41 / 64
飛行機の中の暇つぶし
しおりを挟むシンガポールの集合住宅。
秋也たちが乗る飛行機が降り立つのを見る2人の男女がいた。
「果たせなかった10年前の悲願が今日果たされます。神との誓いがやっと果たされます」
「そうですね。ここまで逃げ続けた甲斐がありました」
カルト団体ハピネスギルドの最高幹部、宮川春斗が顔に斜めに入った銃痕をなぞりながら呟くと、メンバーの小川小鞠は祈りを捧げた姿勢のまま、彼の言葉に答える。
飛行機を見つめる彼らの脳裏には10年前に降臨した桃色の髪の神の下した天啓が思い出されていた。
“最低は将来的に神を殺害する危険のある聖星夜、愛川透の抹殺。最高は2人プラス麻黒陽菜、花園珠子の抹殺“
10年前の夏祭りで2人は最低条件については達成し、神にも十分だと言われていたが、信仰の強さから納得はできていなかった。
当時、当主の配偶者を殺害したことで血眼になった花園組に追われて、国外に行くことにならなければどんな手を使ってでも目的を果たしていた間違いない。
「花園組に場所を割られたと思っていいか?」
「メンバーのチェンさんが言うにはこのあたりを柄の悪い日本人がうろついてるとのことです」
「もはや逃げられるわけもないか。試練の時だな。目的を果たせば神の福音が降ることは間違いない」
ーーー
修学旅行1日目。
修学旅行とはとても思えないようなスムーズさで、貸切の飛行機に搭乗して出発することになった。
搭乗時間は7時間ほどになるようで、飛行機に初めて乗る俺としてはかなり長く感じる。
というよりも今までの人生の中で乗り物で乗ってる時間としては最長でも3時間くらいなので、ぶっちぎりでトップだ。
幸いなことに座席のシートは異様に柔らかいので、尻が痛くなることはなさそうだが、いかんせん暇になる可能性が高そうだ。
「これから7時間から8時間となると暇になりそうね」
隣に座っていた麻黒さんも俺と同じようなことを思っていたようで、前の座席に備え付けられたモニターをいじりながらそう呟く。
「だね。暇つぶしのものと言ってもこのモニターに登録されたサブスクの動画を見るか、スマホをいじるかくらいしか出来ることはないし」
「寝るのもベッドしか眠れないから難しいしね」
寝るか。
確かにその手もあるが、暇そうにしている麻黒さんを放っておいて寝るのも気が引ける。
「仕方ないし、サブスクで映画か何か見る?」
「映画ね。おすすめのものはある?」
「おすすめか。俺もあんまり映画は見ないけど。デステニー作品とか、ディブリ作品とかが鉄板とかいうし、そこらへんがいいんじゃないかな」
「へえ、そんな作品があるのね。キャラクターも可愛い感じだし、見てみようかしら」
「ちょっと待った。そんなのテレビで週一ペースで流れてるんだから。わざわざ選んで見るようなものではないわよ」
麻黒さんがデステニー作品を再生するかと思うと、前にいる恵那から否定が入った。
「こういう時こそ、テレビでは放映されないような知る人ぞ知る名作を見るべきよ」
確かに恵那の言うとおり、テレビで見る可能性があるものを勧めるのは少し安直すぎたかもしれない。
クリエイターとして色々な作品に触れてきているだろう提案を聞いておくべきだろう。
「私のおすすめは『ヴァナシィの魔女』よ」
「どんな内容なの?」
「それは見てみればわかるわ」
恵那はかなりの自信のようで、説明するよりも実際に見る方が早いと太鼓判をおす。
人の好みもあると思うのだが、おそらく万人受けするようなものなのかもしれない。
「そこまで言うのならそれを見てみましょうか」
麻黒さんは素早く検索をかけると、再生ボタンをタッチした。
ーーー
結論としていえば、恵那の勧めた映画はひどく完成度の高いクソホラー映画だった。
主人公たちが懸命に幽霊から逃れて生きようとし、犠牲もありつつもハッピーエンドを迎えるかと思ったら普通に幽霊に殺されて、そのまま登場人物全滅エンドになった。
カメラワークや物語の謎の提示をするのがうまくついつい見入ってしまった分、提示された謎が未解決のまま全滅させた部分が際立って消化不良感が半端ない。
「ひどいわね。これじゃあ2時間ゴミ箱にダンクシュートしたようなものよ」
結構評価に甘い麻黒さんも流石にこれは酷評している。
「ひどい? これがどれだけ希少価値のあるものなのかわからないの? これだけのクオリティが高くて、コストをかけたクソ映画はこの世には存在しないわ!」
どうやら俺が想定している面白いの概念の遥か先に恵那はいたようだ。
残りの時間でデステニー作品を見て、口直しをした。
0
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。
のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。
俺は先輩に恋人を寝取られた。
ラブラブな二人。
小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。
そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。
前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。
前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。
その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。
