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第三章

二十二話

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 ミワンナ王女殿下の部屋を訪ね、指輪の修理をお願いした私は、シュノルゲルンの王からいただいたロケットごと、彼女のそばにいた侍女へと手渡した。
「ソア様の大切な指輪の石、確かにお預かりいたしましたわ」
「ミワンナ様、ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
 私は、侍女の方が持ってきた書類を二枚とも受け取る。
 その全く同じ文章で書かれた二枚の紙には、預り証と記されており、すでに王女のサインが入っていた。
 私は両方の紙に自分の名前を記載し、一枚を侍女の方に差し出す。
 そうしたやり取りをそばで見ていた幼い王女は書類の手続きが終わると、今度はイスから立ち上がりそっと私の手を取った。
 そして目を瞑りながら、小さな声で祈りを始める。
「汝に神のご加護があらんことを……ソア様、船旅での道中、気をつけて行ってきてくださいね。みなさんがまたこちらへ無事に戻られること、とても心待ちにしておりますわ」
 小さな王女はそう言って、私を部屋の外まで見送ってくれたのだった。

 シュノルゲルン城の兵士に案内をされながら、リオたちが待っている部屋まで戻ってきた私は、向かい合わせでソファに座っていたリオとリュエルさんに声をかける。
「お待たせしてすみません、今戻りました」
「ソアさん、おかえりなさいませ」
「おかー、ソアもここ座れよ」
「うん」
 私は頷くと、リオがいるソファの隣に座った。
「今、リオとも話していたところだったのですが、陛下とお会いするのはかなり厳しいようなのです」
「そうなんですね。陛下、とてもお忙しいんですね」
「はい。なので、今回は謁見なしで出発することになるかと思います」
 ミワンナ王女殿下と同様、シュノルゲルンの王にもまたお会いしたかったのだが、今はかなり多忙なご様子らしい。
 こればかりは仕方ないね。
「山の方で思ったより時間かかっちまったからなぁ……リュエ、そろそろ西大陸に向かう準備をするよう、クラークたちに伝わってる頃か?」
「えぇ、少し前に城の兵士の方に伝令をお願いしましたからね。今頃はクラークさんたちも動いてくださっていると思いますよ」
 出航の準備ができ次第、今日にでも出発できそうな雰囲気である。
 そうなったら、この美しい城ともしばらくお別れだ。
 
    ◇ ◇ ◇

 リオの所有船が停泊してある街の船着場まで行ってみると、リオと後ろ姿が似ている男性が、なぜか船の近くでうろうろしていた。
「……ん? なんであにぃがまだいるんだよ。国に帰ったんじゃなかったのかよ」
「おー待ってたぞ、リオ! 俺はこの国まで巡回船を使ってここまで来たんだが、どうも乗り心地が良くなくてな。そこで、リオに頼んでこの豪華客船で俺をダッタンガラムまで送ってもらえばいいやとさっき思いついたんだ。だからこうして待っていた」
 先ほど足早にシュノルゲルン城を後にしたはずのロバートさんだったが、急にリオの船に乗りたくなって、私たちが来るのを待っていたらしい。
 この国に来る時もかなり無茶をしたようなのに……え、大丈夫なのかな。
「全く何言ってやがる……これから向かう西の反対側の国にわざわざ戻るわけねぇだろが。あ、そうだちょうどいい。こうなりゃ、あにぃも西の大陸に行こうぜ? それなら船に乗せてやる。ただし、俺らの部屋にはぜってー来んなよ~?」
「え、いや、それはちょっと……やめて……俺はリオみたいに魔法とか得意じゃ……いやあああ!」
 慌てて街の方に逃げようとしたロバートさんだったが、リオが拘束魔法を即座に放つと、叫び声をあげながら無理矢理船の中へと連れ込まれていった。
 うーん、これはもうご愁傷様という他ないな。

 リュエルさん、そして嫌がるロバートさんと共にリオの船の中に入ると、出迎えてくれたクラークさんを含め、みな忙しそうに出航の準備をしていた。
 リュエルさんは船員の方に連れられて客室の方へ、ロバートさんはリオに引きずられながら、どこかへとその姿を消す。
「ソア様、あと一時間ほどで出発できるかと思われます。リオ様とお部屋の方でお待ちくださいね」
「クラーク、いつもありがとう」
 私は長い階段を登り、いつもこの船で使っている部屋まで来た。
 そして息が上がった状態のまま、窓のそばにあったイスへと座る。
(この高さはさすがにエレベーターほしいな……エレベーター……)
 しばらくしてロバートさんの留置が済んだのか、リオは部屋まで戻ってくると、隣の執務室の方へと移動した。
 そして棚の中を物色していると、例の呪文に関する書物を見つけ、私の方へと持ってくる。
「ソア、例の指輪につけてる呪文の記述、あったぜ。これだ」
 リオが手にしていた本はかなり分厚く、年季の入った魔導書だった。
 ダンシェケルト家に代々伝わるとても重要な書物なのだとか。
「この呪文は、持ち主に術者による魔力の保護と幸運アップの効果をつける。ただし、術の魔力の強さによっては、こともあるという……ソア、やっぱ関係あんじゃねーか?」
「あの指輪についていた魔法にこんな効果が……だから教会や神殿とかでなくてもナターリアと夢の中で話せたんだね……」
 思えば、リオから婚約指輪をもらう前、ナターリアは私が本当にピンチの時しか現れなかった。
 しかもかなり短い時間しか、彼女の声が聞こえなかったのである。
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