13 / 35
第二章
十三話
しおりを挟む
目が覚めるとそこはあまり見慣れぬ天井。
ここはシュノルゲルンの北山にある兵士たちの駐屯場所……つまり基地の内なのである。
すでに起きて着替えも済ませていたリオは、窓側にある小さな二人掛け用のテーブルの席に着いて、本を読んでいた。
リオが手に取っている本は、とても古い厚みのある蔵書である。
そこには誰も使わないような魔法や難しい術がたくさん書いてあった。
(あの本……リオ、前にも読んでいた気がする。日本人である私にはちょっと難しすぎて、見せてもらっても何が書いてあるかよく分からなかったんだよね)
布団の中から起き上がった私と目が合ったリオは、本を閉じてこちらの方に戻ってくる。
「……あいつ、寝ながら廊下に出てたぞ。すげー寝相悪りぃのな」
「えっ……」
リオが言うあいつとは……もしかしてライライのことだろうか?
朝方目が覚めた時には、床で寝ているなとは思っていたけど、まさかそこまで寝相が悪いとは……。
(気持ちよさそうにしてたから声をかけなかったけど、それだけ寝相が悪いなら、ベッドに戻してもまた落ちていたかもしれない)
「面倒くせーから、そのまま放置しといた。あとで巣に帰しといたら?」
リオはそう話しながら、近くに用意されていた着替えを私に渡す。
私は頷いて、服を受け取った。
「ありがとう」
洗面所で顔を洗い、着替えを済ませたあと、部屋から数百メートルほど離れた廊下の上で、まだ寝ているライライを見つけた。
「わぁ、こんなところまで……」
「な? すげーだろ?」
私が森でライライに助けてもらったときは、ここまで寝相が悪いなんて思わなかった。
でも……今のライライはよく見ると、全体的に羽根が濡れていて、額には汗もかいている。
ここは空調も効いているし、普通の格好をしていても全然寒くない。
なので、もしかしたら雷鳥のライライにとって、この基地の中は暑すぎたのかもしれない。
(普段は森の中にいる子だしね)
私はライライを返還魔法でルルムの外の森まで送った。
そしてリオと一緒に部屋まで戻る。
「ソア」
「ん……」
部屋の扉を閉めると同時に、リオは私の顎を上に向かせて、唇を重ね出した。
私もそれに応え、互いに唇で挟んだり離したりを繰り返しながら、だんだんと呼吸が荒くなってくる。
「これは別に……回復のためじゃねーから……」
「わ、わかってる……」
そうして、愛情を確かめるように深い深いキスをリオと何度も何度も交わした。
リオとのキスで、自分の胸の上に刻まれた女神の聖痕がじわじわと熱くなるのを感じる。
そしてリオの指が私の顔の周りを優しくなぞり、口の中をリオの舌が動くたびに、身体の至るところで快感という名の電撃が走った。
髪を触られ、指先で耳の周りを軽く刺激されたりと、リオのスキンシップは止まらない。
「名残惜しい……」
いつもよりも低い声でそう呟いたリオは、私の体からゆっくりと距離を取った。
リオの温もりが離れていく寂しさを感じながら、私の方も自分の心が落ち着くまで、静かに時が流れるのを待つ。
(この山ではそういうの禁止って言ったの私だし……)
ライライが寝ていた(床に落ちてたけど)ベッドの方に腰を下ろしたリオは、体が熱いのかシャツのボタンを何個か外し、少し赤みを帯びた顔で自身の前髪をかき分けた。
整った鼻筋、大きすぎず小さすぎずバランスの良い唇に、男性としては少し長めの睫毛の下で、輝く金色の瞳は美しい。
出会った時よりもさらに伸びた長身の肢体には、適度に鍛えられた筋肉がついており、そこからスラリと伸びる足は、彼の自信満々な態度をさらに際立たせていた。
(リオ、また背が高くなった気がする……たぶん今は180㎝超えてるんじゃないかな……)
こちらの世界で身長を計る単位は、日本とはまた違うのだが、前世よりも華奢なソアの体だと、殊更身長差を強く感じている。
「そういや……ナターリアはなんて?」
「あ、実は……」
しばらく黙って座っていたリオだったが、本人も気持ちが落ち着いたのか、普段と同じ調子で話しかけてきた。
私は昨日の夢のことを正直に伝える。
「ナターリアがソアの言葉に答えねー理由か。ソアが別の世界にいた時も追っかけてくるくらいだから、距離は関係ねぇだろうし、単純に何か強い力で阻まれてるとか……」
「何かの強い力で……」
ブルークリスタルの存在だったり、いきなり強い魔物が出たりと、確かにここには他の地域とは違う何かがありそうではある。
この土地だけにある、何かが……。
「あとは、女神の力が弱まっている可能性か? ただよ、女神の恩恵は変わらず保たれてるし、さっきも聖痕が普通に反応したよな? 魔力回復の効果にせよ、女神の力がそこまで弱ってるようには見えねぇんだよな……」
私はそれも思ってた。
魔力回復に関してはちょっと不明瞭な部分も多いけど、女神の仕業の可能性は高い。
「ソア自身の力が弱まってるからつー場合もあるが、今のソアの聖魔法の能力は飛躍的に上がってるし、魔力量も増えてる。だからそれも、今一つ説得に欠けんだよなぁ……」
例の夢の世界では、魔法が何も使えなくなってしまってたけど、それはあくまで夢の中での出来事。
現実の私には大して影響がなかった。
いや、むしろ良いことばかり?
