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転校生

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 修学旅行のコンテスト後は色々とあったものの、謎の集団との接触もなく、問題なく過ごせた。
 目下の気になることとしては麻黒さんの告白と精華との婚約のことだが、二つともことがことだけにはっきりとした返事が未だに自分の中で出せない。

「秋也。おはよう」

 麻黒さんがこうして表面上は普通に接してくれているので救われている。
 これであからさまにギクシャクしたらと考えると、心臓に悪い。

「今日は転校生が来るみたいね」

「転校生? 修学旅行が開けたタイミングでって珍しいね」

 転校生といえば、行事が治っている空白期間に入ってくるイメージがあるのだが、行事の直後というのは経験がない。
 普通に考えれば修学旅行の熱がまだ冷めていない時に、輪の中に入っていくのは難しいことは容易に想像できそうだが。
 親御さんの仕事の関係でこの日にしかできないとかだったのだろうか。

 ーーー

 校門の前まで来ると人がだかりでできていた。
 今日のめぼしいイベントといえば、転校生くらいしかないのだが、ここまで人だかりができるほどのことではないような気がするのだが。
 転校生がアイドルだったとか、有名人だったとかだろうか。

 少し背伸びして見てみると、先生に案内されて桃色の髪の生徒が歩いていた。

「あの子……」

 確かあの子は前出会った産業スパイの子だ。
 前は社長たちにロックオンされて踏んだり、蹴ったりだったはずなのに、またこの土地に来たようだ。
 しかも転校ということは長いことこの場所に逗留するということのようだし、火種になる予感しかしない。
 できれば関わりたいないが。
 そう思いながら桃髪の転校生を見ていると目が目が合い、こちらにニコリとした笑みを送ってきた。

「おい、今俺に!」「いや私に!」「勘違いだよ。愛想巻いているだけだ」「興味ないなら、お前そこどけよ」

 周囲の生徒たちは男女問わずに浮き足だつ。
 俺が見た感じ桃髪の転校生は確かに人好きのする容姿をしているが、別段モデルやアイドルのような感じではないため、こうまで無差別に好かれるのに少し違和感を感じる。
 俗にいう人を惹きつける才能、カリスマという奴で生徒たちを魅了しているのかも知れない。
 あちらから認識されてしまって、接触されれば、渦中に放り込まれ、HRに間に合わないことが目に見えていたので、とりあえずここから離れることにする。

「陽菜。真っ直ぐはいけそうにないから外側から回って行こうか」

 振り返り、麻黒さんにそう提案すると彼女がジト目をしていることに気づいた。

「どうかした?」

「いや、何だかあの子を見ていると嫌な感じがして」

 珍しい。
 攻撃してくる以外の人に対して麻黒さんは選り好みはしないはずだというのに。
 一応あの子も犯罪に加担しているこなので、彼女の危険感知するセンサーに反応したのかもしれない。

 とりあえず見ていても麻黒さんにいい影響もないし、教室に移動する。

 教室に行くまでの間でも転校生の謎のカリスマ性にせいにより、野次馬の生徒たちでごった返しており、時間がかかった。
 朝から忙しないなと思うと、先生が到着し、HRが始まった。

「おはようございます、皆さん。修学旅行明けのビッグニュースをお届けします」

 芝居がかった口調でそう切り出したことで何となくその次に続くであろう口上は予測できた。

「今日このクラスに転校生が来ます」

 予想通りの言葉を先生が告げると生徒たちは浮き足だつ。

「あの子ここに来るの!」「マジかよ!」「あのオーラが凄い子!」

 なまじ魅力的な転校生がここに来ることが確定しただけにクラスのボルテージは一気に頂点に達する。
 普段優雅な態度をとっているクラスメイトたちであり、一生一度見るか見ないかの光景に見える。
 テレビで見る有名人がゲストで来た学校の光景にそっくりだ。

「ナツメさん、どうぞこちらへ」

 先生が呼びかけると、桃髪の転校生が教室に入ってきて、黒板に名前を板書し始めた。
 飴桃夏夢。

「アメモモナツメと言います。よろしくお願いします」

 ーーー

 摩耶は酷く甘たるい名前の転校生が来たことにもろくな反応も示さず、光輝の件以来続く放心状態のまま、放課後を迎えていた。
 焦点の合わない目で一部の生徒しか入れないサロンの虚空を見つめていた。

「おーい。大丈夫?」

 そこに甘露のように甘たるい笑顔が浮かべた夏夢が現れた。

「一応認識だけはしているかな。まあチュートリアルキャラの片割れだし、状態は悪くとも手順踏めば機能くらいはするか」

 夏夢は摩耶の顔をジロジロと見つめつつ、意味不明な言葉を呟く。
 顔とその声を認識すると今までに感じたことのない妙に熱っぽい感情が湧き上がってくる。

「ねえ、摩耶。私の親友になってくれない」

 許可をとるのではなく、確認事項を確かめるようなその言葉を聞くと摩耶の言葉は自然と動いていた。

「ええ、もちろんよ」


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