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第二章

十三話

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 目が覚めるとそこはあまり見慣れぬ天井。
 ここはシュノルゲルンの北山にある兵士たちの駐屯場所……つまり基地のなかなのである。
 すでに起きて着替えも済ませていたリオは、窓側にある小さな二人掛け用のテーブルの席に着いて、本を読んでいた。
 リオが手に取っている本は、とても古い厚みのある蔵書である。
 そこには誰も使わないような魔法や難しい術がたくさん書いてあった。
(あの本……リオ、前にも読んでいた気がする。日本人である私にはちょっと難しすぎて、見せてもらっても何が書いてあるかよく分からなかったんだよね)
 布団の中から起き上がった私と目が合ったリオは、本を閉じてこちらの方に戻ってくる。
「……あいつ、寝ながら廊下に出てたぞ。すげー寝相悪りぃのな」
「えっ……」
 リオが言うとは……もしかしてライライのことだろうか?
 朝方目が覚めた時には、床で寝ているなとは思っていたけど、まさかそこまで寝相が悪いとは……。
(気持ちよさそうにしてたから声をかけなかったけど、それだけ寝相が悪いなら、ベッドに戻してもまた落ちていたかもしれない)
「面倒くせーから、そのまま放置しといた。あとで巣に帰しといたら?」
 リオはそう話しながら、近くに用意されていた着替えを私に渡す。
 私は頷いて、服を受け取った。
「ありがとう」

 洗面所で顔を洗い、着替えを済ませたあと、部屋から数百メートルほど離れた廊下の上で、まだ寝ているライライを見つけた。
「わぁ、こんなところまで……」
「な? すげーだろ?」
 私が森でライライに助けてもらったときは、ここまで寝相が悪いなんて思わなかった。
 でも……今のライライはよく見ると、全体的に羽根が濡れていて、額には汗もかいている。
 ここは空調も効いているし、普通の格好をしていても全然寒くない。
 なので、もしかしたら雷鳥のライライにとって、この基地の中は暑すぎたのかもしれない。
(普段は森の中にいる子だしね)
 私はライライを返還魔法でルルムの外の森まで送った。
 そしてリオと一緒に部屋まで戻る。

「ソア」
「ん……」
 部屋の扉を閉めると同時に、リオは私の顎を上に向かせて、唇を重ね出した。
 私もそれに応え、互いに唇で挟んだり離したりを繰り返しながら、だんだんと呼吸が荒くなってくる。
「これは別に……回復のためじゃねーから……」
「わ、わかってる……」
 そうして、愛情を確かめるように深い深いキスをリオと何度も何度も交わした。
 リオとのキスで、自分の胸の上に刻まれた女神の聖痕がじわじわと熱くなるのを感じる。
 そしてリオの指が私の顔の周りを優しくなぞり、口の中をリオの舌が動くたびに、身体の至るところで快感という名の電撃が走った。
 髪を触られ、指先で耳の周りを軽く刺激されたりと、リオのスキンシップは止まらない。
「名残惜しい……」
 いつもよりも低い声でそう呟いたリオは、私の体からゆっくりと距離を取った。
 リオの温もりが離れていく寂しさを感じながら、私の方も自分の心が落ち着くまで、静かに時が流れるのを待つ。
(この山ではそういうの禁止って言ったの私だし……)

 ライライが寝ていた(床に落ちてたけど)ベッドの方に腰を下ろしたリオは、体が熱いのかシャツのボタンを何個か外し、少し赤みを帯びた顔で自身の前髪をかき分けた。
 整った鼻筋、大きすぎず小さすぎずバランスの良い唇に、男性としては少し長めの睫毛の下で、輝く金色の瞳は美しい。
 出会った時よりもさらに伸びた長身の肢体には、適度に鍛えられた筋肉がついており、そこからスラリと伸びる足は、彼の自信満々な態度をさらに際立たせていた。
(リオ、また背が高くなった気がする……たぶん今は180㎝超えてるんじゃないかな……)
 こちらの世界で身長を計る単位は、日本とはまた違うのだが、前世よりも華奢なソアの体だと、殊更ことさら身長差を強く感じている。
 
「そういや……ナターリアはなんて?」
「あ、実は……」
 しばらく黙って座っていたリオだったが、本人も気持ちが落ち着いたのか、普段と同じ調子で話しかけてきた。
 私は昨日の夢のことを正直に伝える。
「ナターリアがソアの言葉に答えねー理由か。ソアが別の世界にいた時も追っかけてくるくらいだから、距離は関係ねぇだろうし、単純に何か強い力で阻まれてるとか……」
「何かの強い力で……」
 ブルークリスタルの存在だったり、いきなり強い魔物が出たりと、確かにここには他の地域とは違う何かがありそうではある。
 この土地だけにある、何かが……。
「あとは、女神の力が弱まっている可能性か? ただよ、女神の恩恵は変わらず保たれてるし、さっきも聖痕が普通に反応したよな? 魔力回復の効果にせよ、女神の力がそこまで弱ってるようには見えねぇんだよな……」
 私はそれも思ってた。
 魔力回復に関してはちょっと不明瞭な部分も多いけど、女神の仕業余計なお節介の可能性は高い。
「ソア自身の力が弱まってるからつー場合もあるが、今のソアの聖魔法の能力は飛躍的に上がってるし、魔力量も増えてる。だからそれも、今一つ説得に欠けんだよなぁ……」
 例の夢の世界では、魔法が何も使えなくなってしまってたけど、それはあくまで夢の中での出来事。
 現実の私には大して影響がなかった。
 いや、むしろ良いことばかり? 
 ただ一つだけを除いて……。

「ねぇ、リオ。私の信仰が……女神が信じられなくなっているせい……という可能性はない?」
「んーソアって、ナターリアに元々信仰あったん?」
「ないわ。ただまぁ、色々あって催淫効果つけられたり彼女に不信感を持っていたのは確か」
 女神といえど勝手なことされて、私もそこは許せなかったんだよね。
 だから話せないのは、そのせいもあるのかなと考えてはみたんだけど……。
「それに関しては、俺の信仰が爆上がりしたからまぁ安心しろよ。この女神はやっぱ俺の味方なんだってな。なんか俺が求めてるもん望み、さりげなく付けてくれんだよ。今回の魔力回復もさ、ソアの唇奪える良い口実になんじゃん? 舌で掻き回しゃあ、ソアの体はよく反応するし。だから付けてくんねぇかなーって頭ん中で願ってたら付いてたんだよね。やっぱ最高だわよく分かってるわ、あいつ」
「あ、あ、あんたねぇ……」
 こいつ……いきなり悪行を暴露しおった……。
 つまり今までのことは、全部リオの欲望の通りに私の体が好き勝手されていたということに……。
 ナターリアとリオ……やっぱりグルだった共謀してたのね!
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