた子供たちの子孫が、今のリオたちダンシェケルト家の一族なのだという。
その影響から、ごく稀に魔族の王と同等の力を持つ者が、あの一族には生まれてきてしまうという逃れられない宿命があった。
そして一時はナターリアとも心を通わせていたと思われる魔族の王であるが、千年単位での長い年月の間に段々と狂い始めてしまったのだと女神は云う。
当時この世界で暮らしていた人族と、どうしてもうまく共存していくことが難しかった魔族たちは、時折人族の棲家を侵略しては残虐な行為を繰り返していた。
そして圧倒的な魔力を持ち、秩序もなく世界の脅威となってきていた魔の者たちは、そのうち神の云うことすらも聞かなくなっていく。
人族からは恨まれ、神からも咎められることが多くなった魔族の王は、やがて解り合うことが出来ない人族と共に、この世界で暮らさねばならない世の仕組みを憎んだ。
そして最後には神を捨て、この世界の全てを破壊しようと目論み出す。
まずは西側の地を政略した魔王は、そこから多くの魔物や戦闘魔族を生み出し、森を焼き払っては人族を蹂躙していった。
このままでは人族は絶え、焼け爛れた大地はいずれ生物の住めない死の星となってしまう。
そうなれば自然のエネルギーを媒介にして生きている魔族ですらも、命を維持していくことができなくなるにも関わらず。
しかしその神の忠告すらも耳を貸さないほど、魔族の王は狂ってしまっていた。
どちらを取るか、神は選択せねばならない。
この星にとって、どちらの生命を優先して残すべきなのかを。
そう考えた女神ナターリアは、やむを得ず人族と手を組み、かつて愛した王を含め、この世界にいる魔族を全て滅ぼすという決断に出た。
魔族との長い戦いが終わり、女神ナターリアはこの世界のその後の発展を人族に任せると、魔族の血が混ざってしまった神の子どもたちの予後をこっそりと見守りながら、こうやって時折干渉しているのだと云う。
そして現在、かの魔族発祥の地にある古い遺跡が発見されてしまったことにより、残っていた魔族の妄執のようなものが、この世界で一番魔が強いリオを呼び寄せたがっていた。
それがシュノルゲルンの山の神殿にも影響を与えていた可能性を指摘する。
そしてその相反する唯一の存在が、異世界から来たソア(香桜)なのだと、ナターリアは言っていた。
『ソア、色々とすまんかった。まさか数千年前に封印されていた西の遺跡が、ここにきて発掘されているとは思っていなかったんだ。しかし、聖女であるソアがリオのそばにいたことで、あやつは取り込まれずに済んだという事実でもある』
そんな……もし私がリオのそばを離れていたら、リオが魔に取り憑かれていたかもしれなかったんだ……。
『おそらく子孫の体を傀儡にした魔王が復活していただろう。そして、再び魔の時代の到来だの』
ひぇ、今考えるとゾッとしますね。
でもそれなら、封印の紋章のそばにダンシェケルト家の家紋が付いていたのは、彼らが魔族の血も引く一族だったからなんですね。
そしてリオたちは、神であるナターリアの血も引いていると。
『はるか昔の過ちだよ。かの魔族の王とも我ら神はうまく共存できていたのだが……魔族よりも繁栄が早く、増え続ける人族とは領地での諍いが絶えなかった。それゆえ殺戮や戦争という悲劇が起きていた時代も多い。それをワシが咎めるたびに魔族の王の心は病んでいったのだ。寿命も短く入れ替わりの激しい人族の王の方が、神の声を聞き入れやすかったのだろう』
当時の神はナターリアの一人だけだったんですか?
『最初は多くいたが……みな別の世界へと散った。今残っているのは、太陽神と月の女神、そして生命の神であるワシだけだ』
ナターリアは生命の神だったんだ……。
『子孫たちは勘違いしてワシを子孫繁栄の女神と呼ぶがな。まぁワシはあくまで生命を司る神だよ』
シュノルゲルンの山の神殿で、リオが悪魔みたいな姿になったのはどうしてですか?
『そっち側に意識が取られたからだろう。ルドルフの残した邪念に引っ張られたのじゃ』
キスで魔力が回復する能力は?
『むろん、それはワシが付けた』
やっぱり……。
『ソアが聖なるクリスタルの力に認められたりと頑張っておったからのう』
クリスタルの力……。
じゃあ、ルドルフさんの神殿でリオがクリスタル漬けになったのは……。
『悪魔の姿になった子孫に色々と好き勝手されたソアが、無意識的にあやつにやり返したからじゃな』
うわ、やっぱりアレは私の仕業ですか、そうですか……。
その後に、リオの子どもの頃の精神体が出てきたのは一体……?
『それはワシにもよく分からん。が、アレはなんか可愛かったのう』
はい、それはそれはとても可愛かったです。
今のリオとは似ても似つかないくらい。
それで、今後のことについてなのですが、リオは……その……。
『あやつが魔の闇と神の素質を両方持っておるのは確かだ。しかし、ソアであるお主の存在がリオを救っておるのも事実。つまりは何も心配しなくて良い。お前たちはちゃんと正しい道へ向かっておる』
そう……なんですね。
それなら……嬉しいです。
『ふふ、そうだろう? ソアはよくやっておるよ。ワシから見てもそれはもう期待以上じゃ』
そんな褒められると……恥ずかしいですわ。
『ま、あとは子作りじゃな』
がく……。
相変わらずこの女神ってやつは……。
『頑張って励め、ではな』
あ、ちょっと……もう!
あの女神、最後はすぐに下ネタで締めくくるんだから……。
でもまぁ、色々と疑問だったことも含めて、リオたち一族にまつわる深い歴史を知れたのは、良い成果ではあったかな。
10
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
メイドから家庭教師にジョブチェンジ~特殊能力持ち貧乏伯爵令嬢の話~
Na20
恋愛
ローガン公爵家でメイドとして働いているイリア。今日も洗濯物を干しに行こうと歩いていると茂みからこどもの泣き声が聞こえてきた。なんだかんだでほっとけないイリアによる秘密の特訓が始まるのだった。そしてそれが公爵様にバレてメイドをクビになりそうになったが…
※恋愛要素ほぼないです。続きが書ければ恋愛要素があるはずなので恋愛ジャンルになっています。
※設定はふんわり、ご都合主義です
小説家になろう様でも掲載しています
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
波間柏
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる