上 下
11 / 35
第二章

十一話

しおりを挟む
 リオの魔法に守られて、大きな雪崩に巻き込まれずに済んだものの、さすがに危ないと感じた私たちは、雪で埋まった部分をリオの魔法で吹き飛ばしながら、洞穴の外へと出た。
 外ではまだ晴れ間も見えていて、そこまで寒くはない。
 やっぱりリオの持ってる魔力ってすごいなぁと思……。
「かー! なんか、俺、昨日から本番お預けくらってばっかじゃね?! ソア抱けねぇとか、禁断症状出て俺死ぬんだがっ!」
「んなわけあるか!」
 山の斜面のまだ積もっている真っ白な雪の上を歩きながら、かの本人はこうやってずーっと悪態をついているわけだが。
「くそーくそー……駐屯場所に着いたらぜってぇ犯す……」
「こら!」
 自分の妻を犯すとか、冗談でも言うな!
 あんたはのことになると、本当に見境がなくなるんだから。
 ついでに常識も。
「リオ、この山にいる間くらい我慢して……」
「は?」
「は? じゃない。しばらくそういうの禁止にします」
「は? ソアは俺に死ねと?」
 だから、そんなんでお前が死ぬか!
 どちらかというと、周りとか私の方が死にそう。
「ソアとやりてぇ……超やりてー……」
「あんまりしつこいと、カバ妖精さんをお呼びしますよ?」
「げ……」

 そんなアホな会話を繰り広げながら山を登っていくと、少し離れた上の方で突然大きな悲鳴が聞こえた。
「だ、誰か……た、助け……うわああ」
「なんか叫んでるのがいるな」
「あ、あそこ! 兵士さんが雪崩に巻き込まれてる! たぶん突然雪が止んだから、様子を見に外へ出てきてしまったんだわ」
「……ちっ、めんどくせぇなぁ」
 リオは声がした方向の雪の上にサーチの魔法を展開させると、埋まっている兵士の場所を特定してから保護魔法をかける。
 そしてその周りの雪に火の魔法を放ち、一瞬で溶かした。
 雪の中から出てきたシュノルゲルンの兵士は、思わずきょとんとした顔をしていたが、すぐに私たちの存在に気がついて、まだ上の方に20人くらいが埋まっているかもしれないと強く訴えてくる。
「思ったより多いな……ソア、雪崩に巻き込まれねーように、ひとまずはこっちに避難だ。んで、今から魔法を連続投下する」
 リオはそう言って私の体を抱き抱えると、近くにあった大きな岩の上へと飛び移った。
(え、この状態で魔法?)
 片手で私の体を持ち上げたまま、リオはもう片方の手から、超広域のサーチをかける。
 そして埋まっている兵士の居場所を特定すると、すぐさま保護魔法を連投した。
「19……20……21……ん、これで全部だな」
 リオはそう呟くと、今度はまるで川のような炎の塊を広範囲に流し出す。
 強力な炎の濁流が、自分の体の上を容赦なく流れていく光景に、一部の兵士は恐怖の悲鳴をあげていたが、リオの保護魔法によって完全に守られているため、彼らの体は無傷である。
 その様子を涼しい顔で見下ろしながら、躊躇なく放たれた強力魔法によって、ここら一帯の雪はあっという間に溶かされていった。
 リオが動き出してから兵士たちの救出にかかった時間は、おそらく一分と経っていないことだろう。

 私はリオの腕から降りると、兵士の人たちに向けて、広範囲の回復魔法をかけた。
 実はこれ、今初めて挑戦したものだったが、先ほどの魔物を倒した経験を踏まえて、なんとなくできそうな気がしたのだ。
 それに……。
「リオ、やっぱり私の魔力、かなり増えたみたい。それに……私もリオとのキスでほぼ回復してるわ」
 私はそう言うと、リオは静かに頷いた。
「俺もそんな気はしてた」
「魔力の底が増えたことは、たぶんブルークリスタルのおかげだと思うんだけど、キスで魔力が回復する力はもしかすると……」
「……女神……」
 そう、この魔力回復の力は、聖女の能力ではなく、そっちナターリア関連かもしれない。
「その辺は、ソアがナターリアに聞いてみるっきゃねぇな」
「そうね、そうする」
「あとは……魔物の出現のこともな」
「魔物の出現のこと……?」

「あのー……あなた方はいったい……? それに我々はお二人に助けていただいたのですよね?」
 あ……忘れてた。
 シュノルゲルンの兵士たち、ここにいたんだった。
 まだ何人かは腰が抜けて動けそうにないけれど、見る限り致命的な外傷を負った人はこの場にいないようである。
(ひとまずは良かった……)
 私たちはその場にいた兵士らに、シュノルゲルンの王に頼まれここにやって来たこと、リオが雪を止めるためにこの辺の雲を消してしまったことや、かなりの数の魔物を討伐できたことなど、一つ一つ丁寧に伝えた。
 ここに至るまでの経緯を説明するたびに、驚愕の声をあげている者もいたが、そこはまぁ無理もない。
 私だって(主にリオが)普通じゃないことをしてるって自覚あるもの。
「ダンシェケルトご夫妻様、異国の地より参られ、この度は我々を助けるためにこんな過酷な場所まで来てくださり、本当にありがとうございます。強力な魔物がこの地に蔓延り、こちらとしてもかなり手こずっていたところだったのです。しかも雪崩の被害からも救っていただき……」
 いえいえ、雪崩が起きたのは、ほとんどリオのせいですからね。
 むしろ誰も亡くなる人がいなくて良かったです。
「まだ魔物は残ってるぞ」
「ですが全体的にみても、かなりの数が減ったと思います」
「それなら良いのですが……」
「本当に感謝いたします。ただ、急激な気温変化により、今後も雪崩が起きる可能性がありますので、ひとまずは基地へご案内しましょう。場所はこの先の地下にあります」

 私たちは兵士の方々に案内され、駐屯場所となっている地下の建物がある位置までやってきた。
 直径1メートルほどの硬くて厚みのある鉄で作られた入口は、隠された形で山の中にひっそりと存在している。
(入口の見た目は大きめのマンホールって感じね……)
「ここの中ならある程度寒さも凌げますから……雪が再び降ってくる前にどうぞ……」
 私たちはシュノルゲルンの兵士たちにお礼を言って、基地の中へと入った。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

メイドから家庭教師にジョブチェンジ~特殊能力持ち貧乏伯爵令嬢の話~

Na20
恋愛
ローガン公爵家でメイドとして働いているイリア。今日も洗濯物を干しに行こうと歩いていると茂みからこどもの泣き声が聞こえてきた。なんだかんだでほっとけないイリアによる秘密の特訓が始まるのだった。そしてそれが公爵様にバレてメイドをクビになりそうになったが… ※恋愛要素ほぼないです。続きが書ければ恋愛要素があるはずなので恋愛ジャンルになっています。 ※設定はふんわり、ご都合主義です 小説家になろう様でも掲載しています

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

処理中です...