ただ一つだけを除いて……。
「ねぇ、リオ。私の信仰が……女神が信じられなくなっているせい……という可能性はない?」
「んーソアって、ナターリアに元々信仰あったん?」
「ないわ。ただまぁ、色々あって彼女に不信感を持っていたのは確か」
女神といえど勝手なことされて、私もそこは許せなかったんだよね。
だから話せないのは、そのせいもあるのかなと考えてはみたんだけど……。
「それに関しては、俺の信仰が爆上がりしたからまぁ安心しろよ。この女神はやっぱ俺の味方なんだってな。なんか俺が求めてるもん、さりげなく付けてくれんだよ。今回の魔力回復もさ、ソアの唇奪える良い口実になんじゃん? 舌で掻き回しゃあ、ソアの体はよく反応するし。だから付けてくんねぇかなーって頭ん中で願ってたら付いてたんだよね。やっぱ最高だわ、あいつ」
「あ、あ、あんたねぇ……」
こいつ……いきなり悪行を暴露しおった……。
つまり今までのことは、全部リオの欲望の通りに私の体が好き勝手されていたということに……。
ナターリアとリオ……やっぱりグルだったのね!
ここはシュノルゲルンの北山にある兵士たちの駐屯場所……つまり基地の内なのである。
すでに起きて着替えも済ませていたリオは、窓側にある小さな二人掛け用のテーブルの席に着いて、本を読んでいた。
リオが手に取っている本は、とても古い厚みのある蔵書である。
そこには誰も使わないような魔法や難しい術がたくさん書いてあった。
(あの本……リオ、前にも読んでいた気がする。日本人である私にはちょっと難しすぎて、見せてもらっても何が書いてあるかよく分からなかったんだよね)
布団の中から起き上がった私と目が合ったリオは、本を閉じてこちらの方に戻ってくる。
「……あいつ、寝ながら廊下に出てたぞ。すげー寝相悪りぃのな」
「えっ……」
リオが言うあいつとは……もしかしてライライのことだろうか?
朝方目が覚めた時には、床で寝ているなとは思っていたけど、まさかそこまで寝相が悪いとは……。
(気持ちよさそうにしてたから声をかけなかったけど、それだけ寝相が悪いなら、ベッドに戻してもまた落ちていたかもしれない)
「面倒くせーから、そのまま放置しといた。あとで巣に帰しといたら?」
リオはそう話しながら、近くに用意されていた着替えを私に渡す。
私は頷いて、服を受け取った。
「ありがとう」
洗面所で顔を洗い、着替えを済ませたあと、部屋から数百メートルほど離れた廊下の上で、まだ寝ているライライを見つけた。
「わぁ、こんなところまで……」
「な? すげーだろ?」
私が森でライライに助けてもらったときは、ここまで寝相が悪いなんて思わなかった。
でも……今のライライはよく見ると、全体的に羽根が濡れていて、額には汗もかいている。
ここは空調も効いているし、普通の格好をしていても全然寒くない。
なので、もしかしたら雷鳥のライライにとって、この基地の中は暑すぎたのかもしれない。
(普段は森の中にいる子だしね)
私はライライを返還魔法でルルムの外の森まで送った。
そしてリオと一緒に部屋まで戻る。
「ソア」
「ん……」
部屋の扉を閉めると同時に、リオは私の顎を上に向かせて、唇を重ね出した。
私もそれに応え、互いに唇で挟んだり離したりを繰り返しながら、だんだんと呼吸が荒くなってくる。
「これは別に……回復のためじゃねーから……」
「わ、わかってる……」
そうして、愛情を確かめるように深い深いキスをリオと何度も何度も交わした。
リオとのキスで、自分の胸の上に刻まれた女神の聖痕がじわじわと熱くなるのを感じる。
そしてリオの指が私の顔の周りを優しくなぞり、口の中をリオの舌が動くたびに、身体の至るところで快感という名の電撃が走った。
髪を触られ、指先で耳の周りを軽く刺激されたりと、リオのスキンシップは止まらない。
「名残惜しい……」
いつもよりも低い声でそう呟いたリオは、私の体からゆっくりと距離を取った。
リオの温もりが離れていく寂しさを感じながら、私の方も自分の心が落ち着くまで、静かに時が流れるのを待つ。
(この山ではそういうの禁止って言ったの私だし……)
ライライが寝ていた(床に落ちてたけど)ベッドの方に腰を下ろしたリオは、体が熱いのかシャツのボタンを何個か外し、少し赤みを帯びた顔で自身の前髪をかき分けた。
