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第二章

十九話

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 私とリオは、読んでいたルドルフさんの日記を閉じた。
「この日記……隣のお墓のそばに置いといてあげようかな」
「あぁ、そうだな。きっとその方がいい」
 私はルドルフさんの隣にある墓石のそばに彼の日記を添えた。
 ルドルフさんの気持ちが強く入っているこの日記は、彼が愛した女性のそばにあった方が穏やかな存在でいられる気がしたのだ。
「これで本当に魔物の襲撃は収まったのかなぁ……」
「こいつが原因なら、おそらく……」
 この建物の中は礼拝堂の数が異様に多かった。
 ということは、それだけルドルフさんが、神に祈らずにはいられなかった心境だったということなのだろうか……。
 まぁ、リオやリオの家族みたいに、何でもかんでも豪華にしちゃうところを間近で見ていると、この神殿があんな感じに同じような部屋ばかりになって、地下に巨大な庭園を入れてほぼダンジョンの状態にしちゃったりするのが、この一族の人たちのなのかもしれないけれど。
(色々と無駄だなーとか、もっと他に使い道あるだろうに……とか、そういうことはあまり深く考えないでおこう……うん)

「はー……やっぱソアの力はすげぇよな」
「え……そ、そうかな?」
 リオは周りに浮遊している自分が放った魔光石を回収しながら、そう言って私の言葉に頷いた。
「俺が言うのもなんだが、お前の能力普通にやべーだろ。そのうち世界の歴史変えるとかデカいことしでかすんじゃねぇ?」
「や、さすがにそこまでは……」
 どちらかというと、歴史を変えるレベルに危なかったのはあなたの方ですしね。
 あのまま全世界が暗黒時代に突入するかもしれない危険な状況でしたもの。
 それに、さっきみたいに悪魔の姿になった人間を見たのも、私は生まれて初めてですよ。
 その上すごいエッチなことしてくるし、いつの間にか人の姿に戻ってるしで……うん、ヤバ。

「つーか出会った頃に比べたら、今のソアはもはや別人レベルだろ」
「まぁ、確かにその頃は動物と話せるくらいだったね」
 転生したばかりで、本当に何も分かってなかったってのもあるけど。
 しかも異世界生活始まったばかりでリオに目つけられちゃって、私の自由どこいった? って感じの第二の人生歩んでますもん。(今も)
 魔法のことはルルムの学校で基礎を学んで、リオと結婚してからは女神ナターリアから言われたとおりに、聖獣たちを仲間にしながらリオと自国をあちこち回った。
 そうやって私もそこそこのペースで頑張ってきたつもりではあったんだけど……。
 気がつけば、なぜかリオの魔素を吸収できたり返せたりするよく分からない能力が勝手についていたり、シュノルゲルンの街でブルークリスタルに取り込まれてからは、なんというか自分でもちょっと怖いくらい出来ることが増えている。
(リオとのキスで魔力回復ができるようになった要因だけは、未だに謎だけど……)
 でも今思えば、その全てがリオに直結する能力ばかりなんですよね。
「つまり……そういうことなんだろうなって……」
「あ? どういうことだよ?」
「対リオ特化能力」
「はぁ?」
 だから、女神の言葉が正しければ、私の能力は全部がのためだけに存在してるようなもんなんだって。
(全てはあんたの力が異常にヤバいからや)

 地下の墓地園から少し奥へ行ったところに、ここへ入った時と同じ魔法陣が描かれた場所を見つけたリオは、入ってきた時と同じ要領で、隠された入口を発現させる。
 そして壁の入口を通ると、私たちはそのまま雪山の方に出ることができた。
 ここは……うん、ちょうど封印の入口があった所と駐屯基地の真ん中くらいの位置だ。
 ただしけっこうな高さのある崖の上だったため、降りれそうな所まで回り込んでから山をくだる時間も今はあまりなく、私は申し訳ないと思いつつも、かのドラゴンくんをこの場に喚びよせることにした。
 来てくれたドラゴンくんは、やはり『寒い』などと文句を言ってはいたが、リオに鋭い目つきで睨まれるとガクガクと震えていた。
 それはもう寒いのか怖いのか、本人でも分からないぐらいの揺れだった。
 今日はまだ吹雪いたりとかしていないので、前に喚んだ時よりはずっとマシな環境ではあるのだが……。
 
 リオと朝に出発したはずが、今はもうだいぶ日が傾いてきている。
 ずいぶんと長い時間をあの神殿の中で使ってしまったようだ。
 空を飛びながら、駐屯基地の近くまで戻ると、シュノルゲルンの兵士たちを見つけたので、ドラゴンくんにはそこで降ろしてもらう。
 そして兵士たちと合流した私たちは、彼らから魔物が見当たらなくなったとの報告を受けた。
 私たちの方でも、ダンシェケルト家の人間しか入れない隠された建物を見つけたことや、動物が魔物化してしまった原因となる場所を特定し、無事浄化ができたことなどを伝えた。
 その際、リオに関する複雑な事情や詳しい経緯などは伏せつつも、伝えられる範囲で説明する。
 そしてそのまま兵士たちと基地の中まで戻ると、団長のニングスさんが出迎えてくれた。
「お二人が別行動をされている間の情報がこちらに一切入ってこなかったため、とても心配しておりました。先ほど部下から事情を伺いましたが、リオ様とソア様がご無事で何よりです」
「ありがとうございます。ご心配をおかけしました」
 私の服の状態に気がついたニングスさんは、そのまますぐに貴賓室へと案内してくれる。
 私は新しい服へ着替えを済ませ、リオとニングスさんが待機していた大広間まで戻ってくると、どうやら明日以降にまた吹雪が起きそうなのだという話を聞いた。
 そのため、雪がまた険しくなる前にと、私たちはこのまま山を降りることになった。
 魔物の出現が収まったことで、兵団の人たちも近いうちにシュノルゲルンの王都に戻ってくることができるだろう。

 帰途の準備を素早く済ませた私たちは、兵団の方たちに挨拶を済ませ、再び基地の外へ。
 そしてドラゴンくんに念話を送る。
 短時間の間に巣へ戻したりまた喚び出したりの繰り返しで、さらにご機嫌斜めではあったドラゴンくんだが、リオの無言の圧力により、大きい体で小さくなっていた。
「リオ、あんまり怖がらせちゃダメだよ」
「ソアに文句ばかり言うからさ」
『ブブブブブ……』
 毎回のことだけど、お願いだから仲良くしてくださーい!
 

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