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第一章
三話
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ショウに促されて、聖堂の奥まで進んだ私は、長いテーブルの椅子に腰を落とした。
そして心を落ち着かせるため、ふぅと深い溜め息をつく。
ずっと歩き通しだったから、正直座れてほっとしたのだ。
まぁ、相変わらず奇妙な環境にいることには変わりないけれど。
(大丈夫、大丈夫。きっと前進はしている……と思う)
ショウは私の正面の席に座ると、小さな体で大人びた表情をこちらに向けた。
……あれ?
さっきモヤの中からショウが出てきた時は、5~6歳くらいの見た目な気がしたけど、今のショウは10歳くらいに成長している?
どういうことだろう。
「いきなりだが、質問に答えよう」
え、本当にいきなりだね。
ショウが私の疑問を解消してくれるということ?
「何でも聞いてくれて構わない」
ショウはそう言って、私の目をじっと見た。
そして私の次の言葉を待っているようである。
「じゃあ……まずは私自身の身に起きていることについて、知ってたら教えてほしい」
「試されている」
「え……私が?」
「そうだ」
ショウは短く肯定だけすると、穏やかに笑って見せた。
彼も一応は安心させようとしてくれているのかもしれないが、こちらの気持ちとしては、まだどこか気を抜けない雰囲気というか、まるで面接官に面接でもされているような気分。
「どうしてここは、私が前世でいた世界の英国に似てるの?」
「ここを作り出している者が安心するからだろう」
ここを作り出している者が?
一体どういう意味?
ショウの言っていることは、まだまだ全然理解が及ばない。
でもこの際だ、彼にどんどん質問していこう。
「これから夜は来るの?」
「ここでは朝が来ることもあれば、夜が来ることもあり、朝が来ることもなければ、夜が来ることもない」
それは……つまりどっちなのよ。
なんだか理解できそうで理解できない返事ばかりだなぁ。
「ならやっぱりここは別の世界?」
「それとは違う。存在している場所は同じ世界だ」
うーん、ショウの言葉を聞いてたら、ますます混乱してきた。
ちょっと哲学すぎて難しいな。
まぁ今はショウに質問しながら、ヒントを教えてもらうしかないのだけど。
「ここに女神ナターリアは存在している?」
「本来ならば信仰はあるが、薄まってきている。うむ……信仰とは違うな。ここを作り出している者が、少々女神に信頼を持てなくなってきているようだ」
あ、今のはちょっとヒントぽいものが出てきたわ。
この調子でもっと質問していこう。
「どうしてここの街には誰もいないのかしら」
「そう望んでいるからだろう。不安があれば不安を、恐怖があれば恐怖が出てくる。しかしあなたは違ったようだ。まずは興味を持ち、いつも自分だけで解決しようとするから、こうなっている」
私が誰もいないことを望んでいる?
いつも自分だけで解決しようとするから?
うーん、分かったような、よく分からないような……。
「私はここから出ることができるの?」
「あなたが気がつけば」
「私が? 何に?」
ショウは黙った。
これ以上は私が自分で答えを見つけなければならないということか。
でも今少しヒントが足りない。
それに、ショウはどこまで質問を受け付けてくれるんだろう。
このまま私の気の済むまで答えてくれるつもりなのかな。
「まだ聞ける?」
「際限はない」
それならあとは何を聞こうかな。
どうせならショウのことを聞こうかな。
「ショウは人間?」
「ソアはそう思うか?」
「思わない」
「正解だ」
ピシッ。
(えっ……今……)
まただ……また、どこかでヒビが入ったような音がした。
「もしかしてあなたが出てきたのも、ここを作った者の気持ちが関係している?」
「関係はしている。こうやって割れてきているのも、ソアが少しずつ気づいているからだろう」
「私が気がつくために、あなたのような存在がいた方が良いと思ったから?」
「そうだ。その方が自分自身の気持ちを整理しやすかったのだろう」
またピシピシッと割れるような音が、周りに響いた。
ショウの姿もマネキンのように白っぽい感じだが、また少しずつ変化してきているような……。
気のせいかもしれないが。
「ショウがここに連れてきたのも私が疲れてきていたから?」
「そうだろうな」
つまりは休みたかったということだろうか。
「できれば、時間の流れは同じだと良いのだけど……」
「夢の世界に比べて、外の時の流れは早いとは思わないか?」
そうだよね。
外ではどのくらい経ってしまったのかな。
さすがに何年とかまではいってないと思いたい。
だってそれで暴走しちゃう人もいるからさ。
「……最後に聞いていい? ショウは日本名? それともスイショウとかから取ったショウ?」
「両方じゃないのか?」
「……そうかもしれない」
ショウは誰かに似ている。
誰だっけかな。
髪の色こそ違うけど、やっぱアイツなのかな。
私がこの世界で一番に愛した人。
「……よく分かったわ、ショウ。ここは……私の心の世界なのね?」
そう声に出した途端、ピシィィィィッという大きな音を立てながら、周りの景色が激しくひび割れていき、どんどん崩壊していった。
視界が暗くなって、私の意識も薄れていく中、どこからか遠くの方で「よくがんばったな」というショウの声が聞こえた気がした。
そして心を落ち着かせるため、ふぅと深い溜め息をつく。
ずっと歩き通しだったから、正直座れてほっとしたのだ。
まぁ、相変わらず奇妙な環境にいることには変わりないけれど。
(大丈夫、大丈夫。きっと前進はしている……と思う)
ショウは私の正面の席に座ると、小さな体で大人びた表情をこちらに向けた。
……あれ?