整った鼻筋、大きすぎず小さすぎずバランスの良い唇に、男性としては少し長めの睫毛の下で、輝く金色の瞳は美しい。
出会った時よりもさらに伸びた長身の肢体には、適度に鍛えられた筋肉がついており、そこからスラリと伸びる足は、彼の自信満々な態度をさらに際立たせていた。
(リオ、また背が高くなった気がする……たぶん今は180㎝超えてるんじゃないかな……)
こちらの世界で身長を計る単位は、日本とはまた違うのだが、前世よりも華奢なソアの体だと、殊更身長差を強く感じている。
「そういや……ナターリアはなんて?」
「あ、実は……」
しばらく黙って座っていたリオだったが、本人も気持ちが落ち着いたのか、普段と同じ調子で話しかけてきた。
私は昨日の夢のことを正直に伝える。
「ナターリアがソアの言葉に答えねー理由か。ソアが別の世界にいた時も追っかけてくるくらいだから、距離は関係ねぇだろうし、単純に何か強い力で阻まれてるとか……」
「何かの強い力で……」
ブルークリスタルの存在だったり、いきなり強い魔物が出たりと、確かにここには他の地域とは違う何かがありそうではある。
この土地だけにある、何かが……。
「あとは、女神の力が弱まっている可能性か? ただよ、女神の恩恵は変わらず保たれてるし、さっきも聖痕が普通に反応したよな? 魔力回復の効果にせよ、女神の力がそこまで弱ってるようには見えねぇんだよな……」
私はそれも思ってた。
魔力回復に関してはちょっと不明瞭な部分も多いけど、女神の仕業の可能性は高い。
「ソア自身の力が弱まってるからつー場合もあるが、今のソアの聖魔法の能力は飛躍的に上がってるし、魔力量も増えてる。だからそれも、今一つ説得に欠けんだよなぁ……」
例の夢の世界では、魔法が何も使えなくなってしまってたけど、それはあくまで夢の中での出来事。
現実の私には大して影響がなかった。
いや、むしろ良いことばかり?
ただ一つだけを除いて……。
「ねぇ、リオ。私の信仰が……女神が信じられなくなっているせい……という可能性はない?」
「んーソアって、ナターリアに元々信仰あったん?」
「ないわ。ただまぁ、色々あって彼女に不信感を持っていたのは確か」
女神といえど勝手なことされて、私もそこは許せなかったんだよね。
だから話せないのは、そのせいもあるのかなと考えてはみたんだけど……。
「それに関しては、俺の信仰が爆上がりしたからまぁ安心しろよ。この女神はやっぱ俺の味方なんだってな。なんか俺が求めてるもん、さりげなく付けてくれんだよ。今回の魔力回復もさ、ソアの唇奪える良い口実になんじゃん? 舌で掻き回しゃあ、ソアの体はよく反応するし。だから付けてくんねぇかなーって頭ん中で願ってたら付いてたんだよね。やっぱ最高だわ、あいつ」
「あ、あ、あんたねぇ……」
こいつ……いきなり悪行を暴露しおった……。
つまり今までのことは、全部リオの欲望の通りに私の体が好き勝手されていたということに……。
ナターリアとリオ……やっぱりグルだったのね!
10
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
洞窟ダンジョン体験ツアー案内人役のイケメン冒険者に、ラッキースケベを連発してしまった私が患う恋の病。
待鳥園子
恋愛
人気のダンジョン冒険ツアーに参加してきたけど、案内人のイケメン冒険者にラッキースケベを連発してしまった。けど、もう一度彼に会いたいと冒険者ギルド前で待ち伏せしたら、思いもよらぬことになった話。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました
春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。
異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!
杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!!
※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。
※タイトル変更しました。3/31
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる