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第二章

十七話

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 雑然とした地面の上に、気を失って横たわっているリオの元へと駆け寄ると、先端の尖った透明なクリスタルの破片が、まるで体から生えているかのように、リオの体の至る所で乱雑にこびりついていた。
 目を瞑っている彼の顔はいつもの綺麗な状態のままだが、指の先でリオの肌に触れると、体温がかなり冷え切っているのが分かる。
 彼の口から静かに吐かれる呼吸はとても浅くて、この状態で生きているのが不思議なくらいだった。
(一体どうして……)
 思っていたよりも深刻な状況に、私は言葉をなくす。
 とりあえず一旦自分の心を落ち着かせようと、深くゆっくりと深呼吸をしてから、再びリオの体に付着しているクリスタルの破片を見た。
 もしこの石がシュノルゲルンの街にあったあのブルークリスタルと同じものならば、私がそこで手に入れた浄化の力を使ってもきっと意味がない。
 同属性同士で効果が相殺されてしまうだけだろう。
 ならば物理的に剥がすことはできないだろうかと、手で掴んで外側に引っ張ってみるも、この石はかなりしっかりとリオの体に組み込まれてしまっていて、私の腕力だけでは到底無理だった。
 これ以上どうしたら良いのか困ってしまった私は、思わずその場で座り込む。

「リオ、なぜこんな……」
「……僕にもよく分からないんだよね。なんか強い力で飛ばされたみたいで、気がついたらこの場所でこうなってた」
(えっ……)
 自分が呟いた言葉に、まさか返事が返ってくるとは思っていなかった私は、突然かかってきた声に驚いて、慌てて後ろを振り返る。
 すると、見た目5~6歳くらいの黒髪で小さな男の子が、自分のすぐ目の前に立っていた。
こここの庭に人がいるなんて……全く気がつかなかった。それにこの子、いつのまにこんなに近く……)
 彼の姿はどことなくあのショウにも似ている気がする。
 でもこの見た目だとやはり……。
「君は……リオなの?」
「たぶん君が言う、そので合ってるよ。今の僕は子どもの頃の精神体みたいだけど」
 やっぱりこの子、リオなんだ。
 なるほど……そして精神体なのね。
 だからうっすらと透けて見えるのかな。
 でも不思議だね。
 こうやって改めてちゃんと確認すると、あの夢の中に出てきたショウにもやっぱりどこか似ているんだもの。
 おそらくあの彼は、私が無意識で作り出した存在なのだろうけど……。
 私が最終的に救いを求めるのは、いつだってきっとリオなんだ。

「ずいぶんと長い時間こうしてるんだけど、自分でもどうしたら良いか分からなかったんだよね。ここに君が来てくれて良かった。こっちのが目を覚ましたら、あの先の場所に行ってみてほしい。何か強い力を感じるんだ。この不安定な姿じゃ、あまり本体のそばを離れられないからさ……でもたぶん、あなたが知りたい答えはそこにあるよ」
 小さなリオはそう言うと、空気のような軽い体でピョンと大きな石の上に乗り、「あっちね」と庭の北東の方を指さした。
「分かった、向こうの方ね。でも、その前にこのリオの体はいったいどうすれば……」
「この石から出てるエネルギーは、君の体が持っている力によく似ている。だから君はこの封印の解き方を知っているんじゃないかな?」
「え、でも……」
「本当に君の力に似ているよ? もしかして君の仕業? こっちの僕と痴話喧嘩でもしたの?」
「し、してないから」
 子どもの頃のリオのはずなのに、痴話喧嘩なんて難しい言葉、よく知ってるわね。
 それに私がリオを封印だなんて……。
 でも先ほどの発言から分かるように、このリオは悪魔の姿になってしまっていた時のことを全く覚えていないようだった。
(そこは逆に良かったけど……)

「私の力と似ているなら、やっぱりあのブルークリスタルと同じということよね……」
 クリスタルに閉じ込められたあの時、私はどうやって外に出してもらえたんだっけ……。
 確か……そうだ……。
 私は倒れているリオの体に触れながら、リオを解放してもらえるよう、自分の体の中心からくる力に集中して祈ってみる。
 するとクリスタルの破片に突然亀裂が入り、リオの体を纏っていた石が、バラバラと地面の上に落ちていった。
 リオの体の周りが綺麗になり、一先ずは安心したが、彼の目は未だに閉じたままだ。
 やはり、精神体がまだ外にいるせいだろうか……?

「君はその……」
 体に戻らないの? と聞こうとしたのだが、精神体のリオのタイミングもあるだろう。
 あまり急かすのはよくないかと思い、途中で言葉を止めた。
「なんとなく後悔してるんだ……」
「後悔?」
「君を好きになってしまったことで、君をどんどん不幸にしてしまっているんじゃないかと」
「リオ……」
 これはもしかしてリオの心の本音なのだろうか?
 でも……。
「私、自分が不幸だなんて思ってないけど」
 そりゃあちょっと困る部分もリオにはそこそこあるけれど、それを超えた確かな気持ちも自分の胸の中にはあるから。
「ソアは強いよね。心がすごく強い……だからきっと好きなんだ」
「リオ……」
 この喋り方って、リオが甘えたい時とか弱ってる時にたまに出るやつ。
 いつもはかなり偉そうなのに、こうやって急に子供っぽくなるんだよね。
 もしかしてリオの子供の頃ってこんな感じだったのかな。
(しかも一人称が僕なの、さりげなく可愛いし)

「ソア、体治してくれてありがとう。僕もう戻るよ。目が覚めたら、たぶんこうやって会話したことも覚えてないんだろうけど」
「そうなんだ」
「大人になって、子どもの頃のことを無くしていく者はとても多い」
 小さなリオはそれだけ言うと、リオの体へと静かに戻っていった。
(大人になると、子どもの頃を無くしていく……か)
 なら大人になった今の私にも、無くしてきたものが一体どれだけあるのだろうか……。
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