さっきモヤの中からショウが出てきた時は、5~6歳くらいの見た目な気がしたけど、今のショウは10歳くらいに成長している?
どういうことだろう。
「いきなりだが、質問に答えよう」
え、本当にいきなりだね。
ショウが私の疑問を解消してくれるということ?
「何でも聞いてくれて構わない」
ショウはそう言って、私の目をじっと見た。
そして私の次の言葉を待っているようである。
「じゃあ……まずは私自身の身に起きていることについて、知ってたら教えてほしい」
「試されている」
「え……私が?」
「そうだ」
ショウは短く肯定だけすると、穏やかに笑って見せた。
彼も一応は安心させようとしてくれているのかもしれないが、こちらの気持ちとしては、まだどこか気を抜けない雰囲気というか、まるで面接官に面接でもされているような気分。
「どうしてここは、私が前世でいた世界の英国に似てるの?」
「ここを作り出している者が安心するからだろう」
ここを作り出している者が?
一体どういう意味?
ショウの言っていることは、まだまだ全然理解が及ばない。
でもこの際だ、彼にどんどん質問していこう。
「これから夜は来るの?」
「ここでは朝が来ることもあれば、夜が来ることもあり、朝が来ることもなければ、夜が来ることもない」
それは……つまりどっちなのよ。
なんだか理解できそうで理解できない返事ばかりだなぁ。
「ならやっぱりここは別の世界?」
「それとは違う。存在している場所は同じ世界だ」
うーん、ショウの言葉を聞いてたら、ますます混乱してきた。
ちょっと哲学すぎて難しいな。
まぁ今はショウに質問しながら、ヒントを教えてもらうしかないのだけど。
「ここに女神ナターリアは存在している?」
「本来ならば信仰はあるが、薄まってきている。うむ……信仰とは違うな。ここを作り出している者が、少々女神に信頼を持てなくなってきているようだ」
あ、今のはちょっとヒントぽいものが出てきたわ。
この調子でもっと質問していこう。
「どうしてここの街には誰もいないのかしら」
「そう望んでいるからだろう。不安があれば不安を、恐怖があれば恐怖が出てくる。しかしあなたは違ったようだ。まずは興味を持ち、いつも自分だけで解決しようとするから、こうなっている」
私が誰もいないことを望んでいる?
いつも自分だけで解決しようとするから?
うーん、分かったような、よく分からないような……。
「私はここから出ることができるの?」
「あなたが気がつけば」
「私が? 何に?」
ショウは黙った。
これ以上は私が自分で答えを見つけなければならないということか。
でも今少しヒントが足りない。
それに、ショウはどこまで質問を受け付けてくれるんだろう。
このまま私の気の済むまで答えてくれるつもりなのかな。
「まだ聞ける?」
「際限はない」
それならあとは何を聞こうかな。
どうせならショウのことを聞こうかな。
「ショウは人間?」
「ソアはそう思うか?」
「思わない」
「正解だ」
ピシッ。
(えっ……今……)
まただ……また、どこかでヒビが入ったような音がした。
「もしかしてあなたが出てきたのも、ここを作った者の気持ちが関係している?」
「関係はしている。こうやって割れてきているのも、ソアが少しずつ気づいているからだろう」
「私が気がつくために、あなたのような存在がいた方が良いと思ったから?」
「そうだ。その方が自分自身の気持ちを整理しやすかったのだろう」
またピシピシッと割れるような音が、周りに響いた。
ショウの姿もマネキンのように白っぽい感じだが、また少しずつ変化してきているような……。
気のせいかもしれないが。
「ショウがここに連れてきたのも私が疲れてきていたから?」
「そうだろうな」
つまりは休みたかったということだろうか。
「できれば、時間の流れは同じだと良いのだけど……」
「夢の世界に比べて、外の時の流れは早いとは思わないか?」
そうだよね。
外ではどのくらい経ってしまったのかな。
さすがに何年とかまではいってないと思いたい。
だってそれで暴走しちゃう人もいるからさ。
「……最後に聞いていい? ショウは日本名? それともスイショウとかから取ったショウ?」
「両方じゃないのか?」
「……そうかもしれない」
ショウは誰かに似ている。
誰だっけかな。
髪の色こそ違うけど、やっぱアイツなのかな。
私がこの世界で一番に愛した人。
「……よく分かったわ、ショウ。ここは……私の心の世界なのね?」
そう声に出した途端、ピシィィィィッという大きな音を立てながら、周りの景色が激しくひび割れていき、どんどん崩壊していった。
視界が暗くなって、私の意識も薄れていく中、どこからか遠くの方で「よくがんばったな」というショウの声が聞こえた気がした。
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