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人の壁

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 松明を持った住民たちは眉根を寄せて、とてもではないがどいてくれそうな雰囲気ではない。
 さてどうしたものか?

 こちらが思案していると住民の代表のような老人は睨みつけてきた。

「魔王ボルフレディ様の元には、貴様らはいかせん。あの方はわが国を変えてくださった救世主なのだ」

 そしてそんな言葉を吐いた。

 狂っている。この老人は……。

 どうしてよりにもよって、自分たちに虐殺の片棒をかつがせた魔王に、そんな言葉がはけるのか。

「狂っている……」

 誰かわからないが、確かにこちら側の人間がそうこぼしてしまった。
 老人はその言葉を聞くと目を血走らせ、顔を赤くした。

 まずい。

「狂っているだと……」

 怒ったような見た目に反して老人の声は静かだった。
 老人はもしかして、激怒すると静かになるタイプだったのだろうか。
 淡い期待を抱いてみると

「貴様らの方が狂っているだろうが! いままでお前ら兵士がくだらない戦争を引き起こすことでどれだけの人間が餓死したと思っている。お前らが戦争などしなければ、食料の備蓄を減らすことなく、我らは飢饉に悩まされることもなかった! 飢饉で物価が上昇して犯罪に手を染めないと生きていけないものも出なかった! お前らがいなければ!」

 老人は唾を飛ばして、大声でがなりたてた。
 かなり興奮したようで息が上がってしまっている。
 だというのにそれでも収まりがつかないようで、また乾いた唇を動かした。

「……見ろ我々を! 魔王様が来てから我々は飢えもせず、犯罪者がでることも無い。魔王様は理想の国を実現してくださったのだ。我らは苦しみから解放されたのだ」

 老人はそこまで言い終えて、やっとおさまりがついたようで。
 口を閉じた。

 奴の言ってることが正しいのかどうかは知らないが、レッドたちは反論せずに苦々しい顔をしている。
 奴らを説得することはレッド達には出来なさそうだ。
 仕方ない。使いたくはないが、マナを無理やり動かして人の壁を割るか。
 おそらく大量のマナを動かすため、意識をすべてそちらに向ける必要が在るので、歩けなくなるが。
 それはレッドたちに担いで運んでもらえばどうにかなるだろう。
 今のこの状態のまま放置するよりは数倍ましだ。

「戦わなかったものが戦ったものを否定できるものか……」

 俺がマナを動かそうとすると、ドムズが冷たい声音でそうつぶやいた。

「兵士が守ろうとしたものはお前らだというのに。それがなぜわからない。他国が攻めこんんできた時、兵士が戦わなければ、飢餓どころでは済まない。すべての人間が虐殺されていたかもしれない。兵士たちはそれを未然に防いだのだ。恩恵を一番に受けているお前らがなぜそれがわからない」

 静かだが怒気を含んだ声で、老人たちに向けて反論した。それに習ってか、餓鬼族の人間たちは住民たちを睨むつける。
 住民たちはそれにこたえるようにレッド達に向けていた視線を、餓鬼族の人間たちに向けて睨み始めた。

 一触即発だ。
 これ以上はだめだ。
 マナを動かして、住民たちは脇に寄せる。
 何とか壁を割ることができた。だが動けない。
 これに意識を割いているのに平行で動くなど無理な話だ。

「お前ら、今神から住民たちを退け道を作ったという啓示が下った。開けられた道を進んでくれ。ついでに今啓示中で動けないから俺を運んでくれ」

 レッド達にそう告げると、俺を担いで住民たちの間を通り抜けていた。


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