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第三章

二十七話

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 砂漠地帯の所々にあるオアシスを休憩の拠点にしながら先へと順調に進み、アランド調査兵が野営している彼らの陣地までやってきた。
 リオと私が馬車から降りると、もう一つの馬車から降車したリュエルさんと共に、ゲルのような大きなテントの中まで案内される。
 そして、真ん中に敷かれている大きくてかなり高級そうな敷物の上に、私たちは腰を下ろした。
 まだ若そうなアランド兵の一人が、小さなテーブルの上にお茶を三つ並べると、こちらに一礼をしたあと、そのまま静かにテントの外へと去っていく。
「……それでリュエ、あにぃはここにいねーが、どしたん?」
 長い足で胡座あぐらをかきながら堂々と床に座っているリオは、兵が外へ出たのを確認したあと、正面に座っているリュエルさんに開口一番でそう尋ねた。
「ロバート様は旅疲れのため、今は救護テントの中でお休みされています」
「なるほど。さすがにアラフォーにはちとキツかったか」
「アランドの国を出てからここまで、かなりの距離がありましたからね。車内ではロバート様もあまり眠れてはいなかったようですし……」
 私はずっとリオのそばにいたおかげか、女神の恩恵の効果もあって体の不調も特にみられないまま、この長い距離を移動することができた。
 そしてリオのエロ爆攻撃をうまいことかわしながら、よくここまで来れたものだと思う。
 まぁ、たびたびカバ妖精の女王様をこちらへお喚びしていただけなのだが……。

「想定通りではありましたが、確かに遠かったですね。私もこういった地方の気候にはあまり慣れていないもので……ロバート様の気持ちもよくわかりますよ」
 リュエルさんはそう言うと、フゥと深いため息をついた。
 いつも冷静で涼しげな雰囲気のリュエルさんではあったが、この暑さの中での長旅には多少なりとも体が堪えたらしい。
 それでも冷や汗ひとつかいていないのは流石としか言いようがないのだが。
「リュエルさんも本当お疲れ様です。外は日差しがとても強いから、油断しているとすぐに熱中症になってしまいそうです」
 馬車やテントの中ではまだマシだけれど、日中の外は命の危険を感じるレベルの暑さなのである。
 日本とは違ってジメジメとはしていないが……それでも暑いことには変わりなかった。
(強い紫外線が、容赦無く肌を思いっきり焼き付けてくる感じというか……)
 ただ夜になると、今度は打って変わって気温がすごく低くなるという、乾いた砂漠地方ならではの特徴もあった。
「ソアさん、そのというのは一体何でしょうか……?」
「あ……すみません、強い暑さのために体が脱水になったり、体温が危険な高さまで上がってしまい、体調を崩してしまう病のことです。この言葉は私のの方でよく使われていたものでして……あまり馴染みがなかったですよね」
「そうなのですね。でもそれはとても分かりやすい表現かと思います。砂漠には草木が全然ないからこそ、体の脱水症状には注意が必要ですね」
 私がいた世界でも猛暑だったり酷暑だったり、秋の季節になっても中々気温が下がらなかったり、従来の季節とはかけ離れた様々な異変が起きており、それは世界規模で大きな環境問題となっていた。

「この辺の木が足りねーなら、俺が何本か生やすかー?」
「え、でもあれ……すごく魔力を消耗しない?」
「んー、まぁするけど……」
「だったら、慣れない場所でもあるわけだし、あまり無理はしない方が……」
 いくら魔力過多なリオでも、前に南の島にある別荘の庭園ごと地属性の魔法で封印した時は、魔力の回復にかなりの時間を要していた。
 しかもこんなカラッカラに乾いた砂漠の地で、リオの力だけで無理やり草木を生やそうとすれば、尋常じゃない魔力量を消費してしまう気がする。
「リオ、ソアさんの言う通り、あなたの魔力はいざという時のために温存しておいた方がいいですよ?」
「んー……まぁたとえ魔力が枯渇しちまっても、ソアが色々と協力してくれりゃー回復も即効なんだけどよー……」
 リオはそう言うと、わざとらしく舌の先を出しながら、ちらりと私の顔を見る……。
 これは……私が馬車の中で、リオからのエロ爆攻撃を避けまくっていたことへの遠回しな嫌味か?
「ソアさんにはそんな特殊な能力が……もしかして聖女の力ですか?」
「え、えぇ……でもその……」
「すべてはソアしだーい」
「ぬぅ」
 そんなニヤニヤしたズルい顔でこっちを見られても……。
 だってあんた……いつも絶対にキスだけで終わらないじゃん。
 私がちょっとでも気を許せば、あり得ない場所で、あり得ない行動を起こして、あり得ないくらい乱れた状況にいつもいつもさせられてるんだから……そりゃあ警戒もしますよ。
 ましてやこんな近くに人がいっぱいいる環境で、窓だらけの馬車の中とか鍵もついてないテントの中なんかでになったら……とか、考えただけでそんなの絶対にイヤだわ!
 よってこの場所でキスでの回復は絶許!

    ◇ ◇ ◇ 

 アランドの兵たちと一晩を野営地で過ごし、一日経ってやっと体調が回復したロバートさんは、私たちと一緒に再びアランドの馬車へと乗り込むと、すぐに砂漠の遺跡へと向かった。
 この西大陸の砂漠で発見された遺跡は、アランド兵の野営地から馬で数時間ほどの場所にある。
 今はまだ、朝日もそこまで出てきてはいない早朝。
 そこそこに気温も冷える中、私たちは黒装束の勇姿たちに引導されながら、目的の遺跡までやってきた。
 目前には、砂の中に埋もれた状態の古い遺跡、そしてその入り口だけがぽっかりと外に顔を出している。
(この遺跡……ナターリアの神殿跡の雰囲気にも似てる……?)
 すでに調査を先行していたアランドの調査兵曰く、この遺跡の内部は相当広い造りになっているようだ。
 そして所々で古代の罠が仕掛けられてはいたものの、シュノルゲルンの雪山で私たちが見たような、魔法を放つおかしな生き物などは特に見当たらなかったという。
 ただ、遺跡の途中から強い封印が施されていて、アランドの兵だけではどうしても進めない深部があり、ダッタンガラムから派遣された私たちには、その遺跡深部の調査を重点的にお願いしたいということだった。
 アランドの調査兵から渡された遺跡内部の地図は、羊皮紙とは違う、黄色くて平たい草の繊維が連なってできている変わった紙で、その端っこには彼らがどうしても解くことができなかった、例の封印の模様も小さく描かれていた。
「リオ、もしかしてこれ、シュノルゲルンの雪山の絶壁で見た模様と同じ……?」
「あぁ。たぶん一緒だ」
「やっぱり……」
 そしてアランド調査兵の言葉通りならば、その封印のそばにはダンシェケルト家の家紋のようなものもあったのだとか……。
「お二人のお家の家紋まで? 不思議な偶然ってあるものなんですね」
「うむ、本当すごい偶然だな」
「そ、そう……ですね」
 リュエルさんとロバートさんは、少し驚いた様子で遺跡内部の地図を凝視していたが、リオは手を口元に当てながら真剣な顔で黙っていた。
(そうたぶん……偶然なんかじゃない)
 
 




 
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