春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。
俺は彼女のことが好きになる。
しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。
つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。
今世ではこのようなことは繰り返したくない。
今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。
既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。
しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。
俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。
一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。
その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。
俺の新しい人生が始まろうとしている。
この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。
「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。
彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い
うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。
浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。
裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。
■一行あらすじ
浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ
浮気したけど『ざまぁ』されなかった女の慟哭
Raccoon
恋愛
ある日夫——正樹が死んでしまった。
失意の中私——亜衣が見つけたのは一冊の黒い日記帳。
そこに書かれてあったのは私の罪。もう許されることのない罪。消えることのない罪。
この日記を最後まで読んだ時、私はどうなっているのだろうか。
浮気した妻が死んだ夫の10年分の日記読むお話。
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
最愛の幼馴染みと親友に裏切られた俺を救ってくれたのはもう一人の幼馴染みだった
音の中
恋愛
山岸優李には、2人の幼馴染みと1人の親友がいる。
そして幼馴染みの内1人は、俺の大切で最愛の彼女だ。
4人で俺の部屋で遊んでいたときに、俺と彼女ではないもう一人の幼馴染み、美山 奏は限定ロールケーキを買いに出掛けた。ところが俺の凡ミスで急遽家に戻ると、俺の部屋から大きな音がしたので慌てて部屋に入った。するといつもと様子の違う2人が「虫が〜〜」などと言っている。能天気な俺は何も気付かなかったが、奏は敏感に違和感を感じ取っていた。
これは、俺のことを裏切った幼馴染みと親友、そして俺のことを救ってくれたもう一人の幼馴染みの物語だ。
--
【登場人物】
山岸 優李:裏切られた主人公
美山 奏:救った幼馴染み
坂下 羽月:裏切った幼馴染みで彼女。
北島 光輝:裏切った親友
--
この物語は『NTR』と『復讐』をテーマにしています。
ですが、過激なことはしない予定なので、あまりスカッとする復讐劇にはならないかも知れません。あと、復讐はかなり後半になると思います。
人によっては不満に思うこともあるかもです。
そう感じさせてしまったら申し訳ありません。
また、ストーリー自体はテンプレだと思います。
--
筆者はNTRが好きではなく、純愛が好きです。
なので純愛要素も盛り込んでいきたいと考えています。
小説自体描いたのはこちらが初めてなので、読みにくい箇所が散見するかも知れません。
生暖かい目で見守って頂けたら幸いです。
ちなみにNTR的な胸糞な展開は第1章で終わる予定。
悲しいことがあった。そんなときに3年間続いていた彼女を寝取られた。僕はもう何を信じたらいいのか分からなくなってしまいそうだ。
ねんごろ
恋愛
大学生の主人公の両親と兄弟が交通事故で亡くなった。電話で死を知らされても、主人公には実感がわかない。3日が過ぎ、やっと現実を受け入れ始める。家族の追悼や手続きに追われる中で、日常生活にも少しずつ戻っていく。大切な家族を失った主人公は、今までの大学生活を後悔し、人生の有限性と無常性を自覚するようになる。そんな折、久しぶりに連絡をとった恋人の部屋を心配して訪ねてみると、そこには予期せぬ光景が待っていた。家族の死に直面し、人生の意味を問い直す青年の姿が描かれる。
俺の彼女が『寝取られてきました!!』と満面の笑みで言った件について
ねんごろ
恋愛
佐伯梨太郎(さえきなしたろう)は困っている。
何に困っているって?
それは……
もう、たった一人の愛する彼女にだよ。
青木ヒナにだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる